夜の闇の中で、突然まばゆい光が動いているのを見たことはありますか?
もしかしたら、それは額に宝石を持つ不思議な生き物「カーバンクル」かもしれません。
南米の奥地で語り継がれてきたこの幻の生き物は、その輝く宝石を手に入れた者に富と名声をもたらすといわれています。
この記事では、神秘的な光を放つ幻獣「カーバンクル」について、その正体や特徴、興味深い伝承を分かりやすくご紹介します。
概要

カーバンクルは、南米、特にパラグアイやチリの伝説に登場する幻の小動物です。
16世紀の大航海時代、スペインの探検家たちが南米で目撃したという記録が残っています。
最も古い記録は、スペインの司祭で探検家だったマルティン・デル・バルコ・センテネラが1602年に書いた『アルヘンティーナ』という本に記されているんですね。
この生き物の最大の特徴は、額に赤く輝く宝石(または鏡)を持っていること。
現地のグアラニー語では「アニャンガ・ピタン」と呼ばれ、これは「火のように輝く悪魔」という意味なんです。
ヨーロッパの中世伝説にあった「ドラゴンの体内に宝石が隠されている」という言い伝えが、南米の伝承と混ざり合って生まれた存在ともいわれています。
姿・見た目
カーバンクルの姿は、実は見た人によってバラバラなんです。
報告されている姿のバリエーション
- 小動物タイプ:リスやウサギくらいの大きさで、長いしっぽを持つ
- 猫タイプ:猫のような姿で、あごひげの下に輝く毛房がついている
- 犬タイプ:小型犬のような姿で、様々な色の毛並みを持つ
- 二枚貝タイプ:硬い殻を持ち、その中から青白い光を放つ
チリの一部地域では、とうもろこしの穂のような節がある胴体に、4本以上の足があったという目撃談もあります。節の隙間から青白い光が漏れていたそうです。
共通する特徴
どの目撃談にも共通しているのが、額(または体のどこか)に輝く宝石や鏡があるということ。この宝石は、まるで燃える石炭のように赤く光ったり、青白い光を放ったりするといわれています。
大きさはマウスより大きく、せいぜい小型犬くらい。夜になると、その光は1リーグ(約5.5km)先からでも見えるほど明るいそうです。
特徴

カーバンクルには、普通の動物とは違う不思議な特徴があります。
主な特徴と習性
- 夜行性:主に夜に活動し、昼間は姿を隠している
- 臆病な性格:人間の気配を感じると、すぐに光を消して逃げてしまう
- 優れた聴覚:遠くの音も聞き分け、危険を察知する
- 光の調節能力:額の宝石を特殊な膜で覆い、光を消すことができる
宝石がもたらす力
カーバンクルの額の宝石には、特別な力があるとされています。
- 富と名声:宝石を手に入れた者は、莫大な富と地位を得られる
- 幸運の象徴:持ち主に幸運をもたらす
- 宝の在りかを示す:光が自然に存在する宝物の場所を教えてくれる
チリのコキンボ州では、カーバンクルの光は「金属の守護者」の証だといわれ、その色は守護している金属の色を反映するんだとか。金なら黄金色、銀なら銀色というわけです。
伝承

カーバンクルにまつわる伝承は、南米各地に残されています。
センテネラ司祭の探索記
1602年、スペインの司祭センテネラは、パラグアイでカーバンクルを目撃したと記録しています。彼は「燃える石炭のように輝く鏡を頭に載せた小さな動物」と表現しました。その後、何年もかけてパラグアイの川やジャングルを探し回りましたが、二度と見つけることはできなかったそうです。
チロエ島の宝探し伝説
チリ南部のチロエ島には、カーバンクルの宝を手に入れる特別な方法が伝わっています。
宝を手に入れる手順:
- カーバンクルに向かって紐やベルトを投げる
- カーバンクルはそれをつかんで姿を消す
- 翌朝の夜明け前、投げた物の端が地面から出ている場所を探す
- 真夜中になったら、黒猫を持った未亡人と一緒に掘り始める
- 1ヤード掘るごとに黒猫を穴に投げ込む(猫は消えてまた現れる)
この手順を守らないと、有毒ガスで死んでしまったり、宝が石ころに変わってしまうといわれています。
1925年の大量目撃事件
チリで1924年から1925年にかけて起きた大干ばつの時期、新月の夜にカーバンクルの目撃が相次ぎました。コキンボ州では、山から川へ向かって移動するカーバンクルの一家が目撃されたという記録も残っています。
労働者の証言
ある運河労働者は、カーバンクルを捕まえて金持ちになったと証言しています。彼は「マウスより大きく、硬い殻を持っていた。急いで殺して殻から黄金を剥いだ」と語りましたが、詳しい姿は覚えていないそうです。
起源
カーバンクルという名前と概念には、興味深い由来があります。
名前の由来
「カーバンクル」という名前は、ラテン語の「carbunculus(小さな炭)」から来ています。燃える炭のように赤く輝くことから、赤い宝石(ルビーやガーネット)を指す言葉になり、それが幻獣の名前になったんですね。
スペイン語では「カルブンクロ」、ポルトガル語では「カルブンクーロ」と呼ばれ、面白いことに「ホタル」という意味もあるんです。
伝承の成立
カーバンクル伝説が生まれた背景には、いくつかの要素が混ざり合っています。
- ヨーロッパの竜伝説:ドラゴンやワイバーンの体内に宝石があるという中世の伝承
- 南米の先住民伝承:グアラニー族などに伝わる光る精霊の話
- 大航海時代の交流:スペイン人征服者が両方の伝承を結びつけた
特に、7世紀のセビリャのイシドールスが書いた『語源』という本に記された「ドラゴンの脳の中の宝石」の話が、南米の伝承と結びついたと考えられています。
現代への影響
20世紀になってから、アルゼンチンの作家ボルヘスが『幻獣辞典』(1969年英語版)でカーバンクルを紹介し、世界的に知られるようになりました。
日本では、『ファイナルファンタジー』シリーズや『ぷよぷよ』などのゲームに登場することで、若い世代にも親しまれています。ゲームでは緑や青い毛を持つリスやキツネのような姿で描かれることが多いですね。
まとめ
カーバンクルは、南米の神秘と富への憧れが生み出した幻の宝石獣です。
重要なポイント
- 南米(パラグアイ・チリ)の伝説に登場する幻の小動物
- 額に赤く輝く宝石を持つのが最大の特徴
- 姿は様々で、リス、猫、犬、二枚貝など多様な目撃談がある
- 宝石を手に入れると富と名声が得られるといわれる
- 臆病で夜行性、人を避ける習性がある
- 16世紀の大航海時代から記録が残る
- ヨーロッパの竜伝説と南米の精霊伝承が融合して生まれた
- 現代ではゲームキャラクターとしても人気
もし夜中に不思議な光を見かけたら、それはカーバンクルかもしれません。でも、近づこうとすると、きっとその光は消えて、二度と見つからないでしょう。幻の宝石を追い求めた探検家たちのように、永遠の謎として心に残るだけかもしれませんね。
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