夜遅く、古いお堂の前を通った時、暗闇の中から何かが転がってくる音が聞こえてきたら、あなたはどうしますか?
長野県の山間部では、そんな不気味な音の正体が「イジャロコロガシ」という妖怪だと信じられていました。
ただの笊(ざる)かと思いきや、目の前まで来ると突然人間の姿に変わって人を驚かせるという、なんとも奇妙な存在なんです。
この記事では、長野県南佐久郡に伝わる珍しい妖怪「イジャロコロガシ」について、その特徴や伝承を分かりやすくご紹介します。
概要

イジャロコロガシは、長野県南佐久郡南牧村海ノ口に伝わる妖怪です。
名前の「イジャロ」というのは、この地方の方言で笊(ざる)や筒のような容器を指す言葉なんですね。つまり「笊転がし」という意味になります。
この妖怪の最大の特徴は、物が転がってきて人間に化けるという、全国的に見てもかなり珍しいタイプの妖怪だということ。
転がり系の妖怪(転バシと呼ばれる)は各地にいますが、その多くは単に物を転がすだけか、転がりながら追いかけてくるだけ。でもイジャロコロガシは、転がってきた後に人間の姿に変身するという、ひと味違った恐ろしさを持っているんです。
イジャロコロガシの基本情報
- 出現場所:古びたお堂の前や周辺
- 活動時間:夜遅い時間帯
- 正体:笊のような形をしたもの
- 変身能力:人の前まで来ると人間の姿になる
- 主な被害者:特に子供が狙われやすかった
伝承
海ノ口村の古いお堂
イジャロコロガシが現れるのは、決まって古くて荒れたお堂の前でした。
南佐久郡南牧村海ノ口には、そんな不気味なお堂があったそうです。村の人々は夜遅くにそこを通るのを避けていましたが、どうしても通らなければならない時もありました。
そんな時、暗闇の中から突然、コロコロという音が聞こえてくるんです。最初は「風で何か転がってきたのかな?」と思うかもしれません。でも、その音がだんだん近づいてくると、それが普通じゃないことに気づきます。
驚かされた子供たち
特に被害に遭いやすかったのが子供たちでした。
夕暮れ時に遊びに夢中になって帰りが遅くなった子供が、お堂の前を通ると:
- まず、コロコロという音が聞こえる
- 笊のようなものが転がってくる
- 目の前まで来ると突然人間の顔や姿に変化
- 驚いて逃げ帰る
こうした体験談が、村の中で何度も語り継がれていたそうです。
他の転がり妖怪との比較
実は日本各地には、物を転がす妖怪がけっこういるんです。
似たような妖怪の例:
- シングリマクリ(奈良県):竹製の籠が転がる妖怪で、いうことを聞かない子供が中に入れられるという
- 薬缶転がし:やかんが坂道を転がってくる
- 肥桶転がし:肥料を入れる桶が転がる
- 徳利や鍋の妖怪:坂道を転がってきて人の形になる
でも、これらの多くは単に転がるだけか、脅かすために音を立てるだけ。転がってきて人間に化けるというイジャロコロガシのパターンは、やはり珍しいんですね。
なぜお堂に現れるのか
古いお堂というのは、昔から霊的な力が集まりやすい場所とされています。
特に管理されずに荒れ果てたお堂は、妖怪や物の怪が住み着きやすいと考えられていました。イジャロコロガシも、そういった場所を好んで現れたのかもしれません。
また、笊という道具は日常的に使われるものですが、古くなって捨てられたものに付喪神(つくもがみ)のような霊が宿ったという解釈もできます。
まとめ
イジャロコロガシは、長野県南佐久郡に伝わる、転がってきて人間に化けるという珍しいタイプの妖怪です。
重要なポイント
- 長野県南佐久郡南牧村海ノ口の古いお堂に出現
- 笊(イジャロ)が転がってきて人間の姿に変身
- 主に夜遅い時間に活動し、子供を驚かすことが多かった
- 全国の転がり系妖怪の中でも変身能力を持つ珍しいタイプ
- 荒れたお堂という霊的な場所と関連が深い
現代では、夜道で聞こえる不思議な音も、車のタイヤの音や風の音だと分かります。でも、電気もない時代の山村で、真っ暗な夜道を歩いていた人々にとって、転がってくる音はさぞ恐ろしかったことでしょう。
もし今でも長野県の山奥で、夜中にコロコロという音が聞こえたら…それはもしかしたら、イジャロコロガシが今も人を驚かそうとしているのかもしれませんね。


コメント