大河ドラマ「光る君へ」で話題になった『源氏物語』。
紫式部が約1000年前に書いた、世界最古の長編小説とも言われる日本文学の最高傑作です。
「名前は知っているけど、どんな話なの?」「54帖もあって、どこから読めばいいかわからない」という方も多いのではないでしょうか。
この記事では、源氏物語の全54帖を一覧形式で紹介し、あらすじと三部構成についてわかりやすく解説します。
源氏物語とは?

基本情報
『源氏物語』は、平安時代中期(11世紀初頭)に紫式部によって書かれた長編物語です。
基本データ
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 作者 | 紫式部(むらさきしきぶ) |
| 成立時期 | 1008年頃 |
| 巻数 | 全54帖(じょう) |
| 主人公 | 光源氏(ひかるげんじ)、薫(かおる) |
| 登場人物 | 約400人以上 |
| 和歌の数 | 約800首 |
「帖」とは、紙を綴じた冊子のことを指します。
つまり、54帖とは54巻という意味なんです。
なぜ「世界最古の長編小説」と呼ばれるの?
『源氏物語』は、複雑な心理描写や人間関係、約70年にわたる壮大なストーリーを持っています。
このような特徴は、それまでの物語にはなかったものでした。
世界的に見ても、これほど完成度の高い長編フィクションが11世紀に書かれた例は他にありません。
そのため、「世界最古の長編小説」として評価されているのです。
源氏物語の三部構成
『源氏物語』は、大きく三部構成に分けられています。
構成の全体像
| 部 | 帖の範囲 | 主人公 | 内容 |
|---|---|---|---|
| 第一部 | 桐壺〜藤裏葉(1〜33帖) | 光源氏 | 誕生から栄華を極めるまで |
| 第二部 | 若菜上〜幻(34〜41帖) | 光源氏 | 苦悩と晩年、最愛の人との別れ |
| 第三部 | 匂宮〜夢浮橋(42〜54帖) | 薫・匂宮 | 光源氏の死後、子と孫の物語 |
第三部のうち、45帖「橋姫」から54帖「夢浮橋」までの10帖は、舞台が宇治(現在の京都府宇治市)に移ることから「宇治十帖」と呼ばれています。
第一部:光源氏の誕生と栄華(全33帖)
第一部は、光源氏の誕生から政界での栄華を極めるまでを描いています。
多くの女性との恋愛遍歴が描かれる、華やかなパートです。
第一部の帖一覧
| 帖番号 | 巻名 | 読み方 | 簡単なあらすじ |
|---|---|---|---|
| 1 | 桐壺 | きりつぼ | 光源氏の誕生。母・桐壺更衣は帝の寵愛を受けるが、嫉妬により病死する |
| 2 | 帚木 | ははきぎ | 光源氏17歳。頭中将らと「雨夜の品定め」で女性談義をする |
| 3 | 空蝉 | うつせみ | 人妻・空蝉のもとに忍び込むが、逃げられてしまう |
| 4 | 夕顔 | ゆうがお | 夕顔という女性と恋に落ちるが、物の怪に襲われて急死する |
| 5 | 若紫 | わかむらさき | 藤壺の姪・若紫を見初め、引き取って育てることにする |
| 6 | 末摘花 | すえつむはな | 頭中将と張り合って手に入れた姫君が、実は不美人だった |
| 7 | 紅葉賀 | もみじのが | 藤壺が男子を出産。実は光源氏との不義の子である |
| 8 | 花宴 | はなのえん | 宮中で朧月夜と出会い、恋に落ちる |
| 9 | 葵 | あおい | 正妻・葵の上が出産後に急死。若紫が正式に妻となる |
| 10 | 賢木 | さかき | 父・桐壺院が崩御。政治的に苦しい立場に追い込まれる |
| 11 | 花散里 | はなちるさと | 花散里という女性のもとを訪れ、心を慰められる |
| 12 | 須磨 | すま | 朧月夜との関係が露見し、須磨へ自ら退去する |
| 13 | 明石 | あかし | 明石で明石の君と出会い、姫君が生まれる |
| 14 | 澪標 | みおつくし | 都に戻り、政治的地位を回復していく |
| 15 | 蓬生 | よもぎう | 零落した末摘花を見つけ、世話をすることにする |
| 16 | 関屋 | せきや | 空蝉と偶然再会するが、彼女は出家していた |
| 17 | 絵合 | えあわせ | 絵合わせの催しが行われ、光源氏の須磨の絵日記が話題になる |
| 18 | 松風 | まつかぜ | 明石の君と姫君を京に迎える準備をする |
| 19 | 薄雲 | うすぐも | 明石の姫君を紫の上の養女にする。藤壺が死去する |
