クトゥルフ神話って知っていますか?
H.P.ラヴクラフト(1890-1937)が創造し、無数の作家たちが拡張してきた宇宙的恐怖の神話体系です。
この神話の中心には、人類の理解を超えた古代の神格たちが存在します。 彼らの存在そのものが、人間の無意味さと宇宙の無関心を体現しているんです。
本記事では、この広大な神話体系に登場するすべての主要な神格について、網羅的かつ体系的に解説していきます。
神格の階層構造と分類体系

基本的な三層構造
クトゥルフ神話の神格は、主に以下の階層に分類されます。
1. 外なる神(Outer Gods) 宇宙の根源的な力を体現する最上位の存在です。
- アザトース
- ヨグ=ソトース
- ナイアーラトテップ
- シュブ=ニグラス
時空を超越した宇宙的規模の神格群なんです。
2. 旧支配者(Great Old Ones) 強大だが外なる神より限定的な力を持つ存在。
- クトゥルフ
- ハスター
- ツァトゥグァ
かつて地球や他の惑星を支配し、現在は封印や眠りについている神格群です。
3. 旧神(Elder Gods) オーガスト・ダーレスが導入した概念で、旧支配者に対抗する「善良な」神格。
- ノーデンス
- バースト
- クタニド
この概念はラヴクラフトの本来の宇宙観とは相容れないため、議論の的となっています。
ダーレスの元素体系(批判的評価付き)
オーガスト・ダーレスは神格を古典的な四元素に対応させようとしました。 でも、この試みは多くの矛盾を生みました。
元素と対応する神格:
- 火: クトゥグァ(ダーレスが体系を完成させるために創造)
- 水: クトゥルフ(水に封印されているのに水の元素という矛盾)
- 風: ハスター、イタカ
- 地: ツァトゥグァ、ニャルラトホテプ
- エーテル: アザトース、ヨグ=ソトース(宇宙規模の存在用)
外なる神(Outer Gods)完全リスト
最高位の外なる神
アザトース(Azathoth)

別名を知っていますか?
- 盲目白痴の神
- 魔王
- 核なる混沌
- 万物の王
初出: 『未知なるカダスを夢に求めて』(1927年)
特徴 全宇宙の中心で狂ったように踊る無定形の混沌。 その思考と夢から全存在が生まれるんです。
能力 全能だが無意識。 覚醒すれば全存在が消滅します。
宮廷 「究極の神々」と呼ばれる下位の外なる神々が、魔笛と太鼓の音楽で彼を眠らせ続けています。
発音とカタカナ表記
- 発音:アザトース(AH-za-thoth)、アザトゥース
- カタカナ:アザトース、アザトゥース
ヨグ=ソトース(Yog-Sothoth)

別名がたくさんあります
- 門にして鍵
- 全にして一、一にして全
- 門の守護者
- すべてを見通す者
初出: 『チャールズ・ウォードの奇怪な事件』(1927年)
特徴 虹色に輝く球体の集合体として現れます。 全時空と同一の広がりを持つんです。
能力
- 全知全能
- 時空間操作
- 次元間移動
- 現実改変
関係性
- 無名の霧の子
- シュブ=ニグラスとの間にヌグとイェブをもうけた
呪文 「Y’AI’NG’NGAH, YOG-SOTHOTH H’EE-L’GEB F’AI THRODOG UAAAH」 (死者蘇生の呪文)
発音とカタカナ表記
- 発音:ヨグ=ソトース(YOG-so-thoth)
- カタカナ:ヨグ=ソトース、ヨグ=ソトホート
ニャルラトホテプ(Nyarlathotep)

多彩な別名
- 這い寄る混沌
- 千の貌を持つ者
- 外なる神々の魂と使者
- 黒い男
初出: 散文詩『ナイアルラトホテップ』(1920年)
形態 1000以上の化身を持ちます。 人間の姿で現れることが多いんです。
主要な化身を紹介します
- 黒きファラオ(エジプト的形態)
- 暗黒にうごめくもの(触手と翼を持つ闇)
- 黒い男(魔女教団の形態)
- 血塗られた舌の神
- 時計仕掛けの男(技術的形態)
役割 アザトースの使者として活動し、人類を堕落させることを楽しみます。
発音とカタカナ表記
- 発音:ニャルラトホテプ(Ny-ar-LAH-tho-tep)
- カタカナ:ナイアーラトテップ、ナイアルラトホテップ、ニャルラトホテプ
シュブ=ニグラス(Shub-Niggurath)

