「悪魔からの着信」— インドに伝わる恐怖の都市伝説を徹底解説

神話・歴史・文化

「知らない番号から電話がかかってきた。出たら最後、携帯が爆発して死ぬ」——。

そんなゾッとする話が、実際にインド全土を震撼させたことがあるのをご存じでしょうか。

日本では「メリーさんの電話」や「着信アリ」といった怖い電話の都市伝説がおなじみですよね。実はインドにも、こうした「恐怖の電話」にまつわる都市伝説が存在します。その名も「悪魔からの着信(Devil Calls)」

この記事では、インドで実際にパニックを巻き起こした「悪魔からの着信」を中心に、電話やテクノロジーにまつわるインドの都市伝説を紹介していきます。さらに、電話が登場するはるか以前から語り継がれてきた「闇から名前を呼ぶ魔物」の伝承にも触れていきましょう。


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オリッサ州を震撼させた「デビル・コール」

2006年、インド東部で起きた集団パニック

2006年3月、インド東部のオリッサ州(現オディシャ州)で、ある噂が猛烈な勢いで広まりました。

「11桁から14桁の見慣れない番号から電話がかかってくる。電話に出ると携帯電話がウイルスに感染し、爆弾のように爆発する」

この噂はまたたく間に州全体に拡散。人々は恐怖のあまり携帯電話の電源を切り始めました。インドの国営通信会社であるBSNL(Bharat Sanchar Nigam Limited)にも問い合わせが殺到する事態になったんです。

ある人物は実際に14桁の不審な番号から着信を受け、電話に出ると相手が「悪魔」を名乗ったといいます。「このまま通話を続ければ、携帯がウイルスに感染して爆発するぞ」と告げて一方的に切ったのだとか。折り返し電話をかけてみると、「この番号は存在しません」というアナウンスが流れるだけだったそうです。

真相は「デマ」だった

結論から言えば、この噂は完全なデマでした。

BSNLの地方支部のゼネラルマネージャーは、技術的に電話でウイルスを送信して端末を爆発させることは不可能だと明言しています。同氏は「この噂は、携帯電話向けのウイルス対策ソフトを売りつけようとする業者の仕業かもしれない」という見方を示しました。

また、11〜14桁の不審な番号についても合理的な説明があります。インドの携帯電話番号は通常10桁ですが、国際ローミング中の端末からの着信では、通常より長い桁数の発信者番号が表示されることがあるんです。つまり、外国から一時的に入国している人の端末が「不審な長い番号」の正体だった可能性が高いわけですね。

ちなみに、ほぼ同じ内容の噂が2004年にナイジェリアでも広まっていたことが確認されています。「電話に出ると死ぬ」という恐怖が大陸を越えて伝播した形です。


繰り返される「呪いの電話番号」— 777888999パニック

SNS時代に復活した恐怖

「悪魔からの着信」の噂は、形を変えて何度も蘇ります。

2017年頃から、インドのWhatsApp(インドで最も普及しているメッセージアプリ)上で、こんなチェーンメッセージが爆発的に拡散しました。

777888999という番号からの電話には絶対に出てはいけない。電話に出ると携帯が火を噴いて爆発し、あなたは死ぬ」

メッセージにはさらに「深夜0時から3時の間にかかってくる」「女性の声で『これがあなたへの最後の電話よ』と告げられる」「すでに10人が死亡した」といった、具体的で恐ろしい”補足情報”が添えられていました。

このメッセージは2018年にかけてインドの農村部を中心に大きなパニックを引き起こし、主要テレビ局やニュースサイトが相次いでファクトチェックを行う事態に発展しました。

専門家の見解

Zee NewsABP Newsなどのインドの主要メディアは、サイバーセキュリティ専門家パワン・ドゥッガル氏の見解を報じています。

同氏は「電話をかけるだけで端末を発火・爆発させる技術は存在しない」と明確に否定。そもそも777888999は9桁しかなく、インドの携帯電話番号(10桁)として成立しないことも指摘されました。

この番号をTruecaller(発信者情報検索アプリ)で調べると、「Don’t Receive Virus(ウイルス、受信するな)」というラベルが付けられており、7万件以上の報告が寄せられていたそうです。多くの人がこのデマに怯えていたことがうかがえますね。


