北極の氷の下に、かつて栄華を誇った古代文明があったとしたら、あなたは信じますか?
蛇のような姿をした知的生命体が支配し、魔道師たちが禁断の魔術を研究し、恐ろしい邪神が地下洞窟に潜んでいた——そんな不思議な大陸が実在したという伝説があるんです。
それが「ハイパーボリア大陸」。氷河期の到来によって滅び去った、謎に包まれた古代世界です。
この記事では、クトゥルフ神話に登場する幻の大陸「ハイパーボリア」について、その歴史や住人、恐るべき神々の姿を詳しくご紹介します。
概要

ハイパーボリアは、北極海と北大西洋の間、現在のグリーンランド近辺に存在したとされる古代大陸です。
アメリカの作家クラーク・アシュトン・スミスが1930年代に創造した架空の世界で、クトゥルフ神話の重要な舞台の一つとなっています。
人類の文明が始まるはるか以前から存在し、蛇人間、ヴァーミ族、そして人類が次々と支配者となった歴史を持つ大陸なんです。
高度な科学と魔法が融合した文明を築きましたが、最終的には氷河期の到来によって滅亡しました。
生存者たちは南方のアトランティス大陸やムー大陸へと逃れたといわれています。
かつての温暖な楽園
今では想像もつきませんが、氷河期が訪れる前のハイパーボリアは、驚くほど温暖で美しい土地でした。
気候と自然環境
- 広大な平原:緑豊かな草原が広がっていた
- なだらかな丘陵:起伏のある美しい地形
- 密林と湿地帯:南部には熱帯のような環境も存在
- 火山:ヴーアミタドレス山などの巨大な火山が聳えていた
当時の気候は現代よりもずっと穏やかで、恐竜の生き残りが生息するジャングルすらあったそうです。
北極圏とは思えない豊かな自然が、この大陸の特徴でした。
繁栄した二つの首都
ハイパーボリアには、時代によって二つの主要都市が首都となりました。
コモリオム——最初の首都
人類が最初に築いた首都で、「大理石と御影石の王冠」と称えられるほど美しい都市でした。
コモリオムの特徴
- 巨大な外壁に囲まれた堅固な都市
- 純白の尖塔が空に向かって立ち並ぶ
- アトランティスやムー大陸から貢物が届く交易の中心地
- 遠く離れた地域から商人が訪れる国際都市
しかし、この栄光の都にも終わりが訪れます。
クニガティン・ザウムという無法者が3度も斬首刑を受けながら3度とも復活し、最後には恐るべき怪物の姿を現したんです。
恐怖に駆られた住民は都を捨てて逃げ出し、コモリオムは廃墟となってしまいました。
ウズルダロウム——第二の首都
コモリオムから1日の旅程の場所に建設された新しい首都です。
ハイパーボリア最後の人口密集地となり、氷河が迫る中でも文明を保ち続けました。
数百年が経つと、人々はコモリオムが放棄された理由すら忘れてしまいます。
廃墟となったコモリオムの財宝を狙って訪れた盗賊たちは、そこに潜む不定形の怪物に襲われたという記録が残っています。
この大陸に住んでいたのは誰?

ハイパーボリアの歴史は、支配者の交代の歴史でもあります。
最初の支配者——蛇人間
人類が登場するはるか以前、この大陸は高度な知性を持つ蛇人間の棲みかでした。
彼らは爬虫類のような姿をしながらも、優れた文明を築いていたんです。
しかし、後から来たヴァーミ族との戦闘の末、支配権を失ってしまいます。
原始的な先住民——ヴァーミ族
ヴァーミ族の特徴
- 身長は人間より小さめ
- 3本指の足を持つ
- 茶褐色の体毛に覆われた類人猿のような姿
- きわめて凶暴な性格
彼らはヴーアミタドレス山の洞窟に住み、邪神ツァトゥグアを崇拝していました。
人間の王国の人々からは「獣同然の蛮族」とみなされ、氷河期が訪れる前は狩りの獲物として扱われることもあったそうです。
最後の支配者——人類
南方から移住してきた先史時代の人類が、最終的にハイパーボリアの支配者となりました。
彼らは科学と魔法を融合させた高度な文明を発展させ、法律や裁判制度も整備したんです。
王が統治し、貿易が盛んに行われ、芸術や学問も花開きました。
地下に潜む恐るべき神々
ハイパーボリアで最も恐ろしいのは、地下世界に棲む超自然的な存在たちです。
ツァトゥグア(ゾタクア)——蝙蝠蛙の邪神
ヴーアミタドレス山の地下洞窟に棲む、旧支配者と呼ばれる邪神です。
外見の特徴
- 太い胴回りのずんぐりとした体型
- 蝙蝠のような特徴を持つ
- 眠たげな目をした蟾蜍(ヒキガエル)のような姿
- 外宇宙から地球に到来した存在
当初は邪教とされていましたが、ハイパーボリア末期には主流の信仰となり、広く崇拝されるようになりました。
アブホース——「穢れの源」
ヴーアミタドレス山の地下洞窟「Y’quaa(イクァア)」に住む、灰色の原形質の塊のような存在です。
最も恐ろしいのは、その体から絶え間なく奇怪な生物が生まれ続けることなんです。
生み出される怪物たち
- 体のない手足だけのもの
- 転がる首だけのもの
- 魚のヒレがついた腹部だけのもの
- その他ありとあらゆる奇形の生物
生まれた生物の多くは、アブホース自身の触手に捕らえられて食べられてしまいます。
アトラク=ナクア——蜘蛛の神
ヴーアミタドレス山の巨大な地下空洞で、この世の終わりをもたらす蜘蛛の巣を編み続けている存在です。
人間に近い顔を持つ巨大な蜘蛛の姿で、夢の世界と現実世界の間に橋を架けているんです。
この蜘蛛の巣が完成する時、世界の終わりが訪れると信じられていました。
ウボ=サスラ——太古の根源
地下の洞窟で、地球上のあらゆる生命の原型を生み出し続ける原形質の塊です。
その周囲には、神々の智慧が刻まれた石版が置かれており、多くの魔術師がこれを求めて地下世界に挑みましたが、誰一人として成功していません。
魔道師と冒険者たち

