Google ChromeやSafariが圧倒的なシェアを誇る現在でも、独自の機能とデザインで根強いファンを持つウェブブラウザがあります。
それが日本のフェンリル株式会社が開発する「Sleipnir(スレイプニル)」です。
この記事では、Sleipnirの誕生から現在まで歴史をたどりながら、その特徴的な機能や使い方を詳しく解説します。
Sleipnirとは

Sleipnir(スレイプニル、略称:プニル)は、日本のフェンリル株式会社が開発しているウェブブラウザです。
高度なカスタマイズ性、直感的なマウスジェスチャー、洗練されたタブ管理機能を特徴としています。
名前の由来
「Sleipnir」という名前は、北欧神話に登場するオーディン神が乗る8本足の馬に由来します。
この馬は「滑るように走る者」を意味し、高速で俊敏なウェブブラウジングを象徴しています。
開発会社の「Fenrir(フェンリル)」も、北欧神話に登場する巨大な狼の名前です。
Sleipnirの歴史
個人開発からの始まり
Sleipnirは、2004年に柏木泰幸氏が個人で開発を開始しました。
当初はInternet Explorer(IE)のコンポーネントを利用したタブブラウザとして開発され、日本国内で人気を集めました。
Lunascapeなどと並び、日本発の代表的なタブブラウザの一つとして認知されるようになりました。
ソースコード盗難事件とフェンリル設立
2004年11月16日、Sleipnirのソースコードが保存されていたコンピュータが盗難に遭うという事件が発生しました。
推定20万行のソースコードが失われ、開発が困難な状況に陥りました。
しかし、この逆境を乗り越えるため、柏木氏は2005年6月13日にフェンリル株式会社を設立しました。
Sleipnir 2の登場
フェンリル設立後、Sleipnirは一から作り直されることになりました。
2005年10月にSleipnir 2が発表されました。
Sleipnir 2は、Sleipnir 1.xxとは互換性のない全く新しいアプリケーションとして開発されました。
プラグイン機能の搭載、カスタマイズ性の向上、複数のレンダリングエンジン対応など、大幅な機能拡張が行われました。
公式サイトでは「上級者のためのブラウザ」として位置づけられました。
マルチプラットフォーム展開
当初はWindows版のみでしたが、2010年代以降、複数のプラットフォームに展開されました。
主要バージョンのリリース日:
- Sleipnir Mobile for Android: 2011年9月15日
- Sleipnir 3 for Mac: 2011年11月2日
- Sleipnir 3 for Windows: 2011年11月16日
- Sleipnir 5.0: 2013年12月24日(Blinkエンジン採用)
- Sleipnir TV: 2019年11月(Android TV向け)
- Sleipnir Mobile iOS版大規模アップデート: 2025年10月15日(11年ぶり)
レンダリングエンジンの変遷
Sleipnirは、時代とともにレンダリングエンジンを進化させてきました。
Sleipnir 1.xx:
- Trident(Internet Explorer)のみ
Sleipnir 2:
- Trident + Gecko(Firefox)の選択可能
Sleipnir 3.5以降:
- WebKitを追加
- Geckoのサポート終了
Sleipnir 5以降:
- Blink(Chromiumベース)に移行
- 現在の主流エンジン
Blinkエンジンの採用により、Google Chrome用の拡張機能が利用可能になりました。
Sleipnirの主な特徴
マウスジェスチャー
Sleipnirの最も特徴的な機能がマウスジェスチャーです。
PCでの操作:
マウスの右ボタンを押しながらマウスを動かすだけで、さまざまな操作が可能です。
ジェスチャーの例:
- 下に動かす: タブを閉じる
- 左に動かす: 戻る
- 右に動かす: 進む
- 上に動かす: ページの先頭へ
- U字を描く: 閉じたタブを復元
マウスの軌跡に好きな機能を割り当ててカスタマイズすることもできます。
Sleipnir 4では、150種類ものマウスジェスチャー機能が追加されました。
スマートフォンでの操作:
スマホ版では、画面上でのジェスチャーで同様の操作が可能です。
- 画面左下から右上に斜線: タブを閉じる
- U字を描く: タブを復元
- 左右にスワイプ: タブ切り替え
Macでの操作:
Magic Mouseやトラックパッドのタッチジェスチャでタブを閉じたり戻ったりできます。
