ゲームや映画で「イシュタル」「ティアマト」という名前を聞いたことはありませんか?
これらはすべて、古代メソポタミア・アッカド神話に登場する女神たちの名前です。
アッカド神話は紀元前2300年頃から栄えた世界最古級の神話体系で、後のギリシャ神話や旧約聖書にも影響を与えたとされています。
でも、「名前は知っているけど、どんな女神なの?」「シュメール神話との違いがよくわからない」という方も多いのではないでしょうか。
この記事では、アッカド神話に登場する女神たちを、シュメール名との対応や神話エピソードとともに詳しくご紹介します。
アッカド神話って何?

シュメール神話からの継承
アッカド神話を理解するには、まずその成り立ちを知る必要があります。
紀元前3000年頃、現在のイラク南部にあたる地域でシュメール人が世界最古の文明を築きました。
彼らは楔形文字(くさびがたもじ)という文字を発明し、粘土板に神話を記録したのです。
その後、紀元前2334年頃にアッカド人のサルゴン大王がシュメールを征服すると、シュメール人の神話や信仰をほぼそのまま受け継ぎました。
神々の名前はアッカド語に変わりましたが、神話の内容はほとんど同じだったのです。
アッカド神話は、その後さらにバビロニア神話・アッシリア神話へと発展していきます。
女神が司る主な分野
アッカド神話の女神たちは、以下のような分野を担当していました。
- 愛と戦争(イシュタル)
- 原初の海と創造(ティアマト)
- 冥界と死(エレシュキガル)
- 大地と母性(ニンフルサグ)
- 医療と癒し(グラ)
- 月と葦(ニンガル)
シュメール名とアッカド名の対応
アッカド神話の女神を理解する上で重要なのが、シュメール語とアッカド語で名前が異なるという点です。
例えば、愛と戦争の女神はシュメールでは「イナンナ」、アッカドでは「イシュタル」と呼ばれます。
同じ女神が言語によって別の名前で呼ばれているんですね。
以下の表で主な対応を確認しておきましょう。
| シュメール名 | アッカド名 | 司る分野 |
|---|---|---|
| イナンナ | イシュタル | 愛、戦争、金星 |
| エレシュキガル | アルラトゥ | 冥界 |
| ニンフルサグ | ベーレト・イリ | 大地、母性 |
| グラ/ニンカラク | グラ | 医療 |
| ニンガル | ニンガル | 月、葦 |
| ウトゥの妻 | アヤ | 曙の光 |
最も重要な女神たち
イシュタル(Ishtar)──愛と戦争の女王
基本情報
- シュメール名: イナンナ(Inanna)
- 別名: 天の女王、アヌニトゥム(戦いのイシュタル)
- 司る分野: 愛、性愛、戦争、豊穣、金星
- 象徴: 八芒星(八角の星)、ライオン、鳩
- 主な崇拝地: ウルク、ニネヴェ、アルベラ、バビロン
どんな女神?
イシュタルはアッカド神話で最も重要な女神です。
「天の女王」という称号を持ち、愛と美を司る一方で、戦場では「戦いは彼女にとって宴である」と称えられるほど好戦的な一面も持っていました。
彼女の名前の由来は金星を意味する言葉から来ており、明けの明星と宵の明星の両方を司るとされています。
面白いことに、明けの明星は男神、宵の明星は女神と考えられていた時期もあり、最終的に一つの女神として統合されました。
イシュタルの特徴として、固定した夫を持たないことが挙げられます。
一時の夫や愛人を次々と見捨てる女神として有名で、その情熱的で気まぐれな性格は多くの神話で描かれています。
有名なエピソード:冥界下り
イシュタルの最も有名な神話は「冥界下り」の物語です。
ある日、イシュタルは姉であるエレシュキガルが支配する冥界へ降りていくことを決意します。
冥界には7つの門があり、各門を通過するたびにイシュタルは装飾品や衣服を1つずつ剥ぎ取られていきました。
すべての門をくぐり終えたとき、彼女は完全に裸で無力な状態になっていたのです。
そしてエレシュキガルの前に引き出されると、死の審判を受けて冥界に囚われてしまいます。
イシュタルが地上からいなくなると、世界からは愛と生殖が消え、動物も人間も子を産まなくなってしまいました。
困った神々は知恵の神エアの助けを借りてイシュタルを蘇生させますが、冥界の掟により身代わりが必要でした。
結局、彼女の夫タンムーズ(ドゥムジ)が身代わりとして冥界に送られることになります。
