佐渡島の加茂湖で、湖畔につながれた馬にまたがって遊んでいる奇妙な姿を見つけたら、どう思いますか?
もしかしたらそれは、頭の上に大きな目を一つだけ持つ、不思議な湖の主かもしれません。
新潟県佐渡市に伝わる「一目入道(いちもくにゅうどう)」は、人間と約束を交わし、魚を献上していたという、ちょっと変わった妖怪なんです。
この記事では、佐渡島の加茂湖に棲むとされる妖怪「一目入道」について、その特徴や興味深い伝承を分かりやすくご紹介します。
概要
一目入道は、新潟県佐渡島の加茂湖に棲んでいるといわれる妖怪です。
この妖怪の最大の特徴は、なんといっても頭の上に大きな目が一つだけついているということ。普通の人間や動物とは全く違う、異形の存在として恐れられていました。
加茂湖の主として長年その湖を支配していたとされ、水中では無敵の力を持っていたんですね。ただし、陸上に上がると途端に力を失ってしまうという、面白い弱点も持っていました。
名前の由来と変遷
実は、この妖怪の名前には少し複雑な経緯があります。
古い文献での表記
- 最も古い記録:「一つ目入道(ひとつめにゅうどう)」
- 1923年の『伝説の越後と佐渡』でもこの表記
現在の表記
- 「一目入道(いちもくにゅうどう)」が主流
- 読み方も変化してしまった
時代とともに表記や読み方が変わってしまったため、文献によって名前が異なることもあるんです。
伝承
一目入道の伝承で最も有名なのが、馬主との約束の物語です。
馬との出会いから捕獲まで
ある日、一目入道が加茂湖から上がってみると、湖畔に一頭の馬がつながれていました。
好奇心旺盛な入道は、その馬にまたがって遊び始めたんです。水中では無敵の存在も、陸の上では馬に乗って遊ぶことが楽しかったのかもしれません。
ところが運悪く、そこへ馬の持ち主がやってきてしまいました。陸上では力を発揮できない入道は、あっけなく捕まってしまったんです。
瑠璃の鉤での約束
捕らえられた一目入道は、必死に馬主に懇願しました。
入道の提案内容
- 毎日、新鮮な魚を一貫分献上する
- 魚を取るのに使う「瑠璃の鉤(るりのかぎ)」を使う
- ただし、鉤は必ず湖に返してもらう
馬主はこの面白い提案を受け入れ、入道を湖に帰してやりました。
翌朝、約束通り湖畔には新鮮な魚が瑠璃の鉤にかけられていました。馬主は喜んで魚を受け取り、約束通り鉤を湖に返したんです。
この不思議な取引は、何年も続きました。
約束を破った結果
しかし、人間の欲というのは恐ろしいもので、馬主はある日、悪い考えを起こしてしまいます。
瑠璃の鉤を返さなかったんです。
すると、どうなったでしょうか?
- 魚の献上が止まった
- 毎年正月15日に入道が馬主の家を襲うようになった
- 馬主は一晩中念仏を唱えて身を守らなければならなくなった
伝承の複数のバリエーション
この物語の結末には、いくつかの異なるパターンが伝わっています。
パターン1:観音堂を建てて和解
- 馬主が観音堂を建立
- 瑠璃の鉤を本尊の白毫(びゃくごう)に納めた
- 入道の祟りが収まった
パターン2:馬主が狂死
- 馬主は祟りで狂死してしまった
- 一家は断絶
- 村人たちが観音堂を建てて供養した
パターン3:村の行事として定着
- 観音堂に鉤を納めたのが先
- 入道が鉤を取り返そうと毎年襲撃
- 村の青年たちが観音堂を守る行事に発展
現在に残る痕跡
新潟県の潟端地区には、実際に「目一つ行事」という正月行事が行われていました。
毎年1月16日に観音堂で行われるこの行事は、湖底から襲ってくる「目一つ」から観音様を守るためのものだとされています。残念ながら昭和初期に一度途絶えてしまいましたが、2016年の芸術祭で再び注目を集めることになりました。
まとめ
一目入道は、佐渡島の加茂湖に伝わる独特な妖怪です。
重要なポイント
- 頭上に一つ目を持つ加茂湖の主
- 水中では無敵だが陸上では無力
- 馬にまたがって遊んでいるところを捕まった
- 瑠璃の鉤で魚を献上する約束を交わした
- 約束を破られて祟りをなすようになった
- 観音堂や正月行事として現在も痕跡が残る
人間との約束を律儀に守り続けた一目入道。でも、その約束を破ったのは人間の方でした。
この伝承は、約束を守ることの大切さと、欲深さがもたらす災いについて、私たちに教えてくれているのかもしれませんね。
もし加茂湖を訪れることがあったら、湖面を見つめてみてください。もしかしたら今でも、一つ目の主が静かに湖底から見上げているかもしれません。


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