和菓子の代表格である羊羹(ようかん)。
小豆を使った甘い菓子なのに、なぜ「羊」という漢字が使われているのでしょうか。
実は、羊羹の起源は中国の料理にあり、その名前の由来には1500年以上の歴史が隠されています。
この記事では、羊羹という名前に込められた意外な由来と、中国から日本へ伝わり和菓子として発展した歴史を解説します。
「羊羹」という言葉の意味
羊羹は「羊」と「羹」という二つの漢字で構成されています。
それぞれの漢字には、以下のような意味があります。
羊(よう)
動物のヒツジを指す漢字です。
羹(かん・あつもの)
肉や野菜を入れた熱い汁物を意味する漢字です。
「羹に懲りて膾を吹く」ということわざにも使われています。
つまり、「羊羹」とは文字通り「羊の肉を使ったスープ」を意味する言葉なのです。
羊羹の起源は中国の羊肉スープ
羊羹のルーツは、中国大陸で食されていた羊肉料理にあります。
紀元前から存在していたとされ、5世紀の中国の歴史書『宋書』にも記録が残っています。
中国では、羊の肉を煮込んだスープを「羊羹」と呼んでいました。
このスープは熱々の状態で食べるだけでなく、冷えて肉のゼラチン質が固まった煮こごりの状態でも食されていました。
羊の脂は他の動物の脂と比べて融点が高いため、冷えると固まりやすい性質があります。
この煮こごりの食感が、現代の羊羹に通じるシルエットを持っていたのです。
日本への伝来と変化
鎌倉時代から室町時代に禅僧が伝える
羊羹が日本に伝わったのは、鎌倉時代から室町時代(1185年〜1573年)にかけてのことです。
中国に留学した禅僧が、点心(てんじん)の一つとして日本に持ち帰りました。
点心とは、食事と食事の間に食べる軽食のことです。
当時は1日2食が一般的だったため、その間に食べる小食として様々な点心が存在しました。
肉食禁止による植物性材料への転換
しかし、ここで大きな問題がありました。
禅宗では肉食が戒律(五戒)により禁じられていたのです。
そこで禅僧たちは、羊肉の代わりに小豆、小麦粉、葛粉などの植物性の材料を使って、羊の羹に見立てた精進料理を作りました。
これが日本における羊羹の原型となったのです。
当初は塩味で作られていましたが、砂糖が国内で生産されるようになると、甘い羊羹が作られるようになりました。
この時点では、小豆や小麦粉を混ぜて蒸した「蒸羊羹」が主流でした。
武家社会や茶会での普及
室町時代以降、羊羹は寺院だけでなく武家社会にも広まります。
中国から伝わった珍しい食べ物として、客人をもてなす際の料理の一つとして供されました。
また、茶会でも用いられるようになり、次第に甘味が強調されて菓子としての性格を持つようになっていきます。
江戸時代の発展
寒天の登場と水羊羹の誕生
江戸時代に入ると、羊羹は大きな変化を遂げます。
最も重要な転換点は、寒天の誕生でした。
1760年頃から、史料に「水羊羹」という言葉が見られるようになります。
当初は蒸羊羹を柔らかく仕上げたものを水羊羹と呼んでいましたが、やがて寒天を使って固める製法が生まれました。
煉羊羹の誕生と全国への普及
江戸時代後半(1700年代後半)には、火にかけて煉って水分を飛ばす製法により「煉羊羹(ねりようかん)」が誕生します。
煉羊羹は、それまでの日本のお菓子にない独特の弾力となめらかな口当たりを持っていました。
この新しい食感は人々に受け入れられ、急速に全国へ広まります。
1849年の番付「諸国名物一覧」の流行ものの項に煉羊羹の名前が見られることから、幕末には各地で人気を博していたことがわかります。
江戸時代前半までは蒸羊羹が主流でしたが、やがて「羊羹」といえば煉羊羹を指すようになり、現代に至っています。
羊羹の種類
現代の羊羹には、主に以下の種類があります。
煉羊羹(ねりようかん)
餡、砂糖、寒天を煮詰めて固めたもので、最も一般的な羊羹です。
糖度が高いため保存性に優れ、常温で1年以上保存できるものもあります。
水羊羹(みずようかん)
煉羊羹よりも水分が多く、寒天の量が少ないため柔らかい食感です。
カロリーが低く、夏に冷やして食べるのが一般的です。
蒸羊羹(むしようかん)
小豆餡に小麦粉、砂糖、水を混ぜて蒸した伝統的な製法の羊羹です。
日本に伝来した当初の羊羹に最も近い形態といえます。
「羊肝」から混同されたという異説
羊羹の名前の由来には、もう一つ興味深い説があります。
中国には「羊肝こう」または「羊肝餅」と呼ばれる、羊の肝に似せて小豆と砂糖で作る蒸し餅が存在していました。
この「羊肝こう」が日本に伝来した際、「肝(かん)」と「羹(かん)」の音が似ていたため混同され、「羊羹」の文字が使われるようになったという説です。
ただし、この説については確証が持てる資料が限られており、羊肉のスープが起源とする説が一般的に受け入れられています。
現代の羊羹
羊羹は、中国の羊肉スープから出発し、日本で和菓子として独自の発展を遂げました。
現代では、伝統的な小豆羊羹だけでなく、栗羊羹、芋羊羹、抹茶羊羹など、様々なバリエーションが生まれています。
チョコレート、ドライフルーツ、ナッツなどを使った革新的な羊羹も登場し、時代とともに進化を続けています。
また、羊羹は保存性が高く、少量で高カロリーを摂取できることから、登山やスポーツの補給食としても注目されています。
2013年に三浦雄一郎さんが80歳でエベレスト登頂に成功した際にも、羊羹を携行していたことが話題になりました。
まとめ
羊羹に「羊」の字が使われているのは、その起源が中国の羊肉スープにあるためです。
鎌倉時代から室町時代に禅僧によって日本に伝えられた羊羹は、肉食が禁じられていたために植物性の材料で作られるようになり、時代とともに甘い和菓子へと変化しました。
中国の料理が日本の伝統的な和菓子に姿を変えた羊羹は、文化の伝播と独自の発展を示す興味深い例といえるでしょう。
参考情報
この記事は以下の情報源を参考に作成しました。
- 虎屋公式サポートページ「なぜ『羊羹』というのでしょうか?」
- 家庭画報「羊羹のルーツは中国の”羊肉スープ”だった!今さら聞けない『羊羹』の歴史」
- Wikipedia「羊羹」
- 語源由来辞典「羊羹/ようかん」
- 日本語源大辞典
- SHUNGATE「Yokan—A Sweet that Evolved while Being Nurtured by Japan’s Culture and Climate」

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