この世界はどうやって始まったのでしょうか?
宇宙が生まれる前、天地さえもまだ存在しなかった頃から、すでに存在していた神様がいるとしたら?
中国の道教には、まさにそんな「究極の存在」がいます。
それが元始天尊(げんしてんそん)という神様なんです。
「天地が壊れても、なお存在し続ける」という、想像を超えた力を持つこの神様。
道教の数多くの神々の中でも最高位に君臨し、宇宙の法則そのものと一体化した存在として信仰されてきました。
でも、最高神なのに意外と知られていないのはなぜでしょう?
実は、私たちがよく知っている太上老君(たいじょうろうくん)の方が有名だったりするんですよね。
この記事では、道教の最高神・元始天尊の正体から、その神秘的な系譜、特徴、そして興味深い神話まで、中学生でも分かるようにやさしく解説していきます。
概要

元始天尊は、道教における最高神です。
「元始」という名前には「すべての始まり」という意味が込められています。
道教には「三清(さんせい)」と呼ばれる三柱の最高神がいますが、元始天尊はその筆頭。
つまり、最高神の中でも一番偉い神様なんです。
元始天尊の基本情報
- 道教の最高神にして三清の筆頭
- 宇宙が生まれる前から存在
- 「道(タオ)」そのものを神格化した存在
- 天地が壊れても消えない不滅の神
- 別名:玉清元始天尊、元始天王など
元始天尊のすごさは、ただ偉いだけじゃありません。
この神様は、物事がまだ何も起こっていない「太元(たいげん)」という状態よりも前に生まれたとされています。
太元って何?と思いますよね。
簡単に言うと、宇宙のタネすらない、本当の「無」の状態のこと。
その「無」よりも前から存在していたというから、もう人間の理解を超えているんです。
系譜
元始天尊の系譜、つまり家系図のような関係性は、とても興味深いものがあります。
道教の神々の序列
まず、道教の最高神グループ「三清」を紹介しましょう:
【三清の構成】
- 元始天尊(げんしてんそん)- 最高位
- 霊宝天尊(れいほうてんそん)- 第二位
- 道徳天尊(どうとくてんそん)- 第三位
道徳天尊は、実は太上老君(たいじょうろうくん)のこと。
『西遊記』にも登場する有名な神様ですね。
面白いのは、太上老君の方が一般的には有名なのに、序列では元始天尊が上ということ。
これは、元始天尊が「宇宙の原理」そのものを表す哲学的な存在だからなんです。
補佐する神々「四御」
三清をサポートする「四御(しぎょ)」という四柱の神様もいます:
- 玉皇大帝(ぎょくこうたいてい)- 天界の実務を担当
- 北極紫微大帝(ほっきょくしびたいてい)- 北極星の神
- 天皇大帝(てんこうたいてい)- 星々を司る
- 后土(こうど)- 大地の神
玉皇大帝は、実際の天界の政治を任されている、いわば「天界の総理大臣」のような存在です。
創世神話との関係
元始天尊は、中国の創世神話に登場する盤古(ばんこ)と同一視されることもあります。
盤古は、混沌とした宇宙の卵の中から生まれ、天地を分けた巨人の神様。
ある説では、元始天尊が最初「元始天王」と名乗り、その後に天地が分かれたとされています。
つまり、中国神話の様々な神々も、元始天尊から始まったということになるんですね。
姿・見た目
元始天尊の姿は、実はあまり具体的に描かれていません。
なぜなら、この神様は「形を超えた存在」だからです。
元始天尊の描かれ方
- 人間の姿で描かれることが多い
- 威厳ある老人の姿
- 豪華な衣装と冠
- 玉京山(ぎょくけいざん)の宮殿に座す
- 光り輝くオーラに包まれている
道教の経典によると、元始天尊は玉京山という仙境の頂上にある、玉と黄金でできた宮殿に住んでいるそうです。
その宮殿は雲と気(エネルギー)でできていて、形は変幻自在。
まさに、人間の想像を超えた神々しい場所なんです。
面白いのは、元始天尊には実体がないとも言われること。
必要に応じて姿を現すけれど、本来は「道」そのものだから、特定の形はないんですって。
特徴・役割

