夜空に浮かぶ月。その神秘的な輝きは、古今東西の人々の心を捉えてきました。インド神話において月を司る神、それがチャンドラです。
チャンドラはナヴァグラハ(九曜)の一柱として崇められ、心や感情、植物の成長を司る神として、現代でもインドの占星術や宗教儀礼で重要な役割を担っています。ローヒニーへの偏愛がもたらした呪い、人妻との禁断の恋が引き起こした神々の大戦争など、チャンドラにまつわる神話は非常にドラマチックなものばかり。
この記事では、チャンドラの名前の意味から誕生譚、代表的な神話エピソード、さらには仏教を通じて日本にも伝わった「月天」としての姿まで、インド神話の月の神について詳しく解説していきます。
チャンドラの基本情報
チャンドラ(サンスクリット語:चन्द्र, Chandra)は、インド神話における月の神です。その名前はサンスクリット語で「輝くもの」「光り輝く」という意味を持ち、まさに月そのものを表しています。
チャンドラは以下のような役割を持つ神として知られています。
まず、ナヴァグラハ(九曜)の一柱です。インド占星術において、太陽・月・火星・水星・木星・金星・土星に加え、ラーフ(昇交点)・ケートゥ(降交点)の9つの天体を神格化したものがナヴァグラハで、チャンドラは月を司る神としてこの中に含まれます。
次に、ディクパーラ(方位の守護神)の一柱としての役割があります。八方を守護する神々の中で、チャンドラは北東の方角を守護するとされています。
また、心・感情・植物の成長を司る神でもあります。月が潮の満ち引きに影響を与えるように、チャンドラは人間の感情や植物の成長にも影響を及ぼすと信じられてきました。
チャンドラの姿は、白い肌を持ち、蓮華や棍棒を手にした若く美しい男神として描かれることが多いです。10頭の白い馬、あるいはアンテロープ(レイヨウ)が牽く戦車に乗って夜空を駆け巡るとされています。
チャンドラの別名と語源
チャンドラには数多くの別名があり、それぞれが月神の特性や役割を表しています。
最も重要な別名がソーマ(Soma)です。本来は神々に力を与える神聖な飲み物と、それを司る神の名前でしたが、ヴェーダ時代後期以降、月の神チャンドラと同一視されるようになりました。
インドゥ(Indu)は「輝く滴」という意味で、露や雨滴のように輝く月を表現しています。シャシャンク(Shashank)は「兎の印を持つ者」という意味で、月面の模様を兎に見立てたことに由来します。日本でも「月のうさぎ」の伝説がありますが、インドにも同様の発想があったことがわかります。
ラージャニパティ(Rajanipati)は「夜の王」、ナクシャトラパティ(Nakshatrapati)は「星宿の主」、オーシャディパティ(Oshadhipati)は「薬草の主」という意味を持ちます。月の光が薬草の成長に関わると考えられていたため、このような別名がつけられました。
タラーディパ(Taradhipa)は「星々の主」、アトリスタ(Atrisuta)は「アトリの息子」を意味し、チャンドラの出自に関連した名です。
これらの別名を見ると、チャンドラが単なる天体の神ではなく、夜・植物・薬草・星々など、多くの領域を司る重要な神格であったことがわかります。
チャンドラの誕生にまつわる神話
チャンドラの誕生については、プラーナ文献に複数の説が記録されています。
最も広く知られているのは、聖仙アトリとその妻アヌスーヤーの子として生まれたという説です。『デーヴィー・バーガヴァタ・プラーナ』などによると、チャンドラはダッタートレーヤ、ドゥルヴァーサスと共にアトリの三人の息子の一人とされています。一説には、この三兄弟はそれぞれブラフマー、ヴィシュヌ、シヴァのアヴァターラ(化身)であるとも伝えられています。
別の説では、チャンドラは創造神ブラフマーの心(マナス)から生まれたとされています。『リグ・ヴェーダ』のプルシャ・スークタ(原人讃歌)には「月は心から生まれ、太陽は目から生まれた」(चन्द्रमा मनसो जातः चक्षोः सूर्यो अजायत)という記述があり、これがチャンドラが「心」や「感情」を司る神とされる根拠の一つとなっています。
また、「乳海攪拌」の神話の中で、神々とアスラ(阿修羅)が不死の霊薬アムリタを得るために大海を攪拌した際、アムリタと共にチャンドラが海から出現したという説もあります。この説では、チャンドラはアムリタ(不死の甘露)と結びつけられており、月が不死の象徴とされる理由の一つとなっています。
