ヒッタイト神話の神々一覧|古代アナトリアの千の神々を完全解説

テシュブ(Teshub)、テリピヌ(Telipinu)、アリンナの太陽女神(Sun goddess of Arinna)――これらはすべて、ヒッタイト神話に登場する神々の名前です。

ヒッタイト神話は、紀元前1600年から紀元前1180年頃にアナトリア(現在のトルコ中央部)に栄えたヒッタイト帝国の神話体系です。
「千の神々の国」と呼ばれたヒッタイトでは、実に800以上もの神々の名が記録されており、ハッティ人、フルリ人、メソポタミアなど多様な文化の影響を受けた独特のパンテオンを形成していました。

この記事では、ヒッタイト神話に登場する神々を、役割や特徴とともに詳しくご紹介します。

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  1. 概要
  2. ヒッタイト神話の特徴
    1. 多神教と地域神の共存
    2. ハッティ・フルリ・ヒッタイトの三層構造
    3. 神話と儀式の密接な関係
  3. 主要な神々
    1. テシュブ(Teshub):嵐と雷の王
    2. アリンナの太陽女神(Sun goddess of Arinna):帝国の守護神
    3. テリピヌ(Telipinu):農耕と豊穣の神
    4. イナラ(Inara):野生動物の女神と英雄的行為
    5. クマルビ(Kumarbi):神々の王位継承
    6. ハンナハンナ(Hannahannah):母なる女神
    7. カムルセパ(Kamrusepa):癒しと魔法の女神
    8. イシュタル(Ishtar):愛と戦争の国際的女神
  4. その他の重要な神々
    1. 天候神と太陽神
    2. 運命と誕生の女神たち
    3. 戦争と破壊の神々
    4. 月と星の神々
    5. 知恵と技術の神々
    6. 自然と地理の神々
    7. 出産と育児の神々
    8. 冥界の神々
    9. その他の神々
  5. フルリ起源の原初神
    1. アラル(Alalu)
    2. アヌ(Anu)
    3. アドゥンタッリ(Aduntarri)
    4. アムンキ(Amunki)
  6. 地域ごとの天候神
    1. ネリクの天候神(Weather god of Nerik)
    2. クリウィシュナの天候神(Storm god of Kuliwišna)
    3. シャリシャの天候神(Weather god of Šarišša)
  7. カナン起源の神々
    1. エルクニルシャ(Elkunirša)
  8. メソポタミア起源の神々
    1. エンリル(Enlil)→エッレル(Ellel)
    2. イシムド(Isimud)
    3. アヌンナキ(Anunnaki)
  9. 特殊な神格
    1. 暗黒の神々(Dark Gods)
    2. ハッハイマ(Ḫaḫḫima)
    3. ウリリヤッシス(Uliliyassis)
    4. ミヤタンジパ(Miyatanzipa)
    5. ズルキ(Zulki)
  10. 特定の女神集団
    1. ハッティ起源
    2. フルリ起源
    3. その他
  11. ルウィ・パライ系の神々
  12. ヒッタイト神話の全神一覧表
  13. ヒッタイト神話と他の神話との関係
    1. ギリシャ神話への影響
    2. インド・ヨーロッパ神話との共通点
    3. メソポタミア神話との交流
  14. ヒッタイト神話の現代への影響
    1. ファンタジー作品への影響
    2. ペガサスの起源説
    3. 歴史研究への貢献
  15. まとめ
  16. 参考情報
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概要

ヒッタイト神話は、先住民ハッティ人の信仰、フルリ人(ミタンニ王国を築いた民族)の神話、そしてメソポタミア文明の影響が混ざり合った、きわめて複雑な神話体系です。

ヒッタイト人自身が「千の神々」と表現したように、膨大な数の神々が存在し、その多くは地域ごとの天候神や土地の守護神でした。
首都ハットゥシャから発掘された粘土板文書や、聖域ヤズルカヤの壁画から、これらの神々の姿が現代に伝わっています。

