アースムンドとは?北欧伝説サガに登場する勇者の物語を徹底解説

神話・歴史・文化

「アースムンド」という名前を聞いたことはありますか?北欧神話やゲームに詳しい方なら、どこかで出会ったことがあるかもしれません。アースムンドは、中世アイスランドの「伝説のサガ」に登場する英雄で、「ベルセルク殺し」という勇ましい異名を持つ人物です。

この記事では、アースムンドという名前の意味から、彼が活躍するサガの物語、さらには北欧の死者信仰と深く結びついた恐ろしくも魅力的なエピソードまで、詳しく紹介していきます。

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アースムンドの名前の意味と語源

「アースムンド」は古ノルド語で「Ásmundr(アースムンズル)」と表記されます。この名前は2つの要素から成り立っています。

まず「Ás(アース)」は「神」を意味し、北欧神話のアース神族(オーディンやトールが属する神々の一族)と同じ語源を持ちます。次に「mundr(ムンズル)」は「守護者」「保護」を意味する言葉です。

つまりアースムンドとは「神々の守護を受ける者」あるいは「神に守られし者」という意味を持つ名前なんです。ヴァイキング時代のスカンディナビアでは非常によく使われた名前で、デンマーク語やスウェーデン語では「Æsmund」、ノルウェー語では「Åsmund」と表記されます。英語圏では同じ語源から「Osmund(オズムンド)」という名前が生まれました。

この名前が示すとおり、サガに登場するアースムンドもまた、神々の加護を受けたかのような超人的な力と勇気を持つ英雄として描かれています。

『片腕のエギルとアースムンド・ベルセルク殺しのサガ』

アースムンドが主人公として活躍するのは、『Egils saga einhenda ok Ásmundar berserkjabana』(片腕のエギルとアースムンド・ベルセルク殺しのサガ)という作品です。14世紀頃のアイスランドで書き記されたと考えられており、「フォルナルダルソグル」(伝説のサガ)というジャンルに分類されます。

この作品は、現存する最古の写本が15世紀初頭のものであり、1693年にスウェーデンの学者ペッテル・サランによって初めて印刷出版されました。

物語の舞台と登場人物

物語の舞台は、ガルザリキ(古ノルド語でロシア一帯を指す)とフーナランド(フン族の地)の間に位置する「ルッシーア」と呼ばれる地域、そしてノルウェー北部のハロガランド、さらには巨人の国ヨトゥンヘイムにまで及びます。

主人公の一人であるアースムンドは、ハロガランドの王オッタルとデンマーク・ユトランドの伯爵オッタルの娘シグリッドとの間に生まれた王子です。12歳にして成人並みの体格を持ち、並外れた力を持つ青年として描かれています。

もう一人の主人公エギル(片腕のエギル)は、スモーランドの王フリングの息子で、ヴァイキングの略奪遠征で名を馳せた戦士です。物語では、二人が出会い、互いの力を認め合って義兄弟の契りを結ぶ場面から冒険が始まります。

あらすじ

ルッシーアの王ヘルトリュッグには、ブリュンヒルドとベックヒルドという二人の美しい娘がいました。しかし二人は巨人にさらわれてしまいます。王は娘たちを救い出せる者を探しており、そこにアースムンドとエギルが名乗りを上げます。

二人は義兄弟として協力し、数々の危険な冒険と戦いを乗り越えていきます。その中には、巨人族との死闘、そしてエギルが片腕を失う悲劇も含まれています。しかし物語の終盤、かつてエギルが助けた女巨人アリンネフヤが現れ、彼女は切り落とされたエギルの腕を保管しており、それを体に繋ぎ直すという奇跡を起こします。