| 20 | 朝顔 | あさがお | 朝顔の姫君に求婚するが、断られる |
| 21 | 少女 | おとめ | 息子・夕霧の元服や教育について描かれる |
| 22 | 玉鬘 | たまかずら | 夕顔の遺児・玉鬘を養女として引き取る |
| 23 | 初音 | はつね | 六条院での新年の様子が描かれる |
| 24 | 胡蝶 | こちょう | 六条院での春の宴の様子が描かれる |
| 25 | 蛍 | ほたる | 蛍兵部卿宮が玉鬘に求婚する |
| 26 | 常夏 | とこなつ | 内大臣の娘・近江の君が登場し、笑いを誘う |
| 27 | 篝火 | かがりび | 光源氏が玉鬘への思いを募らせる |
| 28 | 野分 | のわき | 野分(台風)の翌日、夕霧が紫の上を垣間見る |
| 29 | 行幸 | みゆき | 冷泉帝の大原野行幸が行われる |
| 30 | 藤袴 | ふじばかま | 玉鬘が実父・内大臣と再会する |
| 31 | 真木柱 | まきばしら | 玉鬘が髭黒大将と結婚する |
| 32 | 梅枝 | うめがえ | 明石の姫君の裳着(成人式)の準備が進む |
| 33 | 藤裏葉 | ふじのうらば | 明石の姫君が東宮妃となり、光源氏は准太上天皇の位を得る |
第一部のポイント
第一部では、光源氏が多くの女性と関係を持ちながら、政治的にも出世していく様子が描かれています。
特に重要なエピソードは以下の通りです。
- 藤壺との禁断の恋:義母である藤壺と密通し、不義の子をもうける
- 須磨・明石への退去:政治的失脚により都を離れるが、明石の君と出会う
- 六条院の完成:壮大な邸宅を建て、栄華の象徴となる
- 准太上天皇への昇進:天皇に準じる最高位に就く
第二部:光源氏の苦悩と晩年(全8帖)
第二部は、栄華を極めた光源氏に訪れる苦悩と悲しみを描いています。
「因果応報」のテーマが色濃く出ているパートです。
第二部の帖一覧
| 帖番号 | 巻名 | 読み方 | 簡単なあらすじ |
|---|---|---|---|
| 34 | 若菜上 | わかなのじょう | 朱雀院の娘・女三の宮が光源氏に降嫁する |
| 35 | 若菜下 | わかなのした | 柏木が女三の宮と密通。紫の上が病に倒れる |
| 36 | 柏木 | かしわぎ | 柏木が罪悪感から衰弱死。女三の宮は男子(薫)を産む |
| 37 | 横笛 | よこぶえ | 柏木の遺した横笛をめぐる話。夕霧が柏木の未亡人に心を寄せる |
| 38 | 鈴虫 | すずむし | 出家した女三の宮のもとで鈴虫の宴が開かれる |
| 39 | 夕霧 | ゆうぎり | 夕霧が柏木の未亡人・落葉の宮を妻にする |
| 40 | 御法 | みのり | 紫の上が法華経千部を供養し、そのまま亡くなる |
| 41 | 幻 | まぼろし | 紫の上を失った光源氏が出家の準備をする |
| (42) | 雲隠 | くもがくれ | 巻名のみで本文なし。光源氏の死を示唆する |
第二部のポイント
第二部では、かつて藤壺と密通した光源氏が、今度は自分の妻を寝取られるという「因果応報」が描かれています。
- 柏木と女三の宮の密通:若き柏木が光源氏の正妻と不義を犯す
- 紫の上の死:最愛の妻を病で失い、深い悲しみに暮れる
- 「雲隠」の謎:巻名だけが残り、本文がない不思議な帖
「雲隠」については、もともと本文があったが失われた説と、最初から書かれなかった説があります。
作者・紫式部が、愛した主人公の最期を書くに忍びなかったのかもしれません。
第三部:薫と匂宮の物語(全13帖)
第三部は、光源氏の死後の物語です。
主人公は光源氏の子・薫(かおる)と、孫の匂宮(におうのみや)に変わります。
匂宮三帖(第42〜44帖)
| 帖番号 | 巻名 | 読み方 | 簡単なあらすじ |
|---|---|---|---|
| 42 | 匂宮 | におうのみや | 光源氏の死後、薫と匂宮が評判の貴公子として登場 |
| 43 | 紅梅 | こうばい | 紅梅大納言の家の人々が描かれる |
| 44 | 竹河 | たけかわ | 髭黒の死後、玉鬘が子どもたちの世話に苦労する |
宇治十帖(第45〜54帖)
舞台が宇治に移り、薫と匂宮が宇治の姫君たちをめぐって恋のドラマを繰り広げます。
| 帖番号 | 巻名 | 読み方 | 簡単なあらすじ |
|---|---|---|---|
| 45 | 橋姫 | はしひめ | 薫が宇治の八の宮を訪ね、娘たち(大君・中の君)を見初める |