興味深いのは、ヒッタイト神話が後のギリシャ神話に影響を与えた可能性が指摘されていることです。
クマルビの神話における神々の王位継承の物語は、ギリシャ神話のクロノスとゼウスの物語と酷似しています。

ヒッタイト神話の特徴

ヒッタイト神話を理解するために、まず基本的な特徴を押さえておきましょう。

多神教と地域神の共存

ヒッタイト帝国は多民族国家であり、征服した地域の神々をそのまま受け入れる寛容な姿勢を持っていました。
そのため、各都市に独自の天候神が存在し、それぞれが別の神として崇拝されていました。

例えば、ネリク市の天候神、ジッパランダの天候神、ハットゥシャの天候神など、同じような役割を持つ神々が多数存在したのです。
これが「千の神々」と呼ばれる所以でした。

ハッティ・フルリ・ヒッタイトの三層構造

ヒッタイト神話の神々は、大きく三つの起源に分けられます。

ハッティ系の神々は、アナトリアの先住民ハッティ人から受け継いだ神々です。
太陽女神や、農耕神テリピヌなどがこれにあたります。

フルリ系の神々は、北シリアからアナトリアに移住してきたフルリ人の神々です。
特にヒッタイト帝国後期には、女王プドゥヘパの影響でフルリ系の神々が重要視されました。

インド・ヨーロッパ系の神々は、ヒッタイト人自身が持ち込んだ神々で、天候神タルフントなどが代表例です。
これらは北欧のトールやインドのインドラと共通の起源を持つと考えられています。

神話と儀式の密接な関係

ヒッタイトでは、神話は単なる物語ではなく、儀式の台本として機能していました。
テリピヌ神話やイルルヤンカシュ(大蛇)神話は、春の祭りで実際に演じられ、豊穣を祈る儀式の一部となっていたのです。

王は神官としての役割も担い、国中の神殿を巡って祭祀を執り行いました。
ムルシリ2世のように、疫病が流行した際には神々に祈りを捧げ、罪を告白して許しを請う王もいました。

主要な神々

ここでは、ヒッタイト神話で特に重要な役割を果たした神々を詳しく見ていきます。

テシュブ(Teshub):嵐と雷の王

テシュブは、フルリ起源の天候神であり、ヒッタイト帝国時代の主神でした。
嵐、雷、雨を司り、農業にとって不可欠な神として崇拝されました。

ヤズルカヤの壁画では、山の神の上に立つ姿で描かれています。
手には稲妻の束を持ち、雷鳴は彼の声、雷光は彼の武器とされました。

クマルビ神話では、クマルビが生み出した石の怪物ウルリクムミと戦い、これを打ち倒します。
この戦いは、秩序と混沌の対決を象徴していました。

テシュブはハッティ語の天候神タルフント、ヒッタイト語のタルフンナと同一視されることもあり、これらの名前は地域や時代によって使い分けられていました。

アリンナの太陽女神(Sun goddess of Arinna):帝国の守護神

アリンナの太陽女神は、ヒッタイト帝国と王権の守護神であり、国家の最高位の女神でした。
その名の通り、首都ハットゥシャから一日の行程にあるアリンナ市を中心に崇拝されていました。

エジプトとの平和条約(世界最古の平和条約として知られる)を締結した際、ヒッタイト側の証人としてこの女神の印が使われたことからも、その重要性がうかがえます。

女神はヘパト(Hebat)とも呼ばれ、フルリ系の神名でも知られていました。
女王プドゥヘパは、アリンナの太陽女神とヘパトを同一視し、神々の統合を試みました。

ヤズルカヤの壁画では、豹の背に立つ姿で表現されています。
配偶者は天候神テシュブであり、この神聖な夫婦が国家のパンテオンの頂点に君臨していました。

テリピヌ(Telipinu):農耕と豊穣の神

テリピヌは、農業と豊穣を司る神であり、最も有名な神話の一つ「テリピヌ神話」の主人公です。

この神話では、何らかの理由で怒ったテリピヌが姿を消してしまい、その結果として植物も動物も繁殖できなくなります。
大地は荒廃し、神々も人間も絶望に陥りました。

神々は必死にテリピヌを探しますが、誰も見つけることができません。
最終的に、女神ハンナハンナが送った蜂だけがテリピヌを発見し、彼を刺して目覚めさせます。

しかし、これがテリピヌをさらに激怒させ、「川の流れをそらし、家を壊してしまう」ほどの大暴れとなりました。
最後に、女神カムルセパが癒しと魔法を使ってテリピヌを落ち着かせ、彼は家に帰って豊穣を回復させるのです。

