Matrixチャットとは?分散型メッセージングの仕組みと使い方

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Matrixは、プライバシーとセキュリティを重視した分散型のメッセージングプロトコルです。

DiscordやSlackのような便利さを持ちながら、企業や政府の監視から自由なコミュニケーションを実現します。

本記事では、Matrixチャットの仕組みから具体的な使い方まで、わかりやすく解説します。

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Matrixチャットの概要

Matrixは、リアルタイム通信のためのオープンソースの通信プロトコルです。

プロトコルとは、通信の規格や約束事のことで、Matrixに対応したアプリ同士であれば、どのアプリを使っていても通信できます。

これは、電子メールがGmail、Yahoo!メール、Outlookなど、どのサービス同士でもやり取りできるのと同じ考え方です。

Matrixの最大の特徴は、分散型のアーキテクチャ(構造)を採用している点です。

これにより、特定の企業や組織に依存せず、ユーザー自身がデータを管理できます。

Matrixの歴史と開発背景

Matrixプロトコルは、2014年にMatthew Hodgson(マシュー・ホジソン)とAmandine Le Pape(アマンディーヌ・ル・パープ)によって開始されました。

当初は、通信機器メーカーのAmdocsの社内プロジェクトとして開発されていました。

2014年から2017年10月まで、Amdocsが開発資金の大部分を提供していました。

Matrixは、2014年のWebRTC Conference & Expoでイノベーション賞を受賞し、2015年のWebRTC Worldで「Best in Show」賞を受賞しました。

2017年、Amdocsからの資金提供が削減されることが発表され、コアチームは独自の会社「New Vector Limited」を設立しました。

この会社は後に「Element」と改名され、現在もMatrixの開発を主導しています。

2018年10月には、Matrixプロトコルの標準化を進めるため、非営利団体「The Matrix.org Foundation」が設立されました。

Matrixの主な特徴

Matrixには、他のメッセージングサービスとは異なる重要な特徴があります。

分散型アーキテクチャ

Matrixは分散型のシステムを採用しています。

これは、中央にひとつのサーバーがあるのではなく、世界中に多数のサーバーが存在し、それらが連携して動作する仕組みです。

ユーザーは、好きなサーバー(ホームサーバーと呼ばれます)を選んでアカウントを作成できます。

また、技術的な知識があれば、自分専用のサーバーを立ち上げることも可能です。

どのサーバーに所属していても、他のサーバーのユーザーと自由にコミュニケーションできます。

これは、GmailユーザーとYahoo!メールユーザーがメールをやり取りできるのと同じ原理です。

オープンソース

Matrixプロトコル自体も、それを実装したサーバーソフトウェア(Synapse)やクライアントアプリ(Element)も、すべてオープンソースで公開されています。