元始天尊の最大の特徴は、「開劫度人(かいごうどじん)」という役割です。
開劫度人とは?
これは、新しい世界が始まるたびに現れて、人々に教えを授けることを意味します。
【開劫度人の流れ】
- 宇宙が壊れて新しく生まれ変わる
- 元始天尊が現れる
- 神々や人間に道の教えを説く
- 世界に秩序がもたらされる
つまり、元始天尊は「宇宙の先生」のような存在なんですね。
元始天尊の主な役割
- 宇宙の法則(道)を体現
- 神々に奥義を伝授
- 天地創造時の秩序づくり
- 道教の教えの源
- 万物に名前と実質を与える
『雲笈七籤(うんきゅうしちせん)』という道教の書物によると、元始天尊が誕生したとき、すべての物事に名前と実質が与えられたそうです。
これって、すごいことですよね。
名前がつくことで、初めてその存在が確定するということなんです。
不滅の存在
元始天尊の最も驚くべき特徴は、絶対に滅びないということ。
天地が壊れても、宇宙が終わっても、元始天尊は存在し続ける。
そして、新しい宇宙が生まれるとき、また現れて世界を導く。
この永遠性こそが、元始天尊が最高神とされる理由なんです。
神話
元始天尊にまつわる神話や伝承をいくつか紹介しましょう。
『封神演義』での活躍
明の時代に書かれた小説『封神演義(ほうしんえんぎ)』では、元始天尊が重要な役割を果たします。
物語では、元始天尊は闡教(せんきょう)という仙人グループのリーダー。
弟子の姜子牙(きょうしが)に、神々の位を定める「封神」という大仕事を任せます。
【封神演義での元始天尊】
- 崑崙山(こんろんさん)に住む教主
- 十二弟子を率いる
- 殷周革命を導く
- 神々の序列を決める封神榜の管理者
日本の漫画『封神演義』(藤崎竜作)でも、主人公・太公望の師匠として登場。
威厳がありながらも、弟子思いの一面を見せる魅力的なキャラクターとして描かれています。
天地創造の伝説
道教の経典には、元始天尊による天地創造の話があります。
まだ天と地が分かれていない混沌とした時代。
元始天尊は「元始天王」として現れ、四万八千劫(劫は宇宙の寿命の単位)という途方もない時間をかけて、天地を分けたとされています。
その後、元始天尊から様々な神々が生まれ、さらにその神々から伏羲(ふくぎ)や神農(しんのう)といった、中国神話の有名な神々が生まれたという系譜もあるんです。
道を伝える物語
元始天尊は、定期的に玉京山や穹桑(きゅうそう)の野に現れて、神々に秘密の教えを授けるとされています。
この教えは「霊宝経(れいほうきょう)」という経典にまとめられ、段階的に下位の神々へ、そして最終的には人間へと伝わっていきます。
まるで、知識のリレーのようですね。
元始天尊→高位の神々→低位の神々→人間という流れで、道の教えが世界に広まっていくのです。
出典・起源

元始天尊という神様は、いつ、どのようにして生まれたのでしょうか。
最初の記録
元始天尊が初めて文献に登場するのは、東晋時代(317-420年)の終わり頃。
「霊宝経」という道教の経典群に記されています。
実は、それより前には「元始天王」という似た名前の神様がいました。
この二つの神様が、唐の時代(618-907年)以降に統合されて、現在の元始天尊になったと考えられています。
仏教からの影響
興味深いことに、元始天尊の成立には仏教の影響もあったようです。
元始天尊の本名が「楽静信」だという説がありますが、これは仏教の『六度集経』に出てくる須大拿太子(釈迦の前世)の物語から取られたものだと言われています。
歴史的な変遷
【元始天尊の地位の変化】
- 6世紀頃 – 北方道教では太上老君が最高神
- 7世紀初頭(唐代初期) – 元始天尊が最高神として確立
- 唐代 – 各地の道観で元始天尊像が作られる
- 宋代以降 – 三清の筆頭として定着
唐代には、死者の供養や先祖祭祀のために、元始天尊の石像がたくさん作られました。
この時代に、元始天尊信仰が民衆にも広まっていったんですね。
まとめ
元始天尊は、宇宙の始まりから終わりまで、そしてその先まで存在し続ける、道教の究極の神様でした。
【元始天尊の重要ポイント】
- 道教の最高神で三清の筆頭
- 宇宙創造以前から存在する不滅の神
- 「道」そのものを神格化した存在
- 開劫度人で世界に秩序をもたらす
- 『封神演義』など文学作品でも活躍
- 唐代に最高神として確立
元始天尊の存在は、単なる神話上の神様というだけでなく、道教の世界観や哲学を表す重要な象徴でもあります。
形を超え、時間を超え、すべての始まりであり終わりでもある。
そんな壮大な存在を想像することで、古代中国の人々は宇宙の神秘や人生の意味を理解しようとしたのかもしれません。
現代の私たちにとっても、元始天尊の物語は「世界はどこから来て、どこへ行くのか」という永遠の問いを考えるきっかけを与えてくれます。
道教の寺院では今も元始天尊が祀られ、多くの人々が参拝しています。
もし機会があれば、この宇宙最高の神様に思いを馳せてみるのも面白いかもしれませんね。


コメント