「プランク定数って何?」「物理の教科書に出てくるけど、いまいちピンとこない…」と感じたことはありませんか。
プランク定数は、量子力学という現代物理学の土台を支える、とても重要な物理定数です。
光のエネルギーと振動数の関係を表す定数で、記号「h」で表されます。
この記事では、プランク定数の意味から、発見の歴史、実際の数値、身の回りでの応用例まで、中学生でも理解できるようにやさしく解説します。
物理や化学に興味がある方、受験で量子論を学ぶ方に役立つ内容をお届けしますので、ぜひ最後までお読みください。
プランク定数とは
プランク定数は、量子力学における基本定数の一つです。
基本的な定義
プランク定数(Planck constant)は、光子(光の粒)が持つエネルギーと、その光の振動数の関係を表す比例定数です。
記号は「h」で表されます。
基本的な式
E = hν
- E:光のエネルギー(ジュール)
- h:プランク定数
- ν:光の振動数(ヘルツ)
この式が意味するのは、「光のエネルギーは、振動数に比例する」ということです。
プランク定数の値
プランク定数の正確な値は、以下のように定義されています。
h = 6.62607015 × 10⁻³⁴ J·s(ジュール秒)
この数値は2019年5月20日から、国際単位系(SI)において固定された定義値となりました。
非常に小さな数なので、日常生活のスケールでは感じることができません。
しかし、原子や電子といったミクロな世界では、この定数が決定的な役割を果たします。
別の表現単位
プランク定数は、エネルギーの単位として「電子ボルト秒(eV·s)」でも表現されます。
h = 4.135667696 × 10⁻¹⁵ eV·s
電子ボルト(eV)は、原子や分子のエネルギーを表すときによく使われる単位です。
プランク定数の発見と歴史
プランク定数は、どのようにして発見されたのでしょうか。
マックス・プランクと黒体放射
プランク定数は、ドイツの物理学者マックス・プランク(Max Planck)によって、1900年に導入されました。
当時、物理学者たちは「黒体放射」という現象に頭を悩ませていました。
黒体放射とは
熱せられた物体が光を放つ現象のことです。
鉄を熱すると赤く光り、さらに熱すると白く光るのも、黒体放射の一種です。
紫外線破綻(ultraviolet catastrophe)
19世紀末、古典物理学(レイリー・ジーンズの法則)で黒体放射を説明しようとすると、大きな問題が生じました。
計算上、短波長(紫外線領域)では、放射のエネルギーが無限大になってしまうのです。
これを「紫外線破綻」と呼びます。
プランクの大胆な仮説
この問題を解決するため、プランクは革命的な仮説を立てました。
「エネルギーは連続的ではなく、飛び飛びの値(量子)でしかやり取りできない」
つまり、エネルギーは「最小単位」があり、その整数倍の値しか取れないという考え方です。
この最小単位を決めるのが、プランク定数「h」なのです。
量子力学の誕生
プランクの仮説は、当初は単なる「計算上の工夫」と考えられていました。
しかし、その後アインシュタインが光電効果の説明にプランク定数を使い(1905年)、この考え方が正しいことが証明されました。
これが量子力学の始まりとなり、20世紀物理学に革命をもたらしました。
プランク定数の物理的意味
プランク定数は、何を表しているのでしょうか。
エネルギーの最小単位
プランク定数は、ミクロな世界における「エネルギーの階段の高さ」を表しています。
坂道と階段のたとえ
- 古典物理学の世界:なだらかな坂道を、どこでも自由に歩ける
- 量子力学の世界:階段を上り下りする。特定の段にしか立てない
プランク定数は、この「階段の段差」を決める定数なのです。
光の粒子性と波動性
プランク定数は、光が「粒子」でもあり「波」でもあるという二重性を表します。
光のエネルギー(粒子としての性質)
E = hν
光の振動数(波としての性質)が高いほど、光子1個のエネルギーも大きくなります。
作用量子
プランク定数は、「作用量子」とも呼ばれます。
作用とは、エネルギー×時間、または運動量×距離という物理量です。
