あなたは突然、自分の体が自分のものでなくなる感覚を味わったことがありますか?
もし、ある日目覚めたら、自分の意識が全く別の時代、別の体に入っていたとしたら…
これは単なる悪夢ではなく、クトゥルフ神話に登場する「イスの偉大なる種族」が実際に行っている、恐るべき精神交換の手口なんです。
この記事では、時間の秘密を極めた唯一の存在「イスの偉大なる種族」について、その謎めいた正体と驚異的な能力をわかりやすく解説します。
概要

イスの偉大なる種族(Great Race of Yith)は、H・P・ラヴクラフトが創造したクトゥルフ神話に登場する、実体を持たない精神生命体です。
彼らの最大の特徴は、時間の秘密を完全に極めた唯一の種族であること。過去も未来も自由に行き来できる彼らは、畏敬の念を込めて「偉大なる種族」と呼ばれています。
イース(Yith)と呼ばれる滅びゆく銀河から、約6億年前の地球にやってきた彼らは、単なる侵略者ではありません。彼らの目的は知識の収集。あらゆる時代、あらゆる文明の知識を集め、保存することが彼らの存在意義なんですね。
初めて登場したのは、ラヴクラフトの短編小説『時間からの影』(1936年)。ミスカトニック大学のピースリー教授が体験した、5年間にわたる奇妙な記憶喪失事件を通じて、彼らの存在が明らかになりました。
系譜
イスの偉大なる種族の起源は、地球から遥か彼方の銀河にあります。
故郷イースからの脱出
彼らの元々の故郷はイースという惑星でした。しかし、その銀河が滅亡の危機に瀕したとき、彼らは驚くべき方法で脱出を果たします。
物理的な宇宙船ではなく、精神投影という方法で、時空を超えて地球にやってきたんです。
地球での歴史
約6億年前、彼らは地球に存在していた円錐形の生物と精神を交換し、その体を乗っ取りました。
地球に来た後の彼らの歴史はこんな感じです。
- 先住種族との戦い:浮遊するポリプ状の生物「盲目のもの」を地下に封印
- 文明の建設:オーストラリア大陸(当時の南方大陸)に巨大都市ナコタスを建設
- 知識の収集:あらゆる時代から情報を集め、巨大な図書館に保管
未来への移住計画
面白いことに、彼らは自分たちの文明がいつ終わるかも知っています。
未来から得た知識により、「盲目のもの」が再び地上に侵攻してくることを予知した彼らは、その直前に人類の次に栄える「強壮な甲虫類」の体に精神を移す計画を立てているんです。
さらにその後は、地球の終焉が近づくと水星の球根状植物に宿ることになっているとか。まさに永遠の旅人ですね。
姿・見た目

イスの偉大なる種族の本来の姿は、純粋な精神エネルギー体で、目に見えません。
しかし、地球で彼らが使っていた「円錐体生物」の肉体については、詳しい記録が残っています。
円錐体生物の外見
基本構造
- 胴体:高さ約3メートル、底面の直径約3メートルの巨大な円錐形
- 表皮:虹色に輝く鱗で覆われている
- 底部:灰白色の弾力性のある物質(ナメクジのように這って移動)
4本の伸縮自在の器官
胴体の頂上から、太い円筒状の器官が4本生えています。それぞれに違う機能があるんです。
- 2本のハサミ腕:先端に大きなハサミがあり、物を掴んだり、擦り合わせて会話したり
- 摂食器官:先端に赤いラッパ型の口が4つ
- 頭部器官:黄色い歪な球体の頭がついている
頭部の詳細
頭部は特に複雑な構造をしています。
- 3つの大きな眼:球体の円周上に配置
- 4本の聴覚器官:上部から花のような形の肉茎が伸びる
- 8本の触手:下部から緑色の細い触手(精密作業用)
この姿、想像するとかなり異様ですよね。しかも、これは彼らが「借りている」体に過ぎないというから驚きです。
特徴
イスの偉大なる種族の能力は、まさに「偉大」の名にふさわしいものです。
精神交換能力
彼らの最も恐るべき能力が精神交換です。
精神交換の仕組み
- 時空を超えて、別の生命体と精神を入れ替える
- 交換できる範囲は無限大(別の銀河、何億年の未来や過去も可能)
- 相手の同意は不要(強制的に交換される)
交換された人間はどうなるかというと…
- イスの偉大なる種族の体に閉じ込められる
- 軟禁状態で知識や情報の提供を求められる
- 元の体に戻される際、記憶を消去される
ただし、まれに記憶が断片的に残ったり、悪夢として蘇ったりすることがあるそうです。
時間移動能力
彼らは時間という概念を完全に超越しています。
過去・現在・未来という区別は彼らにとって意味がありません。図書館で本を選ぶように、好きな時代の情報を自由に閲覧できるんです。
高度な文明と技術
科学技術の特徴
- 労働はほぼ自動化されている
- 主な活動は知的・芸術的探求
- 巨大な図書館にあらゆる知識を保管
- 芸術を極めて重要視している
生態的特徴
円錐体生物としての彼らは、半ば植物的な存在です。
- 生殖方法:水中で成長する胞子による単為生殖
- 寿命:肉体は約5000年(精神体としては不死)
- 食事:光合成も可能だが、効率は良くない
伝承