この神話は春の祭りで演じられ、冬の終わりと春の到来を象徴していたと考えられています。
テリピヌはハッティ系の神とされ、アナトリアの先住民の農耕信仰を反映しています。

イナラ(Inara):野生動物の女神と英雄的行為

イナラは、草原の野生動物を司る女神であり、ハッティ起源の女神です。
彼女は「大蛇イルルヤンカシュ神話」において重要な役割を果たします。

この神話では、天候神が大蛇イルルヤンカシュに敗北してしまいます。
イナラは大蛇を倒すための策略を考え、人間の男性フパシヤを味方につけます。

フパシヤは、イナラと一夜を共にすることを条件に協力を約束しました。
イナラは大蛇を宴会に招き、酒を飲ませて酔わせ、フパシヤが大蛇を縛り上げることに成功します。

そこへ天候神が現れ、大蛇を倒すのです。
この神話は、新年の祭りで儀式として演じられ、来る年の農業の繁栄を祈願するものでした。

イナラの物語は、人間と神が協力して困難を克服するというヒッタイト神話の特徴的なテーマを示しています。

クマルビ(Kumarbi):神々の王位継承

クマルビは、フルリ神話に起源を持つ神で、「クマルビの歌」という神話で中心的な役割を果たします。

この神話は、神々の王位継承を描いたもので、ギリシャ神話のクロノスとゼウスの物語と驚くほど似ています。
最初の王アラル(Alalu)を天空神アヌ(Anu)が倒し、次にアヌをクマルビが倒します。

クマルビはアヌの男性器を噛み切って飲み込みますが、これによってアヌの子らがクマルビの体内に宿ってしまいます。
やがてクマルビからテシュブ(天候神)らが生まれ、テシュブがクマルビと戦って勝利し、新たな王となるのです。

クマルビはその後も復讐を企て、石の怪物ウルリクムミを生み出してテシュブと戦わせますが、最終的に敗れます。

この王位継承神話は、ギリシャ神話に影響を与えた可能性が高く、古代地中海世界での神話の伝播を示す重要な例となっています。

ハンナハンナ(Hannahannah):母なる女神

ハンナハンナは、ヒッタイト語で「祖母」を意味する名を持つ、すべての神々の母とされる豊穣の女神です。

テリピヌ神話では、姿を消したテリピヌを探すために蜂を送り出す知恵ある女神として描かれています。
彼女は神々の中でも特に年長で、知恵と経験を持つ存在として尊敬されていました。

ハンナハンナは、出産や豊穣に関わる儀式で重要な役割を果たしました。
新しい命を授ける力を持つ女神として、人々の生活に深く根ざした信仰の対象だったのです。

カムルセパ(Kamrusepa):癒しと魔法の女神

カムルセパは、癒し、医術、魔法を司る女神です。

テリピヌ神話では、激怒したテリピヌを鎮めるために癒しの魔法を用いた女神として登場します。
彼女の魔法によってテリピヌの怒りが癒され、世界に豊穣が戻るのです。

カムルセパは病気治療の儀式や、悪霊を追い払う儀式でも呼び出されました。
彼女の息子は海神アルナ(Aruna)とされています。

イシュタル(Ishtar):愛と戦争の国際的女神

イシュタルは、もともとメソポタミアのアッカド神話の女神ですが、ヒッタイトにも取り入れられました。

ヒッタイトでは、イシュタルはフルリの女神シャウシュカ(Šauška)や、ハッティの女神アンズィリ(Anzili)と同一視されました。
愛、性愛、戦争、豊穣を司る多面的な女神として、幅広い儀式で呼び出されました。

