「宝賢夜叉」と聞いて、どんな存在を想像しますか?
実はこの夜叉、仏教における八大夜叉大将の一員で、夜叉王に次ぐナンバー2の地位を持つ特別な存在なんです。
金の袋を持ち、地下の宝石を守る財宝の番人——そんな彼が、どうして仏教の守護神になったのでしょうか?
この記事では、宝賢夜叉の正体、役割、そして仏教との関係について詳しく解説します。
宝賢夜叉の基本情報
宝賢夜叉(ほうけんやしゃ)は、サンスクリット語で「マニバドラ」(Maṇibhadra)と呼ばれる夜叉です。
名前の「マニ」は「宝石」、「バドラ」は「優れた」という意味を持ち、「宝石のように優れた者」という意味になります。
彼は八大夜叉大将の一員として知られていますが、その中でも特別な位置づけにあります。
なんと、夜叉王クベーラ(毘沙門天)に次ぐ地位を持ち、北方の夜叉たちを統率する存在なんですね。
古代インドでは単独で信仰される神として崇められており、紀元前2世紀頃の巨大な石像も発見されています。
宝賢夜叉の役割と特徴
財宝の守護者
宝賢夜叉の最も重要な役割は、財宝の守護です。
地下深くに眠るルビーやサファイアといった宝石を守り、欲深い盗賊が近づけば容赦なく撃退したと伝えられています。
一方で、心の清らかな修行者には癒しの泉を明かしたり、病を治す宝石を授けたりする慈悲深い一面も持っていました。
このため、宝賢夜叉はよく金の袋を手に持った姿で描かれます。
この金の袋は、尽きることのない富と繁栄の象徴なんです。
商人と旅人の守護神
宝賢夜叉は、商人や旅人の守護神としても知られていました。
遠い土地へ商売に出かける商人たちは、航海の安全や商売の成功を祈って宝賢夜叉に祈りを捧げたそうです。
財宝を守るだけでなく、富をもたらす存在として広く信仰されていたんですね。
宝賢夜叉の家族関係
宝賢夜叉は、夜叉王クベーラ(毘沙門天)とその妻バドラの息子です。
兄弟にナーラクーバラという夜叉がいます。
妻の名前はプニヤジャニ(Punyajani)で、彼女もまた夜叉の一族として知られています。
『マハーバーラタ』では、英雄アルジュナが宝賢夜叉を崇拝していたという記述もあります。
『ラーマーヤナ』では、魔王ラーヴァナがランカー島を攻撃した際、宝賢夜叉が防衛に参加したものの敗れたというエピソードも伝えられています。
仏教における宝賢夜叉
八大夜叉大将の一員
仏教において、宝賢夜叉は八大夜叉大将の筆頭格として位置づけられています。
八大夜叉大将とは、毘沙門天(夜叉王クベーラの仏教名)に仕える夜叉たちの中でも最高位の8人の将軍のことです。
彼らは常に毘沙門天の指示に従い、祈願する者を守護するとされています。
宝賢夜叉は、その中でもクベーラに次ぐ地位を持つ特別な存在なんですね。
仏法の守護者へ
元々は財宝を守る自然霊だった宝賢夜叉ですが、仏教に帰依してからは仏法の守護者となりました。
『月蔵経』(Chandragarbha-sutra)によると、ティヴァニ王国の守護神に任命され、仏陀自身から仏法を守るよう命じられたとされています。
宝賢夜叉は仏陀の教えに感銘を受け、地下の財宝を守るだけでなく、仏法を信じる人々を守護することを誓ったんです。
欲深さを戒め、慈悲の心を持つことの大切さを理解した結果、善神としての道を歩み始めたわけですね。
宝賢夜叉と他の夜叉たちとの関係
満賢夜叉(プールナバドラ)との関係
八大夜叉大将には、満賢夜叉(プールナバドラ)という夜叉もいます。
宝賢夜叉が北方の夜叉たちを統率するのに対し、満賢夜叉は南方の夜叉たちの長とされています。
この二人は対をなす存在として、古代インドでも並んで崇拝されていました。
散支夜叉(パーンチカ)との関係
八大夜叉大将の一人、散支夜叉(パーンチカ)は、鬼子母神ハーリーティーの夫として知られています。
宝賢夜叉とは同僚の関係にあたりますが、散支夜叉は特に子供の守護に関わる役割を持つ点で、財宝を守る宝賢夜叉とは異なる特徴を持っています。
宝賢夜叉の像と美術表現
古代の巨大彫像
宝賢夜叉を表した最も有名な彫像は、パルカム(マトゥラー近郊)で発見された巨大な石像です。
この像は紀元前2世紀頃に作られたもので、高さはなんと2.59メートル!
