ロシアの伝統的なサウナ「バーニャ」で、一人きりで入浴していると、突然熱湯がかかってきたり、誰もいないはずなのに背中を触られたり…。
それは風呂場の精霊バーンニクの仕業かもしれません。
機嫌が良ければ未来を教えてくれるけれど、怒らせると命に関わる。そんな気まぐれで恐ろしい存在がロシアの浴場には住んでいるといわれています。
この記事では、スラヴ神話に登場する風呂場の精霊バーンニクの正体と、人々との不思議な関係について詳しくご紹介します。
概要
バーンニク(ロシア語:Банник)は、スラヴ神話に登場する浴場の精霊です。
名前の由来はロシア語で浴槽を意味する「バーニャ」から来ています。ロシアの伝統的なサウナであるバーニャ(戸外にある蒸し風呂小屋)に住み着き、その場所を守っているんです。
日本でいえば「風呂場の守り神」のような存在ですが、バーンニクははるかに危険で気まぐれ。機嫌が良ければ未来を予言してくれたり、悪霊から守ってくれたりしますが、邪魔をされると熱湯をかけたり、首を絞めたりすることもあるという、まさに両極端な性格の持ち主なんです。
ロシアの人々は、このバーンニクと上手に付き合うために、様々な儀式や供物を捧げてきました。
姿・見た目

バーンニクの姿は、はっきりと見ることが難しいといわれています。
基本的な姿
一般的に伝えられる姿
- 白髪と白ひげをたくわえた小柄な老人
- やせたおじいさんのような外見
- 体は使い古された白樺の葉(バーニャで使う枝の葉)で覆われている
- 裸の姿で現れることが多い
見えにくい理由
バーンニクがはっきり見えない理由は、バーニャが湯気で満たされているからです。
蒸気が立ち込める中では、その姿はぼんやりとしか見えません。まるで湯気そのものが精霊の体のようだといわれることもあるんです。
変身能力
バーンニクには変身能力があります。
変身できる姿
- 地元の知り合いそっくりの姿
- 石や石炭(かまどの中で)
- 家族の誰かの姿
この能力のせいで、バーニャで出会った人が本物の人間なのか、バーンニクなのか分からないことがあるんです。ちょっと怖いですよね。
特徴
バーンニクには、善と悪の両面があります。
危険な一面
バーンニクの恐ろしさは、その気まぐれな性格にあります。
バーンニクの悪戯と攻撃
- 熱湯をかけて火傷を負わせる
- 首を絞める
- 皮をはがす
- 浴場を全焼させる
特に危険なのは、バーンニクの入浴時間に誤って入ってしまうことです。伝統的に4回に1回の入浴はバーンニクのために空けておく必要があり、この時間に入ると命に関わるといわれています。
守護と予言の力
一方で、バーンニクには人を助ける力もあります。
バーンニクの良い面
- 未来予知の能力を持つ
- 悪霊から人々を守る
- バーニャで生まれた子供を特別に守護する
- 占いで吉凶を教える
未来を占ってもらう方法は独特です。浴場のドアを少し開けて、裸の背中を向けて立つと、バーンニクが触れてきます。優しく撫でられたら吉兆、爪で引っかかれたら凶兆なんです。
伝承
バーンニクにまつわる伝承は、恐ろしいものから不思議なものまで様々です。
バーンニクをなだめる儀式
ロシアの人々は、バーンニクの機嫌を損ねないよう、様々な儀式を行ってきました。
供物と儀式
- 入浴後に石鹸、水、モミの枝を残す
- 声に出して「ありがとう」と感謝を述べる
- 新しいバーニャを建てる時は黒い鶏を生贄にして埋める
- バーニャを出る時は後ろ向きで退出し、お辞儀をする
これらの儀式を怠ると、バーンニクは怒って浴場を燃やしてしまうこともあったそうです。
クリスマスの占い
クリスマスの季節には、村の少女たちがバーンニクに占いをしてもらう風習がありました。
少女たちは一人ずつ浴場の入り口に立ち、スカートをまくり上げて中に向かってお尻を出します。バーンニクが優しく撫でたら良い年、引っかいたら悪い年、指輪をくれたら素晴らしい未来が待っているとされていました。
ただし、意地悪なバーンニクもいて、ある娘は指全部に大きな鉄の輪をはめられてしまったという怖い話も残っています。
恐怖と救済の物語
バーンニクの二面性を表す伝承がいくつも残されています。
恐ろしい話では、沐浴客の世話をしていた老婆が首を絞められて死んだり、バーンニクを利用しようとした女性が皮をはがされて殺されたりしています。
一方で救いの話もあり、ベロツェルスクでは悪霊に追われた少女たちがバーニャに逃げ込み、バーンニクに守られたという伝承があるんです。
まとめ
バーンニクは、人間との共存を求める不思議な精霊です。
重要なポイント
- ロシアの伝統的サウナバーニャの守護精霊
- 白髪の老人の姿だが、湯気で見えにくい
- 変身能力を持ち、人の姿にもなれる
- 4回に1回の入浴時間が割り当てられる
- 熱湯攻撃など危険な面と未来予知の恩恵がある
- 供物を捧げて機嫌を取る必要がある
日本の風呂場の妖怪「垢なめ」が人畜無害なのに比べ、バーンニクは命に関わるほど危険な存在です。
でも適切に敬意を払えば、守護者として頼りになる。
そんな緊張感のある関係が、ロシアの人々と精霊の独特な共存の形を表しているのかもしれませんね。
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