ピースリー教授の体験
最も有名な遭遇例が、ミスカトニック大学のナサニエル・ウィンゲイト・ピースリー教授の事件です。
事件の経緯
1908年、講義中に突然倒れたピースリー教授は、その後5年間、まるで別人のようになってしまいました。
- 奇妙な言動と振る舞い
- 現代の機械に対する困惑
- 古代の言語や知識への異常な関心
1913年に元に戻った教授は、その5年間の記憶を失っていました。しかし、悪夢に悩まされ続け、夢の中で見た光景を調査した結果、それが太古の地球の光景と一致することを発見したんです。
実は、彼の精神はイスの偉大なる種族と交換され、20世紀の人類のサンプルとして研究されていたのでした。
ナコト写本
イスの偉大なる種族が地球を去った後、彼らが残した記録をまとめたものが「ナコト写本」です。
この文書には以下のような内容が記されているとされます。
- 時間を遡る方法
- ナコト五芒星形を使った儀式
- 彼らの都市ナコタスの記録
ナコトの同胞教団という秘密結社が、この知識を守り続けているという噂もあります。
オーストラリアの遺跡
彼らの首都があったとされるオーストラリアには、今でも奇妙な遺跡が残っているという話があります。
- 巨大な石造建築の廃墟
- 人間には理解できない幾何学的構造
- 地下深くに続く謎の通路
これらの遺跡は、彼らが「盲目のもの」を封印した場所かもしれません。
現代への影響
興味深いことに、イスの偉大なる種族は今でも活動を続けているかもしれません。
時々報告される以下のような現象は、彼らの精神交換の影響かも…
- 突然の記憶喪失と人格変化
- 古代言語を話し始める症例
- 未来の出来事を正確に予言する人々
出典
イスの偉大なる種族は、多くのクトゥルフ神話作品に登場しています。
主要作品
H・P・ラヴクラフト
- 『時間からの影』(1936年)- 初登場作品
- 『狂気山脈』での言及
オーガスト・ダーレスとの共作
- 『異次元の影』(1957年)
- 『ポーの末裔』(1966年)
その他の作家による作品
- リン・カーター『暗黒の知識のパピルス』
- ブライアン・ラムレイ『タイタス・クロウの帰還』
他メディアでの登場
- ゲーム:『Call of Cthulhu: Dark Corners of the Earth』
- 漫画:田邊剛『時を超える影 ラヴクラフト傑作集』
- TRPG:クトゥルフ神話TRPGの重要な存在として登場
まとめ
イスの偉大なる種族は、時間と精神の支配者として、クトゥルフ神話の中でも特異な存在です。
重要なポイント
- 実体を持たない精神生命体で、時間を完全に超越している
- 精神交換能力により、あらゆる時代の生命体と入れ替わることができる
- 知識収集が最大の目的で、巨大な図書館に情報を保管
- 現在は円錐体生物の体を使用しているが、いずれは別の種族へ移る予定
- 人類とはピースリー教授の事件を通じて接触
- ナコト写本という形で、彼らの知識の一部が現代に伝わっている
彼らにとって、私たち人類は単なる「研究対象」に過ぎません。
もしかしたら、今この瞬間にも、誰かの精神が彼らと入れ替わっているかもしれない…そう考えると、ちょっとゾッとしますよね。
あなたの周りで、急に人が変わったように見える人がいたら、それはイスの偉大なる種族の仕業かもしれません。


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