グノウィー(Gnowee):オーストラリア先住民に伝わる太陽の女神

神話・歴史・文化

オーストラリア大陸には、何万年もの歴史を持つ先住民(アボリジニ)の豊かな神話伝承が息づいています。
その中でも、太陽の起源を説明する神話の1つに、グノウィー(Gnowee)という女神の物語があります。

グノウィーは、オーストラリア南東部のWotjobaluk(ウォジョバルク)人に伝わる太陽の女神で、今も空を照らし続ける松明を手に、失われた我が子を探し続けているとされています。

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グノウィーとは

グノウィーは、オーストラリア南東部、ビクトリア州北西部のウィメラ川流域に暮らすWotjobaluk人(Wergaia語を話す人々)の神話に登場する太陽の女神です。

多くの神話では太陽が男性神として描かれますが、オーストラリア先住民の神話では、日本の天照大御神と同様、太陽を女性として捉える伝統があります。

グノウィーの神話

永遠の闇に覆われた世界

グノウィーの物語は、世界がまだ永遠の闇に覆われていた時代から始まります。

当時の人々は、樹皮で作った松明を手に持たなければ、何も見ることができませんでした。

グノウィーは、そんな暗闇の世界で、幼い息子と共に暮らす1人の女性でした。

息子を探す旅

ある日、グノウィーは息子を寝かせたまま、ヤムイモ(食用の芋)を掘りに外出しました。

食べ物が不足していたため、彼女は遠くまで歩き続けました。

そして気づいたとき、グノウィーは地球の果てにまで到達してしまいました。

彼女は地底を通って地球の反対側に出てしまい、もはや自分がどこにいるのか分からなくなりました。

息子の姿は、どこにも見当たりませんでした。

天に昇る女神

息子を見つけるため、グノウィーはより広い範囲を見渡せる場所を求めました。

彼女は巨大な樹皮の松明を手に、空へと昇りました。

その松明が、太陽となったのです。

グノウィーは今でも、失われた息子を探して空をさまよい続けています。

彼女が手にする松明が世界を照らし、私たちが見る太陽となって、毎日空を横切っているとされています。

グノウィー神話の意味

母の愛と太陽の起源

グノウィーの神話は、母親の愛の強さと、太陽という自然現象の起源を結びつけた物語です。

太陽が毎日昇り沈むのは、グノウィーが息子を探して空を旅しているからだと説明されています。

この神話は、人間の感情と自然現象を結びつけることで、世界の成り立ちを理解しようとする先住民の世界観を表しています。

ドリームタイムの伝承

グノウィーの物語は、アボリジニの宗教・文化の中核をなす「ドリームタイム(Dreamtime)」の一部です。

ドリームタイムとは、世界が創造された太古の時代のことで、先祖となる存在たちが大地を形作り、法や文化を定めた時代を指します。

グノウィーもまた、ドリームタイムに属する創造の時代の存在として語り継がれています。

他の太陽の女神たち

オーストラリア先住民の神話には、地域ごとに異なる太陽の女神が存在します。

主な太陽の女神

女神名地域特徴
グノウィー(Gnowee)南東部(Wotjobaluk人)息子を探す松明が太陽
Yhi(イー)南東部(Gamilaraay人)創造の女神、太陽の化身
Wuriupranili北部(Tiwi人)樹皮の松明を持って空を旅する
Wala(ワラ)北部姉妹と共に空を旅する
Bila(ビラ)南オーストラリア(Adnyamathanha人)人食いの太陽女神
Alinga(アリンガ)一部の地域太陽の女神

これらの太陽神話に共通するのは、太陽を女性として捉えていることです。

Pupperimbulによる創造

Wergaia人の別の伝承では、太陽は古代の精霊Pupperimbul(プッペリンブル)によって創造されたとも語られています。

Pupperimbulは、人類が創造される前に消えた古代の精霊「Nurrumbunguttia(ヌランブングティア)」の1人で、エミューの卵を空に投げつけたところ、卵が爆発して光を放ち、空を照らし出したとされています。

この伝承では、グノウィーは太陽そのものというよりも、Pupperimbulが創造した太陽と結びついた存在として描かれています。

Wotjobaluk人とWergaia人

歴史と文化

Wotjobaluk人(またはWudjubalug)は、ビクトリア州北西部のウィメラ川流域に暮らすアボリジニの一部族です。

彼らはWergaia語(Wemba-Wemba語の方言の1つ)を話し、Kulin諸部族の一員でした。

Wergaia人は、Wotjobaluk、Djadjala、Buibadjali、Biwadjaliなど複数の氏族で構成されていました。

天文学の伝統

Wergaia人の中でも、Lake Tyrrell(タイレル湖)近辺に住んでいたBoorong(ブーロン)氏族は、高度な天文学的知識を持っていたことで知られています。