特に、冥界との関わりを持つ地母神的な側面が強調され、浄化儀式で重要な役割を果たしました。
ヒッタイト人は、イシュタルが国際的な女神であることを認識しており、「国際的な女神として扱う」儀式まで作り出したのです。

その他の重要な神々

ここでは、ヒッタイト神話のその他の重要な神々を紹介します。

天候神と太陽神

タルフント(Tarhunt)は、ルウィ語での天候神の名であり、雷神として崇拝されました。
テシュブと同様、大蛇イルルヤンカシュと戦う英雄神です。

タル(Taru)は、ハッティ語での天候神で、タルフントやテシュブと同一視されることが多い神です。

イシュタヌ(Istanu)は、空にある太陽の神であり、裁きの神でもありました。
昼間の太陽として、すべてを照らし出し、正義を司りました。

地下の太陽女神(Sun goddess of the Earth)は、日没後の太陽を司る冥界の女神です。
大地の悪や不浄、病気を浄化する力を持つとされました。

運命と誕生の女神たち

フテナとフテルラ(Hutena and Hutellura)は、フルリ起源の運命、誕生、助産の女神たちです。
出産の際に呼び出され、母子の安全を守りました。

イシュトゥスタヤとパパヤ(Istustaya and Papaya)は、ハッティ起源の運命の女神たちで、生命の糸を紡ぐ存在です。
ギリシャ神話の運命の三女神(モイライ)に相当する役割を持っていました。

グル・セシュ(Gul Ses)も運命の女神とされ、人間の運命を定める力を持っていました。

戦争と破壊の神々

ザババ(Zababa)/ザママ(Zamama)は、戦争の神であり、メソポタミアから取り入れられた神です。
ハッティの戦神ウルルカッテ(Wurrukatte)と同一視されることもありました。

