もしもあなたが土星を訪れることがあったら、洞窟の中で静かに金属を食べている奇妙な神様に出会うかもしれません。
その名は「フジウルクォイグムンズハー」。
信者たちから逃げるように惑星を転々とし、今は土星の奥深くでひっそりと暮らしている、ちょっと変わった神様なんです。
この記事では、クトゥルフ神話に登場する究極の隠遁者「フジウルクォイグムンズハー」について、その不思議な姿や性格、伝承を詳しくご紹介します。
概要

フジウルクォイグムンズハーは、クラーク・アシュトン・スミスが創造した神性で、クトゥルフ神話における「旧支配者(グレート・オールド・ワン)」の一柱です。
別名は「キュクラノシュ(サイクラノーシュ)の神」とも呼ばれています。キュクラノシュというのは、土星のことなんですね。
地球ではあまり知られていない存在ですが、古代のハイパーボリア人(伝説の北方大陸の住人)は、この神の存在を知っていたとされています。ただし、彼らはフジウルクォイグムンズハーを崇拝はしていなかったようです。
初出は、クラーク・アシュトン・スミスの小説『土星への扉/魔道士エイボン』に登場します。
系譜
フジウルクォイグムンズハーの家系図は、なかなか興味深いんです。
血縁関係
ツァトゥグァという神の叔父にあたる存在です。
詳しく言うと、サクサクルスという神の息子であり、ツァトゥグァの直系親族なんですね。つまり、ツァトゥグァ直系の神格として位置づけられています。
家族構成
フジウルクォイグムンズハーの家族については、文献によって説が分かれています。
- 妻帯説:クロスミイビクスという妻と、イスバッダデン・スカタクという子供たちがいる
- 独身説:現在は独り身である
どちらが正しいのかは、はっきりしていません。
姿・見た目
フジウルクォイグムンズハーの姿は、一言で言えば「ツァトゥグァを逆さまにして作り直したような姿」なんです。
特徴的な体の構造
最も奇妙なのは、その体のつくりです。
頭が体の下にあり、しかも逆についているという、非常に珍しい構造をしているんですね。
全体的な雰囲気としては、叔父であるツァトゥグァ(ヒキガエルのような姿の神)に似ているとされています。ただし、頭の位置が完全に反対なので、見た目はかなり異様なものになっているでしょう。
具体的なサイズや色については、文献には詳しく記されていません。
特徴
フジウルクォイグムンズハーには、他の神々とは一線を画す特別な性格と能力があります。
温厚な性格
意外なことに、非常に温厚で優しい性格の持ち主なんです。
旧支配者というと恐ろしいイメージがありますが、フジウルクォイグムンズハーは例外的な存在と言えます。
究極の菜食主義者
最大の特徴は、生命を糧とすることを嫌う究極の菜食主義者だということです。
甥のツァトゥグァとは違い、殺生を嫌います。では何を食べているのかというと、溶けた金属(液体金属)を食べることで、エネルギーを得ているんです。
まさに鉱物食の神様なんですね。
極度の人嫌い
フジウルクォイグムンズハーは究極のものぐさで、人間嫌いでもあります。
特に、信者たちに崇拝されることを極端に嫌うんです。そのため、静かに暮らせる場所を求めて惑星を転々としてきました。
消極的な対応
もし誰かがフジウルクォイグムンズハーを見つけてしまったとしても、彼は攻撃してきません。
運が良ければ、「イクイ・ドロシュ・オドフクロンク」(「あっち行け」という意味)と唱えるだけです。
それでも相手が去らなくても、フジウルクォイグムンズハーは逃げようともせず、ただじっと相手が居なくなるのを待っているそうです。なので、記念撮影の被写体としては最適な神様かもしれませんね。
現在の地位
現在、土星で最強の存在とされています。
ただし、その力を誇示することはなく、洞窟の中でひっそりと隠遁生活を送っているんです。
伝承
フジウルクォイグムンズハーの物語は、惑星間の移住の歴史でもあります。
ユゴス(冥王星)時代
最初はユゴス(冥王星)の地に滞在していました。
しかし、ここでの滞在は短期間だったようです。
ヤークシュ(海王星)への移住
次に、フジウルクォイグムンズハーはヤークシュ(海王星)に向かいました。
しかし、ここでも問題が発生したんです。ヤークシュの住人たちは非常に好奇心旺盛で、フジウルクォイグムンズハーを宗教上の儀式で崇拝し始めました。
人嫌いのフジウルクォイグムンズハーにとって、これは大きな悩みの種でした。そのため、長期間は滞在せず、再び移住を決意します。
土星(キュクラノシュ/サイクラノーシュ)での隠遁生活
最終的に、フジウルクォイグムンズハーは土星に移り住みました。
ここでは隠遁者のような生活を送っています。
土星での暮らし
- 住居:洞窟に棲んでいる
- 食事:溶けた金属を食べて日々を過ごしている
- 対応:侵入者に対しては何もしない。ただし、危害を加えなければ、フジウルクォイグムンズハーも侵入者を傷つけようとはしない
土星でも信者たちが集まってきてしまいましたが、今度はどこかに隠れて見つからないようにしているそうです。
魔道士エイボンとの遭遇
土星に逃亡した魔道士エイボンが、フジウルクォイグムンズハーに遭遇したという記録が残っています。
このエピソードは『土星への扉/魔道士エイボン』という作品に描かれており、後のクリエイターたちにも影響を与えています。
崇拝の知識
ハイパーボリア人たちは、土星を訪れるならば、フジウルクォイグムンズハーを崇拝しておくことが賢明であるということを知っていました。
ただし、彼ら自身は地球にいたため、実際に崇拝していたわけではありません。
まとめ
フジウルクォイグムンズハーは、クトゥルフ神話の中でも特異な存在です。
重要なポイント
- ツァトゥグァの叔父にあたる旧支配者の一柱
- 頭が体の下に逆についているという奇妙な体のつくり
- 温厚で究極の菜食主義者、液体金属を食べる
- 極度のものぐさで人嫌い、信者から逃げ続けている
- 「イクイ・ドロシュ・オドフクロンク」と唱えるだけで攻撃しない平和主義
- 土星で隠遁生活を送り、現在は土星最強の存在
- クラーク・アシュトン・スミスの『土星への扉/魔道士エイボン』に登場
恐ろしい旧支配者たちの中にあって、こんなにも平和的で控えめな神様がいるというのは、何だか微笑ましいですね。もしもあなたが宇宙旅行で土星に立ち寄ることがあったら、洞窟の奥でひっそりと暮らすフジウルクォイグムンズハーに会えるかもしれません。
参考文献
- クラーク・アシュトン・スミス『土星への扉/魔道士エイボン』
- 各種クトゥルフ神話関連資料


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