アーサー王伝説には数多くの騎士が登場しますが、その中でも「最も純粋な心を持っていた」と言われる騎士がいます。
それが、円卓の騎士ガレスです。
彼は王族の血を引きながら、あえて身分を隠して厨房で働くところからスタートしました。
そして数々の試練を乗り越え、円卓の騎士として認められます。
しかし、その最期はあまりにも皮肉なものでした。
この記事では、ガレスの生涯と彼が円卓にもたらした影響について詳しく見ていきましょう。
ガレスとは

ガレス(Gareth)は、アーサー王伝説に登場する円卓の騎士の一人です。
オークニーのロット王とモルゴース王妃の末息子として生まれ、アーサー王の甥にあたります。
「ボーマン(Beaumains)」というあだ名でも知られていますね。
これはフランス語で「美しい手」を意味する言葉です。
ガレスの物語は、トマス・マロリーの『アーサー王の死』で特に詳しく描かれています。
全8巻のうち1巻がまるごとガレスの物語に充てられているほど、重要なキャラクターなんですね。
ガレスの偉業——厨房係から騎士へ
ガレスの物語で最も有名なのが、彼の騎士への成り上がりストーリーです。
素性を隠してキャメロットへ
ガレスは騎士になることを夢見て、キャメロットの宮廷を訪れました。
しかし彼は、アーサー王の甥であり、既に有名な騎士であるガウェインの弟という身分を隠すことを選びます。
なぜでしょうか?
それは「血筋」ではなく「実力」で認められたかったからです。
名前も身分も明かさなかったガレスは、宮廷の厨房で1年間働くことになります。
この時、厨房長のケイ卿が彼につけたあだ名が「ボーマン(美しい手)」でした。
労働者にしては手が白くて綺麗だったことを皮肉ったんですね。
実際は高貴な血筋だったわけですから、当然といえば当然ですが。
リネットの依頼と騎士への道
厨房で1年を過ごした後、転機が訪れます。
リネットという乙女が宮廷に現れ、姉のリオネスを助けてほしいと訴えたのです。
リオネスは「赤の荒野の赤騎士」アイアンサイドに城を包囲されていました。
しかしリネットが依頼主の名を明かさなかったため、名のある騎士を派遣できません。
そこで白羽の矢が立ったのが、無名のガレスでした。
リネットは「厨房係なんかに用はない」と露骨に嫌がります。
道中も彼を馬鹿にし続けました。
しかしガレスは黙って任務を遂行します。
黒の騎士、緑の騎士、赤の騎士、藍の騎士——次々と立ちはだかる敵を倒していきました。
アイアンサイドとの決戦
最後の敵、アイアンサイドとの戦いは壮絶でした。
2時間にも及ぶ激闘の末、ガレスは勝利を収めます。
この時、城の窓から見つめるリオネスの姿が、彼に最後の力を与えたと言われています。
ガレスはアイアンサイドを許し、アーサー王への忠誠を誓わせました。
こうしてガレスは円卓の騎士として認められ、リオネスと結婚します。
おとぎ話ならここで「めでたしめでたし」ですが、彼の物語には続きがあるんですね。
ガレスの系譜——オークニーの王子たち
ガレスの家族関係は、アーサー王伝説の中でも重要な位置を占めています。
父母と兄弟
父はオークニーのロット王、母はモルゴース王妃です。
モルゴースはアーサー王の異父姉にあたりますから、ガレスはアーサー王の甥ということになります。
兄弟は以下の通りです。
- ガウェイン——長兄。円卓最強とも称される騎士
- アグラヴェイン——陰謀家として知られる兄
- ガヘリス——母親殺しの罪を負った兄
- モードレッド——アーサー王を裏切る異父兄弟
こうして見ると、ガレスの兄弟は問題児揃いですね。
しかしガレス自身は、兄たちの暗い行為には一切加担していません。
ランスロットとの絆
ガレスは騎士叙任の際、ランスロットに騎士に任命してもらうことを望みました。
このことからも分かるように、ガレスはランスロットを深く尊敬していました。
ランスロットもまた、ガレスを弟のように可愛がっていたと言われています。
この二人の絆が、後の悲劇をより一層痛ましいものにするのです。
「ボーマン」——美しい手の由来
ガレスのあだ名「ボーマン(Beaumains)」は、フランス語に由来します。
- beau = 美しい
