地底の奥深く、光も届かない暗闇の中で、永遠に糸を紡ぎ続ける巨大な蜘蛛がいるとしたら、あなたはどう思いますか?
クトゥルフ神話に登場する恐ろしい神性「アトラク=ナクア」は、まさにそんな存在なんです。
巨大な深淵に橋をかけるように巣を張り続け、その作業が完成した時、世界が終わるという不吉な伝説を持つ蜘蛛の神。
この記事では、クトゥルフ神話の中でも特に不気味な存在である「アトラク=ナクア」について、その恐ろしい姿や特徴、興味深い伝承を分かりやすくご紹介します。
概要

アトラク=ナクア(Atlach-Nacha)は、クトゥルフ神話に登場する蜘蛛の姿をした神性です。
「アトラク=ナチャ」「アトラック=ナチャ」とも呼ばれ、旧支配者(Great Old Ones)の一柱として数えられています。
クラーク・アシュトン・スミスの小説『七つの呪い』で初めて登場し、ハイパーボリア大陸の地底深くにある巨大な深淵で、永遠に巣を張り続けている存在として描かれました。
この神の最大の特徴は、無限の時をかけて巣を作り続けているということ。しかも、その巣が完成した時が世界の終わりだというんですから、なんとも恐ろしい話ですよね。
系譜
アトラク=ナクアの出自について、いくつかの説があります。
宇宙からの来訪者
リン・カーターの設定によると、アトラク=ナクアは土星から地球に飛来したとされています。同じく土星から来たツァトゥグァという神格と共に、地の底のン・カイという場所に幽閉されているんです。
古代の信仰対象
興味深いことに、地中海東岸の古代フェニキアで信仰されていたという記録もあります。つまり、人類の歴史においてかなり古い時代から知られていた存在ということになりますね。
姿・見た目
アトラク=ナクアの姿は、一言で言えば「巨大で不気味な蜘蛛」です。
身体的特徴
- 大きさ:人間とほぼ同じくらいの巨大さ
- 目:真紅に近い赤色で光る
- 体毛:黒檀色の毛で全身が覆われている
- 脚:丸太のように太く頑丈
- 顔:人面のような不気味な頭部を持つ
- 牙:長く管状で、毒を注入する機能がある
特に恐ろしいのは、その見た目からは想像できないほどの素早さで移動できるということ。巨体にもかかわらず、信じられない速度で動くというギャップが、より一層の恐怖を演出しています。
特徴

アトラク=ナクアには、他の神格にはない独特な特徴があります。
永遠の作業
この神の最大の特徴は、無限に糸を紡ぎ続けることです。
地底の巨大な深淵に、延々と巣を張り巡らせているんですが、その目的は謎に包まれています。一説によると、この巣が完成した瞬間に世界が滅びるとか。だから永遠に完成しないことを祈るしかないという、なんとも皮肉な存在なんですね。
恐るべき毒
アトラク=ナクアの牙には猛毒が仕込まれています。
この毒の効果:
- 即座に全身が麻痺する
- 呼吸器官が侵されて死に至る
- ごくまれに生き残った者は「帰化」して眷属になる
性格
意外なことに、アトラク=ナクアは究極のワーカホリックなんです。
自分の作業を邪魔されることを極端に嫌い、ひたすら巣作りに没頭しています。『七つの呪い』では、ツァトゥグァから貢ぎ物として人間を差し出されても「忙しくて構ってられない」と断ったエピソードもあるほど。
声
甲高く針のように鋭い声を出すとされ、その声を聞いた者は恐怖で身がすくむといいます。
伝承

『七つの呪い』での登場
クラーク・アシュトン・スミスの小説『七つの呪い』では、主人公がツァトゥグァへの生贄として地底に送られた際、アトラク=ナクアと遭遇します。
しかし、アトラク=ナクアは巣作りに忙しすぎて、せっかくの貢ぎ物にも興味を示さず、別の存在にたらい回しにしてしまいました。恐ろしい神様なのに、仕事に夢中すぎて人間に構っている暇がないという、ちょっと皮肉な展開ですね。
探検隊の悲劇
ペルー・アンデスで大いなる深淵を探索した探検隊が、アトラク=ナクアに接触を試みたという記録があります。
隊員たちはグラスファイバーの防護服を着込んで挑みましたが、アトラク=ナクアの牙はそれをも貫通。毒を注入された隊員たちは行方不明となり、深淵の手がかりは今も見つかっていません。
眷属たち
アトラク=ナクアには、さまざまな眷属(従者)がいます。
主な眷属
- 灰色の織り手:多足の種族で、アトラク=ナクアに仕える
- チィトカア:灰色の織り手たちのリーダー的存在
- レンの蜘蛛:ドリームランドに住む紫色の大蜘蛛
- アトラク=ナクアの娘:毒から回復した人間が変貌した巨大蜘蛛
特に「アトラク=ナクアの娘」は興味深い存在で、選ばれた女性が毒蜘蛛に噛まれて一度は死にますが、まれに毒から回復すると体に痣が残り、時間をかけて巨大な蜘蛛に変貌するんです。
出典
アトラク=ナクアが登場する主な作品:
- 『七つの呪い』(クラーク・アシュトン・スミス)- 初登場作品
- 『深淵への降下』(ジョン・R・フルツ)- 眷属が登場
- 『未知なるカダスを夢に求めて』(H.P.ラヴクラフト)- レンの蜘蛛が登場
これらの作品を通じて、アトラク=ナクアの設定は徐々に充実していき、クトゥルフ神話の重要な神格の一つとして確立されました。
まとめ
アトラク=ナクアは、永遠に巣を張り続ける不気味な蜘蛛の神です。
重要なポイント
- クトゥルフ神話の旧支配者の一柱
- 人間大の巨大な蜘蛛の姿で、真紅の目を持つ
- 地底の深淵で永遠に巣を張り続けている
- 巣が完成した時、世界が滅びるという伝説
- 究極のワーカホリックで作業を邪魔されるのを嫌う
- 猛毒を持ち、生き残った者は眷属になる
- 土星から飛来し、古代フェニキアで信仰されていた
深い地の底で、今もなお糸を紡ぎ続けているアトラク=ナクア。その巣がいつ完成するのか、そもそも完成することがあるのか、誰にも分かりません。
ただ一つ確かなのは、この不気味な蜘蛛神が、クトゥルフ神話の中でも特に印象的で恐ろしい存在として、多くの人々の想像力を刺激し続けているということですね。


コメント