ソーマとチャンドラの関係
チャンドラを理解する上で避けて通れないのが、ソーマとの関係です。現在ではソーマとチャンドラはほぼ同一視されていますが、本来は別々の神格でした。
ソーマはもともとヴェーダ時代の祭祀で用いられた神聖な飲み物、およびそれを司る神の名前です。この飲み物は、ある特定の植物から抽出された汁で作られ、強い陶酔作用と活力増進効果があったとされています。『リグ・ヴェーダ』の第9マンダラ(通称「ソーマ・マンダラ」)は、全114の讃歌すべてがソーマ・パヴァマーナ(清められたソーマ)に捧げられており、ヴェーダ時代においてソーマがいかに重要な神格であったかがわかります。
ヴェーダ文献においてソーマは「植物の王」「川と大地の王」「神々の父」と讃えられ、神々に不死の力を与える存在として崇められました。特に雷神インドラはソーマを大量に飲んで力を得たとされ、両者の関係は非常に密接でした。
では、なぜソーマと月が結びついたのでしょうか。学者の間でもこの点については議論がありますが、いくつかの説があります。月が神々がソーマを飲む「杯」と見なされ、満月はソーマが満ちた状態、新月はソーマが飲み干された状態を表すと考えられました。また、ソーマ酒を作る際に植物を絞って濾過する工程が、月の光が降り注ぐ様子に例えられたという説もあります。さらに、月の光が露となって植物に降り注ぎ、植物を育てるという観察から、月と植物の神ソーマが結びついたとも考えられています。
ヴェーダ後期から叙事詩・プラーナの時代にかけて、この同一視は完全に定着し、現在のヒンドゥー教においてはソーマとチャンドラは事実上同じ神として扱われています。
ダクシャの呪い:月の満ち欠けの起源
チャンドラにまつわる神話の中で最も有名なのが、ダクシャの呪いの物語です。この神話は月の満ち欠けの起源を説明するものとして、『マハーバーラタ』シャリヤ・パルヴァ第35章などに記されています。
創造神プラジャーパティの一人であるダクシャには、27人の娘がいました。この27人は夜空の27の月宿(ナクシャトラ)を擬人化した存在で、チャンドラは彼女たち全員を妻として娶りました。月が夜空を移動する際、27の星座を順番に通過していくことが、この神話の背景にあります。
しかし、チャンドラは27人の妻の中でローヒニー(牡牛座のアルデバランを含む星座)だけを偏愛し、他の妻たちを顧みませんでした。悲しんだ姉妹たちは父ダクシャに訴え、ダクシャはチャンドラに何度も警告を与えましたが、チャンドラの態度は変わりませんでした。
ついに怒りが頂点に達したダクシャは、チャンドラに恐ろしい呪いをかけました。「お前は消耗病(クシャヤローガ、結核)にかかり、日に日に衰え、やがて消えてゆくであろう」。呪いの効果はすぐに現れ、チャンドラの光は日ごとに弱まっていきました。
月が衰えると、薬草は力を失い、生き物たちも活力を失っていきました。事態を憂慮した神々はダクシャに呪いを解くよう懇願しましたが、一度かけた呪いを完全に取り消すことはできませんでした。
そこでダクシャは呪いを軽減することにしました。チャンドラがサラスヴァティー・ティールタ(聖なる沐浴場)で沐浴すれば、月の半分の期間は病から解放されるというものです。
別の伝承では、チャンドラはシヴァ神のもとを訪れて助けを求めました。シヴァはチャンドラの祈りを聞き入れ、自らの頭上に月を迎え入れました。これにより、チャンドラは完全に消えることなく、15日間は衰え(下弦)、15日間は回復する(上弦)という周期を繰り返すことになったのです。
この神話は、月の満ち欠けという自然現象を、愛の偏りがもたらす結果として説明しています。シヴァ神が三日月を頭に戴く「チャンドラシェーカラ」(月を冠する者)という姿で描かれるのは、この神話に由来しています。
ターラーカーマヤ戦争:禁断の恋がもたらした神々の大戦争
チャンドラにまつわるもう一つの重大な神話が、ターラーカーマヤ戦争です。「ターラーをめぐる戦争」を意味するこの神話は、『パドマ・プラーナ』や『ヴィシュヌ・プラーナ』などに記されており、神々とアスラの12の大戦争のうち第5の戦争とされています。
ブリハスパティは神々の導師(グル)であり、木星を司る神でした。彼の妻ターラー(サンスクリット語で「星」を意味する)は絶世の美女として知られていました。
