雨が降る夜、友人たちと恋愛談義に花を咲かせたことはありますか?
平安時代、17歳になった光源氏も、雨の夜に友人たちと女性について語り合いました。そこで聞いた話が、彼のその後の恋愛に大きな影響を与えることになります。
この記事では、源氏物語第2帖「箒木」のあらすじと、有名な「雨夜の品定め」の場面について詳しくご紹介します。
概要
箒木(ははきぎ)は、『源氏物語』全54帖のうちの第2帖です。
第1帖「桐壺」から数年が経過し、17歳になった光源氏の恋愛物語が本格的に始まります。この巻では、友人たちとの女性談義「雨夜の品定め」と、中流階級の人妻・空蝉との出会いが描かれています。
巻名の由来は、光源氏と空蝉が交わした和歌に出てくる「帚木」という言葉からきています。帚木とは、遠くから見えても近づくと見えなくなる不思議な木のことで、手に入らない恋を象徴しているんです。
あらすじ
物語は光源氏17歳の五月雨の夜から始まります。
雨夜の品定め
宮中で物忌み(謹慎)をしていた光源氏のもとに、友人の頭中将、先輩の左馬頭、同僚の藤式部丞がやってきました。4人は雨の夜、それぞれの恋愛経験を語り合います。
この場面は「雨夜の品定め」として、源氏物語の中でも特に有名なシーンなんです。
空蝉との出会い
翌日、方違え(陰陽道で不吉な方角を避けるための宿泊)のため、紀伊守の屋敷を訪れた光源氏。そこで、紀伊守の父の後妻である空蝉という女性の存在を知ります。
前夜の談義で中流階級の女性に興味を持った光源氏は、空蝉に強引に迫り、一夜を共にしました。
その後の展開
しかし空蝉は、身分違いの恋を続けることを拒絶します。光源氏は彼女を忘れられず、再び会おうとしますが、空蝉は薄衣一枚を残して逃げ去ってしまうのです。
「雨夜の品定め」とは
「雨夜の品定め」は、男性たちが理想の女性について語り合う場面です。
参加者と主な発言
左馬頭の意見
- 完璧な妻など存在しない
- 家を治めるのは国を治めるより難しい
- そのときどきに適切な判断ができる、謙遜な女性が良い
- 嫉妬深い女性は避けるべき
頭中将の意見
- 「中の品」(中流階級)の女性が一番良い
- 上流階級の女性は気位が高すぎる
- 下流階級の女性は教養が足りない
- かつて愛した内縁の妻(後の夕顔)を今も忘れられない
藤式部丞の意見
- 学識の高い女性に言い寄ったが、知識をひけらかされて疲れた
- 教養は大切だが、ほどほどが良い
光源氏への影響
この談義を聞いた光源氏は、「中の品」と呼ばれる中流階級の女性に強い関心を持つようになりました。これが、その後の空蝉との出会いにつながっていくんですね。
空蝉という女性
空蝉は、「箒木」に登場する重要な女性キャラクターです。
空蝉の境遇
生まれと没落
- 父は中納言兼衛門督という上流貴族
- 本来は天皇に仕える予定だった
- 父の死で後ろ盾を失い、計画が頓挫
- 裕福だが身分の低い老地方官の後妻となった
現在の立場
- 伊予介(地方官)の後妻
- 前妻の娘(軒端荻)とほぼ同年代
- 夫への愛情は薄い
- 自分の境遇を恥じている
空蝉の性格
空蝉は、慎み深く分別のある女性として描かれています。
主な特徴
- 小柄で美人ではないが、立ち居振る舞いが上品
- 趣味が良く、教養がある
- 自分の身分をわきまえている
- プライドが高く、矜持を保とうとする
光源氏の強引な求愛に一度は応じてしまいましたが、その後は身分の違いを理由にきっぱりと拒絶しました。自分の立場を理解し、不釣り合いな恋を続けない賢明さを持っていたんです。
陰陽道と平安時代の生活
「箒木」には、平安時代の人々の生活習慣も描かれています。
物忌みと方違え
物忌み
- 陰陽道で不吉とされた日に、行動を慎むこと
- 宮中に籠もって謹慎する
方違え
- 不吉な方角への移動を避けること
- 一度別の方角に移動してから目的地に向かう
- 災いを回避するための手段
光源氏が紀伊守邸を訪れたのも、この方違えのためでした。当時の人々にとって、陰陽道は生活を決める重要な要素だったんですね。
物語のテーマ
「箒木」が提示する重要なテーマがあります。
身分と恋愛
光源氏は天皇の息子という最高の身分ですが、空蝉は没落した元上流貴族で、現在は地方官の妻。この圧倒的な身分差が、二人の関係を不可能にしています。
当時の社会では、身分違いの恋は続けられないものでした。空蝉の拒絶は、現実的な判断だったんです。
女性の人生の不安定さ
空蝉の人生は、平安時代の女性の立場を象徴しています。
女性の人生を左右する要因
- 父親の地位と財力
- 後ろ盾の有無
- 結婚相手の選択
父を亡くした空蝉は、本来の身分から転落し、望まない結婚をせざるを得ませんでした。女性の人生がいかに不安定で、それをどう生き抜くかという問題は、源氏物語全体を貫く重要なテーマになっています。
光源氏の成長
「箒木」は、光源氏の恋愛経験の始まりを描いています。
「雨夜の品定め」で聞いた話を、実際に体験していく光源氏。空蝉との出会いは、彼にとって初めて思い通りにならない恋でした。この経験が、彼の人間性を深めていくことになります。
まとめ
「箒木」は、光源氏の恋愛物語が本格的に始まる重要な巻です。
重要なポイント
- 源氏物語第2帖で、光源氏17歳の物語
- 「雨夜の品定め」という有名な女性談義の場面がある
- 中流階級の女性に興味を持った光源氏が空蝉と出会う
- 空蝉は没落した上流貴族の娘で、地方官の後妻
- 身分違いの恋を拒絶する空蝉の分別と矜持が描かれる
- 平安時代の女性の人生の不安定さがテーマ
- 物忌みや方違えなど、陰陽道の影響も見られる
「箒木」で描かれる身分差の恋と女性の生き方は、現代にも通じる普遍的なテーマです。光源氏の恋の始まりを、ぜひ味わってみてください。


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