キーボードやカーソルを動かす必要がないため、片手にマグカップを持っていても快適にブラウジングできます。
タブ管理機能
Sleipnirは、タブ管理に特にこだわっています。
サムネイル表示:
タブがサムネイルとして表示されるため、視覚的に識別しやすくなっています。
PC版では画面上部、スマホ版では画面下部にサムネイルが表示されます。
タブグループ:
タブをグループ分けして整理できます。
作業プロジェクトごとにタブをまとめることで、100個のタブを開いていても目的のページをすぐに見つけられます。
スマートタブ(Sleipnir 4以降):
タブの追加位置や削除の動作を、前後のタブとの関係性から自動判断します。
タブのメモリ自動解放(モバイル版):
たくさんタブを開いても、自動的に古いタブのメモリを解放します。
100タブ開いていても軽く安定して動作します。
美しいフォントレンダリング
Sleipnir 6の大きな特徴の一つが、独自のフォントレンダリングです。
オープンソースのフォントレンダリングエンジン「FreeType」をカスタマイズし、独自のアルゴリズムで補正しています。
フォント本来のなめらかな曲線を再現し、まるでプロが使うグラフィックツール並みの美しさです。
Windowsでも、Macのように美しく読みやすい文字でウェブを閲覧できます。
Sleipnir 5以降では、Mac OS風のテキストレンダリングを採用しています。
スーパードラッグ&ドロップ
ブラウザ上のリンク、画像、選択した文字列をドラッグ&ドロップするだけで、さまざまな操作が可能です。
- リンクをドラッグ: ページ移動
- 文字列をドラッグ: ウェブ検索や辞書検索
ピックアップ検索:
文字列を範囲選択後、ドラッグ&ドロップで文章を形態素に分割し、マウス操作だけで複合検索ができます。
Hold And Go(モバイル版)
リンクを長押しするだけで、リンク先の画面に切り替わることなく、別のタブで開くことができます。
多くのブラウザでは「新規タブで開く」のポップアップが表示されますが、Sleipnirではこのアクションを省略してすぐに新しいタブを開けます。
Fenrir Pass
Fenrir Passは、フェンリルが提供するアカウントサービスです。
デスクトップ、スマートフォン、タブレットなど、すべてのSleipnir間でブックマークを同期できます。
一つのアカウントで、どのデバイスからでも同じデータにアクセスできるため、効率性が大幅に向上します。
将来的には、ウェブサービスへのログイン管理など、フェンリルの全プロダクト共通で利用できるアカウントに発展する予定です。
高いカスタマイズ性
Sleipnir 4は「カスタマイズ性を重視したリッチでパワフルなブラウザ」として開発されました。
スキンの切り替え:
ブラウザの外観を変更できます。
メニューのカスタマイズ:
XML形式のメニューファイルを書き換えることで、メニュー項目を自由に変更できます。
タブのレイアウト:
タブのスタイルは、コンパクトな一段表示と視認性に優れた多段表示が選択できます。
タブのサイズや表示位置をカスタマイズすることで、ノートパソコンからワイドスクリーンまで、使用環境に応じた最適なレイアウトを作れます。
Chrome拡張機能の利用
Sleipnir 5以降、Blinkエンジンを採用したことで、Google Chrome用の拡張機能が利用可能になりました。
豊富なChrome拡張機能をSleipnirでも使うことができます。
その他の便利機能
Site Updates:
履歴などをもとによく見るウェブサイトの最新記事を新規タブに表示します。
オフライン表示(モバイル版):
開いているタブの内容は自動的に保存されるため、一旦終了しても保存データから一瞬のうちに復元します。
通信状態を気にせず、いつでもどこでもすぐに確認できます。
フォームの自動入力(モバイル版):
フォームに入力したい内容を予め設定しておくことで、次回からページを開いたときに自動で入力されます。
スクロールグリップ(モバイル版):
どんなに長いページでも、スクロールバーをタッチして目的の位置まで素早く移動できます。
セキュリティとプライバシー:
広告ブロック機能やトラッキング防止機能が搭載されています。
クッキー、閲覧履歴、キャッシュなどの個人情報を削除する機能も備えています。
Sleipnirのバージョン

Sleipnir 6 for Windows / Mac
現在のフラッグシップバージョンです。
Blinkエンジンを採用し、Chrome拡張機能が利用できます。
独自のフォントレンダリングにより、美しい文字表示を実現しています。
