神社やお寺で願い事を書いて奉納する「絵馬」。
あなたも一度は見たことがあるのではないでしょうか?
実は、この絵馬には精霊が宿ることがあるという伝説があるんです。
熱心に絵馬を研究する人の前に現れたり、夜のお堂で突然動き出したりする不思議な存在なのです。
この記事では、絵馬に宿る神秘的な精霊「絵馬の精」について、その正体と興味深い伝承をご紹介します。
概要

絵馬の精は、神社やお寺に奉納された絵馬に宿る精霊です。
『日本妖怪変化史』や『怪談名作集』、『御伽草子穂積』といった古典文献に記録されている存在なんですね。
絵馬の精の特徴
- 絵馬そのものに宿っている精霊
- 老人の姿で現れることがある
- 絵馬に描かれた人物として動き出すこともある
- 熱心な研究者には知識を授けることがある
- 基本的には害を及ぼさない存在
面白いのは、絵馬の精が悪さをする妖怪ではないということなんです。
むしろ、絵馬を愛し、研究に打ち込む人を助けたり、夜のお堂で不思議な体験をさせたりする、ちょっと親切で神秘的な存在として描かれています。
伝承

絵馬の精には、2つの有名な伝承が残されているんです。
道安と老人の出会い
昔、浅草に駒形道安(こまがたどうあん)という医師がいました。
道安は医者としての仕事の傍ら、絵馬の研究に熱心に取り組んでいたんです。
ある日のこと、道安は外出先で大雨に見舞われてしまいました。
「これは困った…家に帰れないぞ」
近くに宿もなかったので、道安は近くのお堂に駆け込んで雨宿りをすることにしたんですね。
雨はなかなか止まず、そのうち道安はうとうとと眠ってしまいました。
老人との対話
ふと目が覚めると、不思議なことに、すぐ隣に一人の老人が座っていました。
普通なら驚くところですが、道安はまったく恐怖を感じなかったそうです。
その老人は、にこやかな表情で道安に語りかけました:
「お主が、よほど絵馬が好きに見える。わははこの道を通じる者じゃ。お主にその秘法を伝授したいと思ってのう」
道安は喜んで老人の話を聞き、絵馬についての深い知識を授かったといいます。
実は、この老人こそが絵馬の精だったのです。
研究熱心な者には、精霊でさえ力を貸すということでしょうか。
御香宮の美女
もう一つの伝承は、『伽婢子(おとぎぼうこ)』という古典に記録されているものです。
昔、都の七条通りを行き来していた商人が、やむを得ず御香宮(ごこうのみや)神社に一晩泊まることになりました。
夜の不思議な宴会
夜も更けた頃、突然、美しい女性が侍女を連れて現れたんです。
「良いお宮がここで遊ばれるので、脇に退いて休んでほしい」
驚く商人の前で、すぐに酒や肴が並べられ、女性は東琴(あずまごと)を鳴らし始めました。
美しい声で歌い、商人にも酒を勧めます。
商人は勧められるまま酒を飲み、楽しい時間を過ごしました。
あまりの楽しさに、商人は持っていた白銀の花形の手箱を女性に、べっ甲の簪(かんざし)を侍女に贈ったんです。
秘密の握手
そっと侍女の手を握ると、侍女はにっこり笑って握り返してくれました。
ところが、それを見ていた女性は突然怒り出し、盃を侍女の額に投げつけたのです!
朝の真実
やがて夜が明けて、商人が辺りを見回すと…
お堂に掛けられた絵馬の中に、昨夜の女性と侍女にそっくりな人物が描かれていました。
しかも、盃を投げつけられたはずの侍女の額には、確かに傷痕があったというのです。
つまり、昨夜の出来事は、絵馬に描かれた人物たちが動き出して起きた出来事だったんですね。
まとめ
絵馬の精は、神社やお寺に奉納された絵馬に宿る不思議な精霊です。
重要なポイント
- 絵馬に宿る精霊で、老人の姿や絵の中の人物として現れる
- 熱心な研究者に知識を授ける優しい存在
- 絵馬に描かれた人物が夜に動き出すことがある
- 『御伽草子穂積』や『伽婢子』などの古典文献に記録されている
- 基本的に害を及ぼさない神秘的な存在
絵馬の精の物語は、物に宿る魂や精霊を信じる日本人の伝統的な信仰を表しています。
神社で絵馬を見かけたら、もしかしたらその中に小さな精霊が宿っているかもしれませんね。


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