この神話は季節の移り変わりの起源を説明するものとも解釈されています。
有名なエピソード:ギルガメシュへの求愛
「ギルガメシュ叙事詩」にもイシュタルは登場します。
英雄ギルガメシュが怪物フンババを倒した勇姿に惹かれたイシュタルは、彼に求婚しました。
しかしギルガメシュは、イシュタルの過去の恋人たちが全員不幸な末路を辿ったことを指摘して、冷たく断ります。
怒り狂ったイシュタルは父である天神アヌに訴え、「天の牡牛」を地上に送り込んでギルガメシュを殺そうとしました。
しかし、ギルガメシュと親友エンキドゥによって天の牡牛は倒されてしまいます。
このエピソードは、イシュタルの情熱的で激しい気性をよく表しています。
現代への影響
イシュタルは現代文化にも大きな影響を与えています。
- Fate/Grand Order: サーヴァントとして人気キャラクター
- ファイナルファンタジーシリーズ: 召喚獣やモンスターとして登場
- ペルソナシリーズ: ペルソナとして登場
- 言語: 英語の「star(星)」の語源という説もある
また、ギリシャ神話のアフロディーテ、ローマ神話のヴィーナス、カナンのアスタルテなどは、イシュタルから派生したと考えられています。
ティアマト(Tiamat)──原初の海の女神
基本情報
- 名前の意味: 「海」(アッカド語の「ティアムトゥム」から)
- 別名: 深淵、塩水の海
- 司る分野: 原初の海、混沌、創造
- 象徴: 蛇、ドラゴン、海
- 配偶者: アプスー(淡水の神)
どんな女神?
ティアマトはバビロニア創世神話の中心人物です。
彼女の名前は「海」を意味し、原初の塩水の海そのものを擬人化した存在でした。
淡水を司る神アプスーとともに、すべての神々の祖先とされています。
ティアマトの外見については古代の文献でも曖昧ですが、後世では巨大な蛇やドラゴンの姿で描かれることが多くなりました。
現代のファンタジー作品、特にダンジョンズ&ドラゴンズなどでは五つの首を持つドラゴンとして描かれています。
有名なエピソード:エヌマ・エリシュ
ティアマトが主役を務めるのが、バビロニアの創世神話「エヌマ・エリシュ」です。
物語は、世界がまだ何もなかった原初の時代から始まります。
塩水のティアマトと淡水のアプスーが混ざり合い、そこから最初の神々が誕生しました。
しかし、若い神々の騒々しさに耐えられなくなったアプスーは、彼らを滅ぼそうとします。
これを知った知恵の神エア(エンキ)は先手を打ってアプスーを眠らせ、殺してしまいました。
夫を殺されたティアマトは激怒します。
彼女は復讐のため、11体の恐ろしい怪物を生み出しました。
- ムシュフシュ(怒れる蛇)
- ラフム(有毛の男)
- ウガル(大嵐)
- バシュム(毒蛇)
- そのほか7体の怪物
そして新たな配偶者キングーに「天命の書板」を授け、神々との戦争を開始します。
若い神々は恐れおののき、誰もティアマトに立ち向かおうとしませんでした。
そこで名乗りを上げたのが、エアの息子マルドゥク(バビロンの主神)です。
マルドゥクは神々の王となることを条件に戦いを引き受け、ティアマトとの一騎打ちに挑みます。
激戦の末、マルドゥクは「悪しき風」でティアマトを膨らませ、矢で心臓を射抜いて勝利しました。
マルドゥクはティアマトの遺体を二つに裂き、上半分を天に、下半分を大地としました。
彼女の肋骨は天空の柱に、涙はティグリス川とユーフラテス川になったとされています。
このように、ティアマトの体から世界が創造されたのです。
現代への影響
- ダンジョンズ&ドラゴンズ: 五つの首を持つ邪悪なドラゴンの女神として登場
- ファイナルファンタジーシリーズ: ボスモンスターとして登場
- Fate/Grand Order: ビーストⅡとして登場
- 旧約聖書: 創世記の「深淵(テホム)」はティアマトと語源的に関連するという説もある
エレシュキガル(Ereshkigal)──冥界の女王
基本情報
- 名前の意味: 「大いなる大地の女主人」
- アッカド名: アルラトゥ(Allatu)
- 別名: イルカラ(冥界と同じ名前)、ニンキガル
- 司る分野: 冥界、死者の世界
- 象徴: 暗闘、フクロウ(一説)
- 配偶者: グガルアンナ(最初の夫)、ネルガル(後の夫)
- 主な崇拝地: クタ
どんな女神?