プランク定数は、この「作用」の最小単位を表しています。
換算プランク定数(ディラック定数)
プランク定数には、もう一つの重要な形があります。
換算プランク定数とは
プランク定数hを2π(円周率の2倍)で割った値を、「換算プランク定数」または「ディラック定数」と呼びます。
記号は「ℏ」(エイチバー)で表されます。
ℏ = h / 2π
ℏ = 1.054571817 × 10⁻³⁴ J·s
なぜ2πで割るのか
円運動や回転運動を扱う場合、角速度や角運動量といった「角度」に関する量を使います。
角度の単位である「ラジアン」では、1回転が2πラジアンになります。
そのため、回転運動を扱う量子力学では、ℏを使う方が計算が簡単になるのです。
角運動量とスピン
電子や原子の角運動量(回転の勢い)は、常に換算プランク定数ℏの整数倍または半整数倍になります。
例えば、電子のスピン(自転のようなもの)は、±ℏ/2です。
プランク定数と不確定性関係
プランク定数は、量子力学の有名な原理とも関係しています。
ハイゼンベルクの不確定性原理
ドイツの物理学者ハイゼンベルクが提唱した「不確定性原理」によると、粒子の位置と運動量を同時に正確に測定することはできません。
その限界を決めるのが、プランク定数です。
不確定性関係の式
Δx · Δp ≥ ℏ/2
- Δx:位置の不確定さ
- Δp:運動量の不確定さ
- ℏ:換算プランク定数
位置を正確に測ろうとすると運動量が不確定になり、運動量を正確に測ろうとすると位置が不確定になります。
エネルギーと時間の不確定性
同様に、エネルギーと時間についても不確定性関係が成り立ちます。
ΔE · Δt ≥ ℏ/2
短い時間で起こる現象ほど、エネルギーの不確定さが大きくなります。
プランク定数が使われる場面
プランク定数は、量子力学のさまざまな場面で登場します。
光電効果
金属に光を当てると、電子が飛び出す現象を「光電効果」と呼びます。
アインシュタインは、この現象をプランク定数を使って説明しました(1905年)。
光電効果の式
E = hν - W
- E:飛び出す電子の運動エネルギー
- hν:光子1個のエネルギー
- W:金属から電子を取り出すのに必要なエネルギー(仕事関数)
この業績により、アインシュタインは1921年にノーベル物理学賞を受賞しました。
ド・ブローイ波長
フランスの物理学者ド・ブローイ(de Broglie)は、「すべての粒子は波の性質を持つ」と提唱しました(1923年)。
粒子の波長は、プランク定数を使って表されます。
ド・ブローイ波長の式
λ = h / p
- λ:波長
- h:プランク定数
- p:運動量
電子や原子のような小さな粒子は、波のように振る舞うことができるのです。
原子のエネルギー準位
原子内の電子が持つエネルギーは、連続的な値ではなく、飛び飛びの値(エネルギー準位)しか取れません。
この「飛び飛び」の間隔を決めるのが、プランク定数です。
電子がエネルギー準位間を移動するとき、その差に対応する光を吸収または放出します。
量子コンピュータ
最先端技術である量子コンピュータも、プランク定数が決める量子力学の原理を利用しています。
量子ビット(qubit)は、0と1の重ね合わせ状態を取ることができ、これがプランク定数によって特徴づけられる量子力学の世界だからこそ可能なのです。
プランク定数と単位系の改定
2019年、プランク定数は国際単位系(SI)の根幹を担う定義定数となりました。
2019年5月20日のSI改定
それまで、質量の単位「キログラム(kg)」は、フランスに保管されている「国際キログラム原器」という金属の塊で定義されていました。
しかし、原器は微妙に質量が変化してしまう問題がありました。
そこで、プランク定数の値を正確に固定し、それを基準にキログラムを定義する方式に変更されたのです。
プランク定数によるキログラムの定義
新しい定義では、プランク定数の値を以下のように固定しました。
h = 6.62607015 × 10⁻³⁴ J·s(正確な値)
この値と、光速度、セシウム原子の振動数を組み合わせることで、キログラムが定義されます。
定義定数となった意味
