正規直交基底とは?基本概念と定義をわかりやすく解説

正規直交基底は線形代数学における重要な概念の一つです。
この記事では、正規直交基底とは何か、なぜ重要なのかについて、数学の専門知識がない方でも理解できるようにわかりやすく解説します。

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正規直交基底を理解するための準備

正規直交基底を理解するには、いくつかの基本的な概念を知っておく必要があります。
順番に見ていきましょう。

ベクトルとは

ベクトルとは、大きさと向きを持つ量のことです。
例えば、2次元平面上の点(3, 4)や3次元空間の点(1, 2, 3)などをベクトルとして表現できます。

ベクトルは矢印で表されることが多く、始点から終点への向きと長さを持っています。
数学では、ベクトルを縦に並べた数の組として表すこともあります。

内積とは

内積は、2つのベクトルの関係を表す計算方法の一つです。
2次元ベクトルの場合、以下のように計算します。

ベクトルa = (a₁, a₂)とベクトルb = (b₁, b₂)の内積は、a₁ × b₁ + a₂ × b₂となります。

例えば、a = (3, 4)とb = (1, 2)の内積は、3 × 1 + 4 × 2 = 3 + 8 = 11です。

内積は、2つのベクトルがどれくらい「同じ方向を向いているか」を表す指標として使えます。
内積が大きいほど、2つのベクトルは似た方向を向いています。

ベクトルの長さ(ノルム)とは

ベクトルの長さは、ベクトルがどれくらい「長い」かを表す数値です。
ノルムとも呼ばれます。

2次元ベクトルa = (a₁, a₂)の長さは、√(a₁² + a₂²)で計算されます。
これはピタゴラスの定理を使った計算です。

例えば、ベクトル(3, 4)の長さは、√(3² + 4²) = √(9 + 16) = √25 = 5です。

長さが1のベクトルを「単位ベクトル」と呼びます。

基底とは

基底は、ベクトル空間を表現するための「基本となるベクトルの組」です。
平面上のすべての点(ベクトル)を、いくつかの基本ベクトルの組み合わせで表現できるとき、その基本ベクトルの組を基底といいます。

例えば、2次元平面では、通常(1, 0)と(0, 1)という2つのベクトルを基底として使います。
任意の2次元ベクトル(x, y)は、x × (1, 0) + y × (0, 1)という形で表現できます。

基底の重要な性質は以下の2つです。

  1. 線形独立であること(どのベクトルも他のベクトルの組み合わせでは表せない)
  2. その組み合わせで空間内のすべてのベクトルを表現できること

直交と正規化の概念

正規直交基底を理解するには、「直交」と「正規化」という2つの重要な概念を知る必要があります。

直交とは

2つのベクトルが直交するとは、それらが垂直(90度)の関係にあることを意味します。
数学的には、2つのベクトルの内積が0になるとき、それらは直交しています。

例えば、ベクトル(1, 0)とベクトル(0, 1)を考えてみましょう。
内積は1 × 0 + 0 × 1 = 0なので、これらは直交しています。

直交するベクトルは、互いに影響を与えない独立した方向を表します。
これは座標軸のx軸とy軸が垂直に交わっているのと同じイメージです。

正規化とは

正規化とは、ベクトルの長さを1にする操作のことです。
ベクトルをその長さで割ることで、方向は変えずに長さだけを1にできます。

例えば、ベクトル(3, 4)の長さは5なので、これを正規化すると(3/5, 4/5)になります。
確かに、√((3/5)² + (4/5)²) = √(9/25 + 16/25) = √(25/25) = 1となり、長さが1になっています。

正規化されたベクトル(長さが1のベクトル)を単位ベクトルと呼びます。

正規直交基底の定義

いよいよ正規直交基底の定義を見ていきましょう。
正規直交基底とは、以下の2つの条件を満たす基底のことです。

条件1. すべてのベクトルの長さが1である(正規化されている)

基底を構成するベクトルがすべて単位ベクトル、つまり長さが1になっている必要があります。
これが「正規」の部分です。

条件2. すべてのベクトルが互いに直交している

基底を構成するベクトルのうち、どの2つを選んでも直交している必要があります。
つまり、異なるベクトル同士の内積はすべて0になります。
これが「直交」の部分です。

この2つの条件をまとめると、正規直交基底では以下が成り立ちます。

  • 同じベクトル同士の内積は1(長さが1なので)
  • 異なるベクトル同士の内積は0(直交しているので)

この性質は、クロネッカーのデルタ記号δᵢⱼを使って表現されることもあります。
δᵢⱼは、i = jのとき1、i ≠ jのとき0となる記号です。

具体例で理解する正規直交基底

実際の例を見ることで、正規直交基底の理解が深まります。

例1. 2次元平面の標準基底

最もシンプルな正規直交基底は、2次元平面の標準基底です。

e₁ = (1, 0)
e₂ = (0, 1)

これが正規直交基底であることを確認してみましょう。

長さの確認:

  • |e₁| = √(1² + 0²) = 1
  • |e₂| = √(0² + 1²) = 1

直交性の確認:

  • e₁ · e₂ = 1 × 0 + 0 × 1 = 0

すべての条件を満たしているので、これは正規直交基底です。

例2. 回転した正規直交基底

正規直交基底は標準基底だけではありません。
以下の2つのベクトルも2次元平面の正規直交基底になります。

v₁ = (1/√2, 1/√2)
v₂ = (1/√2, -1/√2)

