山道を一人で歩いていると、誰かに後をつけられているような気配を感じたことはありませんか?
振り返っても誰もいない。でも、また歩き出すと、あの気配が戻ってくる…。
神奈川県の丹沢地方では、こうした不思議な体験は「後追い小僧(あとおいこぞう)」という妖怪の仕業だと考えられてきました。
この記事では、山の神霊とも言われる「後追い小僧」について、その姿や特徴、心温まる伝承を詳しくご紹介します。
概要
後追い小僧は、神奈川県丹沢地方東部に古くから伝わる妖怪です。
山霊(山の神霊)の一種とされ、山中を歩く人間の後をひっそりとつけてくる存在として知られています。
他の恐ろしい妖怪たちとは違い、人に危害を加えることは一切ありません。ただ無言で後をついてくるだけなんです。
古くから山は死後の世界に近い場所と考えられ、死者の霊が集まってくる場所とされてきました。そうした背景から、後追い小僧は亡くなった子供の霊が生きている人間になついて現れた姿だという説があります。
姿・見た目
後追い小僧の姿は、幼い子供そのものなんです。
後追い小僧の外見的特徴
- 年齢:4歳から10歳程度(時には15歳ほどのこともある)
- 服装:ぼろぼろのむしろや絣(かすり)の着物、毛皮などを纏っている
- 夜の姿:提灯のような火を灯して現れる
絣というのは、糸を部分的に染めて織った模様のある布地のことです。ぼろぼろの服を着た子供の姿は、どこか悲しげで、見た人の心に訴えかけるものがあったのでしょう。
特徴
後追い小僧には、独特の行動パターンがあります。
基本的な行動
無言で後をつけるのが後追い小僧の最大の特徴です。
山道を歩いている人の後ろから、まるで影のようについてきます。つけられた人が気配を感じて振り返ると、木や岩の陰にさっと隠れてしまい、姿は見えなくなるんです。
意外な一面
後ろからついてくるだけではありません。時には道案内をするように前を歩くこともあるそうです。
出現時間
- 昼間:午後に現れることが多い
- 夜間:提灯のような灯りを持って現れる
音と声の特徴
後追い小僧は、声を出すことも物音を立てることもありません。だからこそ、その気配だけが不気味に感じられるのかもしれませんね。
無害な存在
恐ろしそうに思えますが、実は人間に危害を加えることは一切ないんです。ただついてくるだけの、不思議で少し寂しげな妖怪なのです。
消え方
後追い小僧が消える条件は、いくつか伝えられています。
- 里に近づくと自然に消える
- 夜に声をかけると消える
山の妖怪らしく、人里に入ると姿を消してしまうんですね。
伝承
後追い小僧にまつわる伝承には、人々の優しさと切なさが込められています。
食べ物を置いていく風習
何度も後追い小僧に遭遇した人たちは、ある特別な対応をしていました。
置いていく食べ物
- 握り飯(おにぎり)
- 芋
- 菓子
- 干し柿
これらの食べ物を、岩や切り株の上に置いていったんです。
なぜ食べ物を置いたのか
この行動には、深い理由がありました。
人々は後追い小僧を見て、こう考えたのです。
「もしかしたら、この子は自分が亡くした子供の霊なのかもしれない」
山は古来より死後の世界に近い異界として信じられてきました。死者の霊が寄り集まる場所だと考えられていたんですね。
だから、後追い小僧に出会った人々は、それが自分の亡くした子供かもしれないと思い、せめて食べ物だけでも残していこうと考えたのです。
伝承が語る人々の心
この伝承からは、当時の人々の優しさが伝わってきます。
妖怪だと怖がるのではなく、「もしかしたら自分の子供かもしれない」と思いやる心。山で不思議な体験をしても、それを温かく受け止めようとする姿勢。
後追い小僧の伝承は、単なる怪談ではなく、亡くした子供を想う親の愛情が形になったものなのかもしれません。
まとめ
後追い小僧は、神奈川県丹沢地方に伝わる心温まる妖怪です。
重要なポイント
- 神奈川県丹沢地方東部に伝わる山の神霊
- 4歳から10歳程度の子供の姿で、ぼろぼろの服を着ている
- 山道を歩く人の後を無言でついてくる
- 振り返ると木や岩の陰に隠れる
- 声も物音も立てず、危害を加えることもない
- 人々は食べ物を置いて供養した
- 亡くなった子供の霊が現れたものという説がある
恐ろしい妖怪というより、どこか寂しげで、人々の優しさを引き出す存在。それが後追い小僧なんです。もし丹沢の山道で不思議な気配を感じたら、それは後追い小僧が寂しくてついてきているのかもしれませんね。


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