プランク定数が「定義定数」になったことで、今後この値が変わることはありません。
これにより、世界中どこでも、いつでも、同じ精度で質量を測定できる基盤が整いました。
プランク単位系
プランク定数を使って、「プランク単位」という特殊な単位系を作ることができます。
プランク単位とは
プランク単位は、プランク定数、光速度、万有引力定数といった基本的な物理定数だけを使って定義される単位系です。
プランク長
プランク長 ≈ 1.616 × 10⁻³⁵ m
これは、物理学的に意味のある最小の長さと考えられています。
これより小さいスケールでは、時空そのものが量子的なゆらぎを持ち、現在の物理学が通用しなくなる可能性があります。
プランク時間
プランク時間 ≈ 5.391 × 10⁻⁴⁴ 秒
これは、物理学的に意味のある最小の時間単位です。
宇宙が誕生した「ビッグバン」の直後、宇宙の年齢がこれくらいの時期を「プランクの時代」と呼びます。
プランク質量
プランク質量 ≈ 2.176 × 10⁻⁸ kg
ミクロな世界の定数から導かれる割には、意外と大きな値です(約0.02ミリグラム)。
これは、重力と量子力学の効果が同程度になる質量のスケールです。
プランク温度
プランク温度 ≈ 1.417 × 10³² K
理論上の最高温度です。
ビッグバン直後の宇宙は、この温度に近かったと考えられています。
プランク定数に関する歴史上の人物
プランク定数の発見と発展に関わった主要な科学者を紹介します。
マックス・プランク(1858-1947)
ドイツの物理学者で、量子力学の創始者の一人です。
1900年に黒体放射の研究からプランク定数を導入し、1918年にノーベル物理学賞を受賞しました。
プランク自身は、当初「エネルギーの量子化」を単なる計算の工夫と考えていましたが、これが物理学の革命につながりました。
アルベルト・アインシュタイン(1879-1955)
ドイツ生まれの物理学者です。
1905年、光電効果の理論でプランク定数を使い、光が「粒子」としての性質を持つことを示しました。
この業績により、1921年にノーベル物理学賞を受賞しています。
ルイ・ド・ブローイ(1892-1987)
フランスの物理学者です。
1923年、「すべての物質粒子は波動性を持つ」という仮説を提唱しました。
粒子の波長とプランク定数の関係を示し、1929年にノーベル物理学賞を受賞しました。
ヴェルナー・ハイゼンベルク(1901-1976)
ドイツの物理学者で、量子力学の形式化に貢献しました。
1927年、プランク定数が関わる「不確定性原理」を発見し、1932年にノーベル物理学賞を受賞しています。
ポール・ディラック(1902-1984)
イギリスの物理学者です。
量子力学と特殊相対性理論を統合した「ディラック方程式」を提唱しました。
換算プランク定数「ℏ」は、彼の名前から「ディラック定数」とも呼ばれます。
1933年にノーベル物理学賞を受賞しました。
日常生活とプランク定数
プランク定数は、私たちの身の回りでも活躍しています。
LED照明
LED(発光ダイオード)は、電子が持つエネルギーを光に変換する素子です。
発光する光の色(振動数)は、プランク定数によって決まるエネルギーの関係から導かれます。
青色LEDの開発には、この量子力学の原理が不可欠でした。
太陽光発電
太陽電池は、光電効果を利用して光のエネルギーを電気に変換します。
この仕組みは、アインシュタインがプランク定数を使って説明した原理そのものです。
スマートフォンやパソコン
半導体を使った電子機器は、すべて量子力学の原理で動いています。
トランジスタやメモリチップの動作は、プランク定数が支配する電子の振る舞いに基づいています。
医療機器(MRIなど)
MRI(磁気共鳴画像装置)は、原子核のスピン(磁気モーメント)を利用しています。
このスピンの大きさは、換算プランク定数ℏで表されます。
原子時計
世界で最も正確な時計である「原子時計」は、原子のエネルギー準位間の遷移を利用しています。
このエネルギー準位の間隔は、プランク定数によって決まります。
よくある質問
プランク定数は何を表しているのですか?
