家の戸が勝手に開く音がしたのに、誰もいない。
近所の人が「さっき○○さんに会った」と言うけれど、その人は病床で動けないはず。
そんな不可思議な出来事が起きたとき、青森県西津軽地方の人々は「アマビトが出た」と言うんです。
この記事では、死期が迫った人の魂が体を離れて歩き回るという、青森に伝わる神秘的な現象「アマビト」について詳しくご紹介します。
アマビトってどんな現象なの?

アマビト(魂人)は、青森県西津軽地方に伝わる不思議な現象です。
人が亡くなる直前に、その人の魂だけが体から抜け出して、まるで本人のように歩き回るというものなんです。この魂は生きている人と同じ姿で現れ、普段通りの行動をするので、出会った人は本物だと思ってしまいます。でも実は、その時本人は病床に伏せていて、動ける状態ではないんですね。
アマビトの特徴
アマビトには、いくつかの共通した特徴があります。
主な現れ方
- 戸を開けるような音を立てる
- 本人そっくりの姿で現れる
- 普段と変わらない様子で行動する
- 短時間で姿を消してしまう
- 死期が迫った時期に現れる
面白いのは、アマビトが恐怖の対象ではないということ。死霊や悪霊とは違って、まだ生きている人の魂だからでしょうか。遭遇した人も「不思議だった」と感じることはあっても、「恐ろしかった」という話はほとんどありません。
伝承

アマビトの伝承は、青森県だけでなく日本各地に似たような話が残されています。
青森県西津軽地方の事例
西津軽地方では、アマビトについてこんな話が伝わっています。
ある人が死ぬ間際、その魂が抜け出して近所の建築現場へ出かけ、作業を手伝って帰ってきたという話があるんです。周りの人たちは本人だと思って一緒に働いていたのに、後で確認したら、その時間、本人は家で寝たきりだったそうです。
柳田國男『遠野物語』の記録
民俗学者の柳田國男が記した『遠野物語』にも、アマビトと同じような現象が記録されています。
死期が近い人が、自分がお世話になっているお寺を訪ねたという話です。お寺の和尚さんは普通に世間話をしながらお茶を出したのですが、帰り際の様子が何となくおかしいと感じました。そこで小僧さんに後をつけさせたところ、角を曲がったところでパッと姿が消えてしまったんです。
不思議に思って確認してみると、その人はすでに病気で外出できる状態ではなく、その日のうちに息を引き取っていました。しかも、その人が飲んだはずのお茶は、寺の部屋にほとんど残っていたそうです。
全国に広がる類似の現象
アマビトのような現象は、地域によって違う名前で呼ばれています。
各地の呼び名
- オマク(地域により異なる)
- 面影(おもかげ)
- 生き霊(いきりょう)
どの地域でも共通しているのは、死期が近づいた人の魂が一時的に肉体を離れて活動するという点。そして、その姿を見た人たちが「確かに本人だった」と証言することです。
遊離魂としての特徴
アマビトは、専門用語で言うと「遊離魂(ゆうりこん)」の一種とされています。
遊離魂とは、生きている人の魂が一時的に体から離れる現象のこと。でも、アマビトの場合は特別で、死ぬ直前のほんの短い時間だけに起こるんです。完全に死んでしまった後の霊とは違い、まだ生命がある状態での現象だから、恐怖感が少ないのかもしれません。
まとめ
アマビトは、人の死期が迫った時に起こる神秘的な魂の現象です。
重要なポイント
- 青森県西津軽地方に伝わる、死の直前に魂が体を離れる現象
- 本人そっくりの姿で現れ、普段通りの行動をする
- 戸を開ける音を立てたり、別の場所に姿を現したりする
- 『遠野物語』にも記録され、全国各地に類似の伝承がある
- 死霊とは違い、恐怖の対象ではなく不思議な現象として語られる
- 遊離魂の一種で、生と死の境界で起こる神秘的な出来事
科学では説明できないこの不思議な現象は、人間の魂の存在を考えさせられる貴重な民俗伝承です。もし身近で不可解な出来事が起きたら、それはもしかしたらアマビトなのかもしれませんね。


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