最終的に二人の英雄は王女たちを救出し、ハッピーエンドを迎えることになります。

アランとの義兄弟の誓い:ドラウグルとの戦い

サガの中でも特に有名で、後世に大きな影響を与えたエピソードが、アースムンドと親友アランの物語です。

運命の出会いと誓い

ある日、12歳のアースムンドが森で野ウサギを追いかけていると、同じく12歳の青年アランと出会います。アランはタルタリア(中央アジア方面を指す伝説上の地域)の王ロディアンの息子で、自分と対等な力を持つ者を探して旅をしていました。

二人はあらゆる競技で力比べをしましたが、結果はすべて互角。やがて二人は互いを認め合い、血の兄弟の契りを結ぶことにしました。当時の北欧では、互いの血を混ぜ合わせることで血縁以上の絆を誓う風習があったのです。

この時、二人はある約束を交わしました。「どちらかが先に死んだ場合、生き残った方が死者のために塚(墳墓)を築き、財宝とともに埋葬する。そして生き残った者は3日間、塚の中で死者とともに過ごす」というものです。

恐怖の3夜

やがてアランが突然死去し、アースムンドは約束を守ることになりました。彼はアランの遺体を椅子に座らせた状態で塚に安置し、鎧兜、財宝、そして愛馬、猟犬、鷹といった副葬品とともに埋葬しました。そしてアースムンドは自分用の椅子を持ち込み、塚の入り口を封鎖させて3日間の見張りを始めます。

しかし、恐ろしいことが起こり始めました。

初夜、アランは椅子から立ち上がり、猟犬と鷹を殺して貪り食いました。

二夜目、アランは愛馬を殺し、生肉のまま歯でかじりつきました。口から血を滴らせながら馬肉を食らう友の姿を前に、アースムンドは食事を分け合おうという申し出を黙って断りました。

三夜目、疲労困憊したアースムンドがうたた寝をしてしまうと、アランはアースムンドに襲いかかり、彼の両耳を引きちぎって食べてしまいました。

アースムンドは短剣を抜いてアランの首を切り落とし、火を起こして遺体を灰になるまで焼き尽くしました。そして縄を伝って塚の外に脱出し、財宝を持ち去ったとされています。

ドラウグルとは何か

このエピソードは、北欧のアンデッド「ドラウグル」(draugr)の典型的な描写として、現代でも頻繁に引用されます。ドラウグルとは、死後も塚の中で肉体を保ったまま動き回る「死者の亡霊」のことで、ハイチのゾンビとは異なり、誰かに操られるのではなく自らの意志で行動します。

ドラウグルは生前の欲望や執着を引きずっており、飢えや嫉妬に駆られて生者を襲うとされています。アランのケースはまさにその典型で、副葬品である動物たちを次々と食い尽くし、最後には義兄弟であるアースムンドにまで牙を剥きました。

このエピソードは、サガにおけるドラウグルの特徴をすべて備えています。止むことのない食欲、生者への執着、そして首を切り落として焼却しなければ滅ぼせないという討伐方法までが描かれているのです。

サクソ・グラマティクスの『ゲスタ・ダノールム』に登場する類似の物語

アースムンドとアランの物語には、実はもう一つの版が存在します。それは12世紀末から13世紀初頭にかけてデンマークの歴史家サクソ・グラマティクスが著した『ゲスタ・ダノールム』(デンマーク人の事績)に記録されているものです。

この版では、友人の名前は「アスヴィド」(Asvith)となっており、二人は洞窟状の墓所に馬と犬、そしてアースムンドのための食料とともに埋葬されます。その後、スウェーデンの王とその軍勢が財宝目当てに墓を暴き、籠で人を降ろしたところ、血まみれで傷だらけのアースムンドが這い出してきたという展開になっています。

アースムンドは驚く人々に向かって、墓の中でアスヴィドの亡霊と戦い続けたことを語ります。まず馬が食われ、次に犬が食われ、最後に自分も襲われて頬を切り裂かれ、耳を食いちぎられたというのです。「しかし怪物も無傷では済まなかった。私は剣で首を落とし、杭で体を貫いた」とアースムンドは語りました。

