宇宙の彼方に潜む「名状しがたきもの」と、人間社会に紛れ込む「這い寄る混沌」。
クトゥルフ神話には、恐ろしくも魅力的な邪神たちが数多く登場します。その中でも特に人気が高いのが、ハスターとニャルラトホテプの二柱なんです。
どちらも旧支配者と呼ばれる強大な存在ですが、実はその性質や行動パターンは正反対といっていいほど異なります。
この記事では、クトゥルフ神話を代表する二大邪神「ハスター」と「ニャルラトホテプ」の関係性について、共通点や相違点を分かりやすく解説していきます。
概要

ハスターとニャルラトホテプは、どちらもクトゥルフ神話における重要な神格です。
ハスターは「名状しがたきもの」や「黄衣の王」という異名で知られ、牡牛座のヒアデス星団に封印されているとされています。一方、ニャルラトホテプは「這い寄る混沌」と呼ばれ、千もの姿を持つ変幻自在の邪神として描かれているんですね。
両者は同じ旧支配者(グレート・オールド・ワン)に分類されることもありますが、神話体系における役割や立ち位置は大きく異なります。直接的な対立関係や協力関係についての明確な記述は少ないものの、その対照的な性質から比較されることが多い二柱なんです。
ハスターとは
まず、ハスターについて簡単におさらいしておきましょう。
ハスターは四大元素の「風」を司る旧支配者です。ヨグ=ソトースを父に持ち、クトゥルフとは異母兄弟の関係にあるとされています。
ハスターの主な特徴
- 異名:名状しがたきもの、黄衣の王、星間宇宙の帝王
- 居住地:牡牛座ヒアデス星団の「黒きハリ湖」付近
- 司る元素:風(大気)
- 眷属:バイアクヘー(有翼生物)、イタクァなどの風神
- 特殊な性質:名前を口にすると破滅を招くとされる
真の姿を見た者は誰もおらず、黄色い衣に包まれた姿で現れることが多いとされています。また、「黄衣の王」という化身や、呪われた戯曲『黄衣の王』とも深い関わりを持っているんです。
ニャルラトホテプとは
続いて、ニャルラトホテプについても確認しておきます。
ニャルラトホテプは四大元素の「地」を司る神格で、アザトースの従者あるいは息子とされています。
ニャルラトホテプの主な特徴
- 異名:這い寄る混沌、強壮なる使者、闇をさまようもの
- 活動範囲:地球を含むあらゆる時空
- 司る元素:地
- 化身:暗黒のファラオ、無貌の神、夜に吠えるものなど千以上
- 特殊な性質:唯一封印を免れ、自由に活動できる
他の邪神が眠りについたり封印されている中、ニャルラトホテプだけは自由に動き回れるという特異な存在。人間の姿に化けて社会に紛れ込み、科学技術や魔術を教えることもありますが、それを受け取った人間は大抵破滅してしまうんです。
両者の関係性
では、ハスターとニャルラトホテプには直接的な関係があるのでしょうか。
結論から言うと、両者が直接対峙したり協力したりする場面は、クトゥルフ神話の原典ではほとんど描かれていません。
ただし、神話体系の中で間接的なつながりは存在します。
神話体系における位置づけ
- ハスター:ヨグ=ソトースの息子であり、旧支配者の一員
- ニャルラトホテプ:アザトースの従者/息子であり、外なる神々の使者
両者は異なる「親」を持つ神格であり、直接の血縁関係はありません。また、ハスターがクトゥルフと対立関係にあるのに対し、ニャルラトホテプは特定の邪神と敵対するというよりも、すべての神々の意思を代行する立場にあるという違いがあります。
共通点

