宇宙の中心で、永遠に狂った音楽が鳴り響いているのを想像できますか?
そこには、すべての神々の頂点に立つ恐ろしい存在が座っています。
それが「アザトース」──クトゥルフ神話において最も強大で、最も恐るべき神なのです。
この記事では、宇宙の混沌を支配する究極の邪神「アザトース」について、その恐ろしくも魅力的な姿や特徴、興味深い伝承を分かりやすくご紹介します。
概要
アザトースは、H・P・ラヴクラフトが創造したクトゥルフ神話における最高位の神格です。
「魔皇(まおう)」「万物の王」「白痴の魔王」など、さまざまな異名で呼ばれています。宇宙の中心にある混沌の玉座に座り、すべての「外なる神」を統べる存在として描かれているんです。
興味深いのは、これほど強大な存在なのに「白痴」と呼ばれていること。これは知能が低いという意味ではなく、人間には理解不能で、人間の出来事に全く関心を持たない、超越的な存在であることを表しています。
クトゥルフ神話の世界では、アザトースは宇宙そのものの根源とされ、すべての存在がアザトースから生まれたとも言われているんですね。
系譜
アザトースは、クトゥルフ神話の神々の始祖として位置づけられています。
アザトースから生まれた存在
ラヴクラフトが1933年に書いた系譜図によると、アザトースからは以下の存在が生まれました:
直接の子供たち
- ナイアーラトテップ(這い寄る混沌):アザトースの意志を伝える使者
- 「無名の霧」:ヨグ=ソトースを生み出した
- 「闇」:女神エリニグスを生み出した
これらの存在から、さらに多くの神々が誕生しています。たとえば、有名なクトゥルフやシュブ=ニグラスも、アザトースの系譜に連なる存在なんです。
神々の階層構造
クトゥルフ神話では、アザトースを頂点とした明確な階層があります:
- アザトース(魔王・すべての頂点)
- ヨグ=ソトース(副王・時空の門番)
- ナイアーラトテップ(使者・アザトースの意志の代行者)
- その他の外なる神々(シュブ=ニグラスなど)
つまり、アザトースは文字通り「神々の神」という位置づけなんですね。
姿・見た目
アザトースの姿は、人間の理解を超えた恐ろしいものです。
基本的な外見
無定形の巨大な影として描写されることが多く、その姿は常に変化しています:
- 膨張と収縮を繰り返す:まるで呼吸するように、巨大化したり縮小したりする
- 沸騰する混沌:その体は常に泡立ち、煮えたぎっている
- 黒い影のような存在:明確な形を持たない、不定形の塊
玉座の光景
アザトースは宇宙の中心にある「混沌の玉座」に座っています。その周りの光景も異様なんです:
周囲の様子
- 無数の心を持たない楽師が踊り狂っている
- 狂ったフルートの単調な音色が響く
- 下劣な太鼓がくぐもった音を打ち鳴らす
- これらの音楽が永遠に、アザトースを慰めている
想像してみてください。宇宙の中心で、巨大な影が脈動しながら、狂った音楽に包まれている光景を。それがアザトースの座する場所なんです。
特徴
アザトースには、他の神々とは異なる独特な特徴があります。
主な特性
1. 盲目にして白痴
- 人間の理解を超越した存在
- 人間界の出来事に全く関心がない
- 意識や知性が人間とは根本的に異なる
2. 創造と破壊の力
- すべての存在はアザトースの思考から生まれた
- アザトースを見た者は存在を破壊される
- 宇宙そのものがアザトースの夢だという説もある
3. 永遠の眠り
- 常に半覚醒状態にある
- 周囲の音楽によって慰められている
- 完全に目覚めると宇宙が終わるかもしれない
アザトースの影響力
面白いことに、アザトース自身が直接何かをすることは極めてまれです。代わりに、使者であるナイアーラトテップがその意志を実行します。
また、「世界はアザトースの見る夢」という有名な説があります。もしアザトースが目覚めたら、この宇宙も消えてしまうかもしれないという、恐ろしい設定なんですね。
伝承
ラヴクラフトの作品での登場
アザトースが本格的に登場したのは、1926年に書かれた『未知なるカダスを夢に求めて』という作品です。
この作品では、アザトースはこう描写されています:
- 無限の中核で冒涜の言葉を吐き散らしている
- 時を超越した想像もできない場所にいる
- 誰もその名を口にしようとしない恐ろしい存在
『ネクロノミコン』での記述
クトゥルフ神話の架空の魔導書『ネクロノミコン』(死霊秘法)では、アザトースは「慈悲深くも隠された名前」として記されています。つまり、その本当の名前を知ることすら危険だということなんです。
エドワード・ダービィの詩集
作中の詩人エドワード・ピックマン・ダービィは、『アザトースその他の恐怖』という詩集を出版し、文壇に大きなセンセーションを巻き起こしたとされています。これは、アザトースの恐ろしさが芸術作品のテーマになるほど有名だったことを示しています。
小惑星帯の伝説
火星と木星の間にある小惑星帯は、かつてそこにあった惑星が、召喚されたアザトースによって砕かれた跡だという伝説もあります。宇宙規模の破壊力を持つ存在として描かれているんですね。
出典
アザトースという存在は、H・P・ラヴクラフト(1890-1937)によって創造されました。
初出と発展
- 1919年:ラヴクラフトの備忘録に「AZATHOTH──おぞましき名前」という記述が初登場
- 1926年:『未知なるカダスを夢に求めて』で本格的に描写
- 1931年:『闇に囁くもの』で「原子核の渾沌世界」として言及
- 1935年:『闇の跳梁者』で「万物の王」として描写
名前の由来
「アザトース」という名前の由来には諸説あります:
- 聖書の地名「アナトテ」と悪魔「アザゼル」の合成
- 錬金術用語「アゾート」(賢者の石に関連する物質)から
影響を受けた作品
ラヴクラフトは、ロード・ダンセイニの『ペガーナの神々』に登場する創造神マアナ=ユウド=スウシャイから影響を受けたとされています。この神も、眠っている間に世界が存在し、目覚めると世界が消えるという設定があったんです。
まとめ
アザトースは、クトゥルフ神話における究極の恐怖と混沌を象徴する存在です。
重要なポイント
- クトゥルフ神話の最高位の神格で、すべての神々の始祖
- 無定形の巨大な影として、宇宙の中心で永遠に座している
- 「盲目にして白痴の魔王」と呼ばれ、人間には理解不能な存在
- 狂った音楽に包まれながら、半覚醒状態を保っている
- すべての存在の創造主であり、破壊者でもある
- ラヴクラフトが1919年から構想し、多くの作品に登場させた
アザトースは、人間の理解を超えた宇宙的恐怖を表現した、まさにクトゥルフ神話の核心といえる存在です。その名前すら口にすることがはばかられる、究極の混沌の化身──それがアザトースなのです。
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