突然の暴風に家が揺れ、窓がガタガタと音を立てる。 そんなとき、昔の人々は「風神のしわざだ」と恐れおののいていました。
大きな袋から風を巻き起こし、台風や嵐を引き起こす恐ろしい鬼神。 それが風神なんです。
この記事では、日本の自然災害への恐怖心から生まれた神様「風神」について、その起源から姿、特徴まで詳しくご紹介します。
概要

風神(ふうじん)は、風を司る神様として古くから信仰されてきた存在です。
雷神と対になって描かれることが多く、自然現象を神格化した代表的な存在なんですね。
昔の人々にとって、理解できない自然の猛威は神様の仕業としか思えなかったわけです。
風神の基本情報
- 別名:風伯神(ふうはくしん)
- 役割:風や嵐を起こす神
- パートナー:雷神(らいじん)
- 象徴:自然の脅威と恵み
風神は恐ろしい存在である一方、風によって雨雲を運び、農作物に恵みをもたらす神でもありました。
起源
風神の起源を探ると、日本神話にたどり着きます。
神話に登場する風の神々
『古事記』や『日本書紀』には、複数の風の神が登場するんです。
主な風の神様たち:
- 志那都比古(シナツヒコ):イザナギとイザナミの間に生まれた風の神
- 級長戸辺命(しなとべのみこと):イザナミの息から生まれた風神
- 須佐之男命(スサノオ):海と嵐を司る荒ぶる神
特に須佐之男命は、暴風の化身として恐れられていました。
天照大神が天の岩戸に隠れたのも、彼の起こした嵐が原因だったといわれています。
鬼神としての風神へ
時代が下ると、これらの神話の神々は鬼の姿をした風神として描かれるようになりました。
室町時代の『太平記』には、伊勢神宮に青い鬼神が現れて風袋から大風を起こしたという記述があります。
つまり、少なくとも室町時代には今の風神のイメージが確立していたんですね。
姿・見た目

風神の姿は、まさに見るからに恐ろしい鬼の姿をしています。
風神の特徴的な外見
- 肌の色:緑色または青色
- 髪:長い髪を風になびかせている
- 体格:筋骨隆々の鬼の体
- 持ち物:大きな風袋(かぜぶくろ)
- 表情:威嚇するような恐ろしい顔
最も有名なのが、俵屋宗達が描いた「風神雷神図屏風」の風神です。 大きな風袋を背負い、今にも暴風を起こしそうな迫力満点の姿で描かれています。
この風袋のデザインは、実は大陸から伝わってきたものなんです。 遠くヘレニズム文化の影響を受けているといわれています。
特徴
風神には、人々の生活に深く関わる特徴がありました。
風神の持つ力
良い面:
- 雨雲を運んで農作物に恵みをもたらす
- 暑さを和らげる涼風を送る
- 船の帆に風を送って航海を助ける
恐ろしい面:
- 台風や暴風を引き起こす
- つむじ風で物を巻き上げる
- 風邪を引き起こす(風の邪気という意味)
そう、「風邪をひく」の「風邪」という漢字は、風神が運ぶ病気の気から来ているんです。
地方の風神たち
日本各地には、その土地独自の風神も存在しました。
- 風の又三郎:東北地方で信仰された風の神(宮沢賢治の小説でも有名)
- 風三郎:新潟県などで信仰された風の神
- 風切地蔵:鎌倉にある風を鎮める地蔵
これらは狭い地域の風を司る、いわば「地方の風神」といえるでしょう。
伝承
風神にまつわる伝承は日本各地に残されています。
元寇での活躍
鎌倉時代、モンゴル軍が日本に攻めてきた「元寇」のとき、風神が日本を守ったという伝説があります。 神風(かみかぜ)と呼ばれる暴風が吹いて、敵の船を沈めたというのです。
菅原道真と雷神・風神
平安時代の学者・菅原道真は、死後に雷神となって都に雷を落としたとされています。 その際、風神も一緒になって暴風を起こし、都を恐怖に陥れたという話が残っています。
風神を鎮める祭り
人々は風神の怒りを鎮めるため、各地で祭りを行いました。
主な風神祭り:
- 風神祭り(奈良県・龍田大社):7月4日に行われる
- 風切の祈願(東京都・王子稲荷神社):江戸の火事を防ぐため
江戸時代には、風邪が流行すると藁人形を作って川に流し、風神の怒りを鎮めようとしたそうです。
まとめ
風神は、自然への畏怖と感謝の気持ちから生まれた日本の代表的な神様です。
風神についての重要ポイント
- 日本神話の風の神が鬼神の姿として描かれるようになった
- 風袋を持った青い鬼の姿が定番
- 雷神と対になって信仰された
- 恵みと災いの両面を持つ存在
- 各地に独自の風神信仰が存在
- 「風邪」の語源にもなった病気をもたらす神
風神は単なる恐ろしい存在ではなく、時には恵みをもたらし、時には災いをもたらす、まさに自然そのものを象徴する神様だったんですね。
現代でも台風や暴風に見舞われるたび、私たちは自然の力の前では無力だと感じます。
風神への信仰は、そんな自然への畏敬の念から生まれた、日本人の心の表れなのかもしれません。
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