お寺に行くと、きらびやかな装飾を身にまとった美しい仏像を見かけることがありませんか?
その多くは「菩薩」と呼ばれる存在なんです。
観音菩薩、地蔵菩薩、弥勒菩薩……名前は聞いたことがあっても、「そもそも菩薩って何なの?」と思っている方も多いのではないでしょうか。
実は菩薩は、私たち人間にとって最も身近な仏教の存在とされています。
この記事では、仏教で重要な役割を持つ「菩薩」について、その意味や姿、代表的な菩薩たちを分かりやすくご紹介します。
概要

菩薩(ぼさつ)とは、サンスクリット語の「ボーディサットヴァ(bodhisattva)」を音訳した「菩提薩埵(ぼだいさった)」の略です。
「菩提(ぼだい)」は悟りを意味し、「薩埵(さった)」は生きとし生けるもの(衆生)を意味しています。
つまり菩薩とは、悟りを求めて修行する者、あるいは衆生を救う者という意味を持っているんですね。
もともとは、釈迦(しゃか)が悟りを開く前の修行時代を指す言葉でした。しかし大乗仏教が発展すると、釈迦だけでなく、すべての修行者を菩薩と呼ぶようになったのです。
現在では、如来(にょらい)の補佐役として衆生を救う存在として広く信仰されています。
菩薩の語源と意味
菩薩という言葉には、深い意味が込められています。
菩薩の名前の由来
- 菩提(ぼだい):悟り、真理への目覚め
- 薩埵(さった):生きとし生けるもの、命あるもの
この二つを合わせて「悟りを求める者」「悟りを持つ者」という意味になります。
菩薩の二つの側面
菩薩には、大きく分けて二つの側面があるんです。
- 上求菩提(じょうぐぼだい):自ら悟りを求めて修行する
- 下化衆生(げけしゅじょう):苦しむ人々を救済する
つまり菩薩は、自分の悟りを追求しながら、同時に他の人々も救おうとする存在なんですね。この「自利利他(じりりた)」の精神こそが、菩薩の本質といえます。
菩薩の姿・見た目
菩薩像には、如来像とは異なる華やかな特徴があります。
菩薩像の基本スタイル
菩薩の姿は、出家前の釈迦、つまり古代インドの王族のイメージがベースになっています。そのため、如来が質素な姿で表現されるのに対し、菩薩は豪華な装飾品を身につけているのが特徴です。
菩薩像の装飾品
- 宝冠(ほうかん):頭にかぶる美しい冠
- 瓔珞(ようらく):貴金属や宝石をつないだ首飾り
- 臂釧(ひせん):上腕につけるアームレット
- 腕釧(わんせん):手首につけるブレスレット
- 足釧(そくせん):足首につけるアンクレット
- 耳璫(じとう):耳につけるイヤリング
- 天衣(てんね):肩や腕にかける細長い飾り布
その他の特徴
- 白毫(びゃくごう):額にある白い毛の渦巻き(如来と共通)
- 光背(こうはい):背後の光り輝く装飾
- 条帛(じょうはく):左肩から右腰にかける襷状の布
- 裳(も)・裙(くん):下半身に巻くスカート状の衣
- 蓮華座(れんげざ):蓮の花をかたどった台座
なぜ菩薩は華やかな姿をしているのでしょうか?
それは、菩薩がまだ修行中の存在だからなんです。完全に悟りを開いた如来と違い、菩薩は現世に留まって人々を救うため、世俗的な装いを保っているとされています。
菩薩の役割と特徴
菩薩は仏教において、とても重要な役割を担っています。
如来の補佐役
菩薩は、如来(悟りを開いた仏)の仕事を手伝う存在として位置づけられています。そのため、多くの場合「三尊形式」で表現されるんです。
代表的な三尊の組み合わせ
- 釈迦如来:文殊菩薩+普賢菩薩
- 阿弥陀如来:観音菩薩+勢至菩薩
- 薬師如来:日光菩薩+月光菩薩
時代が進むと、菩薩は如来よりも身近な存在として単独で祀られるようになりました。困っている人にすぐ駆けつけてくれる救済者として、多くの人々の信仰を集めています。
あえて仏にならない菩薩
興味深いのは、すでに悟る力があるのに、あえて成仏しない菩薩もいるということです。
なぜでしょうか?
それは、如来になってしまうと活動に制約が生じると考えられたからなんです。菩薩のままでいることで、より自由に人々を救済できるというわけですね。観音菩薩や勢至菩薩などが、この代表例とされています。
代表的な菩薩たち
仏教には数多くの菩薩が存在しますが、特に有名な菩薩をご紹介しましょう。
観音菩薩(かんのんぼさつ)
最も広く信仰される菩薩の一つです。「観世音菩薩」とも呼ばれ、人々の苦しみの声を聞いて救いの手を差し伸べる存在として知られています。三十三の姿に変化して、あらゆる人を救うとされています。
地蔵菩薩(じぞうぼさつ)
道端のお地蔵さんとして親しまれている菩薩です。特に子供の守り神として信仰され、六道すべての世界で衆生を救済するとされています。
弥勒菩薩(みろくぼさつ)
釈迦の次に現れる「未来仏」として知られています。釈迦入滅後、56億7000万年後に現れて衆生を救うと伝えられているんです。
文殊菩薩(もんじゅぼさつ)
「智慧」を司る菩薩です。「三人寄れば文殊の知恵」ということわざの由来にもなっています。獅子に乗った姿で表現されることが多いですね。
普賢菩薩(ふげんぼさつ)
「慈悲」と「修行」を司る菩薩です。白い象に乗った姿で表現され、文殊菩薩とペアで釈迦如来の脇侍を務めています。
日本における菩薩
日本では、仏教伝来後に独自の菩薩信仰が発展しました。
神仏習合と菩薩号
日本では「神仏習合」という独特の思想により、日本の神々にも菩薩の称号が与えられることがありました。
その代表が「八幡大菩薩」です。
神道の八幡神は、仏道に入った神として菩薩号を授けられたんです。これは、神も人間と同じように悟りを求めているという考え方に基づいています。
ただし、明治時代の神仏分離令によって、これらの菩薩号は廃止されました。
高僧への菩薩号
日本では、社会貢献に尽くした高僧に対して、朝廷から菩薩号が贈られることもありました。
菩薩号を贈られた高僧
- 行基(ぎょうき):8世紀後半から「行基菩薩」と呼ばれた
- 叡尊(えいそん):1300年に「興正菩薩」の号を贈られた
- 役小角(えんのおづぬ):1799年に「神変大菩薩」の号を贈られた
このように、実在の人物が菩薩として尊崇されることも、日本独自の特徴といえるでしょう。
まとめ
菩薩は、悟りを求めながら人々を救済する、仏教における重要な存在です。
重要なポイント
- サンスクリット語「ボーディサットヴァ」の音訳で「悟りを求める者」の意味
- 如来の補佐役として衆生救済を担う
- 華やかな装飾を身につけた王族のような姿が特徴
- 観音菩薩、地蔵菩薩、弥勒菩薩など多くの菩薩が信仰されている
- 自利と利他の両方を追求する「自利利他」の精神が本質
- 日本では神や高僧に菩薩号が与えられることもあった
お寺で菩薩像を見かけたら、その華やかな姿の奥にある「すべての人を救いたい」という慈悲の心を、ぜひ感じ取ってみてくださいね。


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