【世界を創った聖なる牝牛】北欧神話の「アウズンブラ」とは?その役割と神秘的な伝承を解説!

神話・歴史・伝承

氷と火の狭間から生まれ、四本の乳の川で巨人を育て、氷の中から神々の祖先を舐め出した牝牛がいたとしたら、あなたは信じますか?

北欧神話の創世神話には、世界の始まりに重要な役割を果たした不思議な牝牛が登場するんです。

その名は「アウズンブラ」。神々と巨人、両方の種族の誕生に関わった、まさに世界創造のキーパーソン(キー牛?)なんですよ。

この記事では、北欧神話の原初の牝牛「アウズンブラ」について、その神秘的な役割や興味深い伝承を分かりやすくご紹介します。

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アウズンブラってどんな存在なの?

アウズンブラは、北欧神話の世界創造神話に登場する最初の牝牛です。

13世紀のアイスランドの詩人スノッリ・ストゥルルソンが書いた『散文のエッダ』という書物に記されている、とても古い存在なんですね。

名前の意味は「豊かなる角なし牛」。
古ノルド語で「auðr(アウズ)」は「富」や「豊かさ」を、「humala(フムラ)」は「角なし」を意味しています。

アウズンブラが生まれた場所

世界の始まり、ギンヌンガガプという大きな虚無の空間がありました。

その北側には氷の世界ニヴルヘイム、南側には火の世界ムスペルヘイムがあって、この二つの世界が出会う場所で不思議なことが起きたんです。

  • エーリヴァーガルという川から流れ出た霜
  • その霜が火の熱で溶けて滴る水滴
  • そこに命が宿って生まれたのがアウズンブラ

つまり、氷と火という正反対の力が出会って、生命が誕生したということですね。

世界創造における重要な役割

アウズンブラの最も重要な役割は、二つの種族の誕生を助けたことでした。

巨人の祖先を育てる

  • 原初の巨人ユミルに乳を与えて養った
  • 四本の乳房から流れ出る乳の川でユミルを成長させた

神々の祖先を生み出す

  • 塩味のする氷の塊(霜の岩)を舐めた
  • その場所から神々の祖先ブーリが現れた

このように、後に対立することになる巨人族と神族、両方の誕生に関わっているところが興味深いんです。

伝承

四本の乳の川の神秘

『ギュルヴィたぶらかし』という物語の中で、アウズンブラの姿が詳しく語られています。

ある王様が「ユミルは何を食べて生きていたの?」と質問したところ、こんな答えが返ってきました。

「霜が滴ったすぐ後に、そこからアウズンブラという名の牝牛が生まれました。彼女の乳房からは四本のミルクの川が流れ出て、それがユミルを養ったのです」

四本もの川になるほどのミルクって、想像を絶する量ですよね。まさに「豊かなる牛」という名前にふさわしい存在だったんです。

氷を舐めて神を生み出す奇跡

さらに面白いのが、アウズンブラ自身は何を食べていたのかという話です。

王様の質問に対する答えはこうでした:

「彼女は塩味のする霜の岩を舐めていました」

そして、ここからが本当に不思議な話なんですが:

  • 1日目:岩を舐めていると、夕方になって人間の髪の毛が現れた
  • 2日目:次の日には人間の頭が出てきた
  • 3日目:ついに全身が現れて、一人の男性が姿を現した

この男性がブーリという名前で、後の主神オーディンの祖父にあたる存在だったんです。

つまり、アウズンブラが氷を舐めることで、神々の系譜が始まったということになります。

神話における位置づけ

実は、アウズンブラについて書かれているのは『散文のエッダ』だけで、他の北欧神話の文献にはほとんど登場しないんです。

『古エッダ』という、もっと古い詩集にも出てこないので、「もしかしたらスノッリが創作したのでは?」という疑いもありました。

でも、研究者たちは次のような理由から、アウズンブラは古代ゲルマン神話の非常に古い層に属すると考えています:

  • 世界各地の創世神話に牛が登場することが多い
  • ゲルマン民族には角なし牛を飼育する伝統があった
  • 牛と関連する女神信仰が広く存在していた

他の神話との共通点

興味深いことに、牛が重要な役割を果たす神話は世界中にあるんです。

古代エジプト神話

  • ハトホル女神:牛の頭を持つ女神
  • イシス女神:牛と関連する図像を持つ

古代ギリシャ神話

  • ヘラ女神:「牛の目をした」という形容詞で呼ばれる

ゲルマンの女神ネルトゥス

  • 牛に引かれた車に乗って国中を巡る女神

このように、牛(特に牝牛)は豊穣や母性、生命の源として、多くの文化で神聖視されてきたんですね。

まとめ

アウズンブラは、北欧神話の世界創造において欠かせない存在でした。

重要なポイント

  • 氷と火の出会いから生まれた原初の牝牛
  • 四本の乳の川で巨人族の祖ユミルを養った
  • 塩味の氷を舐めて神々の祖ブーリを出現させた
  • 巨人族と神族、両方の誕生に関わった仲介者
  • 世界各地の牛信仰と共通する神聖な存在

アウズンブラは、対立する二つの種族を結びつける存在として、まさに世界の母とも呼べる役割を果たしました。

氷を舐めて神を生み出すという発想は、現代の私たちには奇妙に思えるかもしれません。でも、厳しい自然環境で暮らしていた北欧の人々にとって、家畜の牛がもたらす恵みがいかに大切だったか、この神話からも感じ取れますね。

次に牛乳を飲むとき、もしかしたら太古の昔、世界を創った聖なる牝牛のことを思い出すかもしれません。

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