- mains = 手(複数形)
厨房長のケイ卿が、労働者らしくない白く美しい手を皮肉ってつけた名前です。
本人は王族なのですから、手が荒れていないのは当然ですよね。
このあだ名は、ガレスが素性を隠していた期間を象徴しています。
そして後に彼の正体が明かされた時、この名前は「身分に頼らず実力で這い上がった男」の称号となりました。
ガレスの特徴——唯一の清廉な騎士
オークニー兄弟の中で、ガレスだけが「純粋無垢」と評されています。
復讐に加担しなかった男
兄のガウェインは父の仇ペリノア王を暗殺しました。
ガヘリス、アグラヴェイン、モードレッドらは、ラモラック卿を闇討ちで殺害しています。
しかしガレスは、これらの行為に一切関わっていません。
むしろ兄たちの行いを聞いて嘆いていたと伝えられています。
ランスロット派の立場
アグラヴェインがランスロットとグィネヴィア王妃の不倫を暴こうとした時、ガレスは反対しました。
「私を騎士にしてくださったランスロット卿の悪口は言えない」と、その場を立ち去ったのです。
この態度が、彼の誠実さと恩義を重んじる性格をよく表していますね。
ガレスの最期——円卓崩壊の引き金
ガレスの死は、アーサー王伝説全体の転換点となりました。
グィネヴィアの処刑と抗議
アグラヴェインによってランスロットとグィネヴィア王妃の不倫が暴かれると、王妃は死刑を宣告されます。
アーサー王はガレスに、処刑の護衛を命じました。
ガレスは命令に従いましたが、抗議の意思を示すため、武器も鎧も身につけずに参加します。
彼はランスロットを尊敬していたからこそ、この仕事を心から嫌がっていたのです。
ランスロットの救出作戦
処刑の場にランスロットが現れました。
愛するグィネヴィアを救うため、彼は周囲の騎士たちを次々と斬り倒していきます。
その混乱の中で、丸腰のガレスは命を落としました。
ランスロットは彼だと気づかなかった——あるいは、気づいていても止まれなかったのかもしれません。
ガウェインの激怒と円卓の分裂
弟のガレスを殺されたガウェインは、悲しみのあまり気を失いました。
そして目覚めた後、彼はランスロットへの復讐を誓います。
ランスロットは心から謝罪し、ガレスの死を悼みました。
しかしガウェインは許しませんでした。
こうして円卓の騎士はランスロット派とアーサー派に分裂し、内戦へと突入します。
この争いが、最終的にキャメロット王国の崩壊につながったのです。
主な出典
ガレスの物語は、以下の文献で詳しく語られています。
| 作品名 | 著者/成立時期 | 特徴 |
|---|---|---|
| 『アーサー王の死』 | トマス・マロリー(1470年頃) | ガレスの物語を最も詳細に描写。第7巻が彼専用 |
| 『ペルスヴァルの物語』第一続編 | 作者不詳(12世紀末〜13世紀) | ガレスの原型「ゲレエ」が登場 |
| ヴァルガータ・サイクル | 複数作者(13世紀) | ガレスの死と円卓崩壊を描く |
| 『国王牧歌』 | アルフレッド・テニスン(19世紀) | ガレスとリネットの物語を再話 |
特にマロリーの『アーサー王の死』では、ガレスは理想的な騎士として描かれています。
謙虚さ、勇気、慈悲深さ——すべての騎士道精神を体現した存在なんですね。
まとめ
ガレスについて、ポイントを整理しましょう。
- アーサー王の甥で、円卓の騎士ガウェインの末弟
- 素性を隠して厨房で1年間働き、実力で騎士の座を勝ち取った
- 「ボーマン(美しい手)」というあだ名を持つ
- 兄弟の中で唯一、復讐や暗殺に加担しなかった清廉な騎士
- ランスロットを深く尊敬し、彼に騎士叙任された
- グィネヴィア救出の際、ランスロットに誤って殺される
- 彼の死がガウェインを激怒させ、円卓崩壊のきっかけとなった
ガレスの物語は、「謙虚さと実力」の大切さを教えてくれます。
そして皮肉なことに、最も純粋な騎士の死が、最も大きな悲劇を生んでしまいました。
彼を殺したのは、彼が最も尊敬していたランスロットでした。
アーサー王伝説の中でも、特に胸が痛くなるエピソードですね。


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