超対称性粒子とは?未発見のスパートナーと最新のLHC探索結果

「すべての素粒子にはスピンが異なる”双子”が存在する」という超対称性理論の予言から、40年以上にわたって探索が続けられている超対称性粒子(SUSY粒子)。
標準模型の抱える階層性問題やダークマターの謎を解決する有力候補として注目されてきましたが、LHC(大型ハドロン衝突型加速器)での探索でも、未だに発見には至っていません。
この記事では、超対称性粒子とは何か、なぜ重要なのか、そして最新の探索状況と今後の展望について、基礎から最新研究まで分かりやすく解説します。

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超対称性粒子とは

超対称性粒子は、超対称性理論(Supersymmetry, SUSY)によって予言される仮説上の素粒子です。

超対称性理論の基本概念

超対称性理論は、ボソン(ボース粒子)とフェルミオン(フェルミ粒子)の入れ替えに対応する対称性を持つ理論です。

この理論では、標準模型のすべての素粒子に対して、「超対称性パートナー(スパートナー)」が存在すると予言されています。

スピンが1/2だけ異なる点以外は、電荷などの量子数が同じです。

フェルミオンとボソンの関係

自然界の素粒子は、2つのカテゴリーに分類されます。

フェルミオン(スピン1/2の粒子)は物質を構成します(クォーク、レプトン)。
ボソン(スピン0または1の粒子)は力を媒介します(光子、グルーオン、Wボソン、Zボソン、ヒッグス粒子)。

超対称性理論では、各フェルミオンにボソンのスパートナーが、各ボソンにフェルミオンのスパートナーが存在します。

命名規則

超対称性粒子の名前には、特定の命名規則があります。

フェルミオンに対するボソンのスパートナーは、元の粒子名の語頭に「s-」を付けます(スカラーの略)。
例:電子 → セレクトロン(スカラー電子)、クォーク → スクォーク(スカラークォーク)

ボソンに対するフェルミオンのスパートナーは、元の粒子名の語尾に「-ino(イーノ)」を付けます。
例:光子(フォトン) → フォティーノ、グルーオン → グルイーノ、ヒッグス → ヒグシーノ

主な超対称性粒子

標準模型の各粒子に対応する超対称性粒子を紹介します。

スクォーク(Squark)

クォークのスパートナーです。
スピン0のスカラー粒子です。
アップ、ダウン、チャーム、ストレンジ、トップ、ボトムの各クォークに対応するスクォークが予言されています。
特にトップクォークのスパートナー「ストップ」は、階層性問題の解決に重要な役割を果たすと考えられています。

スレプトン(Slepton)

レプトン(電子、ミューオン、タウ粒子、ニュートリノ)のスパートナーです。
スピン0のスカラー粒子です。
セレクトロン(電子のスパートナー)、スミューオン(ミューオンのスパートナー)、スタウ(タウ粒子のスパートナー)、スニュートリノ(ニュートリノのスパートナー)が存在します。

グルイーノ(Gluino)

グルーオンのスパートナーです。
スピン1/2のフェルミオンです。
強い相互作用を媒介します。
マヨラナ粒子(自分自身が反粒子)です。
LHCでの探索の主要ターゲットの一つです。

ゲージーノ(Gaugino)

ゲージボソンのスパートナーの総称です。
Wボソンのスパートナー:ウィーノ
Zボソンのスパートナー:ジィーノ
光子のスパートナー:フォティーノ

ヒグシーノ(Higgsino)

ヒッグス粒子のスパートナーです。
スピン1/2のフェルミオンです。
電弱対称性の破れと密接に関係しており、数100 GeV程度の質量を持つことが示唆されています。
ダークマターの候補としても注目されています。

チャージーノ(Chargino)とニュートラリーノ(Neutralino)

ウィーノと荷電ヒグシーノが混合した質量固有状態の粒子がチャージーノです。
ジィーノ、フォティーノ、中性ヒグシーノが混合した質量固有状態の粒子がニュートラリーノです。

これらは、電弱相互作用を行うSUSY粒子として「エレクトロウィーキーノ」とも総称されます。

グラビティーノ(Gravitino)

重力子(グラビトン)のスパートナーです。
スピン3/2の粒子です。
重力相互作用のみを行い、非常に弱く相互作用します。

なぜ超対称性粒子が重要なのか

超対称性粒子の存在は、標準模型が抱える複数の問題を解決する可能性があります。

階層性問題の解決

標準模型では、ヒッグス粒子の質量を理論的に計算すると、量子補正により非常に大きな値(プランクスケール:10^19 GeV)になってしまいます。

しかし、実際に観測されたヒッグス粒子の質量は約125 GeVです。

この矛盾を解決するには、理論パラメータの極めて精密な調整(ファインチューニング)が必要になります。
これが「階層性問題」です。

超対称性理論では、フェルミオンからの量子補正とボソンからの量子補正が符号が逆で、自動的に相殺されます。

これにより、ヒッグス粒子の質量を自然に電弱スケール(約100 GeV)に保つことができます。

ダークマターの候補

宇宙の質量の約27%を占めるダークマターの正体は、未だに解明されていません。

超対称性理論でR-パリティ(R-parity)保存を仮定すると、最も軽い超対称性粒子(LSP: Lightest Supersymmetric Particle)は安定で崩壊しません。