最新バージョンは6.5.13(2025年10月21日リリース、Blink: Chrome 141.0.7390.108)です。
Sleipnir 4 for Windows
レガシーシステム向けに継続的にサポートされているバージョンです。
2024年後半まで、セキュリティパッチが提供されていました。
2020年2月18日のアップデートで、DPI設定に応じた表示に対応しました。
Sleipnir Mobile
Android版:
Google Play Storeで無料配布されています。
1度使うと戻れない、1ステップにこだわり抜いたブラウザとして人気です。
iOS版:
2025年10月15日に11年ぶりの大規模アップデートが実施されました。
無料版と有料版(Black Edition、600円)があります。
Black Editionは、追加のジェスチャー、パスコードロック、検索エンジン変更などの機能を搭載しています。
Windows Phone版:
Windows Phone Storeの終了に伴い、サポート終了しました。
Sleipnir TV
Android TV端末向けに展開されているウェブブラウザです。
2019年11月22日にリリースされました。
テレビの大画面でウェブブラウジングができます。
Sleipnirのダウンロードとインストール
対応プラットフォーム
- Windows: Windows 10以降(Sleipnir 6.5.0以降)
- macOS: Mac OS X以降
- Android: Google Play Storeから入手
- iOS: App Storeから入手(一部地域のみ)
ダウンロード方法
Windows / Mac:
公式サイト(https://www.fenrir-inc.com/jp/sleipnir/)からダウンロードできます。
Android:
Google Play Storeで「Sleipnir Mobile」を検索してインストールします。
iOS:
App Storeで「Sleipnir Mobile」を検索してインストールします。
Mac App Storeからも入手できますが、独自の制限により一部の機能が削除されています。
インストール
ダウンロードしたインストーラーを実行するだけで、簡単にインストールできます。
他のブラウザから、ブックマークや履歴などを簡単にインポートできます。
Sleipnirのメリット
高いカスタマイズ性
マウスジェスチャーやショートカットキー、タブのレイアウトを自由に変更できるため、ユーザーの好みに応じた操作感が得られます。
直感的なマウス操作
キーボード操作を最小限に抑え、マウスだけで多くの操作が可能です。
優れたタブ管理
サムネイル表示やグループ化により、多くのタブを開いていても目的のページをすぐに見つけられます。
美しいフォントレンダリング
独自のフォントレンダリングにより、Windowsでも美しく読みやすい文字でウェブを閲覧できます。
マルチデバイス対応
Windows、macOS、iOS、Androidで利用でき、Fenrir Passでブックマークを同期できます。
Chrome拡張機能が使える
Blinkエンジン採用により、豊富なChrome拡張機能を利用できます。
日本製ブラウザ
日本の会社が開発しているため、日本語環境に最適化されています。
Sleipnirのデメリット
市場シェアが小さい
2024年2月時点で、日本国内PCでのシェア率は0.18%です。
利用者が少ないため、情報やサポートが限られる場合があります。
一部ウェブサイトで非対応
モバイル版では、新規サイトやアプリのアカウント登録作業で対応していないことがあります。
学習コストがかかる
高度なカスタマイズ性は、初心者には複雑に感じられる場合があります。
アップデートによる変更
iOS版では、アップデートにより使い勝手が大きく変わることがあります。
2025年の大規模アップデートでは、一部ユーザーから「改悪」との声も上がりました。
一部機能の不具合報告
位置情報取得が正常に動作しないなどの不具合報告があります。
Sleipnirの市場シェア
日本国内でのシェア
2006年:
日本国内で6%の市場シェアを獲得していました。
2024年2月:
PCでのシェア率は0.18%まで低下しました。
参考: Operaは0.81%でした。
2025年6月:
約0.1%のシェアとなっています。
EU版Windows 7でのブラウザ選択画面
Sleipnirは、EU版Windows 7(およびXP、Vista)のブラウザ選択画面で提供される12のブラウザの一つに選ばれました。
これにより、ヨーロッパでの認知度が一定程度向上しました。
累計ダウンロード数
