真夜中、窓の外から女性の悲痛な泣き声が聞こえてきたら、それはただの風の音でしょうか?
アイルランドやスコットランドでは、その声は**家族の死を知らせる妖精「バンシー」**の叫びかもしれないと信じられてきました。熟睡している人でも飛び起きるほどの凄まじい泣き声で、近いうちに家族の誰かが亡くなることを予告するというんです。
でも、バンシーは決して人を殺す悪い妖精ではありません。むしろ古い家系を守る存在として、悲しみながらも大切な知らせを届けてくれる使者なのです。
この記事では、ケルトの伝承に登場する死の予言者「バンシー」について、その正体と特徴をわかりやすくご紹介します。
バンシーってどんな妖精なの?

バンシーは、アイルランドとスコットランドに伝わる女性の姿をした妖精です。
名前の由来は、ケルト語で「bean(女性)」+「sidhe(妖精)」で、「妖精の女」という意味。
「丘の女」とも訳されます。日本語では「泣き女」と呼ばれることもあるんですよ。
バンシーの最大の特徴は、家族の誰かが死ぬ前に現れて泣き叫ぶこと。
その声を聞いた家では、近いうちに必ず死者が出るとされています。
バンシーが守る家系
実は、バンシーは誰の死でも予告するわけではありません。
- 純粋なケルト系・ゲール系の血筋の家族
- 特に「O’」や「Mac」で始まる姓の旧家
- オグレディ家、オニール家、オブライエン家など名門
つまり、古くからアイルランドに住む由緒ある家系にだけ、専属のバンシーがついているんです。
姿・見た目
バンシーの姿は地域によって様々ですが、共通しているのは女性の姿ということ。
バンシーの外見パターン
アイルランドでの姿
- 緑色の服に灰色のマントを羽織る
- 長い黒髪(または白髪)を垂らしている
- 泣き続けているため目の縁が赤い
- 美しい若い女性、または老女の姿
スコットランドでの姿
- 鼻がなく、歯が飛び出した醜い老女
- 小柄で1フィート(約30cm)から4フィート(約120cm)
- 赤い水かきのある足を持つものも
地域差はありますが、悲しみに暮れている女性という点は共通しているんですね。
特徴
バンシーには独特な行動パターンと能力があります。
バンシーの行動
泣き声の特徴
- あらゆる叫び声を合わせたような凄まじい声
- 悲鳴のようにも、子供の泣き声のようにも聞こえる
- 熟睡している人も飛び起きるほどの音量
- 家の窓の下で泣き叫ぶ(これを「keen(キーン)」と呼ぶ)
現れ方のパターン
- 両手を打ち合わせながら泣く
- 木の下にうずくまって嘆く
- 顔をヴェールで隠して泣く
- 姿は見せずに声だけ聞こえることも
特殊な能力
バンシーはただ泣くだけではなく、不思議な力も持っています。
- 変身能力:カラスに変身することがある
- 瞬間移動:壁をすり抜けたり、瞬時に移動する
- 予知能力:遠く離れた場所の死も察知できる
- 願いを叶える力:勇気ある者には三つの願いを叶えるという伝承も
複数のバンシーが現れる時
普通は一人で現れるバンシーですが、複数のバンシーが一緒に泣くことがあります。これは偉人や聖人の死を予告する時だけ。1692年のグレンコーの虐殺の前には、マクドナルド一族のバンシーが毎晩泣いたという記録も残っています。
伝承と地域差

バンシーには地域ごとに様々な呼び名と特徴があります。
各地のバンシー
ベン・ニーア(スコットランド高地)
- 「洗う女」という意味
- 川辺で血のついた衣服を洗う姿で現れる
- 死ぬ人の服を洗っているとされる
クーニアック(スコットランド)
- 「泣く者」という意味
- 姿は見せず、滝の近くで泣き叫ぶ
- 新月の夜に現れることが多い
グラッハ・ア・フリビン(ウェールズ)
- もつれた髪と黒い歯を持つ醜い老婆
- 十字路や小川で地面を叩きながら泣く
- 子供が死ぬ時は「うちの子が!」と叫ぶ
バンシーにまつわる習慣
アイルランドの葬式では、今でも「弔い泣き」という習慣があります。これは専門の泣き女が故人を悼んで泣く儀式で、バンシーの真似から始まったとも言われているんです。
まとめ
バンシーは、死を予告する悲しみの妖精です。
重要なポイント
- アイルランド・スコットランドの女性の姿をした妖精
- 古いケルト系の家系にだけ現れる守護的存在
- 緑の服に灰色のマントが基本的な姿
- 凄まじい泣き声で家族の死を予告
- 死を告げるだけで人に危害は加えない
- 複数現れると偉人の死の前触れ
- 地域によって「洗う女」など様々な呼び名
恐ろしい存在のように思えますが、実はバンシーは家族を守る存在。
死という避けられない運命を、せめて家族に知らせようとする悲しい使者なのかもしれません。
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