19世紀半ば、牧畜業者のWilliam Edward Stanbridge(ウィリアム・エドワード・スタンブリッジ)が彼らの領地に入植した際、Boorong氏族から星に関する知識を学びました。

1857年、スタンブリッジはビクトリア哲学研究所で講演を行い、Wergaia人が星の昇降と季節の出来事、ドリームタイムの神話を結びつけた体系的な知識を持っていることを報告しました。

土地権回復の歴史

19世紀のヨーロッパ人入植により、Wergaia人は土地を失い、多くの人々が強制移住させられました。

しかし、2005年12月13日、Wotjobaluk、Jaadwa、Jadawadjali、Wergaia、Jupagalkの人々は、ビクトリア州で初めてとなる先住権(Native Title)の認定を勝ち取りました。

これは、オーストラリア南東部で初めての成功例でもあり、12万3000ヘクタール以上の土地に対する権利が認められました。

現在、Wergaia語の復興プロジェクトも進められており、2021年にはDimboolaにWotjobaluk Knowledge Placeが設立され、20週間のWergaia語プログラムが開始されました。

アボリジニ神話における太陽と女性性

なぜ太陽が女性なのか

世界の多くの神話では、太陽は男性神(ギリシャのヘーリオス、エジプトのラーなど)として描かれます。

しかし、オーストラリア先住民の神話では、太陽は女性として捉えられることが一般的です。

これは、太陽の生命を育む力や、大地を照らす優しさが、母性と結びつけられたためと考えられています。

月は男性

対照的に、多くのアボリジニ神話では、月は男性として描かれます。

例えば、Gamilaraay人の神話では、Bahloo(バルー)という月の男性神が登場し、3匹のペットの蛇を飼っているとされています。

太陽と月の性別が逆転している点は、アボリジニ神話の特徴的な要素の1つです。

グノウィー神話が語られる意味

世代を超える知恵

グノウィーの物語は、単なる娯楽の物語ではありません。

アボリジニの神話は、子どもたちに世界の成り立ちや、自然との関わり方、道徳的な教訓を伝える重要な教育的役割を果たしています。

グノウィーの神話を通じて、人々は以下のことを学びます:

  1. 母の愛の強さ: どんな困難があっても、母親は子どもを探し続ける
  2. 太陽の起源: 太陽は単なる天体ではなく、物語を持つ存在
  3. 自然との絆: 人間の感情と自然現象は深く結びついている
  4. 希望と永続性: グノウィーは今も探し続けている(太陽は毎日昇る)

現代における意義

グノウィーの神話は、今も語り継がれています。

アボリジニのコミュニティでは、古い物語を次世代に伝えることで、文化的アイデンティティを保ち、先祖への敬意を示しています。

また、これらの神話は、オーストラリアの文化遺産として、広く一般にも知られるようになっています。

まとめ

グノウィーは、オーストラリア南東部のWotjobaluk人に伝わる太陽の女神です。

永遠の闇に覆われた世界で、失われた息子を探すため、巨大な樹皮の松明を手に空へ昇り、その松明が太陽となったとされています。

この神話は、母親の愛という普遍的なテーマと、太陽という自然現象を結びつけた、美しい創造神話です。

グノウィーの物語を知ることで、私たちは以下のことを理解できます:

  • アボリジニの豊かな神話伝承の一端
  • 太陽を女性として捉える独特の世界観
  • 自然現象と人間の感情を結びつける思考法
  • 何万年も語り継がれてきた口承文化の価値

グノウィーは今日も、失われた息子を探して空をさまよい続けています。

私たちが毎日見る太陽は、母親の愛の象徴であり、永遠に続く探索の旅なのです。

参考情報

関連記事

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この記事で参照した情報源

百科事典・一般資料

学術資料

  • Philip A. Clarke「Australian Aboriginal Astronomy and Cosmology」(2014) – アボリジニの天文学と宇宙観に関する学術論文

参考になる外部サイト

注記

  • グノウィーに関する一次資料(原典の直接記録)は、現時点で確認できていません
  • 本記事の内容は、複数の二次資料(百科事典、学術論文での言及、神話辞典など)を総合して構成しています
  • アボリジニの口承伝承は、19世紀以降にヨーロッパ人によって記録されたものが多く、一次資料と二次資料の区別が難しい分野です

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