ネルガル(Nergal)は、メソポタミアの疫病と戦争の神で、冥界の王としても知られています。

イヤッリ(Iyarri)は、ルウィ語で「弓の主」を意味する疫病と災厄の神でした。

月と星の神々

アルマ(Arma)は、ルウィ系の月神です。
夜空を照らす月として崇拝されました。

カシュク(Kašku)は、ハッティ系の月神で、夢や予言と関わりを持つとされました。

クシュフ(Kušuḫ)は、フルリ系の月神で、占いや魔術と深い関係がありました。

知恵と技術の神々

アアス(A’as)は、知恵の神であり、メソポタミアの神エア(エンキ)に由来します。
クマルビ神話では、神々が王位継承について相談する相手として登場します。

ハサメリ(Hasameli)は、ハッティ起源の金属加工職人と工芸の神でした。
鍛冶や金属細工の守護神として崇められました。

自然と地理の神々

アランザフ(Aranzah)は、チグリス川を神格化した神で、フルリ起源です。
川の氾濫を制御し、農業に水をもたらす存在でした。

アルナ(Aruna)は、海の神であり、カムルセパの息子とされています。

ハッジ(Ḫazzi)は、フルリ系の山の神であり、天候神でもありました。

ザリヤヌ(Zaliyanu)は、ネリク近郊のザリヤヌ山を神格化した神で、ネリクの天候神と関連していました。

出産と育児の神々

タラワ(Tarawa)は、育児の女神たちの集合体で、新生児の世話を司りました。

イルシッラ(Irsirra)は、助産の女神たちの集合体です。

ズッキ(Zukki)は、出産を助ける神で、アンズィリと関連していました。

冥界の神々

レルワニ(Lelwani)は、冥界の神であり、もともと男神でしたが後に女神となりました。
ハッティ起源の神です。

アッピ(Āpi)ミンキ(Minki)ナムシャラ(Namšarā)ナラ(Narā)は、いずれも地下世界(冥界)と関わる神々です。

イルピティガ(Irpitiga)は、「大地の主」を意味する地下世界の神でした。

その他の神々

ピハサッサ(Pihassassa)は、ルウィ系の天候と雷の神で、ギリシャ神話のペガサスの起源となった可能性が指摘されています。

クルンタ(Kurunta)は、ルウィ系の野生動物と狩猟の神で、雄鹿で象徴されました。

ピルワ(Pirwa)は、馬と関連する神で、性質については不明な点が多い神です。

サンダス(Sandas)は、ルウィ系の戦士神です。

サッルマ(Sarruma)は、フルリ系の山の神で、テシュブとヘパトの息子とされ、豹と関連づけられました。

スワリヤット(Suwaliyat)は、性質の詳細が不明な神です。

ティラ(Tilla)は、フルリ系の雄牛の神で、天候神テシュブの乗り物とされました。

ウベルリ(Ubelluris)は、フルリ神話の山の神で、肩で天の西端を支える巨人でした。

ジパルワ(Ziparwa)は、パライ語の天候と植生の神です。

ジッパランダの天候神(Weather god of Zippalanda)は、ジッパランダ市の地域神でした。

フルリ起源の原初神

ヒッタイト神話、特にクマルビ神話に登場する原初の神々を紹介します。

アラル(Alalu)

アラルは、フルリ神話における最初の天の王です。
クマルビ神話では、9年間天を支配しましたが、天空神アヌに倒されました。

アヌ(Anu)

アヌは、メソポタミアとフルリに共通する天空神です。
アラルを倒して天の王となりましたが、9年後にクマルビに倒されました。

アドゥンタッリ(Aduntarri)

アドゥンタッリは、占いを司る原初の神で、フルリ起源です。

アムンキ(Amunki)

アムンキは、フルリ神話の原初の神々の一柱です。

地域ごとの天候神

ヒッタイトでは、各都市が独自の天候神を持っていました。

ネリクの天候神(Weather god of Nerik)

ネリクは、首都ハットゥシャの北にある重要な祭祀都市でした。
この都市の天候神は、アリンナの太陽女神の息子とされ、ザリヤヌ山と同一視されました。

ネリクの天候神は、都市の農地に雨をもたらす責任を負っていました。
後にカシュカ人がネリクを占領したため、ヒッタイト人はハットゥシャから儀式を執り行い続けました。

クリウィシュナの天候神(Storm god of Kuliwišna)

クリウィシュナ市の地域的な天候神です。

シャリシャの天候神(Weather god of Šarišša)

シャリシャ(現在のクシャクル遺跡)の天候神でした。

カナン起源の神々

ヒッタイトは、カナン(現在のシリア・レバノン地域)の神々も取り入れました。

エルクニルシャ(Elkunirša)

エルクニルシャは、カナンの最高神エル(El)に由来する創造神です。
妻はアシェルトゥ(Ašertu)で、カナンの女神アティラト(Athirat)に相当します。

メソポタミア起源の神々

エンリル(Enlil)→エッレル(Ellel)

メソポタミアの天空神エンリルは、ヒッタイトではエッレルと呼ばれました。
国家間の条約において、誓いの守護神として呼び出されました。

イシムド(Isimud)

メソポタミアの神エンキの使者神です。

アヌンナキ(Anunnaki)

メソポタミアの冥界の神々の集団です。

特殊な神格

暗黒の神々(Dark Gods)

アナトリア神話に登場する集団神で、冥界や暗闇と関わる存在とされました。

ハッハイマ(Ḫaḫḫima)

ハッハイマは、神々の敵である霜の悪魔です。
水、庭、牧草地、家畜を凍らせ、神々イシュタヌ、ザババ、イナル、テリピヌ、タルフンナまでも凍らせました。

ハッハイマは金属加工の神ハサメリの息子でしたが、父ハサメリの兄弟たち(つまり自身の叔父たち)だけは凍らせずに見逃しました。

最終的に、祖母であるアンナンナという老婆の呪文によって退散させられました。
ハッティ起源の悪霊とされています。

ウリリヤッシス(Uliliyassis)

インポテンツ(性的不能)を取り除く小神です。

ミヤタンジパ(Miyatanzipa)

テリピヌの帰還を待つ間、サンザシの木の下に座っていた神々の一柱です。

ズルキ(Zulki)

