【異形なのに大人気!】エジプト神話の小人神「ベス」とは?守護神としての役割と伝承をやさしく解説!

神話・歴史・伝承

古代エジプトの神々といえば、優雅で美しい姿を思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。

ところが、そんな中に一人だけ、まるで妖怪のような異様な姿をした神がいたんです。

その名は「ベス」。小さな体に大きな顔、ライオンのたてがみと長いひげ、そして舌をべろんと出した姿は、まさに型破りでした。でも、この奇妙な見た目の神こそ、庶民から最も愛された存在だったんです。

この記事では、古代エジプトで民衆の生活を守り続けた異形の守護神「ベス」について、その姿や特徴、信仰の様子を詳しくご紹介します。

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概要

ベスは、古代エジプト全土で広く信仰された守護神です。

その名前は、エジプト語で「守る」を意味する「ベサ」から来ているとされています。

戦いの神、太陽とファラオ(王)の守護者といった高貴な役割も持っていましたが、何より民衆の日常生活を守る神として絶大な人気を誇りました。悪霊や毒蛇のような危険な生き物から人々を守り、出産や子育て、さらには音楽や踊りといった楽しい場面まで見守る、まさに万能の守護神だったんですね。

他のエジプトの神々が神殿で崇められる高貴な存在だったのに対し、ベスは普通の家庭の中で日用品に刻まれ、身近な守り神として親しまれました。

その性格は陽気で気のいい神とされ、厳粛で力強い他の神々よりも、庶民にとってずっと親しみやすい存在だったようです。

系譜

ベスの妻はベセト、つまり「女性版のベス」という意味の女神です。

ベセトもベスと同じように、出産や子育てを守る役割を持っていました。

関連する神々との結びつき

ベスは、さまざまな重要な神々と深く結びついていました。

  • ラー:太陽神であり、エジプト神話の最高神の一人
  • ホルス:天空と王権の神で、ファラオの守護者
  • ミン:生殖と豊穣を司る神
  • ハトホル:愛と喜び、音楽の女神
  • タウェレト(トゥエリス):出産を守る女神で、カバの姿をしている
  • セベク:ワニの頭を持つ神

興味深いのは、ベス自身は民間の守護霊的な存在から始まったにもかかわらず、これほど多くの主要な神々と関連付けられたということ。

それだけベスが人々の生活のあらゆる場面で必要とされていた証拠なんですね。

姿・見た目

ベスの外見は、古代エジプトの神々の中でも群を抜いて独特です。

身体的特徴

  • :大きくて老人のようにしわだらけ
  • :威嚇するかのようにらんらんと輝く大きな目
  • :長い舌をべろんと突き出している
  • ひげと髪:ライオンのたてがみのような巻き毛とひげに覆われている
  • 体格:顔に不釣り合いなほど小さく、ずんぐりした体型
  • 身長:不恰好な小人の姿

服装と持ち物

  • ライオンの毛皮を背負っている
  • 羽飾りのついた高い冠をかぶる
  • 腰蓑(こしみの)や蛇のベルトを身につける
  • 手には護符(お守り)、ナイフ、楽器などを持つ

他のエジプトの神々との最大の違い

通常のエジプトの神々は、獣や鳥の顔を持つとはいえ、美しく整った姿で横向きに描かれます。ところがベスは、まるで別の文化圏から来たかのような異様な姿で、正面を向いて描かれるんです。

この正面向きの描き方は、ベスがエジプト外から来た神であることを示唆しているとされています。

後の時代になると、ベスの姿はさらに複雑になりました。複数の頭を持ったり、翼が生えたり、足元に蛇を従えたりする姿でも描かれるようになったんです。

特徴

ベスには、他の神々にはない独特の役割と能力がありました。

守護者としての役割

  • 悪霊退散:悪霊や悪い魔法から人々を守る
  • 毒蛇対策:蛇やサソリなどの危険な生き物から守る
  • 家庭の守護:ベッド、枕、化粧道具などの日用品にベスの像が刻まれた
  • 子どもの保護:生まれたばかりの赤ちゃんと産室を守る

楽しみと喜びの神

ベスは単なる防御的な神ではありませんでした。音楽、踊り、酒宴といった人生の楽しい場面も司っていたんです。

自らハープや太鼓、トランペットを演奏しながら踊り、邪気を払うと考えられていました。婚礼の場でも重要な役割を果たし、人々の幸せな時間を見守る存在でした。

生殖と出産の守護

ミンやタウェレトといった神々と結びつくことで、ベスは若さと活力、生殖能力も司るようになりました。

このため、若い男性たちや妊婦からも厚い信仰を受けたんですね。

新王国時代(紀元前1550年頃~)になると、女性の踊り手や音楽家、召使いの女性たちの太ももにベスの入れ墨が施されることもありました。これも守護と豊穣を願ってのことでした。

民衆の必需品

ベスの像は、日常生活のあらゆる場面に登場します。

  • ベッドや家具の装飾
  • お守り(護符)
  • 赤ちゃん用の哺乳瓶
  • 魔除けのナイフ
  • 化粧道具

数えきれないほどの小像や護符が作られ、庶民の家に置かれていました。後の時代には、宇宙全体の守護者とまで言われるようになったんです。

神話・伝承

ベスにまつわる信仰は、神話というより民間の実践的な信仰として発展しました。

ファラオと太陽神の守護者

公式な役割として、ベスは太陽神ラーとファラオを守る戦士でした。

その勇ましい姿で、王家や神々の敵と戦う存在とされていたんです。この役割により、ベスは古代エジプト神話の中核を担うラーやホルスといった重要な神々と結びつけられました。