| 46 | 椎本 | しいがもと | 八の宮が亡くなり、薫が姉妹の後見を引き受ける |
| 47 | 総角 | あげまき | 薫は大君に想いを告げるが拒否される。大君は病死する |
| 48 | 早蕨 | さわらび | 匂宮が中の君を都に迎える |
| 49 | 宿木 | やどりぎ | 薫は中の君に惹かれるが、彼女は匂宮の子を身ごもっていた |
| 50 | 東屋 | あずまや | 薫は大君に似た異母妹・浮舟の存在を知り、宇治に隠す |
| 51 | 浮舟 | うきふね | 匂宮も浮舟と関係を持ち、板挟みになった浮舟は入水を図る |
| 52 | 蜻蛉 | かげろう | 浮舟は行方不明となり、葬儀が行われる |
| 53 | 手習 | てならい | 浮舟は僧に助けられており、周囲の反対を押し切って出家する |
| 54 | 夢浮橋 | ゆめのうきはし | 薫は浮舟の生存を知るが、彼女は面会を拒否する |
第三部のポイント
第三部は、第一部・第二部とは異なる「無常感」と「仏教色」が強く出ています。
- 薫の出生の秘密:表向きは光源氏の子だが、実は柏木の子
- 浮舟の悲劇:二人の男の間で苦しみ、入水自殺を図る
- 曖昧な結末:浮舟は薫との再会を拒否し、物語は唐突に終わる
最後の「夢浮橋」は、読者に結末を委ねるような形で終わっています。
これも紫式部の意図的な演出だったのかもしれません。
源氏物語の主要登場人物
光源氏と関係の深い女性たち
| 女性の名前 | 読み方 | 関係 |
|---|---|---|
| 桐壺更衣 | きりつぼのこうい | 光源氏の母 |
| 藤壺 | ふじつぼ | 義母であり、禁断の恋人 |
| 紫の上 | むらさきのうえ | 最愛の妻 |
| 葵の上 | あおいのうえ | 正妻(夕霧の母) |
| 六条御息所 | ろくじょうのみやすどころ | 嫉妬深い愛人 |
| 明石の君 | あかしのきみ | 明石で出会った女性 |
| 女三の宮 | おんなさんのみや | 晩年に降嫁した正妻 |
| 夕顔 | ゆうがお | 物の怪により急死した女性 |
| 空蝉 | うつせみ | 人妻として光源氏を拒んだ女性 |
第三部の主要人物
| 人物名 | 読み方 | 説明 |
|---|---|---|
| 薫 | かおる | 光源氏の子(実は柏木の子) |
| 匂宮 | におうのみや | 光源氏の孫、今上帝の第三皇子 |
| 大君 | おおいぎみ | 八の宮の長女、薫の想い人 |
| 中の君 | なかのきみ | 八の宮の次女、匂宮の妻 |
| 浮舟 | うきふね | 八の宮の異母妹、薫と匂宮の板挟みに |
源氏物語の現代への影響
文学・芸術への影響
『源氏物語』は、日本文学に計り知れない影響を与えてきました。
- 源氏物語絵巻:12世紀に制作された国宝の絵巻物
- 現代語訳:与謝野晶子、谷崎潤一郎、瀬戸内寂聴、角田光代などが訳出
- 派生作品:漫画『あさきゆめみし』、映画、アニメなど多数
現代文化への影響
- 大河ドラマ「光る君へ」:紫式部の生涯を描いた2024年放送の作品
- 宇治の観光:宇治十帖の舞台として「源氏物語ミュージアム」がある
源氏物語を読むためのヒント
初心者におすすめの読み方
- まずは第一部の有名な帖から:「若紫」「夕顔」「須磨」など
- 現代語訳から入る:角田光代訳や瀬戸内寂聴訳がわかりやすい
- 漫画版『あさきゆめみし』を活用:ストーリーの全体像をつかめる
帖名の由来
各帖の名前は、その巻に登場する和歌や植物、出来事などに由来しています。
例えば、「若紫」は藤壺の姪である若紫(後の紫の上)の名前から、「夕顔」は夕顔の花が咲いていたことに由来しています。
まとめ
『源氏物語』全54帖を紹介しました。
三部構成のおさらい
| 部 | 帖数 | テーマ |
|---|---|---|
| 第一部 | 33帖 | 光源氏の栄華 |
| 第二部 | 8帖 | 光源氏の苦悩と晩年 |
| 第三部 | 13帖 | 薫と匂宮の恋物語 |
約1000年前に書かれたとは思えないほど、人間の心理や恋愛の機微が繊細に描かれています。
光源氏の華やかな恋愛遍歴だけでなく、老いや死、因果応報といった深いテーマも扱われている点が、この物語が現代でも愛され続けている理由でしょう。
興味を持った帖があれば、ぜひ現代語訳で読んでみてください。
平安時代の貴族たちの暮らしや心情が、驚くほど身近に感じられるはずです。


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