もしランプをこすったら、煙と共に巨大な魔人が現れて「願いを叶えてやろう」と言われたら、どうしますか?
アラビアの砂漠地帯には、そんな不思議な魔人の言い伝えが古くから存在していました。
その名は「イフリート」。ジン(精霊)の中でも特に強力で、火を操り、変身もできる恐ろしくも魅力的な存在です。でも実は、人間にだまされてしまうちょっと抜けた一面も持っているんです。
この記事では、イスラム世界で千年以上も語り継がれてきた炎の魔人「イフリート」について、その煙のような姿と有名な物語をご紹介します。
概要

イフリート(Ifrit)は、イスラム教の伝承に登場する強力な魔人です。
アラビア語では「アフリート」とも呼ばれ、ジン(精霊)という超自然的な存在の中でも特に力を持つ種族なんです。イスラム教の聖典コーランにも「ジンの中のイフリート」として記載されている、由緒正しい存在といえます。
イフリートは煙のない純粋な火から作られたとされています。そのため「炎の魔人」として知られていますが、実は炎だけでなく、さまざまな魔術を使うことができる万能な魔人なんです。
最も有名なのは『アラビアン・ナイト』(千夜一夜物語)に登場する話。特に「アラジンと魔法のランプ」のランプの精も、実はイフリートの一種だといわれています。
姿・見た目
イフリートの姿は、まさに超自然的で圧倒的な存在感があります。
イフリートの外見的特徴
- 体:煙や蒸気でできている
- 大きさ:雲に届くほど巨大(変幻自在)
- 顔:厳つく恐ろしい表情
- 目:憤怒で燃えるように輝く
- 声:雷鳴のような轟音
- 翼:背中に巨大な翼を持つことも
イフリートの最大の特徴は、その煙のような体です。普通の武器では傷つけることができず、傷ついても煙となって再生してしまいます。
また、大きさを自在に変えることができ、巨人のような姿から小さな姿まで変身可能。時には三つ目だったり、腕や足が余分についていたりと、人間離れした姿で現れることもあるんです。
特徴

イフリートは、ジンの中でも特に強力な能力を持っています。
イフリートの能力
- 火を操る:炎を自在に操ることができる
- 変身能力:人間や動物の姿に化けられる
- 魔術:さまざまな魔法を使える
- 怪力:人間をはるかに超える力
- 瞬間移動:一瞬で遠くへ移動できる
- 不死身:煙の体なので普通の武器では倒せない
性格の特徴
イフリートの性格は獰猛で短気といわれています。
でも実は、根が単純で思慮が浅いという一面もあるんです。強大な力を持っているのに、賢い人間にやり込められたり、だまされたりすることがよくあります。
また、イフリートには善いものと悪いものの2種類がいます。善いイフリートに出会った人間は強い力を得ることができますが、悪いイフリートに取り憑かれると精神がおかしくなってしまうといわれています。
伝承
イフリートが登場する最も有名な物語は『アラビアン・ナイト』の中にあります。
漁師とイフリートの物語
ある漁師が海で網を引くと、古い壺が引っかかりました。
壺の封印を開けると、煙と共に巨大なイフリートが現れたんです。なんとこのイフリート、長い間壺に閉じ込められていた恨みから、最初に蓋を開けた者を殺すと決めていました。
しかし賢い漁師は「本当にその小さな壺に入っていたのか?証拠を見せてくれ」とイフリートに言います。プライドの高いイフリートは、自分の力を見せつけようと壺の中に入って見せました。すると漁師はすかさず蓋を閉めてしまったのです!
結局イフリートは、漁師に富を与えることを約束して、やっと解放してもらえました。
ソロモン王とイフリート
古代イスラエルのソロモン王は、天使からもらった指輪でイフリートを支配できたといいます。
コーランにも、ソロモン王がシバの女王の玉座を運ばせようとした時、イフリートが「私なら瞬く間に運んでみせます」と申し出た話が記されています。ソロモン王は多くのイフリートを従えて、神殿の建設などに使役したといわれているんです。
アラジンと魔法のランプ
誰もが知っている「アラジンと魔法のランプ」に登場するランプの精も、実はイフリートです。
ランプをこすると煙と共に現れ、「3つの願いを叶えてやろう」と言うあの有名な場面。これがまさにイフリートの特徴を表しています。ランプから煙と共に現れること、強大な力で願いを叶えること、でも約束は守る義理堅さがあることなど、イフリートの性質がよく表れています。
起源

イフリートという存在は、どのようにして生まれた伝承なのでしょうか。
イスラム教での位置づけ
イスラム教の世界観では、神(アッラー)は3つの知的存在を創造したとされています。
- 天使:光から作られた
- 人間:土から作られた
- ジン:煙のない火から作られた
イフリートはこのジンの一種で、特に強力な存在として位置づけられています。ジンには階級があり、イフリートは上から2番目に強い種族だといわれているんです。
名前の由来
「イフリート」という名前は、アラビア語で「塵をかぶる」「転がり回る」という意味の言葉から来ているという説があります。
また、砂漠の砂嵐や熱風といった自然現象を擬人化したものという説も。確かに、煙のような体で現れ、火を操るという特徴は、砂漠の厳しい環境から生まれた想像力といえるでしょう。
各地への影響
イフリート伝説は、イスラム文化圏を越えて世界中に広がりました。
西洋では「ジーニー」という名前で親しまれ、ディズニー映画『アラジン』のジーニーのようなキャラクターが生まれました。日本でも『ハクション大魔王』など、ランプや壺から現れる魔人というモチーフは広く知られています。
現代のゲームやアニメでも、イフリートは「炎の召喚獣」として頻繁に登場し、世界中で愛されるキャラクターになっています。
まとめ
イフリートは、イスラム世界が生んだ煙と炎の強大な魔人です。
重要なポイント
- イスラム教の伝承に登場する強力なジン(精霊)
- 煙のない純粋な火から作られた存在
- 煙のような体で、大きさを自在に変えられる
- 火を操り、さまざまな魔術が使える
- 獰猛で短気だが、単純でだまされやすい面も
- ランプや壺に封印されることがある
- ソロモン王に支配された歴史がある
- 『アラジン』のランプの精もイフリートの一種
イフリートは恐ろしい魔人でありながら、人間にだまされたり、約束を守る義理堅さがあったりと、どこか憎めない存在です。
強大な力と人間味のある弱点を併せ持つ、魅力的な伝承の存在といえるでしょう。
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