ある時、チャンドラはラージャスーヤ祭(王の即位式に相当する大祭)を執り行い、大成功を収めました。この成功により傲慢になったチャンドラは、ブリハスパティの妻ターラーに恋をし、彼女を誘拐してしまいました。
ブリハスパティはターラーを返すよう求めましたが、チャンドラは「彼女は自らの意思でここにいる」と主張して拒否しました。雷神インドラをはじめとする神々もチャンドラを説得しようとしましたが、チャンドラは聞き入れませんでした。
事態は次第にエスカレートしていきました。ブリハスパティと神々は武力でターラーを取り戻すことを決意し、インドラが率いるデーヴァ(神々)の軍勢が形成されました。一方、アスラ(阿修羅)の導師シュクラ(金星を司る神)がチャンドラの側につき、ダイティヤやダーナヴァといったアスラたちもチャンドラを支援しました。
こうして神々とアスラの間で大戦争が勃発しました。『ブラフマーンダ・プラーナ』によれば、ヴィシュヌ神も戦争に参加し、アスラのカーラネーミを討ち取りました。インドラはチャンドラ側についたプラフラーダの子ヴィローチャナを倒しました。ルドラ(シヴァ)はブリハスパティの父アンギラスの弟子だった縁から、ブリハスパティ側で戦い、ブラフマシラスという強力な神器を放ちました。
戦いは激しさを増し、大地は震え、世界は破滅の危機に瀕しました。ついに創造神ブラフマーが介入し、戦争の停止を命じました。ブラフマーはチャンドラとシュクラを叱責し、チャンドラにターラーを返すよう命じました。
チャンドラは渋々ターラーを夫のもとに返しましたが、ここで新たな問題が発覚しました。ターラーはすでに身ごもっていたのです。生まれた子供の父親が誰なのかをめぐって、ブリハスパティとチャンドラの間で再び争いが起こりました。
ブラフマーがターラーに真実を問いただすと、彼女は恥ずかしそうに「チャンドラの子です」と答えました。生まれた子供は並外れた知性と輝きを持っており、ブダ(「賢者」の意、水星を司る神)と名付けられました。
このブダがイラー(マヌの娘)と結婚して生まれたのがプルーラヴァスで、彼は月の王朝(チャンドラヴァンシャ)の始祖となりました。この王朝からは、ナフシャ、ヤヤーティ、プールといった王たちが生まれ、やがて『マハーバーラタ』の主要人物であるパーンダヴァやカウラヴァにつながっていきます。
このターラーカーマヤ戦争は、ギリシア神話の「トロイア戦争」と比較されることがあります。どちらも美女をめぐる争いが大戦争に発展したという点で類似しています。
ガネーシャとの逸話:月を見てはいけない理由
月の満ち欠けの起源を説明する別の神話として、ガネーシャとチャンドラの物語があります。この神話は、ガネーシャ・チャトゥルティー(ガネーシャ降誕祭)の夜に月を見てはいけないという禁忌の由来を説明しています。
ある満月の夜、象頭の神ガネーシャは、富の神クベーラが主催した大宴会から帰宅する途中でした。ガネーシャは宴会でモーダカ(甘い団子)をたらふく食べ、お腹がパンパンに膨れ上がっていました。
ガネーシャがネズミのヴァーハナ(乗り物)であるムーシカに乗って進んでいると、突然、蛇が道を横切りました。驚いたムーシカが跳ね上がり、ガネーシャは地面に投げ出されてしまいました。その衝撃で腹が破れ、食べたモーダカが飛び散ってしまいました。
ガネーシャは慌ててモーダカを拾い集め、腹に詰め直しました。そして、近くにいた蛇をつかんで腹に巻きつけ、帯の代わりにしました。
この一部始終を空から見ていたチャンドラは、ガネーシャの滑稽な姿を見て大笑いしました。プライドの高いガネーシャは激怒し、自らの牙を折ってチャンドラに投げつけました。牙は月に命中し、チャンドラは傷を負いました。
さらにガネーシャは「お前は二度と完全な姿を保てないであろう」と呪いをかけました。この呪いによって月は欠けるようになり、月面のクレーター(暗い斑点)はこの時にできた傷跡だとされています。
後にチャンドラはシヴァ神に懇願し、呪いは軽減されましたが、完全には解けませんでした。このため、ガネーシャ・チャトゥルティーの日に月を見ると不吉なことが起こるとされ、この日だけは月を見ることが禁じられています。
乳海攪拌とラーフ・ケートゥの神話
チャンドラは、インド神話の中でも最も壮大な物語の一つである「乳海攪拌」(サムドラ・マンタナ)にも登場します。この神話の中で、チャンドラは重要な役割を果たしています。