恐ろしい別名
- 千匹の仔を孕みし森の黒山羊
- 豊穣の女神
初出: 『最後の検査』(1928年)
特徴 巨大な雲のような存在で、無数の触手、口、山羊の脚を持ちます。
眷属 黒い仔山羊(Dark Young)- 樹木のような触手の塊
崇拝
- ドルイド教的な森林崇拝
- 豊穣儀式
発音とカタカナ表記
- 発音:シュブ=ニグラス(SHUB-ni-GUR-ath)
- カタカナ:シュブ=ニグラス、シュブ=ニグラース
その他の外なる神
アブホース(Abhoth) 不浄の源、灰色の原形質の池
ウボ=サスラ(Ubbo-Sathla) 生まれざりし源、地球上の全生命の起源
トゥルズチャ(Tulzscha) 緑の炎
無名の霧(The Nameless Mist) ヨグ=ソトースの親
闇(Darkness) シュブ=ニグラスの親
旧支配者(Great Old Ones)完全リスト
最重要の旧支配者
クトゥルフ(Cthulhu)

印象的な別名
- 旧支配者の大司祭
- ルルイエの主
初出: 『クトゥルフの呼び声』(1928年)
外見 タコの頭、竜の翼、人間の体を持つ山のような巨体。 想像できますか?
能力
- テレパシー
- 不死性
- 現実改変(星辰が正しい位置にあるとき)
封印場所 南太平洋の海底都市ルルイエ 座標:南緯47度9分、西経126度43分
有名な呪文 「フングルイ・ムグルウナフ・クトゥルフ・ルルイエ・ウガナグル・フタグン」
意味:ルルイエの館にて死せるクトゥルフ夢見るままに待ちいたり
教団 世界中に信者が存在します:
- ルイジアナ
- グリーンランド
- ニュージーランド
- 中国の山岳地帯
発音とカタカナ表記
- 正式な発音記号:Khlûl′-hloo
- 一般的な発音:「クトゥルー」「カトゥルー」
- カタカナ:クトゥルフ、クトゥルー、クルウルウ
ハスター(Hastur)
恐怖の別名
- 名状しがたきもの
- 黄衣の王
- 言及してはならぬ者
初出 アンブローズ・ビアスの作品から借用。 ラヴクラフトは『闇に囁くもの』(1931年)で言及。
特徴 ぼろぼろの黄色いローブを着た姿。 真の姿は不明です。
関連要素
- 黄の印(見る者を狂気に陥れる記号)
- カルコサ(ハリ湖畔の古代都市)
- 黄衣の王(ハスターの化身であり、狂気をもたらす戯曲)
発音とカタカナ表記
- 発音:ハスター
- カタカナ:ハスター、ハストゥール
ダゴン(Dagon)とハイドラ(Hydra)

親しみやすい(?)別名
- 父なるダゴン
- 母なるハイドラ
初出 『ダゴン』(1917年) 『インスマスの影』(1931年)で拡張
特徴 巨大化した深きもの。 20-30階建てビル相当の大きさです!
教団 ダゴン秘密教団(インスマス)
関係
- クトゥルフに仕える
- 深きものの支配者
クラーク・アシュトン・スミス作の旧支配者
ツァトゥグァ(Tsathoggua)

奇妙な別名
- ンカイの眠るもの
- ゾタクアー
初出: 『サタンプラ・ゼイロスの物語』(1931年)
外見 コウモリの翼を持つナマケモノのようなヒキガエル。 想像できますか?
居住地 土星(キュクラノシュ)から来て、ヴーアミタドレス山の地下に住みます。
発音とカタカナ表記
- 発音:ツァトゥグァ(Tsa-THOG-wa)
- カタカナ:ツァトゥグァ、ツァトゥグア
アトラク=ナチャ(Atlach-Nacha)
不気味な別名
- 蜘蛛神
- 暗闇の紡ぎ手
初出: 『七つの呪い』(1934年)
特徴 人間の顔を持つ巨大な蜘蛛
役割 夢の国と現実世界の間に巨大な網を張っています。
オーガスト・ダーレス作の旧支配者
クトゥグァ(Cthugha)
初出: 『暗黒に棲むもの』(1944年)
特徴 フォーマルハウト星近くに住む巨大な火の玉
眷属 火の吸血鬼
イタカ(Ithaqua)
恐ろしい別名
- 風に乗りて歩むもの
- ウェンディゴ
初出: 『風に乗りて歩むもの』(1941年)
特徴
- 赤く光る目を持つ巨大な人型
- 空中を歩く
発音 イタカ(Ih-THAH-kwah)
旧神(Elder Gods)