エレシュキガルは冥界イルカラの支配者です。
「冥界」とは死者の魂が行く場所のこと。
ギリシャ神話のハデスと同じように、エレシュキガルの名前は冥界そのものを指すこともあります。
彼女はイシュタルの姉とされ、対照的な存在として描かれることが多いです。
イシュタルが愛と生を象徴するなら、エレシュキガルは死と終わりを象徴しています。
興味深いのは、エレシュキガルが死だけでなく出産とも関連付けられている点です。
大地の女神としての側面も持ち、母なる大地と処女という相反する性質を併せ持つとされました。
冥界では7つの門があり、入る者は門を通過するたびに持ち物を剥ぎ取られ、最終的に裸で無力な状態でエレシュキガルの前に引き出されます。
一度冥界に入った者は決して帰ることができないという厳格な掟がありました。
有名なエピソード:イナンナの冥界下り
先ほど紹介したイシュタル(イナンナ)の冥界下りでは、エレシュキガルは敵対者として登場します。
妹のイナンナが冥界に押しかけてきたとき、エレシュキガルは門番ネティに命じて、各門でイナンナの持ち物を奪わせました。
そして裸で無力になったイナンナに死の目を向け、杭に吊るして殺してしまいます。
この神話は姉妹間の対立を描いていますが、同時に生と死の循環を象徴しているとも解釈されています。
有名なエピソード:ネルガルとの結婚
エレシュキガルのもう一つの有名な神話は、戦争と疫病の神ネルガルとの結婚物語です。
ある日、神々の宴会が開かれましたが、冥界の女王エレシュキガルは参加できませんでした。
代わりに使者ナムタルを送りましたが、ネルガルだけが彼に敬意を払いませんでした。
怒ったエレシュキガルはネルガルを冥界に呼び出します。
知恵の神エアはネルガルに、冥界では座らない・食べない・飲まない・そしてエレシュキガルと関係を持たないよう警告しました。
しかしネルガルは最後の禁忌を破り、6日間エレシュキガルと過ごしてしまいます。
7日目、ネルガルは逃げ出しますが、エレシュキガルは深く傷つきました。
彼女は神々に、ネルガルを返さなければ冥界の門を開いて死者を地上に解き放つと脅迫します。
結局ネルガルは冥界に戻り、二人は夫婦として共に冥界を支配することになりました。
この神話は権力と愛情の複雑な関係を描いているといえるでしょう。
大地と母性の女神たち
ニンフルサグ(Ninhursag)──万物の母
基本情報
- 名前の意味: 「山の女主人」
- 別名: ニンマフ(偉大な女主人)、ニントゥ(出産の女主人)、マミ、アルル
- アッカド名: ベーレト・イリ(神々の女主人)
- 司る分野: 大地、母性、出産、野生動物
- 象徴: オメガ記号(Ω)と刃物
- 配偶者: エンキ(一説)
- 主な崇拝地: ケシュ、ラガシュ
どんな女神?
ニンフルサグはメソポタミア神話における「大いなる母」です。
彼女は神々や人間、動物、さらには不毛だった大地までも生み出したとされています。
その名前「山の女主人」は、息子である戦神ニヌルタが敵を倒して作った山を彼女に捧げたことに由来します。
象徴であるオメガ記号(Ω)は子宮を、刃物は臍の緒を切ることを表しており、出産と母性を司る女神としての性格をよく示しています。
妊婦や出産を終えた母親は、彼女に祈りを捧げることが多かったそうです。
ニンフルサグは時代や地域によって様々な名前で呼ばれました。
「ニンマフ」「ニントゥ」「マミ」「アルル」など、これらすべてが同一の女神を指しています。
有名なエピソード:エンキとニンフルサグ
ニンフルサグが登場する最も有名な神話は、水の神エンキとの物語です。
エンキはニンフルサグとの間に娘ニンサルをもうけます。
しかしエンキは自分の娘ニンサルとも関係を持ち、孫娘のニンクラ、そのまた娘のウトゥと次々と関係を持ちました。
最後の娘ウトゥは母たちの助言に従い、エンキが与えた植物の種子を自分の体内に植えます。
やがて8つの植物が実り、エンキはそれを見つけて食べてしまいました。
怒ったニンフルサグはエンキを呪い、彼の体の8つの部位が病に冒されます。
しかし最終的にニンフルサグは慈悲を示し、8人の治癒神を生み出してエンキを癒しました。
この神話はメソポタミア版の「楽園追放」とも呼ばれ、後の旧約聖書のエデンの園に影響を与えた可能性が指摘されています。
キシャル(Kishar)──大地の女神
基本情報
- 名前の意味: 「大地全体」
- 司る分野: 大地、地平線
- 配偶者: アンシャル(天空の神)
- 子: アヌ(天空の最高神)
どんな女神?