LSPが電気的に中性であれば、ダークマターの性質(弱く相互作用する重い粒子:WIMP)を満たします。

特に、ニュートラリーノは有力なダークマター候補として注目されています。

力の大統一

標準模型では、電磁気力、弱い力、強い力の3つの力の結合定数は、エネルギースケールによって変化します。

標準模型だけでは、これら3つの力の結合定数は高エネルギーで完全には一致しません。

しかし、超対称性理論を導入すると、3つの力の結合定数が約10^16 GeVで精密に一致することが示されます。

これは、大統一理論(GUT)への強い示唆となります。

超弦理論との関係

超対称性は、重力を含むすべての力を統一する理論の候補である超弦理論の重要な構成要素です。

超弦理論が数学的に矛盾なく定式化されるには、超対称性が必須です。

超対称性の破れ

現在の宇宙では超対称性粒子は観測されていないため、低エネルギーでは超対称性は破れていると考えられています。

自発的対称性の破れ

超対称性理論の基本的な考え方は、高エネルギーでは超対称性が成り立っているが、低エネルギーの真空状態では自発的に破れているというものです。

これにより、粒子とそのスパートナーの質量が異なることが説明されます。

ソフトSUSY破れ

超対称性の破れを導入する際、理論の良い性質(階層性問題の解決など)を保つため、「ソフトSUSY破れ」と呼ばれる特殊な破れ方を仮定します。

これにより、超対称性粒子の質量はTeVスケール(数100 GeV〜数TeV)になると予想されています。

破れの機構

超対称性の破れを引き起こす具体的な機構については、複数のモデルが提案されています。

重力媒介型超対称性の破れ(mSUGRA)
ゲージ媒介型超対称性の破れ(GMSB)
アノマリー媒介型超対称性の破れ(AMSB)

これらのモデルにより、超対称性粒子の質量スペクトラムが決まります。

LHCでの超対称性粒子探索

欧州原子核研究機構(CERN)の大型ハドロン衝突型加速器(LHC)では、超対称性粒子の直接生成・発見を目指した大規模な探索が行われています。

LHCの性能

LHCは、陽子同士を衝突させる世界最大の粒子加速器です。
重心系エネルギー:13 TeV(Run 2)、13.6 TeV(Run 3)
積算ルミノシティ:Run 2で約140 fb^-1のデータを収集

ATLAS実験とCMS実験

LHCには2つの大型検出器実験があります。

ATLAS(A Toroidal LHC ApparatuS)実験
CMS(Compact Muon Solenoid)実験

どちらも超対称性粒子の探索を主要な目的の一つとしています。

探索戦略

超対称性粒子は、主に以下のような特徴的なシグナルで探索されます。

R-パリティ保存の場合、LSPは検出器を通り抜けるため、「欠損横運動量(Missing Transverse Energy)」として観測されます。
スクォークやグルイーノは強い相互作用で大量に生成されるため、ジェット(粒子の束)+ 欠損エネルギーのシグナルで探索されます。
エレクトロウィーキーノやスレプトンは、レプトン(電子、ミューオン)+ 欠損エネルギーのシグナルで探索されます。

探索の困難さ

超対称性粒子の探索は、以下の理由で非常に困難です。

生成断面積(生成される確率)が小さい、特に電弱相互作用で生成される粒子
標準模型の背景事象(SUSY粒子ではない普通の粒子衝突)が非常に多い
質量が縮退している場合(スパートナー同士の質量差が小さい場合)、シグナルが検出しにくい

最新の探索結果(2025年時点)

LHCでのRun 2(2015-2018年)およびRun 3(2022年〜)のデータ解析により、超対称性粒子に対する厳しい制限が得られています。

スクォークとグルイーノ

2021年のCERN公式論文では、「超対称性粒子がいかなる条件下でも観測されなかった」と報告されました。

スクォークとグルイーノの質量下限は約2 TeVに達しています(質量が縮退している場合)。

特にストップ(トップスクォーク)の探索では、約600 GeVまで除外されています。

エレクトロウィーキーノとスレプトン

チャージーノとニュートラリーノの探索では、質量下限が約1 TeVに達しています(簡略化モデルの場合)。

スレプトンの質量下限は約180 GeVです。
スタウ(タウスレプトン)の探索は特に困難で、現在もLEP(大型電子陽電子衝突型加速器)が設定した制限(約100 GeV)を超える領域の探索が進行中です。

