深夜の墓地で、土を掘り返す不気味な音を聞いたことはありませんか?
もしかしたら、それは地下に潜む恐ろしい怪物「グール(食屍鬼)」が、死体を漁っている音かもしれません。
H・P・ラヴクラフトが生み出したクトゥルフ神話の世界では、このおぞましい存在が実際に墓地の地下深くに巣くい、腐った肉を求めてさまよっているのです。
この記事では、クトゥルフ神話における食屍鬼「グール」について、その恐ろしい姿や特徴、興味深い伝承を分かりやすく解説します。
概要

グール(食屍鬼)は、クトゥルフ神話に登場する独立種族の一つです。
1927年にH・P・ラヴクラフトが発表した短編小説『ピックマンのモデル』で初めて登場し、その後の作品でも重要な役割を果たしています。アラビア伝承のグール(屍食鬼)がモデルとなっていますが、クトゥルフ神話では独自の設定が加えられ、より恐ろしくも魅力的な存在として描かれているんです。
彼らは墓地の地下に巨大なトンネル網を築き、死体を主食として生活しています。見た目は犬と人間を掛け合わせたような姿で、不潔で不気味な外見をしていますが、実は人間並みの知性を持ち、独自の文化や言語まで持っているという、複雑な存在なんですね。
系譜
グールの起源には、いくつかの興味深い説があります。
グールの起源説
人間からの変異説が最も有力とされています。
人間が腐肉を食べ続けると、段階的に脳が萎縮し、最終的にグールへと変異してしまうんです。
実際に、画家のリチャード・アプトン・ピックマンも人間からグールに変化した例として知られています。
また、チェンジリング(取り替え子)という恐ろしい習性もあります。
グールは時々、人間の赤ん坊と自分たちの子供を取り替えるんです。
人間社会で育つグールの子供と、グール社会で育つ人間の子供。後者は屍肉を食べて成長し、やがて完全なグールになってしまいます。
グールの神々
グールたちが崇拝する神も存在します。
- ニョグタ:一部のグールが崇拝する邪神
- モルディギアン:「死体の神」として知られ、遠い未来のゾシーク大陸のグールが信仰
- ナイアーラトテップ:這い寄る混沌として、グールと関わりを持つとされる
姿・見た目

グールの外見は、一言で言えば「不潔で不気味な犬人間」といった感じです。
グールの身体的特徴
- 顔:犬に似た細長い顔つき
- 皮膚:ゴムのような弾力のある分厚い皮膚
- 手足:鋭い鉤爪を持ち、足はヒヅメ状に割れている
- 体格:前屈みの姿勢で、二足歩行だが四つ足でも移動可能
- 体臭:腐敗臭を放ち、体には苔まで生えている
彼らの爪で引っかかれると、危険な細菌に感染してしまう恐れがあります。長年地下で腐肉を食べ続けた結果、体全体が病原菌の温床となっているんですね。
特徴
グールには、地下生活に適応した特殊な能力があります。
グールの能力と習性
暗視能力を持っており、わずかな光さえあれば暗闇でも問題なく活動できます。逆に、強い光は苦手で、日中は地下に潜んでいることが多いんです。
食事の好みが特に変わっています。新鮮な肉よりも腐った肉を好み、捕まえた獲物もわざわざ腐らせてから食べるんです。人間の死体はもちろん、動物の死骸や排泄物まで「ご馳走」として楽しむという、人間には理解しがたい食文化を持っています。
言語と知性
グールは独自の言語を持ち、泣くような早口で話します。「キーキー」「ギャーギャー」といった不快な音に聞こえますが、これが彼らの会話なんです。人間の言葉を理解し、話せる個体も多く存在します。
ドリームランドとの繋がり
グールの地下トンネルの中でも特に古いものは、ドリームランド(夢の国)に繋がっています。現実世界とドリームランドを行き来できる数少ない種族の一つなんです。
ドリームランドでは、翼を持つ怪物ナイトゴーントと同盟を結んでおり、彼らに騎乗して空を飛ぶこともあります。一方で、巨人族のガグやガーストとは敵対関係にあります。
伝承

グールにまつわる伝承の中でも、特に有名なものをご紹介しましょう。
リチャード・アプトン・ピックマンの物語
ボストンの画家ピックマンは、異常なほどリアルなグールの絵を描くことで知られていました。その秘密は、実際のグールをモデルにしていたからなんです。
やがて彼は失踪し、後にドリームランドでグールのリーダーとして君臨していることが判明します。人間からグールへの変異を遂げた、最も有名な例となりました。
ランドルフ・カーターとの交流
夢見る探求者ランドルフ・カーターは、幻の都市カダスを探す旅の中でグールたちと出会います。最初は恐れていましたが、やがて彼らと友好関係を築き、グールの協力を得て冒険を成功させました。
この物語は、グールが必ずしも人間の敵ではないことを示す重要な例となっています。
地下鉄事故の真相
現代では、地下鉄事故の一部がグールの仕業だという都市伝説があります。大量の死体を得るために事故を誘発させるという恐ろしい話ですが、各都市の警察や秘密組織が密かにグールと戦っているとも言われています。
出典
グールが登場する主要なクトゥルフ神話作品をご紹介します。
原典作品
- 『ピックマンのモデル』(1927年):H・P・ラヴクラフト作。グールの初登場作品
- 『未知なるカダスを夢に求めて』(1926年):同じくラヴクラフト作。グール社会が詳しく描かれる
後継作品
- 『名もなき末裔』(1932年):クラーク・アシュトン・スミス作
- 『哄笑する食屍鬼』(1936年):ロバート・ブロック作
- 『食屍姫メリフィリア』(1990年):ブライアン・マクノートン作
これらの作品では、グールの生態や文化がさらに掘り下げられ、クトゥルフ神話における重要な種族として確立されていきました。
まとめ
グールは、クトゥルフ神話における恐ろしくも魅力的な独立種族です。
重要なポイント
- 人間から変異する可能性がある恐ろしい存在
- 地下墓地に巨大なトンネル網を築いて生活
- 腐肉を主食とし、独特の食文化を持つ
- 人間並みの知性と独自の言語・文化を持つ
- ドリームランドと現実世界を行き来できる
- 必ずしも人間の敵ではなく、交流も可能
彼らは確かに不潔で恐ろしい存在ですが、世界征服や人類滅亡といった野望とは無縁で、ただ自由に生きることを望んでいるだけなんです。その意味では、クトゥルフ神話の他の邪神や怪物たちよりも、ずっと人間的な存在と言えるかもしれませんね。
もし深夜の墓地で土を掘る音が聞こえたら、それはグールたちの晩餐会の始まりかもしれません。でも心配しないでください。敬意を持って接すれば、彼らは意外と話の分かる相手なのですから。


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