キシャルは原初の神々の一柱で、大地そのものを擬人化した存在です。
彼女はティアマト(塩水)とアプスー(淡水)から生まれた最初の神々ラフムとラハムの娘にあたります。
兄弟であり配偶者でもあるアンシャル(天空)とともに、天と地の地平線を体現していました。
創世神話「エヌマ・エリシュ」の冒頭で言及されますが、物語が進むにつれて姿を消してしまいます。
マルドゥクがティアマトを倒して世界を創造する場面では、ほとんど登場しません。
古い世代の神として、より新しい神々に役割を譲った存在といえるでしょう。
医療と癒しの女神
グラ(Gula)──医術の女神
基本情報
- シュメール名: ニンカラク、ニンイシンナ、ニンティヌガ
- 名前の意味: 「偉大な者」
- 司る分野: 医療、癒し、病気
- 象徴: 犬
- 配偶者: ニヌルタ(戦神)またはアブ(植物神)
- 子: ダム(癒しの神)、ニナズ(癒しの神)
- 主な崇拝地: イシン、ニップル
どんな女神?
グラは古代メソポタミアの医療と癒しを司る女神です。
病気を理解し、医師たちを守護する存在として広く信仰されました。
古代の人々にとって健康は最も大切な財産であり、グラへの信仰は非常に盛んだったのです。
彼女の象徴が犬であることは興味深い点です。
犬は傷を舐めて治すことから、癒しの象徴とされていました。
グラを祀る神殿では、小さな犬の像が奉納されることも多かったようです。
グラは複数の古い女神が統合された結果生まれた存在で、地域によって「ニンカラク」「ニンイシンナ」「ニンティヌガ」など様々な名前で呼ばれました。
天体に関連する女神たち
ニンガル(Ningal)──月神の妻
基本情報
- 名前の意味: 「偉大な女主人」
- 司る分野: 葦、沼地
- 配偶者: ナンナ/シン(月の神)
- 子: ウトゥ/シャマシュ(太陽神)、イナンナ/イシュタル(愛と戦争の女神)、エレシュキガル(冥界の女王)
- 主な崇拝地: ウル
どんな女神?
ニンガルは月の神ナンナ(アッカドではシン)の妻です。
彼女の名前「ニン・ガル」は「偉大な女主人」を意味します。
葦の女神でもあり、メソポタミアの湿地帯で豊富に育つ葦と関連付けられていました。
神話上の重要性は、イシュタルとエレシュキガルの母であることです。
対照的な姉妹を産んだ母として、生と死の両方を生み出した存在といえるでしょう。
主な崇拝地はウル市で、夫ナンナの神殿エギシュヌガル(「偉大な光の家」の意)に共に祀られていました。
アヤ(Aya)──曙の女神
基本情報
- シュメール名: シェリダ
- 司る分野: 曙の光、朝
- 配偶者: シャマシュ(太陽神)
- 主な崇拝地: シッパル、ラルサ
どんな女神?
アヤは太陽神シャマシュ(シュメールではウトゥ)の妻です。
曙の光を擬人化した女神であり、太陽が昇る前の明るくなる空を表現しています。
夫シャマシュが正義と光明の神であるのに対し、アヤはその光を補佐する役割を担っていました。
神殿はシッパルとラルサにあり、太陽神シャマシュとともに祀られていました。
知恵と文明の女神
ニサバ / ニダバ(Nisaba)──書記の女神
基本情報
- 別名: ナナ、セ・ナガ
- 司る分野: 書記、学問、穀物、知恵
- 象徴: 粘土板、スタイラス(書記用の道具)
- 主な崇拝地: ウンマ、エレシュ
どんな女神?