Sleipnirシリーズの累計ダウンロード数は、2016年までに7500万を達成しました。
初期の人気を物語る数字ですが、現在のアクティブユーザー数は公開されていません。
他のブラウザとの比較
Sleipnir vs Google Chrome
Chrome:
- 世界で最も広く使われているブラウザ
- 豊富な拡張機能
- 高速な動作
- シンプルなインターフェース
- Googleサービスとの統合
Sleipnir:
- Chromeより高度なカスタマイズ性
- マウスジェスチャーなどの独自機能
- タブ管理機能が充実
- 美しいフォントレンダリング
- Chrome拡張機能も利用可能
Sleipnir vs Safari
Safari:
- macOS、iOSのデフォルトブラウザ
- Appleエコシステムとの統合
- 省電力設計
- シンプルなデザイン
Sleipnir:
- カスタマイズ性が高い
- Windows、Androidでも利用可能
- より多機能
Sleipnir vs Microsoft Edge
Edge:
- Windowsのデフォルトブラウザ
- Chromiumベース
- 垂直タブ、コレクション機能
- Microsoftサービスとの統合
Sleipnir:
- より洗練されたタブ管理
- マウスジェスチャーの充実
- 独自のフォントレンダリング
Sleipnirの評価
肯定的な評価
CNET:
初期のGeckoベースバージョンについて、デザインと機能性、特にジェスチャーの実装を高く評価しました。
「アクションは非常にスムーズで自然で、スマートフォンで親指でページをスクロールするような感じ」と評されました。
MakeUseOf:
Mac版について、便利なタブ管理機能に注目しました。
MacWorld:
Sleipnir 4 for Macについて、URLバーの変更を称賛しました。
「Operaがそのアイデアを先駆けたが、Sleipnirのタブは常に見えており、識別できるほど大きく、かつメインのブラウザウィンドウに侵入しないほど小さい、素晴らしいバランスを保っている」と評価されました。
ただし、WebKitを使用する他のブラウザと比較して、パフォーマンスが劣ると批判されました。
Softpedia:
後期バージョンについて、カスタマイズ性、機能、モバイル版の利用可能性を理由に肯定的なレビューを行いました。
「Sleipnirは、革新的な機能とさまざまなカスタマイズの可能性を備えた、安定した高速なウェブブラウザであることが証明された。追加のセキュリティ機能と、スマートフォンやウェブアプリとのリンクは、より人気のある競合製品に対する実行可能な代替手段となる機能である」と評されました。
Tom’s Hardware:
2012年のパフォーマンステストで、Android版Sleipnirは、DolphinとMaxthonに次ぐAndroid向けベストブラウザの第3位に選ばれました。
ユーザーの声
長期愛用者:
「10年近く愛用しています。操作量が他と比べて圧倒的に楽すぎてずっと使っています」
「1度使うと戻れない」という声が多く見られます。
カスタマイズ性の高さ:
「操作感やデザインにこだわるユーザーにとって理想的なブラウザ」と評価されています。
課題点:
一部のウェブサイトやサービスで互換性の問題が報告されています。
アップデートによる使い勝手の変更に不満を持つユーザーもいます。
まとめ
Sleipnir(スレイプニル)は、日本のフェンリル株式会社が開発する高機能カスタマイズブラウザです。
2004年に個人開発として始まり、ソースコード盗難という逆境を乗り越え、現在まで進化を続けています。
直感的なマウスジェスチャー、優れたタブ管理、美しいフォントレンダリング、高いカスタマイズ性が主な特徴です。
現在はBlinkエンジンを採用し、Chrome拡張機能も利用できます。
市場シェアは小さいものの、操作性とカスタマイズ性にこだわるパワーユーザーから根強い支持を受けています。
Google ChromeやSafariなどの主流ブラウザに満足できない方、より自分好みにカスタマイズしたブラウザを使いたい方、マウスだけで快適にブラウジングしたい方には、一度試してみる価値があるブラウザです。
Windows、macOS、iOS、Androidに対応しており、Fenrir Passでブックマークを同期できるため、複数デバイスを使う方にも便利です。
日本で生まれ、日本語環境に最適化された国産ブラウザとして、これからも独自の進化を続けていくことが期待されます。

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