風の邪神と豊穣の女神が、実は夫婦だったと聞いたら驚きませんか?
クトゥルフ神話に登場する二柱の神、ハスターとシュブ=ニグラス。一見すると接点がなさそうに見えるこの二神には、実は深い関係があるとされているんです。
この記事では、「名状しがたきもの」ハスターと「千匹の仔を孕みし森の黒山羊」シュブ=ニグラスの関係について、その系譜から子供たち、そして設定の変遷まで詳しくご紹介します。
概要

クトゥルフ神話において、ハスターとシュブ=ニグラスは夫婦関係にあるとされることがあります。
この設定は、オーガスト・ダーレスによるクトゥルフ神話の体系化以降に生まれたもの。二神の間にはイタカ、ロイガー、ツァールという三柱の子供がいるとされています。
ただし、シュブ=ニグラスにはヨグ=ソトースという別の配偶者もいるため、神話の系譜はかなり複雑なんです。クトゥルフ神話の神々は人間の倫理観とは異なる存在なので、複数の配偶者を持つことも珍しくありません。
二柱の基本プロフィール
まず、それぞれの神について簡単におさらいしておきましょう。
ハスターの基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 異名 | 名状しがたきもの、黄衣の王 |
| 分類 | 旧支配者(グレート・オールド・ワン) |
| 司る元素 | 風(大気) |
| 居場所 | 牡牛座ヒアデス星団の黒きハリ湖 |
| 父親 | ヨグ=ソトース |
ハスターは「風」の要素を司る神で、星間宇宙を自由に飛び回る力を持っています。その名を口にすることすら危険とされる、謎に包まれた存在なんですね。
シュブ=ニグラスの基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 異名 | 千匹の仔を孕みし森の黒山羊 |
| 分類 | 外なる神 |
| 司る属性 | 豊穣、母性、生命創造 |
| 性格 | 多産の太母神 |
| 起源 | H.P.ラヴクラフトの創作 |
シュブ=ニグラスは豊穣と母性を司る女神で、絶え間なく新たな生命を生み出し続ける存在。多くの神々の母として、クトゥルフ神話の系譜の中心に位置しています。
夫婦としての関係
ハスターとシュブ=ニグラスが夫婦とされる設定は、ダーレスによる神話体系化の中で生まれました。
なぜ「風」と「豊穣」が結びついたのか
一見すると、風の邪神と豊穣の女神は接点がなさそうに思えますよね。しかし、古代の神話では風は生命を運ぶものとして豊穣と結びつけられることがありました。
シュブ=ニグラスは「地」の属性を持つ神とされることもあり、風(ハスター)と地(シュブ=ニグラス)の結合という解釈も可能なんです。
複数の配偶者を持つシュブ=ニグラス
ここで注意したいのは、シュブ=ニグラスにはハスター以外にも配偶者がいるということ。
シュブ=ニグラスの主な配偶者
- ヨグ=ソトース:時空を超越する外なる神。双子のナグとイェブを産む
- ハスター:風の邪神。イタカ、ロイガー、ツァールを産む
- イグ:蛇神。長女ウトゥルス=フルエフルを産む
クトゥルフ神話の神々は人間の倫理観とは異なる存在なので、このような複雑な関係も成り立つわけですね。
二神の間に生まれた子供たち

ハスターとシュブ=ニグラスの間には、三柱の子供がいるとされています。
イタカ(Ithaqua)
「風に乗りて歩むもの」という異名を持つ風の精霊です。
- 極寒の地に出現する巨大な人型の存在
- 吹雪を操り、犠牲者を凍死させる
- 北米先住民の伝承に登場する「ウェンディゴ」と関連付けられることも
父ハスターの「風」の属性を色濃く受け継いでいる神ですね。
ロイガーとツァール(Lloigor and Zhar)
こちらは双子の風神として知られています。
- 二柱で一対として扱われることが多い
- 風と大気を操る能力を持つ
- 古代ムー大陸で崇拝されていたとされる
ロイガーは後に「ロイガー」という種族名の由来にもなっており、神話体系の中で重要な位置を占めています。
設定の変遷と起源
ハスターとシュブ=ニグラスの関係は、どのように生まれたのでしょうか?
ラヴクラフトの時代
H.P.ラヴクラフト自身は、ハスターとシュブ=ニグラスの関係について明確な設定を残していません。
ラヴクラフトの書簡によれば、シュブ=ニグラスはヨグ=ソトースの妻であり、その間に双子のナグとイェブが生まれたとされています。この時点では、ハスターとの関係は言及されていませんでした。
ダーレスによる体系化
オーガスト・ダーレスがクトゥルフ神話を体系化する中で、四大元素(火・水・風・地)に神々を割り当てる試みが行われました。
- 水:クトゥルフ
- 風:ハスター、イタカ、ロイガー、ツァール
- 地:シュブ=ニグラス、ツァトゥグァなど
- 火:クトゥグァなど
この体系化の中で、風の神々(イタカ、ロイガー、ツァール)がハスターの眷属とされ、さらにこれらの神々の母としてシュブ=ニグラスが設定されたと考えられます。
「名づけられざるもの」の解釈
興味深いのは、ラヴクラフトの『墳丘の怪』に登場する「名づけられざるもの(The Not-to-Be-Named-One)」という存在。
この存在はシュブ=ニグラスの夫とされていますが、具体的に誰を指すのかは明示されていません。ダーレスはこれをハスターと解釈しましたが、他の研究者はヨグ=ソトースやイグと解釈することもあります。
神話における役割の違い
夫婦とされながらも、ハスターとシュブ=ニグラスは神話の中で異なる役割を担っています。
ハスターの役割
- 恐怖と狂気をもたらす存在
- クトゥルフのライバルとして対立
- 「黄衣の王」として芸術家に影響を与える
- 名を呼ぶことすら危険とされる
シュブ=ニグラスの役割
- 生命を創造し続ける母なる存在
- 信者に恩恵を与える豊穣の女神
- 多くの邪神たちの母として系譜の中心に位置
- サバトなど魔女信仰と結びつけられる
このように、破壊と創造、恐怖と豊穣という対照的な性質を持つ二神が夫婦とされているのは、神話的に見ても興味深い設定ですね。
まとめ
ハスターとシュブ=ニグラスの関係は、クトゥルフ神話の複雑な系譜を象徴するものです。
重要なポイント
- ダーレスの神話体系化により、二神は夫婦関係とされるようになった
- 二神の間にはイタカ、ロイガー、ツァールという三柱の子供がいる
- シュブ=ニグラスにはヨグ=ソトースなど他の配偶者もいる
- 「風」のハスターと「豊穣」のシュブ=ニグラスという対照的な組み合わせ
- ラヴクラフト自身はこの関係を明示していない
- 「名づけられざるもの」の解釈から生まれた設定である可能性
風の邪神と豊穣の女神という、一見相容れない二柱の関係。しかし、宇宙的な存在である彼らにとって、人間の常識など何の意味も持たないのかもしれませんね。
参考文献
- ハワード・フィリップス・ラヴクラフト『闘に囁くもの』(1930年)
- オーガスト・ダーレス『ハスターの帰還』(1939年)
- リン・カーター『陳列室の恐怖』(1976年)
- 『エンサイクロペディア・クトゥルフ』
- 『クトゥルフ神話TRPG』ケイオシアム社


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