夢を解釈する女神で、地下世界と関わる神です。

特定の女神集団

ハッティ起源

ハパンタリ(Hapantali)は、ルウィ系の牧畜の女神です。

ハテプナ(Ḫatepuna)は、ハッティ系の「海の娘」です。

メズッラ(Mezulla)は、アリンナの太陽女神の娘で、ハッティ起源の女神です。

ジントゥヒ(Zintuḫi)は、メズッラの娘とされるハッティ系の女神です。

フルリ起源

ハルキ(Ḫalki)は、穀物の神です。

イシュハラ(Išḫara)は、誓いと愛の女神で、フルリ起源です。

カタハ(Kataḫḫa)カタフジプリ(Kataḫzipuri)レッルリ(Lelluri)なども、フルリ系の女神たちです。

その他

ハンワスイト(Hanwasuit)は、王権の女神で、ハッティ起源です。
彼女は人間の王に神聖な統治の力を授ける役割を持っていました。

ハルマスイト(Ḫalmašuit)ヘシュイ(Ḫešui)フワッシャンナ(Ḫuwaššanna)イナラ(Innara)イヤヤ(Iyaya)カンマンマ(Kammamma)カルフハ(Karhuha)テシミ(Tešimi)/タシンメット(Tasimmet)なども、ヒッタイト神話に登場する女神たちです。