論争の的となる概念
旧神の概念は主にオーガスト・ダーレスによって導入されました。
なぜ論争になっているのでしょうか? ラヴクラフトの宇宙的無関心主義とは相容れない「善対悪」の二元論を持ち込んだからです。
主要な旧神
ノーデンス(Nodens)
初出: ラヴクラフト『未知なるカダスを夢に求めて』(1927年)
特徴 貝殻の戦車に乗る老人の姿
役割
- ナイトゴーントを従える
- ニャルラトホテプと対立
起源 ケルト神話の神
バースト(Bast)
起源 古代エジプトの猫の女神
役割 猫とその信者の守護者
特徴 猫の頭を持つ女性
クタニド(Kthanid)
作者: ブライアン・ラムレイ(1975年)
特徴 クトゥルフの双子の兄弟。 金色の目を除いて外見は同一です。
役割 旧神のパンテオンの長
その他の神格的存在
古のもの(Elder Things)

初出: 『狂気の山脈にて』(1936年)
特徴 樽型の体に星型の頭を持つ、地球最初の知的生命体
文明
- 10億年前に地球に到来
- ショゴスを創造
現状 南極で化石化
イースの大いなる種族(Great Race of Yith)
初出: 『時間からの影』(1936年)
能力 精神を時空を超えて投射し、他の生物と入れ替わる
特徴
- 円錐形の体
- 10フィート(約3メートル)の高さ
歴史 滅びゆく故郷の惑星から地球の先史時代の生物に精神を移しました。
ミ=ゴ(Mi-Go、ユゴスよりの菌類)

初出: 『闇に囁くもの』(1931年)
特徴 ピンク色の菌類的な甲殻類様生物
技術 脳を円筒に入れて宇宙旅行させる技術を持つ
採掘活動
- アンデス
- アパラチア
- ヒマラヤ
これらの場所に隠された基地があります。
深きもの(Deep Ones)
初出: 『インスマスの影』(1931年)
特徴 魚とカエルと人間の特徴を併せ持つ水棲生物
生態
- 人間と交配可能
- 混血児は中年期に変化して海に帰る
怖いですね!
重要度の高い神格の詳細解説

