地獄の底から聞こえてくる、耳を塞ぎたくなるような叫び声…。
もし生前に嘘をついて人を傷つけたなら、死後はその何万倍もの苦しみが待っているかもしれません。
仏教が説く八大地獄の中でも、特に激しい責め苦で知られる「大叫喚地獄(だいきょうかんじごく)」。その名の通り、罪人たちが大声で泣き叫ばずにはいられない恐ろしい世界なんです。
この記事では、仏教の地獄観の中でも特に恐ろしいとされる大叫喚地獄について、その特徴や責め苦、そして落ちる条件などを分かりやすく解説していきます。
大叫喚地獄の概要

大叫喚地獄は、仏教における八大地獄(はちだいじごく)の第五番目に位置する地獄です。
八大地獄は地下に階層状に存在するとされ、下に行くほど罪が重く、苦しみも激しくなります。大叫喚地獄は上から5番目、つまり地下5階にあたる地獄なんですね。
この地獄の特徴は、その名前が示す通り、罪人たちが激しい苦痛のあまり大声で泣き叫ぶことです。その叫び声は、地獄の外にまで響き渡るとされています。
『正法念処経(しょうぼうねんきょう)』などの仏典によると、大叫喚地獄の広さは縦横それぞれ1万由旬(ゆじゅん)。1由旬は約7~14kmとされるので、想像を絶する広大な空間が苦しみで満ちているんです。
どんな罪で落ちるのか
大叫喚地獄に落ちる条件は、とても具体的に決められています。
落ちる条件となる5つの罪
- 殺生(せっしょう):生き物の命を奪うこと
- 偸盗(ちゅうとう):他人の物を盗むこと
- 邪淫(じゃいん):不適切な性的関係を持つこと
- 飲酒(いんしゅ):酒を飲んだり、人に飲ませたりすること
- 妄語(もうご):嘘をつくこと
つまり、前の4つの地獄(等活・黒縄・衆合・叫喚)で罰せられる罪に加えて、「嘘をつく」という罪が加わった人が落ちる地獄なんです。
特に重視される「妄語」の罪
大叫喚地獄では、特に嘘によって人を傷つけた罪が重く罰せられます。
たとえば、次のような嘘が対象になります:
- 友人を裏切る嘘
- 裁判で偽証する
- 他人の財産を奪うための嘘
- 困っている人を助けると言っておきながら何もしない
仏教では、言葉の力を非常に重視します。嘘は人の心を傷つけ、社会の信頼関係を壊すため、重い罪とされているんですね。
恐ろしい責め苦の内容
大叫喚地獄の責め苦は、前の叫喚地獄と似ているようで、その苦しみは10倍にもなるとされています。
主な責め苦
巨大な釜での煮炊き
叫喚地獄よりもさらに巨大な釜や鍋が使われ、罪人たちは煮られたり炒められたりします。熱湯や溶けた金属の中で、永遠に苦しみ続けるんです。
舌への責め苦
嘘をついた罰として、特に舌への責め苦が激しいのが特徴です:
- 熱した鉄のはさみで舌を引き抜かれる
- 舌に熱い針を刺される
- 舌が生えてくると、また同じ責め苦を受ける
獄卒の残酷な仕打ち
獄卒(ごくそつ)と呼ばれる地獄の鬼たちは、罪人が苦しんで泣き叫ぶ声を聞くと、さらに怒り狂います。そして、こう言いながら責め続けるそうです:
「妄語は第一の火にして、なお能く大海を焼く。況や妄語の人を焼くこと、草木の薪を焼くが如し」
これは「嘘は大海をも焼き尽くす恐ろしい火だ。ましてや嘘つきの人間など、枯れ草のように簡単に焼き尽くされる」という意味なんです。
目と口への特別な罰
大叫喚地獄では、嘘をついた器官である口と、嘘を見抜けなかった目に対して、特に激しい責め苦があります:
- 目をくり抜かれる
- 口を無理やり開けられて、溶けた銅を流し込まれる
どれくらいの期間苦しむのか
大叫喚地獄での寿命は、人間の感覚では想像もつかないほど長いんです。
地獄での時間の流れ
- 人間界の800年 = 化楽天(けらくてん)という天界の1日
- 化楽天の8000年 = 大叫喚地獄の1日
- 大叫喚地獄での寿命 = 8000年
これを人間界の時間に換算すると…なんと約6821兆1200億年!
気が遠くなるような時間、休むことなく責め苦を受け続けることになります。
十八の小地獄
大叫喚地獄の周囲には、さらに細かい罪に応じた18の小地獄があります(他の地獄は16なのに、なぜか大叫喚だけ18個)。
代表的な小地獄
吼吼処(くくしょ)
恩を仇で返した人、信頼してくれた友人を裏切った人が落ちる地獄。顎に穴を開けられ、舌を引き出されて毒の泥を塗られます。
受苦無有数量処(じゅくむうすうりょうしょ)
目上の人を陥れる嘘をついた人が落ちる地獄。傷口に草を植えられ、根が張ったところで引き抜かれるという拷問を受けます。
唐悕望処(とうきぼうしょ)
困っている人を「助ける」と言いながら何もしなかった人が落ちる地獄。美味しそうな食事が見えるが、近づくと熱した鉄や糞尿の池だったという精神的な苦痛も加わります。
現代的な教訓
大叫喚地獄の教えは、現代社会にも通じる大切なメッセージを含んでいます。
言葉の重みを考える
SNSが発達した現代では、嘘や偽情報が瞬時に広まってしまいます。軽い気持ちでついた嘘が、誰かの人生を狂わせることもあるんです。
大叫喚地獄の恐ろしい描写は、言葉の責任の重さを私たちに教えてくれているのかもしれません。
信頼関係の大切さ
特に「信頼してくれた人への裏切り」が重い罪とされているのは、人間社会の基盤である信頼関係がいかに大切かを示しています。
まとめ
大叫喚地獄は、嘘によって他者を傷つけた罪人が落ちる恐ろしい地獄です。
重要なポイント
- 八大地獄の第5番目、地下5階に位置する
- 殺生・盗み・邪淫・飲酒に加えて「妄語(嘘)」の罪で落ちる
- 叫喚地獄の10倍の苦しみを受ける
- 特に舌や口への責め苦が激しい
- 人間界の時間で約6821兆年苦しみ続ける
- 周囲に18の小地獄があり、細かい罪に応じて振り分けられる
仏教の地獄観は、単に人を脅すためのものではありません。それは私たちに「今をどう生きるべきか」を考えさせ、言葉と行いの大切さを教えてくれる、深い智慧なのかもしれませんね。


コメント