サクソ版のほうがアイスランド・サガ版よりも古い時代に書かれていますが、基本的な筋書き(血の契り、墓での見張り、死者の復活、襲撃、耳を失う、首を切って討伐)は共通しています。これは、この物語がスカンディナビア全域で広く知られた伝承であったことを示しています。

現代文化への影響

アースムンドとドラウグルの物語は、現代のポップカルチャーにも大きな影響を与えています。

特に有名なのは、ゲーム『The Elder Scrolls V: Skyrim』に登場する「ドラウグル」です。北欧風の世界観を持つこのゲームでは、古代ノルド人の墓所に眠るアンデッドとしてドラウグルが登場し、プレイヤーの前に立ちはだかります。ゲーム内のドラウグルは青黒い肌を持ち、古代の言語を話し、鎧を身につけて武器を振るうなど、サガの描写を忠実に取り入れています。

また、2022年の映画『ザ・ノースマン』(原題:The Northman)では、主人公が塚の中に眠る「ドラウグル」という名の魔剣を手に入れるため、墓守のアンデッドと戦う場面が描かれています。これもまた、アースムンドの物語の影響を色濃く受けたシーンといえるでしょう。

北欧の伝承に基づくファンタジー作品の多くで、「墓の中に眠る財宝を守る死者」「首を切らねば倒せないアンデッド」といったモチーフが繰り返し使われていますが、そのルーツをたどれば、アースムンドとアランの物語に行き着くのです。

名前「アースムンド」を持つ他の人物

サガや伝説には、同じ「アースムンド」という名前を持つ人物が複数登場します。

『グレティルのサガ』(Grettis saga Ásmundarsonar)の主人公グレティルは、「アースムンドの息子グレティル」というフルネームを持ちます。グレティルの父親アースムンドは「長髪のアースムンド」(Ásmund Longhair)と呼ばれ、アイスランドの有力者として描かれています。

また、『アースムンダル・サガ・カッパバナ』(Ásmundar saga kappabana、アースムンド勇者殺しのサガ)という別のサガも存在します。こちらは14世紀前半の写本に記録されており、ドイツの英雄叙事詩『ヒルデブラントの歌』をアイスランド風に翻案したものとされています。

歴史上の人物としては、10世紀のキエフ大公スヴャトスラフ1世のヴァリャーグ人家庭教師として記録に残る「アースムンド」が知られています。

まとめ

アースムンドは、北欧の伝説サガに登場する英雄であり、「神々の守護を受ける者」という名前にふさわしい勇敢な戦士として描かれています。

彼の物語の中でも特に印象的なのは、親友アランとの義兄弟の契りと、その後に起こる恐ろしい墓中での3夜の出来事です。死してなおアンデッドとして蘇り、生者を襲う「ドラウグル」という北欧独特の死者観を伝えるこのエピソードは、サクソ・グラマティクスの『ゲスタ・ダノールム』にも類話が記録されており、スカンディナビア全域で語り継がれた伝承であったことがうかがえます。

ヴァイキング時代の人々が死後の世界をどのように考えていたのか、そして彼らがどのような英雄像を理想としていたのかを知る上で、アースムンドの物語は貴重な窓口となっています。現代のゲームや映画で見かけるドラウグルやアンデッドの原点に、このようなサガの物語があることを知ると、北欧神話の世界がより一層身近に感じられるのではないでしょうか。

参考情報

この記事の作成にあたり、以下の情報源を参照しました。

一次資料(原典)

  • 『Egils saga einhenda ok Ásmundar berserkjabana』(片腕のエギルとアースムンド・ベルセルク殺しのサガ)- 14世紀アイスランドで成立した伝説のサガ
  • 『Gesta Danorum』サクソ・グラマティクス著(12世紀末〜13世紀初頭)- デンマークの歴史書。アスヴィドとアースムンドの物語を含む

学術資料・百科事典

二次資料・解説記事

翻訳・テキスト

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