アザトース – 宇宙の中心の狂える神
アザトースはクトゥルフ神話における最高位の存在です。
全宇宙の中心で永遠に踊り狂う無定形の混沌。 その周りでは「究極の神々」と呼ばれる巨大な存在たちが不格好に踊っています。
悪魔の笛吹きたちが単調な音楽を奏でています。 この音楽が止まれば、現実そのものが崩壊すると言われているんです。
「盲目白痴の神」と呼ばれますが、これは人間の理解を超えた存在を表現するための比喩です。
実際には:
- 全能の創造者
- その思考と夢から全存在が生まれた
- もし目覚めれば、全宇宙の完全な消滅を意味する
ヨグ=ソトース – 門にして鍵
ヨグ=ソトースは時空の本質そのものを体現する存在です。
「門にして鍵」という称号が示すように:
- 次元間の移動を司る
- 過去・現在・未来のすべてを同時に知覚
『ダンウィッチの怪』では、人間の女性との間に怪物的な子供をもうけました。 その子は世界を脅かす存在となったんです。
外見は虹色に輝く球体の集合体として描写されます。 でも、これは三次元の存在が知覚できる姿の一部に過ぎません。
呪文「Y’AI’NG’NGAH, YOG-SOTHOTH」を唱えると、死者を蘇らせることができるとされています。
ニャルラトホテプ – 千の貌を持つ者
外なる神の中で唯一、積極的に人類と関わる存在がニャルラトホテプです。
「千の貌を持つ者」の称号通り:
- 1000以上の化身を持つ
- 人間の姿で現れることも多い
様々な形態で人類の歴史に介入してきました:
- 黒きファラオ
- 黒い男
- 暗黒にうごめくもの
他の外なる神との違いは何でしょうか?
他の神々が無関心または眠っているのに対し、ニャルラトホテプは意図的に人類を堕落させ、狂気に陥れることを楽しみます。
科学者、政治家、宗教指導者などの姿で現れ、破滅的な知識や技術を人類にもたらすんです。
シュブ=ニグラス – 千匹の仔を孕みし森の黒山羊
シュブ=ニグラスは歪んだ豊穣と生命力を司る女神です。
「千匹の仔を孕みし森の黒山羊」という称号が示すように、無数の怪物的な子供たちの母です。
その眷属である「黒い仔山羊」は:
- 触手の塊のような樹木状の怪物
- 森の奥深くで母なる神への生贄を受け取る
崇拝儀式はどのように行われるのでしょうか?
- 森の最も深い場所で
- 月のない夜に行われる
- 価値ある信者は神に飲み込まれる
- 不死のサテュロスのような存在として生まれ変わる
クトゥルフ – ルルイエに眠る大司祭
クトゥルフは旧支配者の中で最も有名な存在です。 クトゥルフ神話の名前の由来となった神格でもあります。
現在はどこにいるのでしょうか? 南太平洋の海底都市ルルイエで「死せるがごとく夢見ながら」眠っています。
星辰が正しい位置に来たとき目覚めると予言されています。
その姿は:
- タコの頭
- 竜の翼
- 人間の体
これらを組み合わせた山のような巨体として描写されます。
世界中に信者を持ち、彼らは呪文を唱えて主の復活を待ち望んでいます。
TRPGと現代メディアにおける拡張
Call of Cthulhu(クトゥルフ神話TRPG)の貢献
1981年に発売された『Call of Cthulhu』は、神話の体系化に大きく貢献しました。
どんな貢献をしたのでしょうか?
正式な分類体系 「外なる神」「旧支配者」「旧神」という三層構造を確立
正気度(SAN値)システム 神格との遭遇による精神的影響を数値化
詳細な系譜図 神格間の家族関係や主従関係を明確化
新たな神格の追加 ゲームバランスのために多数の新しい存在を創造
日本における独自の発展
日本では『クトゥルフ神話TRPG』がD&Dを超える人気を獲得しています。
独自の文化を形成しているんです:
リプレイ文化 ゲームセッションを物語化した「リプレイ」が人気
萌え要素の導入 『這いよれ!ニャル子さん』などの作品で神格を擬人化
独自の解釈 日本の妖怪や神話との融合
女性プレイヤーの多さ 日本のCoC(Call of Cthulhu)プレイヤーの3分の2が17-35歳の女性
神格間の関係性と系譜

アザトースの系譜
アザトースは分裂によって以下の存在を生み出しました:
- 無名の霧 → ヨグ=ソトース
- 闇 → シュブ=ニグラス
- ニャルラトホテプ(直接の子)
- クサクルルス(雌雄同体の子)
ヨグ=ソトースとシュブ=ニグラスの子孫
- ヌグとイェブ(双子)
- ヌグからクトゥルフが生まれた(一説による)
主従関係
誰が誰に仕えているのでしょうか?
- クトゥルフ ← ダゴンとハイドラ、深きものが仕える
- ハスター ← ビヤーキーが仕える
- ノーデンス ← ナイトゴーントが仕える
- ニャルラトホテプ ← 月の獣、多数の教団が仕える
まとめ:宇宙的恐怖の万神殿
クトゥルフ神話の神格たちは、人類の無意味さと宇宙の無関心を体現する存在として、90年以上にわたって恐怖と魅力を与え続けています。
ラヴクラフトが創造した基本的な枠組みは、どうなったでしょうか? 無数の作家、ゲームデザイナー、アーティストたちによって拡張され、今や世界的な共有神話となりました。
これらの神格は単なる怪物ではありません。 人間の理解を超えた宇宙の真理を象徴しているんです。
- アザトースの無意識の創造力
- ヨグ=ソトースの時空を超えた遍在
- ニャルラトホテプの悪意ある知性
- シュブ=ニグラスの歪んだ生命力
- クトゥルフの不可避の復活
これらすべてが、人類が宇宙において取るに足らない存在であることを思い起こさせます。
初心者には恐怖の入り口として、熟練者には更なる探求の指針として、この神格総覧がクトゥルフ神話という深淵への完全なガイドとなることを願っています。
覚えておくべきことがあります。 これらの存在について知れば知るほど、正気を保つことが困難になるということです。
それでもなお、私たちは知ることを止められません。 まさにそれこそが、クトゥルフ神話の永遠の魅力なのです。
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