夜空に輝く牡牛座の星々を見上げたとき、そこに恐ろしい存在が潜んでいるとしたら、どう思いますか?
クトゥルフ神話の世界では、宇宙の彼方に「名状しがたきもの」と呼ばれる謎の神が存在するとされています。
その名はハスター。黄色い衣をまとい、誰もその真の姿を知らない神秘的な邪神です。
この記事では、クトゥルフ神話でも特に謎めいた存在である「ハスター」について、その正体や特徴、興味深い伝承をわかりやすく解説していきます。
概要

ハスターは、クトゥルフ神話に登場する強大な力を持つ旧支配者(グレート・オールド・ワン)の一体です。
「名状しがたきもの」という異名で知られ、その正体は謎に包まれています。四大元素の中でも特に「風」の要素を司る神とされ、星間宇宙を自由に飛び回る力を持っているんです。
多くの異名を持つハスターですが、代表的なものをご紹介しましょう。
ハスターの主な異名
- 名状しがたきもの(The Unspeakable One)
- 黄衣の王(The King in Yellow)
- 名づけられざるもの(Him Who is not to be Named)
- 星間宇宙の帝王
- 邪悪の皇太子
このように呼ばれること自体が畏れ多いとされ、その名前を口にすることすら危険だと言われています。
系譜
ハスターの家系図は、まさに宇宙規模の恐ろしさなんです。
ハスターの血統関係
- 父親:ヨグ=ソトース(時空を超越する外なる神)
- 異母兄弟:クトゥルフ(水の邪神)
- その他の関係:シュブ=ニグラスの夫という説もある
面白いのは、異母兄弟のクトゥルフとは宿命のライバル関係にあること。水を司るクトゥルフと風を司るハスターは、まるで自然界の対立のように敵対しているんですね。
実は、ハスターは風の精霊たちのリーダー的存在でもあります。配下には以下のような神々がいるとされています。
- イタクァ(風の精霊)
- ロイガーとツァール(双子の風神)
姿・見た目

ハスターの姿は、文字通り「名状しがたい」ものなんです。
なぜなら、その真の姿を見た者は誰もいないから。黄色い衣に包まれた姿で現れることが多いのですが、この衣の下に何があるのか、誰も知らないんです。
ハスターの外見に関する諸説
- 黄色い衣をまとった巨大な存在
- 衣は皮膚が変化したもので、決して破れない
- 200フィートもある巨大なトカゲのような姿という説
- タコのような触手を持つという説
- 蝙蝠に似た姿という説
さらに恐ろしいのは、ハスターが人間に憑依することもあるということ。憑依された人の体は魚の鱗のようなもので覆われ、手足の骨がなくなって流動体のように変形してしまうそうです。
「黄衣の王」という化身の姿もあり、これは青白い仮面をつけた死の使いとして描かれることが多いんです。
特徴
ハスターには、他の邪神にはない独特の能力があります。
ハスターの主な能力
- 空間跳躍:何光年も離れた場所へ一瞬で移動できる
- 星間飛行:宇宙空間を風のように自由に飛び回る
- 精神汚染:その姿に触れるだけで人間の精神が狂ってしまう
- 重力無視:反重力器官により、重力を超えて移動できる
- 知性操作:芸術家や劇作家に奇妙な影響を与える
性格的な特徴として、ハスターは気まぐれな一面があります。クトゥルフへの憎悪から人類に協力することもあれば、容赦なく破滅をもたらすこともあるんです。
また、ハスターの名前には特別な力があるとされています。その名を口にすると破滅を招くという言い伝えがあり、多くの魔術師たちは決してその名を直接呼ぶことはありません。
伝承

ハスターにまつわる伝承で最も有名なのが、『黄衣の王』という呪われた戯曲の話です。
『黄衣の王』の恐怖
この戯曲を読んだ者は例外なく狂気に陥るとされています。特に第二幕は危険で、読み進めた者は正気を保てないと言われているんです。
物語の中では、画家のスコットとモデルのテッシーがこの本を読んでしまい、悲劇的な最期を迎えます。死人のような顔をした夜警の男(実は何か月も前に死んでいた)に襲われ、命を落としてしまうのです。
カルコサと黒きハリ湖
ハスターが住むとされる場所も、また謎に満ちています。
ハスターの居住地
- 黒きハリ湖:牡牛座のヒアデス星団にある暗黒の湖
- カルコサ:黒きハリ湖の近くにある古代都市
- セラエノ:プレアデス星団にある大図書館がある星
地球から遠く離れたこれらの場所は、人類には到達不可能な領域。そこでハスターは、星辰が正しい位置に戻る日を待っているとされています。
バイアクヘーの召喚
ハスターに仕える有翼生物バイアクヘーは、魔力の宿った石笛を吹き、ハスターを讃える呪文を唱えることで召喚できるとされています。
バイアクヘーは爬虫類と蜂を合わせたような異様な姿をしており、人間を宇宙の任意の場所へ運ぶことができます。ただし、宇宙空間を移動する際は「黄金の蜂蜜酒」を飲まないと、生身では耐えられないそうです。
起源
ハスターという存在は、実は複数の作家によって段階的に作り上げられたものなんです。
アンブローズ・ビアス(1891年)
最初にハスターを創造したのは、アメリカの作家ビアス。彼の作品では、ハスターは羊飼いの温厚な神として描かれていました。また、謎の都市「カルコサ」も彼が生み出したものです。
ロバート・W・チェンバース(1895年)
チェンバースは短編集『黄衣の王』でハスターを取り入れました。ここで初めて「黄衣の王」や「黄の印」といった要素が追加され、恐怖の対象として描かれるようになったんです。
H.P.ラヴクラフト(1930年)
クトゥルフ神話の創始者ラヴクラフトは『闇に囁くもの』でハスターに言及。
ただし、この時点ではまだ詳細は不明でした。
オーガスト・ダーレス(1939年以降)
今日のハスター像を確立したのがダーレスです。彼はハスターを旧支配者の一員とし、クトゥルフのライバルとして設定。風の要素を司る神という特徴も加えました。
このように、約50年かけて複数の作家の手によって、現在のハスター像が作り上げられたんですね。
まとめ
ハスターは、クトゥルフ神話の中でも特に謎めいた、恐ろしくも魅力的な存在です。
重要なポイント
- ヨグ=ソトースの息子で、クトゥルフの異母兄弟
- 「名状しがたきもの」と呼ばれ、真の姿は誰も知らない
- 黄色い衣をまとい、風の要素を司る旧支配者
- 牡牛座の星々と関連し、黒きハリ湖に潜む
- 『黄衣の王』という呪われた戯曲と深い関わりがある
- 複数の作家によって段階的に作り上げられた存在
その名を口にすることすら危険とされるハスター。もし夜空の牡牛座を見上げたとき、何か視線を感じたら…それは遥か彼方から、ハスターがこちらを見ているのかもしれませんね。
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