山道を歩いていて、「昔はここに妖怪が出たんだって」なんて話をしたら、突然「今も出るぞー!」という声が聞こえてきたら、どうしますか?
熊本県の天草地方には、まさにそんな恐ろしい体験をした人たちの話が残っているんです。
その妖怪の名前は「油すまし(あぶらすまし)」。峠道に現れて、人々を驚かせる不思議な存在として語り継がれてきました。
この記事では、天草地方に伝わる謎多き妖怪「油すまし」について、その正体や伝承、そして現代に残る痕跡まで詳しくご紹介します。
概要

油すましは、熊本県天草地方の峠道に出没するとされる妖怪です。
昭和初期の郷土史家・浜田隆一が書いた『天草島民俗誌』という本に初めて記録されました。元々は「油ずまし」という名前で呼ばれていたんですね。
基本情報
油すましが現れた場所は、天草郡栖本村と下浦村(現在の天草市)を結ぶ草隅越(くさかげごえ)という峠道。山深い場所で、昔から不思議な話が多い場所だったそうです。
面白いのは、油すましの正体が全く分からないということ。
姿かたちについての記録が残っていないので、どんな見た目をしているのか誰も知らないんです。ただ「油瓶を下げたもの」という表現だけが伝わっています。
名前の由来
「すまし」や「ずまし」という言葉は、天草地方の方言で「油を絞る」という意味の「すめる」から来ているという説があります。
つまり、油すましは油を商売にしていた人や、油絞りの職人と何か関係があるのかもしれません。昔は行灯(あんどん)などに使う油が貴重品だったので、油にまつわる怪異が生まれたのも不思議じゃないですね。
伝承

油すましの伝承で最も有名なのが、おばあさんと孫の体験談です。
峠道での遭遇
ある日、孫を連れたおばあさんが草隅越を歩いていました。
おばあさんは孫に向かって「昔はここに、油瓶を下げたのが出たそうだよ」と話したんです。すると突然、どこからともなく「今もー出るーぞー!」という声が響き、油すましが現れたというんです。
この話のポイントは、妖怪の噂話をすると本当に現れるということ。まるで油すましが人々の会話を聞いているかのようですね。
同じパターンの怪異譚
実は天草地方には、油すましと同じような現れ方をする妖怪の話がいくつもあるんです。
うそ峠の怪異
天草郡一町田村(現・天草市)の「うそ峠」では、こんな話が伝わっています。
二人連れの旅人が峠を通りながら「昔ここに、血のついた手が落ちてきたそうだ」と話すと、「今もー」という声とともに、本当に血まみれの手が坂を転がり落ちてきました。
驚いて逃げ出した二人でしたが、しばらくして「ここでは生首が落ちてきたそうだ」と言うと、またも「今もー」と声がして、生首が転がり落ちてきたというのです。
今にも坂の大入道
下益城郡豊野村(現・宇城市)の「今にも坂」でも似た話があります。
「ここには大入道が出る」という話をしながら坂を通ると、「今にも」という声とともに大入道が現れるんだとか。
現代の解釈と創作
昭和以降、油すましは漫画家の水木しげるさんによって独特の姿が与えられました。
水木版油すましの特徴:
- 蓑(みの)を羽織った地蔵のような姿
- すました顔つき
- 頭が大きくてジャガイモのような形
でも、これは水木さんの創作で、本来の伝承とは関係ないんです。映画『妖怪大戦争』などでも同じような姿で描かれたため、今ではこのイメージが定着してしまいました。
石像の発見
2004年、天草市栖本町で「油すましどん」と呼ばれる石像の一部が見つかりました。
この石像は、首がない状態で両手を合わせた姿をしています。元々は「すべりみち」という場所に安置されていたもので、地元の人たちは「子供がここで遊んでいると油すましどんが出る」と言って恐れていたそうです。
興味深いことに、この石像は油絞りの職人を祀ったものが、時代とともに妖怪として恐れられるようになったという説もあるんです。
別の解釈:釣瓶落としの仲間?
妖怪研究家の京極夏彦さんは、油すましについて面白い指摘をしています。
民俗学者・柳田國男の『妖怪談義』では、油すましが釣瓶落とし(つるべおとし)や薬缶吊る(やかんづる)といった「頭上から物が落ちてくる怪異」と一緒に紹介されているんです。
つまり、油すましは人の姿をした妖怪ではなく、油瓶が頭上から下がってくる怪異かもしれないということ。確かに「油瓶を下げたのが出た」という表現は、そう解釈することもできますね。
まとめ
油すましは、熊本県天草地方に伝わる謎多き妖怪です。
重要なポイント
- 天草の峠道に現れる正体不明の妖怪
- 「昔出た」と話すと「今も出るぞー」と現れる
- 姿かたちの記録がないため、正体は謎のまま
- 油を扱う職人と関係がある可能性
- 水木しげるの創作イメージが現代では定着
- 2004年に関連する石像が発見された
- 釣瓶落としのような「落下系」の怪異の可能性も
油すましの話は、単なる妖怪譚というだけでなく、口承文化の面白さを教えてくれます。噂話をすると現れるという設定は、まるで現代の都市伝説のようですね。
もし天草の峠道を通ることがあったら、油すましの話はしない方がいいかもしれません。だって、今でも「今もー出るーぞー」という声が聞こえてくるかもしれませんから。
 
  
  
  
   
               
               
               
               
              

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