あなたは「嘘をついたことがありますか?」と聞かれたら、どう答えるでしょうか。
もし死後の世界で、あなたの人生で語ったすべての言葉が秤(はかり)にかけられるとしたら…。
実は仏教の世界では、死後28日目にそんな恐ろしい審判が待っているとされているんです。
その審判を行うのが、冥界の十王の一人「五官王(ごかんおう)」。
この記事では、人間の五感が生み出す罪を裁く五官王について、その役割や特徴、審判の様子を詳しくご紹介します。
五官王ってどんな存在?

五官王は、仏教や道教で信じられている「冥界の十王」の第四番目の裁判官です。
人が亡くなってから28日目(四七日)の審判を担当し、特に人間の「五官」から生まれる罪を厳しく調べる存在として知られています。
五官というのは、眼・耳・鼻・舌・身の五つの感覚器官のこと。私たちが日常的に使っているこれらの器官が、実は様々な罪の源になることがあるんですね。
十王の中での位置づけ
冥界の十王は、死者が極楽浄土に行けるか地獄に落ちるかを決める重要な裁判官たちです。
十王の審判スケジュール(前半)
- 初七日(7日目):秦広王(しんこうおう)
- 二七日(14日目):初江王(しょこうおう)
- 三七日(21日目):宋帝王(そうていおう)
- 四七日(28日目):五官王(ごかんおう)
- 五七日(35日目):閻魔王(えんまおう)
五官王は、有名な閻魔王の直前に審判を行う重要な立場にいます。
五官王の特徴と役割
本地仏は普賢菩薩
五官王の本来の姿(本地)は普賢菩薩(ふげんぼさつ)だとされています。
普賢菩薩は智慧と慈悲の象徴で、修行の実践を司る菩薩。五官王が厳しい裁きを行うのも、実は亡者を正しい道に導くための慈悲の表れなんですね。
審判で使う特別な道具
五官王の審判で特に有名なのが「罪の重さを量る秤(はかり)」です。
この秤がとても不思議で、罪深い人ほど重い分銅(ふんどう)の大石を軽々と持ち上げてしまうという、通常とは逆の現象が起きるんです。つまり、罪が重いほど身体が軽くなってしまうという、なんとも皮肉な仕組みになっているわけです。
五官王の審判内容

五官から生まれる七つの罪
五官王が審理する罪は、仏教で「身口意の三業」と呼ばれる罪のうち、特に身体と言語に関わる部分です。
審理される七つの罪
- 殺生(せっしょう):生き物を殺すこと
- 窃盗(せっとう):他人のものを盗むこと
- 邪淫(じゃいん):不適切な性的関係
- 妄語(もうご):嘘をつくこと
- 綺語(きご):無意味な飾り言葉
- 両舌(りょうぜつ):二枚舌、人を仲違いさせる言葉
- 悪口(あっく):人を傷つける言葉
この中でも、五官王は特に「妄語(嘘)」についての詮議を重点的に行うとされています。
審判の舞台装置
五官王の庁舎には、左右に二つの重要な建物があります。
秤量舎(ひょうりょうしゃ)
高台に設置された巨大な秤で、亡者の罪の軽重を正確に計測する場所。ここで先ほど説明した不思議な秤が使われるんですね。
勘録舎(かんろくしゃ)
秤量舎で測定された結果を記録する場所。ここで作られた帳簿は、次の閻魔王のもとへ送られ、最終的な判決の重要な資料になります。
五官王の審判を受けるまでの道のり
前の裁判官たちの審理
五官王の審判を受ける前に、亡者はすでに三人の裁判官の審理を受けています。
- 秦広王:殺生の罪を調べ、三途の川の渡り方を決定
- 初江王:主に盗みの罪について審理
- 宋帝王:性に関する罪を厳しく追及
これらの審判を経て、いよいよ五官王のもとへ。それぞれの王からの報告書も五官王のもとに届いているので、ごまかしは一切通用しません。
次に控える閻魔王への橋渡し
五官王の審判結果は、すべて次の裁判官である閻魔王に送られます。
閻魔王は十王の中でも別格の存在で、その判決は亡者の運命を大きく左右します。五官王の詳細な記録は、閻魔王が持つ「浄玻璃の鏡(じょうはりのかがみ)」に映し出される生前の行いと照らし合わされ、最終的な判断の材料になるんです。
民間信仰での五官王

法要での意味
仏教では、故人の四七日(28日目)に法要を行う習慣があります。
これは五官王の審判に合わせたもので、遺族が故人のために追善供養を行うことで、五官王に対して「どうか故人の罪を軽くしてください」とお願いする意味があるんですね。
実際、十分な回向(えこう)が行われていれば、改心の見込みありとして次の裁判に回してもらえることもあるそうです。
十王信仰の広がり
五官王を含む十王信仰は、平安時代末期から鎌倉時代にかけて日本で大きく広まりました。
当時の人々は、生きているうちから十王を祀ることで、死後の罪を軽減してもらえると信じていました。これを「預修(よしゅう)」と呼び、生前の功徳として積み重ねていたんです。
まとめ
五官王は、死後28日目に私たちの言葉と身体が生み出した罪を裁く、冥界の重要な裁判官です。
重要なポイント
- 冥界の十王の第四番目で、死後28日目の審判を担当
- 人間の五官(眼・耳・鼻・舌・身)から生まれる罪を審理
- 特に妄語(嘘)について厳しく追及する
- 罪の重さを量る不思議な秤を使用
- 本地は普賢菩薩で、慈悲の心を持つ
- 審判結果は次の閻魔王に送られる重要な資料となる
五官王の存在は、私たちに「言葉の重み」と「身体を使った行いの大切さ」を教えてくれています。生きているうちから、自分の五官が生み出す行いに気をつけることが、何より大切なのかもしれませんね。


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