エンベディング(Embedding)とは、テキストや画像、音声などの非数値データを、コンピュータが処理しやすい数値ベクトルに変換する技術です。
単なるベクトル化とは異なり、データの意味的関係性を保ったまま低次元の密なベクトル空間に埋め込むことが最大の特徴で、現代の自然言語処理(NLP)や機械学習において不可欠な技術となっています。
エンベディングとは何か?
エンベディング(Embedding、埋め込み表現)は、言語データ・画像データ・音声データなどをコンピュータが理解しやすい数値形式に変換する手法のことです。
具体的には、データを数値のベクトルに変換するベクトル化手法の一つを指します。
例えば、「犬」という単語を[0.2, 0.5, -0.1, …]のような数値の並び(ベクトル)で表現します。
この変換により、データの意味や特徴を数学的に捉えることが可能になります。
エンベディングの最大の利点
エンベディングの大きな利点は、似たような意味や特徴を持つデータが、ベクトル空間上で近い位置に配置されることです。
これにより、コサイン類似度などの計算を用いて、データ間の類似性を簡単に測ることができます。
例えば「犬」と「猫」のエンベディングベクトルは近い位置にあり、高い類似度を示します。
一方、「犬」と「自動車」のベクトルは離れた位置にあり、低い類似度となります。
「エンベディング」という用語の語源
「embedding」という英単語は、「埋め込む」を意味する動詞「embed」の名詞形です。
embedの語源
「embed」という単語は1778年に初めて登場し、「em-」(in、into=「〜の中に」の意味)と「bed」(床、基盤)を組み合わせた言葉です。
元々は地質学用語として、岩石の中に化石が埋め込まれている状態を表現するために使われました。
その後1835年頃から比喩的な意味で使われるようになり、現在に至ります。
なぜ「埋め込み」なのか?
機械学習の文脈でこの用語が採用されたのは、2003年にBengioらが論文で「word embeddings」という用語を使用したことが最初です。
単語が高次元のベクトル空間に「埋め込まれる」という比喩が、地質学における化石の埋め込みと似ていることから、この用語が定着しました。
単語がベクトル空間に埋め込まれることで、意味的関係性が保たれるという特性が、まさに地質学的な「埋め込み」の概念と重なったのです。
エンベディングとベクトル化の違い
エンベディングとベクトル化は密接に関連していますが、完全に同じ意味ではありません。
ベクトル化とは
ベクトル化は、データをベクトルの形に変換する一般的なプロセスです。
これにはテキスト、画像、音声など様々な形式のデータを数値ベクトルに変換することが含まれます。
ベクトル化の主な目的は、機械学習モデルが扱いやすい形式でデータを表現することです。
エンベディングとは
エンベディングは、特に意味的な情報を維持しつつ、データをより低次元の密なベクトル空間に変換するプロセスを指します。
エンベディングは、データの特徴を維持し、関連性や文脈を反映したベクトル表現を生成することに重点を置いています。
主な違い
要するに、ベクトル化はより一般的な概念であり、エンベディングはベクトル化の特定の形態で、データの意味的特徴を保持することに注目しています。
エンベディングはベクトル化を含みますが、すべてのベクトル化がエンベディングとは限りません。
例えば、Bag-of-Words(BoW)やTF-IDFは単純なベクトル化手法ですが、単語の出現頻度に基づいて疎なベクトルを生成するため、意味的関係性を捉えられません。
一方、Word2VecやGloVeは、意味的に似た単語が近いベクトルになるようにエンベディングを生成します。
エンベディングの歴史
黎明期(1950年代〜1990年代)
- 1957年:分布仮説の登場
John Rupert Firthが「単語の意味は、その周辺に現れる単語(コンテキスト)によって形成される」という分布仮説を提唱しました。
これがエンベディング研究の理論的基盤となりました。 - 1990年:潜在意味解析(LSA)
単語や文章の隠れた意味関係を抽出する潜在意味解析という手法が登場しました。
現代エンベディングの始まり(2000年代〜2013年)
- 2000年:ニューラルネットワークベースのアプローチ
Bengioらが「Neural probabilistic language models」と題した一連の論文で、ニューラルネットワークを用いて単語の分散表現を学習する手法を提案しました。 - 2013年:Word2Vec(ワード・ツー・ベック)
GoogleのTomas Mikolovらが開発したWord2Vecが登場し、エンベディング技術が一気に普及しました。
Word2VecはCBOW(Continuous Bag of Words)とSkip-gramという2つのアルゴリズムを提供し、大規模なテキストデータから効率的に単語の埋め込み表現を学習できるようになりました。