これは標準基底を45度回転させたものです。

長さの確認:

  • |v₁| = √((1/√2)² + (1/√2)²) = √(1/2 + 1/2) = 1
  • |v₂| = √((1/√2)² + (-1/√2)²) = √(1/2 + 1/2) = 1

直交性の確認:

  • v₁ · v₂ = (1/√2) × (1/√2) + (1/√2) × (-1/√2) = 1/2 – 1/2 = 0

このように、回転や反射によって得られるベクトルの組も正規直交基底になります。

例3. 3次元空間の標準基底

3次元空間でも同様に正規直交基底を定義できます。

e₁ = (1, 0, 0)
e₂ = (0, 1, 0)
e₃ = (0, 0, 1)

これは3次元空間のx軸、y軸、z軸の方向を表すベクトルです。
これらも互いに直交し、それぞれの長さは1なので、正規直交基底です。

正規直交基底の重要な性質

正規直交基底には、計算を簡単にする便利な性質がいくつかあります。

性質1. 係数の計算が簡単

正規直交基底を使うと、任意のベクトルを基底ベクトルの線形結合で表したときの係数が簡単に求まります。

正規直交基底{e₁, e₂, …, eₙ}があり、ベクトルvをこの基底で表すとき、v = c₁e₁ + c₂e₂ + … + cₙeₙとなります。

このとき、係数cᵢは単純にv · eᵢを計算するだけで求まります。
通常の基底では連立方程式を解く必要がありますが、正規直交基底ではこの計算だけで済みます。

性質2. 内積の計算が簡単

正規直交基底を使って2つのベクトルを表したとき、それらの内積の計算が簡単になります。

v = (v₁, v₂, …, vₙ)、w = (w₁, w₂, …, wₙ)とすると、内積v · wは単純にv₁w₁ + v₂w₂ + … + vₙwₙとなります。

これは通常の座標での内積計算と同じ形になります。

性質3. 線形独立性が保証される

正規直交系(互いに直交し、長さが1のベクトルの集まり)は必ず線形独立です。
つまり、どのベクトルも他のベクトルの組み合わせでは表せません。

これは、正規直交系が基底になるための重要な条件の一つを自動的に満たすことを意味します。

なぜ正規直交基底が重要なのか

正規直交基底が数学や科学の多くの分野で使われる理由は、その便利さにあります。

理由1. 計算が簡単になる

正規直交基底を使うと、多くの計算が劇的に簡単になります。
特に、ベクトルの分解や内積の計算が直感的でシンプルになります。

理由2. 座標系として自然

正規直交基底は、私たちが普段使っているx-y-z座標系と同じ性質を持っています。
各軸が互いに垂直で、等しい単位長さを持つという性質です。

理由3. 幾何学的な意味が明確

正規直交基底の各ベクトルは、空間内の独立した方向を表します。
これは物理学や工学で、力の成分を分解したり、運動を解析したりする際に非常に役立ちます。

理由4. 多くの定理の前提条件

線形代数の重要な定理の多くは、正規直交基底の存在を前提としています。
例えば、スペクトル分解や特異値分解などの理論は、正規直交基底を基礎としています。

正規直交基底の存在について

任意のベクトル空間に正規直交基底は存在するのでしょうか。
答えは「内積が定義されている空間であれば、必ず正規直交基底が存在する」です。

これは、グラム・シュミットの正規直交化法という方法によって保証されます。
任意の基底から出発して、正規直交基底を作り出すことができるのです。

グラム・シュミットの正規直交化法の基本的なアイデアは以下の通りです。

  1. 最初のベクトルを正規化する(長さを1にする)
  2. 2番目のベクトルから、1番目のベクトル方向の成分を引いて直交させ、正規化する
  3. 3番目のベクトルから、1番目と2番目のベクトル方向の成分を引いて直交させ、正規化する
  4. これを繰り返す

この方法により、どんな基底からでも正規直交基底を作ることができます。

正規直交基底と直交行列の関係

正規直交基底を列ベクトルとして並べた行列は、直交行列と呼ばれる特別な行列になります。

直交行列Aは、A⁻¹ = Aᵀ(逆行列が転置行列と等しい)という性質を持ちます。
この性質により、直交行列を使った計算が非常に効率的になります。

また、直交行列は回転や反射といった図形の変換を表すのに使われます。
これらの変換は、図形の形や大きさを変えずに位置や向きだけを変える操作です。

まとめ

正規直交基底は、以下の2つの条件を満たす基底です。

  1. すべてのベクトルの長さが1である(正規化されている)
  2. すべてのベクトルが互いに直交している(垂直である)

この2つの条件により、正規直交基底は計算が簡単で、幾何学的な意味も明確になります。
線形代数学における多くの理論や応用において、正規直交基底は中心的な役割を果たしています。

標準基底(座標軸)は最もシンプルな正規直交基底の例ですが、回転や反射によって得られる基底も正規直交基底になります。

グラム・シュミットの正規直交化法を使えば、任意の基底から正規直交基底を作り出すことができます。
このため、内積が定義されている空間であれば、必ず正規直交基底が存在します。

正規直交基底を理解することで、線形代数学の理論がより深く理解でき、実際の計算も効率的に行えるようになります。
物理学、工学、コンピュータグラフィックス、機械学習など、多くの分野で正規直交基底の概念が活用されています。

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