ニサバは書記と学問を司る女神です。
メソポタミア文明において書記は非常に重要な職業でした。
楔形文字を操る書記たちは、ニサバに祈りを捧げて文字を正しく書けるよう願ったのです。
興味深いことに、彼女はもともと穀物の女神でもありました。
穀物の管理には記録が必要だったため、書記の女神へと発展したと考えられています。
後の時代、ニサバの役割は男神ナブ(知恵と書記の神)に引き継がれていきましたが、シュメール時代には最も重要な知識の守護神でした。
ニンカシ(Ninkasi)──ビールの女神
基本情報
- 名前の意味: 「口を満たす女主人」
- 司る分野: ビール、醸造
- 父: エンキ(水と知恵の神)
- 母: ニンフルサグ
どんな女神?
ニンカシは古代メソポタミアのビールを司る女神です。
古代メソポタミアではビールは単なる嗜好品ではなく、主食の一つでした。
パンと同じくらい重要な食料であり、労働者への報酬としても支払われていたのです。
「ニンカシへの賛歌」という粘土板には、ビールの製造工程が詩の形で記されており、これは世界最古のビールのレシピとも言われています。
その他の重要な女神たち
ナンシェ(Nanshe)──社会正義の女神
基本情報
- 別名: ナンセ、ナジ
- 司る分野: 社会正義、漁業、予言、夢占い
- 父: エンキ
- 母: ニンフルサグ
- 主な崇拝地: ラガシュ近郊のシララ
どんな女神?
ナンシェはエンキとニンフルサグの娘で、父と同じく水との深い関連を持っています。
エンキからペルシア湾の管理を任され、漁業の守護神として崇拝されました。
しかし彼女の最も重要な役割は社会正義の守護です。
孤児や寡婦を守り、弱者への搾取を糾弾する女神として信仰されました。
また、予言と夢占いの能力も持ち、人々の夢を解釈する女神でもありました。
ゲシュティンアンナ(Geshtinanna)──葡萄とワインの女神
基本情報
- 名前の意味: 「天の葡萄の木」
- 別名: ベリリ
- 司る分野: 葡萄、ワイン、農業
- 配偶者: ニンギシュジダ
- 兄弟: ドゥムジ(タンムーズ)
- 両親: エンキとニンフルサグ
どんな女神?
ゲシュティンアンナは葡萄とワインを司る女神です。
彼女の最も有名なエピソードは、兄ドゥムジ(イシュタルの夫)を守ろうとした物語です。
イシュタルが冥界から戻るために身代わりが必要になったとき、ドゥムジが選ばれました。
ゲシュティンアンナは兄を冥界の悪魔から守ろうとしましたが、最終的にドゥムジは捕らえられてしまいます。
彼女は深く悲しみ、兄の代わりに年の半分を冥界で過ごすことを申し出ました。
この神話は、夏の暑さと乾燥(ゲシュティンアンナが冥界にいる期間)の起源を説明するものとされています。
ラマシュトゥ(Lamashtu)──恐怖の女神
基本情報
- 別名: ラマシュテュ
- 司る分野: 病気、死、悪夢
- 象徴: ロバ、ライオンの頭、鳥の爪
- 父: アヌ(天空の最高神)
どんな女神?
ラマシュトゥは古代メソポタミアで最も恐れられた女神(悪魔)です。
彼女は妊婦や新生児を襲い、病気や死をもたらすと信じられていました。
半人半獣の姿で描かれ、ライオンの頭、ロバの歯、鳥の爪を持つ恐ろしい存在とされています。
他の悪魔が神々の命令で人を害するのに対し、ラマシュトゥは自らの意志で悪事を働くという点で特別でした。
人々は彼女から身を守るため、魔除けのお守りを身につけたり、護符を家に飾ったりしました。
彼女を追い払うことができるのは、同じく恐ろしい風貌の魔神パズズだけだとされていました。
アッカド神話の女神 完全一覧

ここでは、アッカド神話に登場する女神を一覧でまとめました。
主要な女神
| 女神名 | シュメール名 | 司る分野 |
|---|---|---|
| イシュタル | イナンナ | 愛、戦争、金星 |
| ティアマト | ― | 原初の海、混沌 |
| エレシュキガル | エレシュキガル | 冥界 |
| ベーレト・イリ | ニンフルサグ | 大地、母性 |
| グラ | ニンカラク | 医療、癒し |
天体・自然に関する女神
| 女神名 | シュメール名 | 司る分野 |
|---|---|---|
| ニンガル | ニンガル | 月、葦 |
| アヤ | シェリダ | 曙の光 |
| キシャル | キシャル | 大地 |
| ラハム | ラハム | 原初の泥 |
知恵・文明に関する女神
| 女神名 | シュメール名 | 司る分野 |
