夜の神殿で、猫の頭を持つ女神像が静かにたたずんでいる――。
古代エジプトで絶大な人気を誇りながら、ある日突然、その地から駆逐されてしまった不思議な女神がいます。
その名はバースト(ブバスティス)。猫の姿で現れる美しくも恐ろしい女神は、いったいなぜエジプトから追放されたのでしょうか?
この記事では、クトゥルフ神話における謎多き猫神「バースト」について、その正体と伝承を分かりやすくご紹介します。
概要

バースト(またはブバスティスの名でも知られる)は、クトゥルフ神話に登場する猫の女神です。
もともとは古代エジプトで崇拝されていた女神で、猫を神聖な動物として扱う信仰の中心的存在でした。クトゥルフ神話の中では、地球とドリームランド(夢の国)に力を持つ旧神の一柱として位置づけられています。
興味深いのは、この女神が資料によって扱いが大きく異なることです。ある資料では善なる「旧神」、別の資料では邪悪な「外なる神」とされるなど、多面的な性格を持つ神なんですね。
猫を愛した作家H・P・ラヴクラフトも、この女神の名を好んで使っていました。彼の友人ロバート・ブロックが、このエジプトの女神をクトゥルフ神話の世界に取り込んだことで、バーストは神話体系の一部となったのです。
系譜
バーストの起源には、神秘的な物語があります。
アトランティスからの伝承
一説によると、バーストはもともと伝説の大陸アトランティスで崇拝されていた女神だったとされています。大陸が海に沈んだ後、その信仰がエジプトに伝わり、ナイルの地で広まっていったというんですね。
ナイアルラトホテップとの関係
クトゥルフ神話における設定では、バーストは暗黒神ナイアルラトホテップの策謀によって堕落し、追放されたという説があります。魔導書『妖蛆の秘密』には、ナイアルラトホテップがネコ科の野獣を従えており、バーストもその勢力の一柱だったと記されているんです。
神としての位置づけ
面白いことに、バーストの神格は資料によってバラバラなんです。
資料による分類の違い
- クトゥルフ神話TRPG:旧神(善なる神々の側)
- 山本弘『クトゥルフ・ハンドブック』:外なる神(邪悪な神々の側)
- 一部の資料:大地の神々の一柱
この矛盾した設定こそが、バーストという女神の複雑さと多面性を物語っているのかもしれません。
姿・見た目
バーストの姿は、エジプト美術の伝統を受け継いだ特徴的なものです。
基本的な外見
バーストは主に2つの形態で描かれます。
バーストの姿
- 猫そのもの:完全な猫の姿で現れることがある
- 猫頭の女性:人間の体に猫の頭を持つ女性の姿(こちらが一般的)
猫頭の女性として描かれる場合、その手には特別な持ち物があります。
持ち物と装飾
古代エジプトの女神としての姿では、いくつかの象徴的なアイテムを持っています。
- アイギス(肩当て):防御を象徴する装飾品
- 小さな袋:左手に掲げている神秘的な袋
これらの装飾は、バーストが単なる動物神ではなく、重要な地位を持つ女神だったことを示しているんですね。
特徴

バーストには、他の神々とは異なる独特の特徴があります。
血なまぐさい女神
クトゥルフ神話におけるバーストの最大の特徴は、人身御供を要求する恐ろしい面です。
ロバート・ブロックの作品では、バーストは生贄を食らう血生臭い邪神として描かれています。平和的な猫のイメージとは裏腹に、暗黒の儀式を好む恐ろしい一面を持っているんです。
限定的な力の範囲
興味深いことに、バーストの力は地球とドリームランド(夢の国)に限られていると考えられています。
つまり、他の星や次元では力を持たない、比較的「地域限定」の神なんですね。実際、土星や天王星の猫の信仰は、バーストとは別物だとされています。
猫を神聖視する信仰
古代エジプトでのバースト信仰では、猫が神聖な動物として扱われました。
信仰の中心地だったブバスティスの住民たちは、猫を大切に飼育し、死んだ猫をミイラにして女神に捧げたそうです。この習慣は、エジプトにおいてバーストが最も人気のある神の一つだったことを物語っています。
伝承

バーストにまつわる伝承には、衝撃的な歴史が隠されています。
ブバスティスの破壊
かつて、エジプトのブバスティスという都市が、バースト崇拝の中心地でした。しかし、絶大な人気を誇っていたにもかかわらず、ある時突然、この信仰は駆逐されてしまうんです。
なぜ破壊されたのか? それは、バースト崇拝の儀式があまりにもおぞましいものだったからだとされています。
もしかすると、人間の生贄を捧げるような儀式が行われていたのかもしれません。詳しい理由は歴史の闇に葬られましたが、確かなことは、強大な力を持つ他の宗派によってブバスティスが破壊されたという事実だけです。
ブリテン島への逃亡
崇拝の本拠地を失った信者たちは、各地に散り散りになりました。
その中でブリテン島(イギリス)に逃げ込んだ一団は、自分たちがバースト崇拝者であることを秘密にしながら、現代まで信仰を続けているといわれています。
コーンウォールの地下実験
魔導書『妖蛆の秘密』には、さらに恐ろしい記述があります。
コーンウォールの秘密
- ブリテン島のコーンウォール地方の地下に移住した神官団
- 人間とさまざまな動物を混血させる実験を実施
- 目的:女神バーストの化身を生み出すこと
- 結果:半人半獣の化け物が生まれた(とされる)
ただし、これらの実験が本当に行われたのかどうか、真相は不明のままです。
神官ラヴェ=ケラフ
伝説によると、バーストの神官の一人にラヴェ=ケラフという人物がいたとされています。
この名前は、猫を愛した作家H・P・ラヴクラフトをもじった「ラヴェ=ケラフ」(猫好きのラヴクラフト、という意味)から来ているんです。ラヴクラフト自身と友人のロバート・ブロックが、この名前を神話世界に取り入れました。
ラヴェ=ケラフは、アトランティスの大神官クラーカッシュ=トンと同時代に生きた人物で、「暗黒の儀式」という書物を残したとされています。
出典
参考文献
- ロバート・ブロック「ブバスティスの子ら」
- ロバート・ブロック「暗黒のファラオの神殿」
- 魔導書『妖蛆の秘密』「サラセン人の儀式」の章
- 矢野健太郎「邪神伝説シリーズ」より「ネフェルティティ」「クトゥルフの呼び出し」
まとめ
バーストは、古代エジプトからクトゥルフ神話へと受け継がれた、謎多き猫の女神です。
重要なポイント
- 猫の頭を持つ女性の姿で現れるエジプトの女神
- もともとアトランティスで崇拝されていたという伝説がある
- 人身御供を要求する血なまぐさい一面を持つ
- 地球とドリームランドに限定された力を持つ
- あまりにもおぞましい儀式のため、エジプトから駆逐された
- 逃げ延びた信者がブリテン島で密かに崇拝を続けている
- 資料によって善神とも邪神とも扱われる多面的な存在
古代の信仰とホラー小説が融合して生まれたバーストという女神。その美しくも恐ろしい姿は、今もクトゥルフ神話ファンの心を魅了し続けています。


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