ルウィ・パライ系の神々

ルウィ人とパライ人は、ヒッタイト帝国内の関連民族で、独自の神々を持っていました。

アラ(Ala)は、ルウィ系の女神です。

アンマンマ(Ammamma)アンマリク(Ammarik)も、ルウィ系の神々とされています。

アダンマ(Adamma)は、女神です。

アンナ(Anna)も、女神の一柱です。

アルンナ(Aruna)は、ヒッタイト神話に登場する神で、海神カムルセパの息子とされます。

アシュカシェパ(Aškašepa)アシュタビ(Aštabi)も、神々の一柱です。

アランズ(Allanzu)は、神の一柱です。

アラリ(Allani)は、冥界の女王の一柱とされることもあります。

ヒッタイト神話の全神一覧表

以下は、ヒッタイト神話に登場する神々の一覧です。

日本語名原語役割・属性起源
アアスA’as知恵の神メソポタミア(エア/エンキ由来)
アダンマAdamma女神
アドゥンタッリAduntarri占いの神、原初神フルリ
アラAla女神ルウィ
アラルAlalu原初の天の王フルリ
アラリAllani冥界の女王フルリ
アランズAllanzu
アンマンマAmmammaルウィ
アンマリクAmmarikルウィ
アムンキAmunki原初神フルリ
アンナAnna女神
アヌAnu天空神、原初神フルリ・メソポタミア
アヌンナキAnunnaki冥界の神々メソポタミア
アンズィリAnzili/Enzili天候神の配偶者、出産の神
アパリウナスApaliunasウィルサ市の守護神
アッピĀpi地下世界の神
アランザフAranzahチグリス川の神格化フルリ
アリンナの太陽女神Sun goddess of Arinna太陽女神、帝国の守護神ハッティ
アリンニティArinniti太陽女神(別名)
アルマArma月神ルウィ
アルナAruna海神
アシェルトゥAšertuエルクニルシャの妻カナン(アティラト由来)
アシュカシェパAškašepa
アシュタビAštabi
暗黒の神々Dark Gods冥界・暗闇の神々アナトリア
エルクニルシャElkunirša創造神カナン(エル由来)
エッレルEllel天空神、誓いの守護者メソポタミア(エンリル由来)
夜の女神Goddess of the Night夜の女神フルリ
ハッハイマḪaḫḫima霜の悪魔、神々の敵ハッティ
ハルキḪalki穀物の神
ハルマスイトḪalmašuit女神
ハンナハンナḪannahannah母なる女神、豊穣の女神ヒッタイト
ハンワスイトHanwasuit王権の女神ハッティ
ハパンタリḪapantali牧畜の女神ルウィ
ハサメリHasameli金属加工と工芸の神ハッティ
ハテプナḪatepuna海の娘ハッティ
ハッジḪazzi山と天候の神フルリ
ヘパトḪepat太陽女神(別名)フルリ
ヘシュイḪešui女神
フテナとフテルラHutena and Hutellura運命・誕生・助産の女神フルリ
フワッシャンナḪuwaššanna女神
イナラInara野生動物の女神ハッティ
イナラInnara女神
イルピティガIrpitiga大地の主
イルシッラIrsirra助産の女神たち
イシュハラIšḫara誓いと愛の女神フルリ
イシムドIsimudエンキの使者メソポタミア
イシュタルIštar愛と戦争の女神メソポタミア
イシュタヌIstanu太陽神、裁きの神ハッティ(エシュタン由来)
イシュトゥスタヤとパパヤIstustaya and Papaya運命の女神、生命の糸を紡ぐハッティ
イヤッリIyarri疫病と災厄の神ルウィ
イヤヤIyaya女神
カンマンマKammamma女神
カムルセパKamrusepa癒し・医術・魔法の女神
カルフハKarhuha女神
カシュクKašku月神ハッティ
カタハKataḫḫa女神フルリ
カタフジプリKataḫzipuri女神フルリ
クババKubaba女神
クリウィシュナの天候神Storm god of Kuliwišna地域神
クマルビKumarbiテシュブの父フルリ
クルンタKurunta野生動物と狩猟の神ルウィ
クシュフKušuḫ月神フルリ
レッルリLelluri女神フルリ
レルワニLelwani冥界の神ハッティ
メズッラMezulla太陽女神の娘ハッティ
ミンキMinki地下世界の神
ミヤタンジパMiyatanzipaテリピヌ待機の神
ナムシャラNamšarā地下世界の神
ナラNarā地下世界の神
ネリクの天候神Weather god of Nerik地域神
ピハサッサPihassassa天候と雷の神ルウィ
ピルワPirwa馬の神
サンダスSandas戦士神ルウィ
シャリシャの天候神Weather god of Šarišša地域神
サッルマSarruma山の神、テシュブの息子フルリ
シャウシュカŠauška愛・戦争・癒しの女神フルリ
天の太陽神Sun god of Heaven太陽神
地下の太陽女神Sun goddess of the Earth冥界の太陽女神
スワリヤットSuwaliyat
スーテフSutekh天候神(テシュブの別名?)
タラワTarawa育児の女神たち
タルフンナTarḫunna天候神ヒッタイト
タルフントTarhunt雷神ルウィ
タルTaru天候神ハッティ
タシュミシュTašmišu戦士神、テシュブの兄弟フルリ
テリピヌTelipinu農耕の神ハッティ
テシミ/タシンメットTešimi/Tasimmet天候神の妻
テシュブTeshub天候・嵐・雷の神、主神フルリ
ティラTilla雄牛の神フルリ
ウリリヤッシスUliliyassisインポテンツ除去の神
ウベルリUbelluris天を支える山の神フルリ
ウルルカッテWurrukatte戦争の神ハッティ
ザババ/ザママZababa/Zamama戦争の神メソポタミア
ザリヤヌZaliyanuザリヤヌ山の神格化
ザシュハプナZašḫapunaカシュタマ市の守護神
ジントゥヒZintuḫiメズッラの娘ハッティ
ジパルワZiparwa天候と植生の神パライ
ジッパランダの天候神Weather god of Zippalanda地域神
ズッキZukki出産を助ける神
ズルキZulki夢解釈の女神
グル・セシュGul Ses運命の女神

ヒッタイト神話と他の神話との関係

ヒッタイト神話は、他の古代神話体系と興味深い関連性を持っています。

ギリシャ神話への影響

クマルビ神話の王位継承の物語は、ヘシオドスの『神統記』におけるクロノスとゼウスの物語と驚くほど似ています。

クマルビ神話:
アラル → アヌ → クマルビ → テシュブ

ギリシャ神話:
ウーラノス → クロノス → ゼウス

どちらも、息子が父を倒し、さらにその息子に倒されるという構造を持っています。
クマルビがアヌの男性器を噛み切る場面は、クロノスがウーラノスを去勢する場面と対応しています。