台座には「クニカの弟子ゴミタカによって作られ、宝賢夜叉信仰団体の8人の兄弟によって建てられた」という銘文が刻まれています。
この銘文から、当時すでに宝賢夜叉を崇拝する信仰集団が存在していたことが分かるんです。
単なる自然霊ではなく、独立した神として広く信仰されていた証拠ですね。
現代の表現
現代でも、宝賢夜叉の像は各地に残されています。
特に有名なのが、インドのデリーにあるインド準備銀行(RBI)の前に立つ夜叉像です。
この像は、パルカムの古代彫像をもとに、彫刻家ラム・キンケル・バイジによって制作されました。
財宝を守る神として、まさに中央銀行の前に立つにふさわしい存在というわけですね。
一般的な図像の特徴
宝賢夜叉は通常、以下のような特徴で描かれます:
- 金の袋や宝石を手に持つ
- 豊かな体つき(満ち足りた富の象徴)
- 豪華な装飾品や衣装
- 威厳のある表情
時には、多くの牙を持つ象アイラーヴァタと共に描かれることもあります。
他の宗教における宝賢夜叉
ヒンドゥー教での位置づけ
ヒンドゥー教では、宝賢夜叉はクベーラ(財宝の神)に仕える夜叉の一人として登場します。
『マハーバーラタ』では夜叉の長の一人として言及され、『バーガヴァタ・プラーナ』では兄弟ナーラクーバラと共にガンジス川で遊んでいたという逸話も伝えられています。
また、シヴァ神が怒って召喚した化身の一つとして宝賢夜叉が登場し、悪魔ジャーランダラの軍を壊滅させたという伝説もあります。
ジャイナ教での信仰
ジャイナ教では、宝賢夜叉は今でも重要な信仰対象です。
特にタパ・ガッチャ派に属するジャイナ教徒の間で崇拝されており、グジャラート州では非常に人気のある神なんです。
ウッジャイン、アグロド、マガルワダの3つの寺院が、宝賢夜叉と深い関わりを持つ場所として知られています。
八大夜叉大将一覧
宝賢夜叉が属する八大夜叉大将の全員を紹介します。
| 名前 | 読み方 | サンスクリット語 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 宝賢夜叉 | ほうけんやしゃ | マニバドラ | 夜叉王に次ぐ地位、財宝の守護者、北方の夜叉の長 |
| 満賢夜叉 | まんけんやしゃ | プールナバドラ | 南方の夜叉の長、宝賢夜叉と対をなす |
| 散支夜叉 | さんしやしゃ | パーンチカ | 鬼子母神ハーリーティーの夫、子供の守護 |
| 衆徳夜叉 | しゅうとくやしゃ | シャタギリ | クベーラに仕える |
| 応念夜叉 | おうねんやしゃ | – | 祈りに応じる役割 |
| 大満夜叉 | だいまんやしゃ | – | 満ち足りた徳を持つ |
| 無比力夜叉 | むひりきやしゃ | – | 比類なき力を持つ |
| 密厳夜叉 | みつごんやしゃ | – | 密かに厳格な守護 |
※経典によって名称に若干の違いがあります。
まとめ
宝賢夜叉は、八大夜叉大将の筆頭として、財宝を守り、商人や旅人を見守る存在です。
その主な特徴をまとめると:
- サンスクリット語名は「マニバドラ」(宝石のように優れた者)
- 夜叉王クベーラに次ぐ地位を持つ
- 地下の財宝を守り、商人や旅人の守護神
- 元は独立した神として信仰されていたが、後に仏教に帰依
- 古代インドから現代まで、各地で崇拝され続けている
単なる恐ろしい鬼神ではなく、慈悲の心を持ち、仏法を守護する善神へと変わった宝賢夜叉。
財宝を守るだけでなく、人々の心の豊かさをも守る存在として、今も信仰され続けているんですね。
参考情報
この記事の作成にあたり、以下の情報源を参照しました:
- Wikipedia「八大夜叉大将」
- Wikipedia「夜叉」
- Wikipedia (English) “Eight Great Yakṣa Generals”
- Wikipedia (English) “Maṇibhadra”
- Wikipedia (English) “Yaksha”
- やすらか庵「八大夜叉大将とは」
- Smarthistory “Yaksha and Yakshi sculptures”
- Open Magazine “The Yaksha Who Deserves More Attention” (2023)
- WisdomLib.org “Manibhadra: 30 definitions”
さらに詳しく知りたい方へ:
- 『相応部』(Samyukta Nikaya) – 宝賢夜叉の記述がある仏典
- 『月蔵経』(Chandragarbha-sutra) – 宝賢夜叉が仏法の守護者に任命される経緯が記されている
- 『マハーバーラタ』 – ヒンドゥー教における宝賢夜叉の記述
- マトゥラー博物館(インド) – パルカムの宝賢夜叉像を所蔵


コメント