薄暗い洞窟の奥から、カラカラと不気味な笑い声が聞こえてきたら…それはゴブリンの仕業かもしれません。
ヨーロッパの人々は昔から、鉱山や洞窟に住む小さな怪物の存在を信じていました。その名も「ゴブリン」。緑色の肌をした醜い姿で、人間をだましてお金を奪ったり、いたずらをしかけたりする邪悪な妖精として恐れられてきたんです。
14世紀から文献に登場し始め、現代では『指輪物語』『ハリー・ポッター』『ダンジョンズ&ドラゴンズ』といった作品に欠かせない存在となり、世界中のファンタジーファンに愛されるキャラクターになりました。
この記事では、ヨーロッパ生まれの悪役妖精「ゴブリン」について、その正体から現代の姿まで詳しくご紹介します。
ゴブリンってどんな怪物なの?

ゴブリンは、ヨーロッパの民間伝承に登場する妖精族の一種です。
日本では「小鬼」と訳されることが多いですが、実は鬼というより妖精の仲間なんですよ。語源はギリシア語の「kobalos(コバロス)」で、これは「いたずら者」「悪党」という意味。フランス語の「gobelin」を経て、英語の「goblin」になったとされています。
イギリス、ドイツ、フランスなど、ヨーロッパ全土に似たような伝説が残っていて、特にイングランド北部とピレネー山脈から広まったという説もあるんです。どの地域でも共通して、人間に対して敵意や悪意を持つ存在として描かれています。
各国での呼び名
- ドイツ:コボルト(Kobold)
- デンマーク:ニス
- スコットランド:ブラウニー(こちらは親切な妖精)
- フランス:ゴブラン(Gobelin)
面白いことに、これらは全部親戚のような関係で、地域によって性格や姿が少しずつ違うんですね。
姿・見た目
ゴブリンの姿は、とにかく醜くて不気味だと伝えられています。でも、実は地域や時代によってかなり違いがあるんですよ。
ゴブリンの身体的特徴
- 体の大きさ:30センチから1メートルくらい(人間の膝ぐらいが多い)
- 肌の色:緑色、灰褐色、浅黒い色など
- 顔立ち:グロテスクな顔、大きな鼻、とがった耳、ギョロギョロした目
- 髪と髭:灰色の髪の毛とあごひげを持つものも
- 体つき:小柄でひょろひょろ、または猫背でずんぐり
- その他:体毛がなく、爪が長い、ツノやひづめを持つ個体もいる
特に興味深いのは、足の特徴です。ゴブリンは靴を履く習慣がなく、裸足で行動するため、足が異常に柔らかいんだとか。戦いの時に足を踏まれると、痛くて一目散に逃げ出すという弱点があります。
特徴

ゴブリンには、他の妖精とは違う独特な性質や能力があります。
ゴブリンの生態と能力
住処と活動
- 鉱山の坑道、深い洞窟、教会の墓地、岩の裂け目、古い木の根元などの薄暗い場所を好む
- 主に夜間に活動し、昼間は隠れている
- 集団で地下に巣を作ることもある
得意な悪事
- 家に侵入して台所を荒らす
- 牛乳の容器に木くずを入れる
- 農家の果物を食い散らかす
- 馬を興奮させて暴れさせる
- 道に迷わせる
- 病気を流行らせることもある
特殊能力
- 魔法の力を持っている個体もいる
- 変身能力(犬や牛の姿になれる)
- 暗視能力(真っ暗でも見える)
- 鉱山に住むタイプは鉱脈の場所を知っている
ゴブリンの弱点
- 新しい歌が大嫌い(適当な歌を歌うと逃げていく)
- 足が柔らかい(踏まれると驚いて逃げる)
- 亜麻の種(床にまかれると全部拾おうとして時間切れになる)
欲深い性格で、金銀財宝に異常な執着を見せます。
お金のためならどんな悪いこともやってのけるという、まさに「悪の妖精」の代表格なんですね。
伝承と文学作品