インドだけじゃない!世界に広がる「レッドナンバー」伝説

「赤い番号」の恐怖

インドの「悪魔からの着信」は、実は世界的に広がる「レッドナンバー(Red Numbers)」と呼ばれる都市伝説群の一部なんです。

この伝説は2004年頃にナイジェリアで最初に確認されました。当初は「特定の番号から電話がかかってきて、出ると死ぬ」というシンプルな内容でしたが、時間の経過とともに恐怖を煽るディテールが加わっていきます。

パキスタンに伝わった2007年頃になると、「着信時に画面に表示される番号が赤く光る」「電話に出ると高周波の音が聞こえ、脳出血を起こして即死する」「赤い色の女の幽霊が画面に現れる」といった生々しい描写が追加されていきました。

「レッドナンバー」の名前はここから来ています。犠牲者の血の色と、画面に赤く表示される番号——二重の意味で「赤」というわけです。

世界中に飛び火した伝説

この「レッドナンバー」伝説は、その後インド、アフガニスタン、ガーナ、南アフリカ、インドネシア、エジプト、モルディブ、ケニア、タンザニア、スーダンなど世界各地に広まりました。それぞれの地域で少しずつ内容が変化しながら、今なお語り継がれています。

面白いのは、この伝説がテクノロジーの発展と密接にリンクしている点です。フィーチャーフォン時代には「電話に出ると爆発する」、スマートフォン時代には「ウイルスに感染する」、SNS時代にはWhatsAppのチェーンメッセージとして拡散する——。時代ごとのテクノロジーへの不安が、伝説の「皮」を新しくしていくんですね。


電話の登場前から存在した「闇からの呼び声」

ここまで紹介した都市伝説は、いずれも携帯電話やインターネットが普及した後に生まれたものです。しかしインドには、テクノロジーが存在しなかった時代から、「見えない存在が人を呼ぶ」恐怖が語り継がれてきました。

ニシ・ダク — 夜の声に応えてはいけない

インド東部のベンガル地方(西ベンガル州およびバングラデシュ)には、「ニシ・ダク(Nishi Dak)」という恐ろしい霊の伝承が存在します。

ベンガル語で「ニシ(নিশি)」は「夜」や「闇」、「ダク(ডাক)」は「呼び声」を意味します。つまりニシ・ダクとは「夜の呼び声」「闇からの呼びかけ」という意味なんです。

ニシ・ダクは夜の闇に潜み、一人で歩いている人間を狙います。その手口は巧妙で、被害者の家族や親しい人の声を真似て名前を呼ぶんです。声に誘われてついていくと、人気のない場所まで連れ出され、二度と戻ってこられなくなると言われています。

「2回」のルール

ニシ・ダクには重要なルールがあります。名前を呼ぶのは最大2回まで。3回以上呼ばれた場合は本物の人間なので応えても安全、というのがベンガル地方の人々の間で広く知られている知恵です。

そのため、今でもこの地域では「夜に名前を呼ばれても、3回以上呼ばれるまでは絶対に振り返るな」と子どもたちに教える家庭があるのだとか。

ニシ・ダクの正体については「適切な葬儀を行われなかった死者の魂が変化したもの」という説が広く信じられています。ヒンドゥー教では遺体を完全に火葬し、魂(微細体)を輪廻転生の cycle に送り出す必要があるとされています。葬儀が不十分だった場合、魂は転生できずにニシ・ダクとなってこの世をさまようのだ——というわけです。

PBS(アメリカの公共放送)の番組「Monstrum」でもニシ・ダクが取り上げられ、ベンガルの葬送文化と霊魂観の関連が解説されています。

ナーレ・バー — 扉を叩く魔女

同じ「見えない存在が呼びかける」系の伝承として、南インドのカルナータカ州には「ナーレ・バー(Naale Baa)」という有名な都市伝説があります。

カンナダ語で「ナーレ・バー」は「明日来い」という意味。1990年代にカルナータカ州全域で大流行したこの伝説では、夜な夜な魔女が各家庭の扉をノックし、住人の家族の声を真似て名前を呼ぶとされています。

応えて扉を開けると、血を吐いて死ぬ——。

対抗策として、人々は家の扉や壁に「ナーレ・バー(明日来い)」と書き始めました。この文字を見た魔女は「では明日来よう」と立ち去り、翌日も同じ文字を見て帰っていく——永遠に「明日」が繰り返されるというわけです。