対照的な二柱ですが、共通する部分もいくつかあります。
旧支配者としての共通点
- どちらもクトゥルフ神話における強大な神格である
- 人間に影響を与え、破滅をもたらす存在として描かれる
- 複数の化身(姿)を持っている
- 人間の崇拝者やカルト教団が存在する
創作上の共通点
- H.P.ラヴクラフトの作品に登場する
- オーガスト・ダーレスによって設定が発展した
- 現代でもゲームやアニメなど多くの創作物に登場する
特に興味深いのは、どちらも「変幻自在」という要素を持っていること。ハスターは「名状しがたい」姿ゆえに真の姿が不明であり、ニャルラトホテプは「千の姿」を使い分けるという形で、両者とも一つの姿に固定されない存在として描かれているんです。
相違点
共通点よりも、むしろ相違点の方が際立っています。
| 項目 | ハスター | ニャルラトホテプ |
|---|---|---|
| 司る元素 | 風(大気) | 地 |
| 活動状態 | 封印されている | 自由に活動 |
| 居場所 | 遠い星(ヒアデス星団) | 地球を含むあらゆる場所 |
| 人間との関わり | 間接的(名を呼ぶと破滅) | 直接的(人間に接触する) |
| 性格 | 気まぐれで受動的 | 悪意に満ち能動的 |
| 親 | ヨグ=ソトース | アザトース |
特に重要な違い
- 活動の自由度
- ハスターは黒きハリ湖に封印されているか、少なくとも遠い星に留まっている
- ニャルラトホテプは唯一封印を免れ、自由に暗躍している
- 人間への干渉方法
- ハスターは名前を口にした者に災いをもたらすなど、受動的な影響が中心
- ニャルラトホテプは自ら人間社会に入り込み、積極的に破滅へ導く
- トリックスター性
- ハスターは恐怖の象徴として描かれることが多い
- ニャルラトホテプは人を騙し、回りくどく苦しめることを楽しむトリックスター的存在
天敵と対立関係
両者の敵対関係についても触れておきましょう。
ハスターの対立相手
- クトゥルフ:異母兄弟でありながら宿命のライバル。風(ハスター)と水(クトゥルフ)の対立として描かれる
- クトゥルフへの憎悪から人類に協力することもあるとされる
ニャルラトホテプの天敵
- クトゥグア:火の精霊であり、地の精ニャルラトホテプにとって唯一恐れる存在
- ドリームランドではノーデンスと対立している
興味深いことに、ハスターとニャルラトホテプが直接対立するという設定は見当たりません。これは両者が異なる「領域」で活動しているためかもしれませんね。
創作における扱い

現代の創作物では、両者がどのように扱われているのでしょうか。
ゲームでの登場
- クトゥルフ神話TRPG:どちらも重要な神格として詳細なデータが設定されている
- ハスターは「名前を呼んではいけない」というルールが有名
- ニャルラトホテプは多数の化身が設定され、『ニャルラトテップの仮面』という大型シナリオもある
日本での人気
- ニャルラトホテプは『這いよれ!ニャル子さん』で美少女キャラクター化され、幅広い層に認知された
- ハスターも同作品に登場し、両者が共演する作品も増えている
ペルソナシリーズ
- ニャルラトホテプは『ペルソナ2』でラスボスとして登場
- 変身能力や人を騙す性質が忠実に再現されている
まとめ
ハスターとニャルラトホテプは、クトゥルフ神話を代表する二大邪神でありながら、その性質は対照的です。
押さえておきたいポイント
- 両者とも旧支配者に分類される強大な神格
- 直接的な対立や協力関係は原典ではほとんど描かれていない
- ハスターは「風」、ニャルラトホテプは「地」の元素を司る
- ハスターは封印状態、ニャルラトホテプは唯一自由に活動できる
- ハスターは受動的に災いをもたらし、ニャルラトホテプは能動的に破滅へ導く
- 両者とも複数の化身を持ち、真の姿が定まらない存在
遠い星で眠る「名状しがたきもの」と、今も人間社会のどこかで暗躍する「這い寄る混沌」。もしかしたら、あなたの隣にいるあの人も、千の顔を持つ邪神の化身かもしれません。
夜空の牡牛座を見上げるとき、そこから視線を感じたら、それはハスターがこちらを見ているのかも…?
参考文献
- 『クトゥルフ神話』関連作品(H.P.ラヴクラフト、オーガスト・ダーレス他)
- 『黄衣の王』(ロバート・W・チェンバース、1895年)
- 『闇に囁くもの』(H.P.ラヴクラフト、1930年)
- 『ナイアーラトテップ』(H.P.ラヴクラフト、1920年)
- 『未知なるカダスを夢に求めて』(H.P.ラヴクラフト、1926-27年)
- 『ハスターの帰還』(オーガスト・ダーレス、1939年)


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