これにより、誰でもコードを確認でき、セキュリティの問題がないかチェックできます。

また、開発者は自由にMatrixに対応したアプリを作成できます。

エンドツーエンド暗号化

Matrixは、デフォルトでエンドツーエンド暗号化(E2EE)に対応しています。

エンドツーエンド暗号化とは、送信者と受信者だけがメッセージを読める仕組みです。

サーバーの管理者でさえ、メッセージの内容を見ることはできません。

Matrixでは、Signal Protocolの実装であるOlmライブラリとMegolmライブラリを使用して暗号化を実現しています。

これらのライブラリは、セキュリティ専門企業のNCC Groupによる監査を受けており、安全性が確認されています。

相互運用性とブリッジ機能

Matrixには、他のチャットサービスと接続できる「ブリッジ機能」があります。

これにより、DiscordやSlack、Telegram、IRCなどの他のサービスとMatrixの間でメッセージをやり取りできます。

例えば、Matrixを使いながらDiscordサーバーに参加したり、IRCチャンネルとやり取りしたりすることが可能です。

VoIP(音声通話)とビデオ通話

Matrixは、テキストチャットだけでなく、音声通話やビデオ通話にも対応しています。

WebRTC技術を使用しており、ブラウザ上でも高品質な通話が可能です。

グループでのビデオ会議も実現できます。

Elementクライアント

Matrixプロトコルを使用するには、クライアントアプリが必要です。

最も有名で広く使われているクライアントが「Element」です。

Elementとは

Elementは、Matrixの開発チームが提供する公式クライアントアプリです。

以前は「Riot」という名前でしたが、2020年に「Element」に改名されました。

Elementは、Web版、デスクトップアプリ版(Windows、Mac、Linux)、モバイルアプリ版(iOS、Android)が提供されています。

すべて無料で利用でき、オープンソースとして公開されています。

Elementの機能

Elementには、以下のような機能があります。

テキストメッセージの送受信ができます。

画像や動画、ファイルの共有ができます。

音声通話とビデオ通話が可能です。

グループチャット(ルーム)を作成できます。

複数のルームをまとめる「スペース」機能があります(Discordのサーバーに相当)。

絵文字リアクションが使えます。

メッセージの編集や削除ができます。

既読表示や入力中表示があります。

メッセージ検索機能があります。

Element以外のクライアント

Matrixはオープンプロトコルなので、Element以外にも多数のクライアントアプリが開発されています。

FluffyChat(モバイル向け、使いやすいインターフェース)があります。

SchildiChat(Elementのフォーク版、カスタマイズ性が高い)があります。

Nheko(デスクトップ向け、軽量)があります。

Fractal(Linuxデスクトップ向け)があります。

また、Thunderbird(メールソフト)もバージョン102以降でMatrix対応しており、メールとチャットを一元管理できます。

Matrixチャットの使い方

Matrixを使い始める手順を説明します。

アカウントの作成

まず、Matrixのアカウントを作成する必要があります。

アカウントは、どこかのホームサーバーに作成します。

最も簡単なのは、公式の「matrix.org」サーバーを使う方法です。

Elementの公式サイト(https://element.io)にアクセスします。

「Get Started」または「Download」をクリックします。

Web版を使う場合は「Open Element Web」を選択します。

「Create Account」をクリックします。

ホームサーバーとして「matrix.org」が選択されていることを確認します(他のサーバーを選ぶこともできます)。

ユーザー名とパスワードを入力します。

メールアドレスを入力します(任意ですが、パスワードを忘れた時の復旧に必要です)。

利用規約に同意して、「Register」をクリックします。

これでアカウントが作成され、すぐにMatrixを使い始められます。

セキュリティキーの設定

アカウント作成後、「セキュリティキー」の設定を強く推奨します。

これは、暗号化されたメッセージのバックアップに使用されるものです。

設定しないと、新しいデバイスからログインした時に過去のメッセージが読めなくなります。

画面上部に「セキュアバックアップを設定」という通知が表示されるので、「続行」をクリックします。

生成されたセキュリティキー(長い文字列)をコピーして、安全な場所に保管します(パスワードマネージャーなどに保存するのがおすすめです)。

「続行」をクリックして設定を完了します。

ダイレクトメッセージの送信

他のユーザーとダイレクトメッセージ(DM)をやり取りする方法です。

画面左側の「ホーム」の右にある「+」アイコンをクリックします。

「チャットを開始」を選択します。

相手のユーザーIDを入力します(例:@username:matrix.org)。

候補が表示されたら、相手を選択します。

「続行」をクリックします。

相手が招待を承認すると、チャットが開始されます。

チャットは自動的にエンドツーエンド暗号化されます。

ルーム(グループチャット)の作成

複数人でチャットできる「ルーム」を作成する方法です。

画面左側の「ホーム」の右にある「+」アイコンをクリックします。

「新しいルーム」を選択します。

ルーム名を入力します。

公開設定を選択します(通常は「非公開ルーム」を選択します)。

エンドツーエンド暗号化を有効にするかどうかを選択します(オンを推奨)。

「ルームを作成」をクリックします。

作成したルームに、他のユーザーを招待できます。

スペースの活用

「スペース」は、複数のルームをまとめて整理する機能です。

Discordの「サーバー」に相当するものと考えてください。

スペースを作成すると、関連するルームをグループ化でき、整理しやすくなります。

例えば、「仕事」「趣味」「家族」といったスペースを作り、それぞれに関連するルームを配置できます。

Matrixが採用されている事例