ゴブリンにまつわる話は、ヨーロッパ各地に数え切れないほど存在します。
地域別の伝承
イギリス・ウェールズ ウェールズのゴブリンは特に悪質で有名でした。家畜を病気にしたり、作物を腐らせたり、とにかく人間に害を与えることが得意。他の妖精たちも「ゴブリンと間違えられるのは嫌だ」というほど評判が悪かったんです。
ドイツ 鉱山に住む「コボルト」と呼ばれるゴブリンがいます。彼らは鉱夫にいたずらをしますが、時には鉱脈の場所を教えてくれることも。ちなみに金属の「コバルト」という名前は、このコボルトが由来なんですよ。
フランス・ノルマンディー地方 12世紀の文献に「エヴルー地方に憑く悪霊ゴブラン」という記述があり、これがゴブリンの最古の記録の一つとされています。
有名な文学作品での登場
『ゴブリンマーケット』(1862年) クリスティーナ・ロセッティの詩で、ゴブリンが禁断の果物を売る市場を開く話。この果物を食べた人間は「もう一度食べたい」という欲望にとらわれ、死にかけるほど衰弱してしまうんです。妖精の食べ物を人間が口にしてはいけないという教訓が込められています。
『お姫様とゴブリンの物語』 ジョージ・マクドナルドの作品で、ゴブリンの弱点が詳しく描かれています。足指を持たない、新しい歌が嫌い、といった特徴はこの作品から広まりました。
ホブゴブリンという例外
実は、ゴブリンの中にも性格の良い種類がいるんです。
ホブゴブリンの特徴
- いたずら好きだが、基本的に人間に友好的
- 食べ物をもらうとお返しをしてくれる
- 家事を手伝ってくれることもある
- 毛むくじゃらでずんぐりした姿
- 箒(ほうき)を持っていることが多い
シェイクスピアの『夏の夜の夢』に登場する妖精パックも、実はホブゴブリンの一種なんですよ。悪いゴブリンと良いホブゴブリン、まるで正反対の性格なのに名前が似ているのは不思議ですね。
現代のゴブリン像

今では、ゴブリンはファンタジー作品の定番モンスターとして世界中で知られています。
トールキン作品での革命
J・R・R・トールキンの『ホビットの冒険』『指輪物語』で、ゴブリンは現代的な姿に生まれ変わりました。
- 坑道に住み、穴を掘る技術に長けている
- 美しいものは作れないが、人を傷つける道具の製作が得意
- 火薬などの殺人道具の発明に関わっている
- オークと同一視される(ゴブリンは英語訳、オークは古い言葉)
ゲームでの定番化
『ダンジョンズ&ドラゴンズ』(D&D) このテーブルトークRPGで、ゴブリンは独立した種族として確立されました。独自の言語を持ち、粗野な部族社会を形成する邪悪な人型生物として設定され、この設定が後のゲームに大きな影響を与えたんです。
現代のRPGゲーム
- 『ファイナルファンタジー』シリーズ:序盤の雑魚キャラ
- 『ウィザードリィ』:醜い小人として登場
- 『エルダースクロールズ』:洞窟や下水道に住む敵対的な種族
『ハリー・ポッター』での独特な描写
グリンゴッツ銀行で働く賢く文明的な種族として描かれ、従来の「野蛮で愚か」というイメージを覆しました。
金融業に従事し、高度な魔法技術を持つという設定は斬新でしたね。
まとめ
ゴブリンは、中世ヨーロッパで生まれ、現代まで生き続ける魅力的な妖精です。
重要なポイント
- 14世紀から文献に登場するヨーロッパの妖精族
- ギリシア語の「いたずら者」が語源
- 小さく醜い姿で、緑色の肌、灰色の髪が特徴
- 洞窟、鉱山、墓地などの薄暗い場所を好む
- 金銭や宝物に異常な執着を見せる欲深い性格
- 歌と足踏みが弱点、亜麻の種で追い払える
- ホブゴブリンという友好的な親戚も存在
- トールキン作品で現代的なイメージが確立
- RPGゲームの定番雑魚キャラとして世界的に有名
昔は純粋に恐れられた存在でしたが、時代とともに姿を変え、今では物語やゲームに欠かせないキャラクターとして、世界中の人々に親しまれています。
次にファンタジー作品でゴブリンを見かけたら、その背後にある長い歴史を思い出してみてくださいね。
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