深い海の底から、不気味な夢が人々の心に忍び込んでくることがあります。それは単なる悪夢ではなく、太古から海底都市で眠り続ける巨大な存在からのメッセージかもしれません。
20世紀初頭、アメリカの作家H.P.ラヴクラフトが生み出した恐怖の邪神「クトゥルフ」は、今や世界中の創作物に影響を与える存在となりました。タコのような頭を持つこの巨大な神は、いつか目覚めて世界を支配するという恐ろしい伝説を持っています。
この記事では、宇宙的恐怖を象徴する邪神クトゥルフについて、その奇怪な姿や特徴、興味深い伝承を分かりやすくご紹介します。
概要

クトゥルフは、1926年にH.P.ラヴクラフトが創造した宇宙的な邪神です。
「旧支配者」と呼ばれる太古の神々の一柱で、人類が誕生するはるか以前から地球に存在していたとされています。現在は南太平洋の海底に沈んだ石造都市「ルルイエ」で死のような眠りについていますが、いつか目覚めて地球を再び支配すると信じられているんです。
クトゥルフの名前は人間には正確に発音できないとされ、英語でも「Cthulhu」「Kutulu」「Kthulhut」など様々な表記があります。日本語でも「クトゥルー」「クルウルウ」など複数の表記があるのは、この発音の難しさを表現しているんですね。
系譜
クトゥルフが初めて登場したのは、ラヴクラフトの短編小説『クトゥルフの呼び声』(1926年執筆、1928年発表)です。
創造者ラヴクラフトの設定
ラヴクラフトによると、クトゥルフは外宇宙から地球に飛来した侵略者でした。太古の地球では「古のもの」と呼ばれる別の種族と戦争を繰り広げ、最終的に南太平洋の大陸を支配することになります。
しかし、天変地異によってその大陸が海に沈むと、クトゥルフも一緒に海底で眠りについたのです。
神々の系譜
クトゥルフには複雑な家系があります。
主な親族関係
- 兄弟:ハスター(風の精の首領で宿敵)
- 息子たち:ガタノトーア、イソグサ、ゾス=オムモグ(ゾス三神)
- 娘:クティーラ
作品によって設定は異なりますが、ヨグ=ソトースとシュブ=ニグラスという別の邪神から生まれたという説もあります。
姿・見た目

クトゥルフの姿は、まさに悪夢そのものです。
身体的特徴
クトゥルフの外見は、複数の生物を組み合わせたような恐ろしい姿をしています。
頭部
- タコやイカのような形
- 無数の触手が口の周りから生えている
- 六つの目を持つ(作品によって異なる)
身体
- 山のように巨大(数百メートル)
- 緑色でぬめぬめした鱗またはゴム状の皮膚
- 人間のような輪郭だが、極端に歪んでいる
四肢と翼
- 巨大な鉤爪のある手足
- 水かきを備えた二足歩行
- 背中にコウモリのような細い翼
ラヴクラフトは「その姿は言葉では表現できない」と書いており、見た者は正気を失うほど恐ろしいとされています。
特徴
クトゥルフには、普通の生物とは全く異なる特別な能力があります。
主な能力
精神への影響
- テレパシーで人間の夢に侵入
- 強力な精神波で狂気を引き起こす
- 見た者の正気を奪う存在感
物理的能力
- 不定形で自由に形を変えられる
- 驚異的な再生能力(攻撃されても瞬時に回復)
- 宇宙空間でも活動可能
その他の特徴
- オーボエのような不気味な声を発する
- 死んでいるようで死んでいない特殊な休眠状態
- 星の配置が正しくなると覚醒する
カルト教団
世界中にクトゥルフを崇拝する秘密教団が存在します。彼らは有名な呪文を唱えます。
「Ph’nglui mglw’nafh Cthulhu R’lyeh wgah’nagl fhtagn」
(死せるクトゥルフ、ルルイエの館にて、夢見るままに待ちいたり)
この呪文は、クトゥルフがいつか目覚めることを信じる信者たちの合言葉なんです。
伝承

ルルイエの浮上事件
『クトゥルフの呼び声』では、1925年に実際にクトゥルフが目撃されたという設定になっています。
事件の経緯
- 地殻変動により、海底都市ルルイエが一時的に浮上
- たまたま通りかかった船の乗組員8人が上陸
- 巨大なクトゥルフと遭遇
- 7人が死亡、生還者は1人のみ
- その後、ルルイエは再び海底に沈む
生還者の証言によると、クトゥルフの姿はまるで「歩く山」のようで、船で体当たりしても、まるでゼリーのように分裂して、すぐに元に戻ったそうです。
世界各地の崇拝
クトゥルフ崇拝の痕跡は世界中で発見されています。
主な崇拝地域
- ニュージーランド、グリーンランドの原住民
- ルイジアナの沼地地帯
- 中国の山岳地帯
- アラビアの無名都市(教団本部)
特に有名なのが、インスマスという港町の「ダゴン秘密教団」です。この教団は、深海に住む「深きものども」という人魚のような種族と協力して、クトゥルフの復活を待ち望んでいます。
夢による影響
クトゥルフは眠っていても、その夢が世界中の芸術家や感受性の強い人々に影響を与えます。
1925年3月、世界中で同時多発的に起きた現象があったとされています。
- 芸術家たちが同じような悪夢を見る
- 精神病院で患者が暴れる
- 各地で奇妙な彫像が作られる
これらはすべて、海底で一瞬目覚めかけたクトゥルフの精神波によるものだったのです。
出典
原作小説
- 『クトゥルフの呼び声』(1926年/1928年) – 初登場作品
- 『ダンウィッチの怪』(1928年/1929年)
- 『インスマウスの影』(1931年/1936年)
- 『狂気の山脈にて』(1931年/1936年)
後継作品
オーガスト・ダーレスをはじめとする多くの作家が、クトゥルフを題材にした作品を発表しています。
現在では「クトゥルフ神話」というジャンル名にもなっており、ゲーム、映画、アニメなど様々な媒体で登場する有名キャラクターとなりました。
まとめ
クトゥルフは、人類の理解を超えた宇宙的恐怖を象徴する邪神です。
重要なポイント
- H.P.ラヴクラフトが1926年に創造した架空の神
- タコの頭、ドラゴンの翼、山のような巨体を持つ
- 海底都市ルルイエで眠りについている
- テレパシーで人間の夢に影響を与える
- 世界中に崇拝する教団が存在する
- いつか目覚めて世界を支配すると恐れられている
- 「クトゥルフ神話」というジャンルの顔となった存在
クトゥルフの恐ろしさは、その巨大さや醜悪な姿だけではありません。
人間がいかに小さく無力な存在であるかを思い知らされる、その宇宙的な恐怖こそが、クトゥルフの本当の恐ろしさなのです。
もしかしたら今も、深い海の底で、星々が正しい位置に戻る日を待っているのかもしれませんね。
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