夜道を急いで歩いていると、突然足に何か柔らかいものが絡みついてきた経験はありませんか?
もしそれが香川県の高松市だったら、あなたは妖怪「足まがり」に出会ったのかもしれません。
綿のようにふわふわしているけれど、どうしても振り払えない不思議な感触。昔から高松の人々を困らせてきたこの妖怪の正体は、実はあの身近な動物だったんです。
この記事では、四国に伝わる邪魔っ気たっぷりの妖怪「足まがり」について、その特徴や伝承を分かりやすくご紹介します。
概要

足まがり(あしまがり)は、香川県の高松市を中心に伝わる妖怪です。
名前の「まがり」は、香川県や徳島県、淡路島などで使われる方言で「邪魔になる」「まとわりつく」という意味があります。つまり足まがりとは、文字通り「足の邪魔をする存在」という意味なんですね。
この妖怪の特徴的な行動は、夜道を歩く人の足に綿のような柔らかいものを絡みつけて、歩くのを邪魔することです。
足まがりの基本情報
- 出現場所:香川県高松市、大川郡石田村(現・さぬき市)など
- 正体:狸(たぬき)の仕業とされている
- 特徴:姿は決して見えない
- 活動時間:主に夜
- 目的:通行人の邪魔をすること
面白いのは、この妖怪が四国特有の「狸信仰」と深く結びついていることです。
四国では何か不思議なことがあると「ありゃあ、狸が化けているんだ」と、なんでも狸のせいにする傾向があるんです。例えば、本州では狐火(きつねび)と呼ばれる怪火も、四国では「狸の火」になってしまいます。
伝承

足まがりにまつわる伝承は、地域によって少しずつ違いがあって興味深いんです。
高松市の基本的な伝承
高松市で最も一般的に語られるのは、こんな話です。
慌てて夜道を歩いていると、いきなり足に何か柔らかいものが絡みついてきます。驚いて手で触ってみると、それは綿のような感触。でも、いくら振り払おうとしても取れません。
ある人がその綿のようなものを掴んでみると、それは尻尾のような形をしていたという証言もあります。これが狸の仕業だという説の根拠になっているんですね。
高松琴平電気鉄道志度線での出来事
具体的な場所での目撃談もあります。
高松琴平電気鉄道志度線の潟元駅付近では、特に足まがりがよく現れたといいます。ここで足まがりに遭遇した人が、必死に足を振って振り払おうとしたところ、なんとその綿のようなものが松の木の根っこに変わってしまい、それに躓いて怪我をしたという話が残っています。
地域ごとの違い
香川県内でも、地域によって足まがりの現れ方が違うのが面白いところです。
地域別の足まがりの特徴
- 丸亀市綾歌町:糸状のものが足に絡みつく
- 仲多度郡琴南町(現・まんのう町):鞠(まり)状のものが転がってきて、蹴るたびに大きくなる
- 仲多度郡多度津町:「ウチワタダノキ(打綿狸)」と呼ばれ、綿が動き出して空に上がっていく
特に琴南町のバージョンは独特で、最初は小さな鞠のようなものが転がってきて、蹴飛ばすと少しずつ大きくなっていき、最後には蹴ることもできないほど巨大になって、完全に通行不能になってしまうんだとか。
狸の仕業という解釈
なぜ足まがりは狸の仕業とされているのでしょうか?
これには、四国の文化的背景が大きく関わっています。四国は古くから「狸の国」として知られ、狸にまつわる伝承が他の地域よりも圧倒的に多いんです。
実際、同じような足に絡みつく妖怪は全国各地にいます。例えば、岡山県の「すねこすり」や、静岡県の「ツツゴ」なども似た性質を持っています。でも、これを明確に「狸の仕業」としているのは、足まがりだけなんですね。
昔の文献『讃州高松襍誌』を書いた宮武省三や、民俗学者の柳田國男も、この妖怪について記録を残しています。彼らの記録によれば、高松では実際に多くの人がこの不思議な体験をしていたようです。
まとめ
足まがりは、香川県に伝わる愛嬌のあるいたずら妖怪です。
重要なポイント
- 香川県高松市を中心に伝わる妖怪
- 夜道で足に綿のようなものを絡みつけて邪魔をする
- 正体は狸のいたずらとされている
- 姿は決して見えないが、触ると綿や尻尾のような感触がある
- 地域によって現れ方にバリエーションがある
- 四国の狸信仰と深く結びついている
足まがりは、人に危害を加えるような恐ろしい妖怪ではありません。ちょっと邪魔をして、人間を困らせて楽しんでいるだけの、いたずら好きな存在なんです。
もし香川県で夜道を歩いていて、足に何か絡みついてきたら、それは今でも狸が化けた足まがりが、あなたにいたずらを仕掛けているのかもしれませんね。


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