民衆レベルの信仰

しかし、ベスを本当に必要としたのは王族ではなく、名もない庶民たちでした。

人々は日々の暮らしの中で、ベスの姿を日用品に刻み込みました。寝室にベスの像を置けば悪霊が近づかず、安心して眠ることができる。赤ちゃんのそばにベスの護符を置けば、病気や危険から守ってくれる。そんな信頼があったんですね。

産室での役割

出産は古代社会において非常に危険な出来事でした。

ベスは産室に現れ、カバの姿をした女神タウェレトとともに、母子を守護すると信じられていました。無事に赤ちゃんが生まれるよう、悪霊を追い払ってくれる存在だったんです。

「ベスの部屋」の秘密

末期王朝時代(紀元前747~332年)になると、メンフィスなどの大都市に「ベスの部屋」という特別な施設が作られました。

この部屋の壁面は、ベスや裸体の女性の彫像で埋め尽くされていました。何のための部屋だったかというと、生殖能力の回復や不妊治療のためだったとされています。当時の人々にとって、ベスは子宝を授ける力を持つ重要な神だったんですね。

ローマ時代の変化

ローマ支配時代(紀元前30~紀元後395年)に入ると、ベスの姿は大きく変わりました。

軍装をまとった軍神として描かれるようになったんです。多くのエジプトの神々がギリシア・ローマの似た神と同一視される中で、ベスがこのように独自の変化を遂げたのは珍しいことでした。

遠方の神としての側面

興味深いことに、ベスは「プントの主人」「ヌビアの領主」とも呼ばれました。

プントとは、おそらく現在のソマリアやエチオピアあたりの地域で、ヌビアは現在のスーダン北部です。この呼び名は、ベスの起源が南方にあることを示唆しているんですね。

出典・起源

ベスの起源については、いくつかの説があります。

ヌビア・クシュ起源説

最も有力な説は、ヌビア(現在のスーダン)またはクシュ文化から来たというものです。

その証拠として挙げられるのが:

  • ベスの外見がサハラ以南のアフリカ人の特徴を持つこと
  • ヌビア語で「ベス」が「猫」を意味すること(ベスはしばしば猫科動物の特徴で描かれる)
  • 羽飾りの冠が古代クシュの装飾品と共通すること
  • 上エジプト(南部)で先に信仰が始まり、その後北部に広まったこと

実際、ベスが広く信仰されるようになったのは中王国時代(紀元前2055~1650年頃)からで、外国からの影響を受けた時期と重なります。

エジプト起源説

一方で、実はエジプト起源の神だったという説もあります。

先王朝時代(紀元前3150年以前)のナカダ期の遺跡、特にテル・エル・ファルカで、ベスのような小像が13体も発見されているんです。これはベスが非常に古い時代からエジプトに存在していた証拠になります。

おそらく、もともとエジプトにあった民間伝承が寄り集まって、やがて神として形を取ったのではないでしょうか。

名前の由来

「ベス」という名前の由来については、いくつかの説があります。

  • 「ベサ(守る)」というエジプト語から
  • 「bs(炎)」という象形文字から(太陽神ラーとの関連)
  • 「bz(導入する、始める)」という象形文字から

はっきりとした語源は分かっていませんが、守護者としての役割と結びついた名前であることは間違いなさそうです。

信仰の広がり

ベス信仰は、エジプトを越えて広く伝わりました。

  • 北はシリア地方まで
  • 西はスペインのイビサ島(バレアレス諸島)まで
  • 後にはペルシア帝国やローマ帝国の領域全体に

紀元前6世紀末からは、ペルシア帝国の首都スーサや、中央アジアの遠く離れた地域でもベスの像が見つかっています。時代が下るにつれて、ベスの姿はペルシア風の服装や装飾を身につけるようになり、各地の文化と融合していったんですね。

神殿と祭祀

ベスには固有の大神殿はありませんでした

これは、ベスがあくまで民衆の神であり、国家宗教の中心ではなかったことを示しています。多くの場合、他の神々の神殿で副次的に祭られるにとどまりました。

それでも、いくつかの場所ではベスが重要視されていました。

  • サッカラの聖域
  • デンデラやメディーネト・ハブの「マムミシ(誕生殿)」
  • フィレー島のハトホル柱礼拝堂
  • アビドスのセティ1世神殿にあった神託所(キリスト教時代まで存続)

最後のベスの証拠は、10世紀のテル・エドフで発見されたベスが描かれた水差しで、これはコプト時代(キリスト教エジプト)にまでベス信仰が続いていたことを示しています。

まとめ

ベスは、異形の姿でありながら古代エジプトで最も愛された守護神です。

重要なポイント

  • 古代エジプト全土で信仰された民衆の守護神
  • 小人の姿でライオンのたてがみと舌を出した独特の外見
  • 悪霊・毒蛇から人々を守り、出産や子育てを見守る
  • 音楽・踊り・喜びも司る多機能な神
  • ヌビア・クシュ起源とされるが、エジプト起源説もある
  • 固有の神殿はなく、民間信仰として発展した
  • ラー、ホルス、ハトホルなど主要な神々と結びついた
  • その信仰はスペインから中央アジアまで広がった

王族や貴族のための高貴な神ではなく、普通の人々の日常を守る身近な存在。そんなベスの姿勢が、何千年も人々に愛され続けた理由なのかもしれませんね。

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