ヒグシーノ

ヒグシーノは電弱対称性の破れと密接に関係しており、自然性(ナチュラルネス)を重視するモデルでは数100 GeV程度の軽い質量が予想されています。

しかし、ヒグシーノ同士の質量差が小さい場合、LHCでの探索は非常に困難です。
現在の探索では、質量差が数100 MeV以下の領域は未探索として残っています。

R-パリティ破れモデル

R-パリティが破れている場合、LSPは崩壊するため、従来と異なるシグナルで探索されます。

2024年のICHEP会議で、ATLAS実験は新しいR-パリティ破れモデルの探索結果を発表しました。

超対称性理論は「死んだ」のか

LHCでSUSY粒子が発見されないことから、一部では「超対称性理論は死んだ」という声も上がっています。

まだ死んでいない理由

しかし、超対称性理論は完全に否定されたわけではありません。

現在の制限は主に「簡略化モデル」に基づいており、現実的なモデルでは制限が弱まる可能性があります。
ヒグシーノやビーノダークマターと共消滅するウィーノ、スタウなど、まだ未探索または探索が不十分な領域が残っています。
質量が縮退している場合や、長寿命粒子が存在する場合など、従来の探索では見逃される可能性があります。

自然性の問題

ナチュラルSUSYモデルでは、軽いストップ(約600 GeV以下)が予想されていましたが、この領域は既に除外されています。

これにより、理論の「自然性」が失われつつありますが、ある程度のファインチューニング(1%程度)を許容すれば、まだ生き残る余地があります。

スプリットSUSY

スプリットSUSYモデルでは、スカラー粒子(スクォーク、スレプトン)が非常に重く、フェルミオンのスパートナー(ゲージーノ、ヒグシーノ)のみが軽いと仮定します。

このモデルでは、階層性問題の解決は諦めますが、ゲージ結合定数の統一とダークマターの説明は可能です。

今後の探索の展望

超対称性粒子の探索は、今後も継続されます。

LHC Run 3とHigh-Luminosity LHC

LHC Run 3(2022年〜)では、重心系エネルギーが13.6 TeVに増強されました。

High-Luminosity LHC(HL-LHC)は、2029年頃から稼働予定で、積算ルミノシティは3000 fb^-1を目指します。

これにより、より重い超対称性粒子や、稀な崩壊モードの探索が可能になります。

探索手法の改善

機械学習技術(ブースト決定木、深層学習など)を用いた新しい探索手法が開発されています。

データ駆動型アプローチにより、背景事象の正確な推定が可能になっています。

長寿命粒子や非標準的な崩壊シグナルの探索も進められています。

将来の加速器計画

LHC以降の将来の加速器計画も検討されています。

国際リニアコライダー(ILC):電子-陽電子衝突型加速器(日本で計画中)
将来円形コライダー(FCC):CERNで検討中の次世代円形加速器
中国電子陽電子コライダー(CEPC):中国で計画中

これらの加速器では、ヒグシーノなどの軽い超対称性粒子の精密探索が可能になる可能性があります。

間接探索

直接生成探索以外にも、間接的な探索方法があります。

ダークマター直接検出実験(XENON、LUX-ZEPLINなど)でニュートラリーノを探索
宇宙線観測(AMS-02、Fermiガンマ線望遠鏡など)でダークマター対消滅の兆候を探索
精密測定(ミューオンg-2異常など)で超対称性粒子の量子補正効果を探索

まとめ

超対称性粒子は、標準模型の抱える階層性問題やダークマターの謎を解決する有力な候補として、40年以上にわたって理論・実験の両面から研究されてきました。

超対称性理論では、すべての素粒子にスピンが1/2異なるスパートナーが存在します。
主な超対称性粒子として、スクォーク、スレプトン、グルイーノ、ゲージーノ、ヒグシーノなどが予言されています。
最も軽い超対称性粒子(LSP)は、ダークマターの有力候補です。

LHCでの探索により、以下のような厳しい制限が得られています。

スクォークとグルイーノの質量下限:約2 TeV
エレクトロウィーキーノの質量下限:約1 TeV(簡略化モデル)
スレプトンの質量下限:約180 GeV

しかし、超対称性理論は完全に否定されたわけではありません。

ヒグシーノなど、まだ未探索または探索が不十分な領域が残っています。
質量縮退や長寿命粒子など、従来の探索では見逃される可能性があります。
スプリットSUSYなど、新しいモデルも提案されています。

今後、LHC Run 3やHL-LHC、さらには将来の加速器計画により、より広い質量領域・より多様なシグナルの探索が進められます。

超対称性粒子が発見されれば、素粒子物理学は新時代を迎えることになるでしょう。
一方、さらなる探索でも発見されなければ、物理学の根本的な枠組みを問い直す必要が生じるかもしれません。

いずれにせよ、超対称性粒子の探索は、自然界の根本法則を理解するための重要な挑戦であり続けています。

参考情報

本記事は以下の信頼できる情報源に基づいて作成されました。

記事最終更新日:2026年2月10日

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