なぜインドで「悪魔の着信」は広く信じられたのか

テクノロジーへの不安と伝統的な霊魂観の融合

インドで携帯電話にまつわる都市伝説が爆発的に広まった背景には、いくつかの要因が考えられます。

まず、急速なモバイル普及です。インドでは2000年代に入って携帯電話の契約者数が急増し、農村部にまで一気に普及しました。新しいテクノロジーがもたらす恩恵と同時に、「よく分からないものへの漠然とした不安」も広がったのです。

次に、伝統的な霊魂観との親和性。先ほど紹介したニシ・ダクやナーレ・バーのように、インドには「見えない存在が人間に接触してくる」という伝承が古くから根づいています。「電話」は見えない相手とつながるツールですから、伝統的な恐怖と容易に結びつきやすかったのでしょう。

そして、集団心理の力。ニュージーランドの社会科学者ウェイン・マクリントック氏は論文の中で、南アジアの人々の間には「人生の不幸を悪霊や幽霊の仕業に帰する傾向がある」と指摘しています。アメリカの疫学者ティモシー・F・ジョーンズ氏は、こうした超常現象的な出来事は「集団ヒステリー」として説明できると述べ、インドの他の事例(2001年のデリーの「モンキーマン」や2002年のウッタル・プラデーシュ州の「ムホノチュワ(顔ひっかき)」パニックなど)とも共通するメカニズムだと分析しています。

似たような都市伝説は他にもある

ちなみに、テクノロジーと恐怖を結びつけた都市伝説はインドだけの現象ではありません。

日本にも「チェーンメールを回さないと呪われる」「特定の番号に電話すると怪奇現象が起きる」といった都市伝説がありますし、タイには「999-9999に電話すると願いが叶うが、代わりに死ぬ」という伝説があります。ブルガリアでは「0888-888-888という番号の所有者が3人連続で不審死を遂げた」という、実際の事件に基づく不気味な話も知られています。

人間は未知のテクノロジーに対して本能的な恐れを抱くもの。その恐れが各地の文化や伝承と混ざり合って、それぞれの土地ならではの「呪いの電話」伝説を生み出しているんですね。


ボリウッドも注目!インドのホラー文化の現在

映画「Stree」とナーレ・バー伝説

これらの民間伝承は、近年のインド映画にも大きな影響を与えています。

2018年に公開されたヒンディー語映画「Stree(ストリー)」は、カルナータカ州のナーレ・バー伝説をベースにしたホラーコメディです。シュラッダー・カプール、ラージクマール・ラオという人気俳優の出演もあり、大ヒットを記録しました。

この映画では、夜に男性の名前を呼ぶ女性の幽霊が登場します。ナーレ・バー伝説を下敷きにしつつ、「夜に外出する男性が危険にさらされる」という設定を通じて、実社会における女性の安全問題にもメッセージを投げかけた作品として話題になりました。

ボリウッドのホラーブーム

インドのムンバイ(旧ボンベイ)を拠点とする映画産業・ボリウッドでは、動画配信サービスの普及をきっかけに、2023年頃からホラー映画のブームが起きています。

特に注目されているのは「スーパーナチュラル(超常現象)系」のホラーです。従来のインド映画ではおなじみだった歌やダンスのシーンをあえて封印し、シリアスな恐怖演出に徹した作品が「斬新だ」とインドの観客に受け入れられているそうです。

古くからの怪談や民間伝承が、現代のエンターテインメントとして新たな命を吹き込まれている——。インドのホラー文化は、今まさに面白い転換期を迎えているんですね。


まとめ

インドの「悪魔からの着信」は、単なる一つの都市伝説ではありません。

その背景には、携帯電話の爆発的普及がもたらしたテクノロジーへの不安、「闇から名を呼ぶ魔物」という古くからの伝承、SNS時代のデマの拡散力、そしてインド独自の霊魂観や宗教文化が複雑に絡み合っています。

2006年のオリッサ州のパニックも、2017年のWhatsApp騒動も、科学的にはすべてデマだと証明されています。しかし、人々の恐怖そのものは本物でした。

「知らない番号からの着信」というのは、現代人なら誰でも日常的に経験すること。だからこそ、この都市伝説には妙にリアリティがあるのかもしれません。

もし深夜に見知らぬ番号から着信があったら——あなたは電話に出ますか?


参考情報

この記事の作成にあたり、以下の情報源を参照しました。

ニュース・ファクトチェック記事

都市伝説・フォークロア研究

インドの民間伝承・神話関連

映像・番組

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