プランク定数は、光子のエネルギーと振動数の比例定数です。
また、量子力学において「エネルギーの最小単位」や「作用の最小単位」を決める基本定数でもあります。
プランク定数の記号「h」は何の略ですか?
プランクが自分の論文で使った記号「h」は、ドイツ語の「Hilfsgröße(補助量)」の頭文字に由来するとされています。
なぜプランク定数は非常に小さな値なのですか?
プランク定数は、原子や電子といったミクロな世界でのエネルギーの単位を表します。
ミクロな世界では、私たちが日常で扱うエネルギーが非常に大きく見えるため、プランク定数は小さな値になります。
換算プランク定数(ℏ)とプランク定数(h)の違いは何ですか?
換算プランク定数ℏは、プランク定数hを2πで割った値です。
回転運動や角運動量を扱う場合、ℏを使う方が計算が簡単になります。
プランク定数は古典力学では使いませんか?
古典力学では、プランク定数は登場しません。
プランク定数は、量子力学特有の定数です。
量子力学の式でh→0(プランク定数がゼロに近づく)の極限を取ると、古典力学の式に戻ります。
プランク定数はなぜキログラムの定義に使われるのですか?
プランク定数は、エネルギーと質量を結びつける基本的な定数だからです。
アインシュタインの有名な式E=mc²と組み合わせることで、プランク定数から質量を導くことができます。
プランク定数の値は将来変わる可能性がありますか?
2019年のSI改定により、プランク定数は「定義定数」となりました。
そのため、今後この値が変わることはありません。
ただし、より精密な測定技術の開発は、科学の進歩のために重要です。
プランク長より小さいものは存在しないのですか?
プランク長は、現在の物理学が意味を持つ最小のスケールと考えられています。
これより小さいスケールでは、時空そのものが量子的にゆらぐため、新しい物理学の理論(量子重力理論)が必要になります。
まとめ
プランク定数は、量子力学を特徴づける最も重要な物理定数の一つです。
プランク定数の基本
- 記号:h
- 値:6.62607015 × 10⁻³⁴ J·s
- 意味:光子のエネルギーと振動数の比例定数
発見の歴史
- 1900年、マックス・プランクが黒体放射の研究で導入
- 紫外線破綻の問題を解決
- 量子力学誕生のきっかけとなった
物理的な意味
- ミクロな世界でのエネルギーの最小単位
- 粒子と波動の二重性を表す
- 不確定性原理に現れる
換算プランク定数
- 記号:ℏ(エイチバー)
- ℏ = h / 2π
- 角運動量やスピンを扱う際に便利
応用例
- 光電効果
- LED照明
- 太陽光発電
- 半導体デバイス
- 原子時計
SI単位系での役割
- 2019年にキログラムの定義に採用
- 定義定数として固定された値を持つ
プランク定数は、私たちの目には見えないミクロな世界を支配する基本的な定数です。
量子力学という現代物理学の根幹を成し、スマートフォンから太陽光発電まで、現代技術の基礎となっています。
一見すると抽象的で難しそうに見えるかもしれませんが、「エネルギーの階段の高さを決める定数」と考えると、イメージしやすくなるでしょう。
この小さな定数が、私たちの宇宙と物質の性質を決めている――そう考えると、プランク定数の偉大さが実感できるのではないでしょうか。

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