神々とアスラが協力して、不死の霊薬アムリタを得るために乳海を攪拌した時、海からは様々な宝物や存在が出現しました。その中にはアムリタと共に、月(チャンドラ)、女神ラクシュミー、聖牛カーマデーヌ、猛毒ハラーハラなどが含まれていました。
アムリタが出現した時、アスラのラーフはバラモンに変装して神々の列に紛れ込み、アムリタを飲もうとしました。しかし、太陽神スーリヤとチャンドラがこの偽装を見破り、ヴィシュヌ神に告げ口しました。
ヴィシュヌは直ちに円盤スダルシャナ・チャクラを投げ、ラーフの首を切り落としました。しかし、すでにアムリタが喉を通過していたため、切り離された頭部は不死となってラーフ(昇交点)となり、胴体もまたケートゥ(降交点)として不死の存在となりました。
告げ口をしたスーリヤとチャンドラを恨んだラーフは、復讐として時折太陽と月を飲み込むようになりました。しかし、胴体がないためすぐに太陽と月は現れてしまいます。これが日食と月食の起源だとされています。
この神話において、チャンドラは宇宙の秩序を守る側の神として描かれていますが、同時にラーフ・ケートゥとの因縁の始まりとしても重要な意味を持っています。
ナヴァグラハとしてのチャンドラ
チャンドラはナヴァグラハ(九曜)の一柱として、インド占星術において非常に重要な位置を占めています。
ナヴァグラハは、スーリヤ(太陽)、チャンドラ(月)、マンガラ(火星)、ブダ(水星)、ブリハスパティ(木星)、シュクラ(金星)、シャニ(土星)、ラーフ(昇交点)、ケートゥ(降交点)の9つの天体(および影の天体)を神格化したものです。
チャンドラはこの中で月を司り、人間の心・感情・精神・直感に影響を与えるとされています。占星術上、チャンドラの配置が良い人は感情的に安定し、直感力に優れ、創造性が豊かだと考えられています。逆に、チャンドラの配置が悪い場合は、感情の不安定さや精神的な問題が生じやすいとされます。
チャンドラの宝石は真珠で、チャンドラの影響を強化したい人は真珠を身につけることが推奨されています。チャンドラの色は白または銀白色で、チャンドラ礼拝に適した日は月曜日(ソームヴァール)です。「ソームヴァール」という言葉自体がソーマ(月)に由来しています。
南インドには、ナヴァグラハ寺院と呼ばれる9つの天体神を祀る寺院群があり、チャンドラを主神として祀るカイラーサナータル寺院(ティンガルール)などが有名です。
日本への伝播:月天として
チャンドラの信仰は仏教を通じて東アジアにも広まり、日本では「月天」(がってん)として知られるようになりました。
月天は、インド神話の月神チャンドラが仏教に取り込まれ、護法善神(仏法を守護する神)となったものです。日天(太陽神スーリヤ)と対をなす存在として、仏教の宇宙観において重要な位置を占めています。
日本の仏教美術において、月天は十二天の一柱として表現されることが多いです。十二天とは、八方(東西南北と四隅)を守護する八方天に、天地を守護する二天と、日月を守護する二天を加えた12の護法神のことです。
月天の姿は、菩薩形(優美で穏やかな姿)で描かれることが一般的で、3羽から7羽のガチョウ(白鵝)の背に乗った姿や、蓮華や半月形の幢(旗)を持つ姿で表現されます。また、脇侍が月兎を持っている場合もあり、月に兎がいるという伝承との関連がうかがえます。
京都国立博物館所蔵の「十二天画像」(国宝、平安後期・大治2年/1127年)は、宮中で行われた後七日御修法に用いられた貴重な作例として知られています。奈良・西大寺の「十二天画像」(国宝、9世紀)は日本最古の十二天像とされ、月天が鳥獣座に乗る姿で描かれています。
また、九曜曼荼羅においても月天は重要な位置を占めており、平安時代には九曜信仰が広まりました。九曜曼荼羅は家紋としても用いられ、細川氏や伊達氏などの武家の家紋にその影響を見ることができます。
天台宗の智顗(天台大師)は『法華文句』の中で、月天を勢至菩薩の化身としています。このため、日本神話の月神ツクヨミを勢至菩薩と結びつけて祀る寺社も存在します。
チャンドラにまつわるその他の神話と伝承
チャンドラには、これまで紹介した以外にもいくつかの興味深い神話があります。
アシュタ・ヴァス(八種の元素神)の一員として、チャンドラはマノーハラーという妻との間に、ヴァルチャス、シシラ、プラーナ、ラマナの4人の息子をもうけたとされています。このうちヴァルチャスは、後に『マハーバーラタ』の英雄アルジュナの息子アビマンニュとして転生したと伝えられています。