ハイパーボリアには、伝説となった人物たちがいました。
エイボン——禁断の知識を記した魔道師
北部の半島ムー・トゥーランに住んでいた魔道師で、ツァトゥグアの司祭でもありました。
彼が著した『エイボンの書』には、ハイパーボリアの歴史、魔術の秘儀、そして邪神たちの儀式が詳しく記録されています。
エイボンの最期
当時の主流だった女神イホウンデーの宗教裁判から逃れるため、エイボンは魔術の力で土星(サイクラノーシュ)へと逃げ去りました。
追跡してきた大審問官モルギも一緒に消えてしまい、二度と地球に戻ることはありませんでした。
この事件の後、人々はエイボンの力を恐れ、逆にツァトゥグア信仰が盛んになったそうです。
サタムプラ・ゼイロス——伝説の大泥棒
ウズルダロウムで名を馳せた盗賊です。
廃墟となったコモリオムの財宝を狙って侵入しましたが、ツァトゥグアの神殿に潜んでいた怪物に襲われ、右手を失ってしまいました。
同行者のティルーヴ・オムパリオスはさらに悲惨な運命を辿ったといいます。
アタムマウス——首都の処刑人
コモリオムで処刑人を務めていた人物です。
クニガティン・ザウムという無法者を3度も斬首したのに、そのたびに復活されてしまい、職業人としての誇りを傷つけられました。
コモリオムが放棄された後、彼はウズルダロウムで処刑人の職を続け、都市崩壊の目撃者として『アタムマウスの遺書』を残しています。
氷河期の到来と文明の終焉
ハイパーボリアの繁栄は、自然の猛威の前に無力でした。
超自然的な寒波
最北端の半島ムー・トゥーランから、まず氷結が始まりました。
しかしこれは単なる気候変動ではなく、明らかに超自然的な現象だったんです。
氷河期の異常性
- 通常の寒波をはるかに超える急速な凍結
- 魔術で擬似太陽を作っても霧に遮られる
- 遠征した王と軍勢が氷に閉じ込められて全滅
後の伝承では、この氷河期は旧支配者アフーム=ザーが引き起こしたともいわれています。
大陸の沈没
氷河の重みと地殻変動により、ハイパーボリア大陸は徐々に海中に沈んでいきました。
生き残った人々は、南方のアトランティス大陸やムー大陸へと逃れ、そこで新たな文明を築いたとされています。
こうして、科学と魔法が融合した奇跡の文明は、歴史の彼方に消え去ったのです。
まとめ
ハイパーボリアは、氷河期によって滅亡した幻の古代大陸です。
重要なポイント
- 北極海とグリーンランド近辺に存在した温暖な古代大陸
- 蛇人間、ヴァーミ族、人類が次々と支配した歴史を持つ
- コモリオムとウズルダロウムという二つの首都が栄えた
- 地下にはツァトゥグアやアブホースなど恐るべき邪神が潜む
- 魔道師エイボンの『エイボンの書』に詳しい記録が残る
- 超自然的な氷河期の到来により文明が滅亡
- クトゥルフ神話における重要な先史文明の一つ
現在、この大陸は厚い氷の下に眠っています。もしかしたら、北極の氷が溶けた時、古代の都市遺跡や禁断の魔術書が発見される日が来るかもしれませんね。


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