Matrixは、そのセキュリティと分散性から、多くの政府機関や組織で採用されています。

フランス政府

2017年、エマニュエル・マクロン大統領の就任後、フランス政府は公式メッセージングシステムの構築を決定しました。

2018年から開発が始まり、2019年4月に「Tchap」という名前でリリースされました。

TchapはMatrixプロトコルとElementをベースにしたアプリで、政府職員が安全にコミュニケーションできるようになっています。

フランス政府は各省庁ごとに独自のMatrixサーバーを運用しており、それらが連携して動作しています。

ドイツ連邦軍

ドイツ連邦軍(Bundeswehr)は、機密情報を扱うための通信システムとしてMatrixを採用しています。

「BwMessenger」という名前のカスタマイズされたElementアプリを使用しています。

軍事組織で求められる高いセキュリティ基準を満たしていることが評価されました。

その他の採用事例

ウィーン工科大学(TU Wien)は、公式チャット基盤として「TUmatrix」を提供しています。

スイス郵便(Swiss Post)が採用しています。

オーストリアの医療システムが採用しています。

ドイツの複数の州が学校向けチャットシステムとして採用しています。

Mozilla財団も内部コミュニケーションにMatrixを使用しています。

2021年時点で、Matrixは世界中で2,800万以上のアカウントがあると報告されています。

MatrixとDiscord、Slackの違い

Matrixを他の人気チャットサービスと比較してみましょう。

運営形態の違い

DiscordとSlackは、企業が運営する中央集権型のサービスです。

すべてのデータは、その企業のサーバーに保存されます。

一方、Matrixは分散型プロトコルであり、誰でもサーバーを立ち上げられます。

データの所有権はユーザー側にあります。

プライバシーとセキュリティ

Discordは、デフォルトではエンドツーエンド暗号化に対応していません。

Slackも同様です(Enterprise Grid版では一部対応)。

Matrixは、デフォルトでエンドツーエンド暗号化が有効になります。

サーバー管理者でも、メッセージの内容を読むことはできません。

ベンダーロックインの回避

DiscordやSlackを使っている場合、そのサービスが終了したり、規約が変更されたりすると、対応が困難です。

Matrixは、オープンプロトコルなので、特定の企業に依存しません。

サーバーを移転したり、別のクライアントアプリに切り替えたりすることが自由にできます。

使いやすさ

DiscordとSlackは、洗練されたユーザーインターフェースで知られています。

Matrixのクライアント(特にElement)も改善されてきていますが、まだ完全に同じレベルには達していません。

ただし、Element Xなど新世代のクライアントは、より高速で使いやすくなっています。

コスト

Discordは基本無料ですが、Nitroという有料プランがあります。

Slackは、メッセージ履歴に制限があり、フル機能を使うには有料プランが必要です。

MatrixとElementは完全に無料で、オープンソースです。

ただし、独自サーバーを運用する場合は、サーバーの維持費用がかかります。

Matrixの課題と今後の展望

Matrixには多くの利点がありますが、課題もあります。

普及率の課題

DiscordやSlackに比べると、Matrixの利用者数はまだ少ないです。

これは、ネットワーク効果(利用者が多いほど便利になる)の観点から不利です。

ただし、政府機関や教育機関での採用が増えており、今後の成長が期待されます。

パフォーマンスの問題

大規模なルーム(数千人が参加するようなルーム)では、パフォーマンスの問題が発生することがあります。

これは、分散型アーキテクチャの複雑さに起因します。

新しいサーバー実装(Dendrite、Conduitなど)が開発されており、パフォーマンスの改善が進んでいます。

初期設定の複雑さ

ホームサーバーの選択やセキュリティキーの設定など、初めてのユーザーには少し難しい部分があります。

ただし、一度設定してしまえば、その後は普通のチャットアプリと同じように使えます。

今後の展望

Matrix Protocol 2.0が2024年末にリリースされ、同期速度の向上やマルチユーザービデオ通話の改善が実現されました。

Bluetoothメッシュネットワーク機能の開発が進んでおり、インターネット接続なしでもピアツーピアでメッセージをやり取りできるようになる予定です。

ブロックチェーンベースの分散型IDシステムとの統合も検討されています。

EU(欧州連合)のデジタル市場法(DMA)により、大手プラットフォーム間の相互運用性が求められており、Matrixがその標準プロトコルとなる可能性があります。

まとめ

Matrixは、プライバシーとセキュリティを重視した分散型メッセージングプロトコルです。

2014年にMatthew HodgsonとAmandine Le Papeによって開発が始まり、現在は非営利団体「The Matrix.org Foundation」によって管理されています。

Matrixの主な特徴は、分散型アーキテクチャ、オープンソース、エンドツーエンド暗号化、相互運用性です。

公式クライアントのElementを使えば、誰でも無料でMatrixを利用できます。

Web版、デスクトップアプリ、モバイルアプリが提供されています。

フランス政府、ドイツ連邦軍、多数の教育機関など、セキュリティを重視する組織で採用が進んでいます。

DiscordやSlackと比較すると、プライバシー保護とベンダーロックイン回避の点で優れていますが、普及率や使いやすさの面では改善の余地があります。

Matrix Protocol 2.0のリリースなど、継続的な改善が行われており、今後さらなる発展が期待されます。

プライバシーを重視したコミュニケーションツールを探している方、特定の企業に依存したくない方、セキュアなグループチャットが必要な方は、Matrixを試してみる価値があります。

アカウント作成は無料で簡単にできるので、まずはElement Web版で体験してみることをおすすめします。

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