この類似性から、ヒッタイト神話がギリシャ神話の形成に影響を与えた可能性が高いと考えられています。
紀元前2千年紀後半、ヒッタイトとミケーネ文明(初期ギリシャ)は、海上貿易を通じて接触していたことが知られており、神話の伝播もこの時期に起きたと推測されます。

インド・ヨーロッパ神話との共通点

ヒッタイト神話の天候神タルフントが大蛇イルルヤンカシュと戦う物語は、インド・ヨーロッパ語族に共通する「雷神と蛇の戦い」の神話パターンです。

類似する神話:

  • ヴェーダ神話:インドラ vs ヴリトラ
  • 北欧神話:トール vs ヨルムンガンド
  • ギリシャ神話:ゼウス vs テュポーン

これらはすべて、雷神が混沌を象徴する蛇を倒すという構造を持っており、インド・ヨーロッパ語族の祖先が共有していた神話が各地で独自に発展したものと考えられています。

メソポタミア神話との交流

ヒッタイトは、メソポタミアの神々を積極的に取り入れました。
イシュタル、アヌ、エア(エンキ)、エンリルなどは、ヒッタイト神話に登場します。

特に、「ギルガメシュ叙事詩」のヒッタイト語版が首都ハットゥシャから発見されており、メソポタミア文学がヒッタイトでも読まれていたことがわかります。

逆に、ヒッタイトからメソポタミアへの影響も考えられ、両者の神話は相互に影響し合っていました。

ヒッタイト神話の現代への影響

ヒッタイト神話は、現代のファンタジー作品にも影響を与えています。

ファンタジー作品への影響

天候神と大蛇の戦い、神々の王位継承など、ヒッタイト神話のテーマは、ファンタジー小説やゲームで繰り返し用いられています。

ペガサスの起源説

ルウィの天候と雷の神ピハサッサが、ギリシャ神話のペガサスの起源である可能性が指摘されています。
ヒッタイト美術に見られる翼を持つ馬や、キマイラのような合成獣の描写が、ギリシャ神話の怪物たちの原型となったかもしれません。

歴史研究への貢献

ヒッタイト神話の研究は、インド・ヨーロッパ語族の移動と文化の伝播を理解する上で重要な手がかりを提供しています。
また、古代地中海世界における文化交流の実態を明らかにする貴重な資料となっています。

まとめ

ヒッタイト神話は、ハッティ、フルリ、インド・ヨーロッパ、メソポタミアなど多様な文化が融合した、きわめて豊かな神話体系です。

主要な特徴:

  • 「千の神々」と呼ばれる膨大なパンテオン
  • 地域ごとの天候神の共存
  • 神話と儀式の密接な関係
  • ギリシャ神話への影響

代表的な神々:

  • テシュブ:嵐と雷の主神
  • アリンナの太陽女神:帝国の守護神
  • テリピヌ:農耕と豊穣の神
  • イナラ:野生動物の女神
  • クマルビ:神々の王位継承の中心人物

ヒッタイト神話は、古代アナトリアの豊かな宗教文化を今に伝える貴重な遺産です。
ギリシャ神話やインド・ヨーロッパ神話研究において重要な位置を占め、人類の文化交流の歴史を物語る存在なのです。

参考情報

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この記事で参照した情報源

学術資料

  • Beckman, Gary (1989). “The religion of the Hittites”. The Biblical Archaeologist 52 (2–3): 98–108.
  • Collins, Billie Jean (2002). “Necromancy, fertility, and the dark earth: The use of ritual pits in Hittite cult”. In Mirecki, Paul; Meyer, Marvin (eds.). Magic and Ritual in the Ancient World. Leiden: Brill. pp. 224–241.
  • Haas, Volkert (2006). Die hethitische Literatur. Berlin: Walter de Gruyter.
  • Bryce, Trevor (2005). The Kingdom of the Hittites. Oxford: Oxford University Press.

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