また、プリトゥ王の治世に、大地の女神ブーミデーヴィーが牛の姿に変身してあらゆる存在に恵みを与えた時、チャンドラは子牛の役割を果たしました。この功績により、ブラフマー神はチャンドラを「星々と薬草の王」に任命したとされています。
現代におけるチャンドラ信仰
チャンドラ信仰は、現代のインドでも生き続けています。
月曜日はチャンドラに捧げられた曜日とされ、信者は断食や特別な礼拝を行います。特に妊娠を望む夫婦や、精神的な安定を求める人々がチャンドラに祈りを捧げることが多いです。
また、満月の夜(プールニマー)は、チャンドラ礼拝に特に適した日とされています。シャラド・プールニマー(秋の満月)やカールティク・プールニマー(カールティク月の満月)などは、多くの寺院で盛大な祭りが行われます。
インドの宇宙開発においても、チャンドラの名前は重要な意味を持っています。インドの月探査計画「チャンドラヤーン」(Chandrayaan、「月の乗り物」の意)は、まさにこの月神の名を冠しています。チャンドラヤーン1号(2008年)、チャンドラヤーン2号(2019年)、チャンドラヤーン3号(2023年、月面着陸成功)と、インドの月探査は着実に進展しており、古代の月神の名が現代の宇宙開発と結びついています。
まとめ
チャンドラはインド神話において、単なる天体の神を超えた多面的な存在です。
チャンドラの特徴を整理すると、サンスクリット語で「輝くもの」を意味する月の神で、ソーマとも同一視されています。ナヴァグラハ(九曜)の一柱として、心・感情・植物の成長を司ります。聖仙アトリとアヌスーヤーの子、またはブラフマーの心から生まれたとされています。
主要な神話としては、ダクシャの27人の娘(ナクシャトラ)と結婚したものの、ローヒニーへの偏愛が原因で呪いを受けて月の満ち欠けが生まれました。ブリハスパティの妻ターラーとの関係がターラーカーマヤ戦争を引き起こし、この不倫から水星神ブダが誕生しています。乳海攪拌ではラーフの正体を暴いて日食・月食の因縁が生まれ、ガネーシャを笑ったことで牙を投げつけられる別の月の満ち欠け伝承も残っています。
仏教を通じて日本にも「月天」として伝わり、十二天の一柱として信仰されています。現代でも占星術や宗教儀礼で重要な役割を果たし、インドの月探査計画「チャンドラヤーン」にもその名が冠されています。
月を見上げるとき、そこには単なる天体ではなく、愛と呪い、戦争と和解、そして不死の象徴としての神の姿が浮かび上がってきます。チャンドラの神話は、人間の感情の複雑さと宇宙の神秘を結びつける、インド神話の豊かな世界観を象徴しています。
参考情報
この記事の作成にあたり、以下の情報源を参照しました。
一次資料(原典)
- 『リグ・ヴェーダ』第9マンダラ(ソーマ・マンダラ):ソーマに捧げられた114の讃歌を収録。Sacred Texts Archiveで英訳参照可能
- 『マハーバーラタ』シャリヤ・パルヴァ第35章:ダクシャの呪いの神話を収録
- 『ヴィシュヌ・プラーナ』第4巻第6章:ターラーカーマヤ戦争とブダの誕生
- 『パドマ・プラーナ』スリシュティ・カンダ第12章:ターラーカーマヤ戦争の詳細な記述
- 『デーヴィー・バーガヴァタ・プラーナ』:チャンドラの誕生譚
学術資料・百科事典
- Wikipedia「Chandra」(英語版):学術的な参考文献も豊富に記載
- Wikipedia「Tarakamaya War」(英語版):ターラーカーマヤ戦争の詳細
- Wikipedia「九曜」(日本語版):ナヴァグラハの日本への伝播
- Wikipedia「月天」(日本語版):仏教における月天の信仰
- World History Encyclopedia「Soma: The Elixir of the Hindu Gods」:ソーマの学術的解説
- 文化遺産オンライン「十二天像 月天」:京都国立博物館蔵の月天画像
参考になるサイト
- 月探査情報ステーション「月の神様(外国編)」:各国の月神の比較
- Glorious Hinduism「Tarakamaya: The War Over Tara」:神話の詳細な解説

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