|---|---|---|
| ニサバ | ニサバ | 書記、穀物 |
| ニンカシ | ニンカシ | ビール |
| タシュメトゥ | ― | 知恵、ナブの妻 |
豊穣・農業に関する女神
| 女神名 | シュメール名 | 司る分野 |
|---|---|---|
| シャラ | シャラ | 穀物 |
| ゲシュティンアンナ | ゲシュティンアンナ | 葡萄、ワイン |
正義・保護に関する女神
| 女神名 | シュメール名 | 司る分野 |
|---|---|---|
| ナンシェ | ナンシェ | 社会正義、漁業 |
| ラマッス | ラマッス | 守護霊 |
| マミトゥ | ― | 誓い、契約 |
その他の女神
| 女神名 | シュメール名 | 司る分野 |
|---|---|---|
| ニンリル | ニンリル | エンリルの妻、空気 |
| ダムキナ | ダムキナ | エアの妻 |
| サルパニトゥ | ― | マルドゥクの妻 |
| イシュハラ | イシュハラ | 誓い、愛 |
| ラマシュトゥ | ― | 病気、悪魔的存在 |
女神たちの関係性と系譜
主要な家系図
アッカド神話の女神たちは複雑な家族関係で結ばれています。
ティアマト ═ アプスー
│
└── ラフム + ラハム
│
└── アンシャル ═ キシャル
│
└── アヌ(天空神)
│
├── エンリル ═ ニンリル
│
└── エア/エンキ ═ ダムキナ
│
└── マルドゥク ═ サルパニトゥ
ナンナ/シン(月神)═ ニンガル
│
├── シャマシュ(太陽神)═ アヤ
├── イシュタル
└── エレシュキガル ═ ネルガル
姉妹関係
- イシュタル と エレシュキガル: 対照的な姉妹として有名。イシュタルは愛と生、エレシュキガルは死と冥界を象徴。
母と娘の関係
- ニンガル → イシュタル、エレシュキガル: 月の女神が生と死の女神を産んだ。
- ニンフルサグ → 多くの女神: 大地母神として数多くの神々を産んだ。
アッカド神話の女神が現代文化に与えた影響
ゲーム・アニメでの登場
アッカド神話の女神たちは、現代のエンターテイメントでも大人気です。
Fate/Grand Order
- イシュタル: 人気サーヴァント、遠坂凛の体を依り代とする
- ティアマト: ビーストⅡとして登場、圧倒的な存在感
- エレシュキガル: 冥界の女主人として人気キャラクター
ファイナルファンタジーシリーズ
- ティアマト: ボスモンスターや召喚獣として登場
- イシュタル: 召喚獣として登場
ペルソナシリーズ
- イシュタル: ペルソナとして登場
ダンジョンズ&ドラゴンズ
- ティアマト: 五つの首を持つドラゴンの女神として、邪悪な存在の象徴
他の神話への影響
アッカド神話の女神たちは、後の神話体系にも大きな影響を与えました。
- イシュタル → アスタルテ(カナン)→ アフロディーテ(ギリシャ)→ ヴィーナス(ローマ)
- ティアマト → テホム(旧約聖書の「深淵」)
- エレシュキガル → ヘカテ(ギリシャ)との関連が指摘されている
現代語への影響
- Star(星): イシュタル(Ishtar)が語源という説もある
- Easter(復活祭): イシュタル(Ishtar)との関連を指摘する説がある(ただし学術的には議論あり)
まとめ
アッカド神話の女神たちは、単なる古代の物語の登場人物ではありません。
彼女たちが象徴するもの
- イシュタル: 愛と戦争という人間の根源的な衝動
- ティアマト: 混沌から秩序が生まれる創造の力
- エレシュキガル: 死という避けられない運命
- ニンフルサグ: 大地と母性の慈愛
- グラ: 癒しと医療への願い
これらの女神たちは、5000年以上前の人々が世界をどのように理解し、何を大切にしていたかを今に伝えています。
世界最古の神話体系であるアッカド神話は、後のギリシャ神話やローマ神話、さらには旧約聖書にまで影響を与えました。
現代のゲームやアニメに登場する女神たちのルーツをたどれば、必ずこのメソポタミアの地に行き着くのです。
興味を持った女神がいたら、ぜひ「ギルガメシュ叙事詩」や「エヌマ・エリシュ」といった原典にも触れてみてください。
5000年の時を超えて、古代メソポタミアの人々の想いに触れることができるでしょう。




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