Word2Vecの論文は最初ICLR 2013で不採択となりましたが、その後arXivで公開され、現在では同年のICLRで採択されたすべての論文よりも多く引用されています。
- 2014年:GloVe(グローヴ)
Stanford大学のJeffrey Pennington、Richard Socher、Christopher Manningらが開発したGloVe(Global Vectors for Word Representation)が発表されました。
GloVeは単語の共起統計情報を利用して、Word2Vecとは異なるアプローチでエンベディングを生成します。
文脈を考慮したエンベディングへ(2018年〜)
- 2018年:BERT(バート)
GoogleのJacob Devlin、Ming-Wei Chang、Kenton Lee、Kristina Toutanovaらが開発したBERT(Bidirectional Encoder Representations from Transformers)が登場しました。
BERTの画期的な点は、同じ単語でも文脈によって異なるエンベディングを生成できることです。
例えば、「銀行にお金を預ける」の「銀行」と「川の銀行」の「銀行」は、BERTでは異なるベクトルで表現されます。
Word2VecやGloVeのような静的エンベディングとは異なり、BERTは文脈を考慮した動的なエンベディングを実現しました。
エンベディングの種類
1. 単語エンベディング(Word Embedding)
個々の単語を数値ベクトルに変換する技術です。
代表的なモデルには以下があります。
- Word2Vec(2013年):GoogleのTomas Mikolovらが開発
- GloVe(2014年):Stanford大学が開発
- FastText:Facebookが開発した、サブワード情報を考慮したモデル
これらのモデルは、単語間の意味的関連性を多次元空間上のベクトルとして表現し、単語の類似度や関係性を数学的に計算することを可能にします。
例えば、「王様」−「男性」+「女性」=「女王」のような演算が可能になります。
2. 文章エンベディング(Sentence Embedding)
単語エンベディングをさらに発展させ、文や段落全体の意味を数値ベクトルで表現する手法です。
代表的なモデル:
- Doc2Vec:Word2Vecの拡張版
- BERT(2018年):文脈を考慮した双方向エンコーディング
- Sentence-BERT(SBERT):文の類似度計算に特化したBERTの改良版
3. 画像エンベディング(Image Embedding)
画像を数値ベクトルに変換し、視覚的特徴を捉える技術です。
代表的な手法:
- CNN(畳み込みニューラルネットワーク)
- ResNet
- VGG
これらは画像分類、物体検出、画像類似性検索などのタスクで使用されます。
4. 音声エンベディング(Audio Embedding)
音声データをベクトル空間に変換し、音声の特徴を数値化する技術です。
音楽推薦、ジャンル分類、音声類似性検索、音声認識、話者認証などの用途で活用されています。
5. ユーザーエンベディング
ユーザーの嗜好、行動、特性をベクトルで表現します。
推薦システムやパーソナライズドマーケティングで利用されます。
6. 商品エンベディング
ECサイトや推薦システムで商品をベクトルで表現し、類似商品の検出などに活用されます。
エンベディングの活用事例
1. 検索エンジン(セマンティック検索)
エンベディングによって実現されるベクトル検索が注目されています。
クエリ(検索問い合わせ)と文書をそれぞれベクトルに変換し、従来のキーワード一致では拾えない意味的な関連性をもとに検索結果を取得できます。
これにより、ユーザーは表現が異なっていても内容が類似した情報を見つけることが可能になります。
2. 推薦システム(レコメンド)
ユーザーやアイテム(商品、コンテンツなど)をベクトルで表現し、互いの類似度に基づいて推薦を行います。
例えば、ユーザーの閲覧履歴や評価から嗜好を埋め込みベクトルとしてモデル化し、そのベクトルに近いアイテムを提示することで、よりパーソナライズされたおすすめが可能になります。
3. 自然言語処理(NLP)タスク
テキスト分類、感情分析、機械翻訳などの幅広いタスクにおいて、エンベディングは不可欠な役割を果たしています。
単語や文章をベクトル化した特徴量をモデルに入力することで、精度向上が図られています。
4. チャットボット・対話システム
ユーザーの発言やシステムの知識をベクトル化することで、やり取りの文脈や意図をより正確に把握できます。
特に、ChatGPTのような大規模言語モデル(LLM)と外部知識データベースを組み合わせたシステムでは、質問に関連する文献や情報を埋め込みベクトルを用いて検索し、適切な回答生成に役立てています。
これはRAG(Retrieval Augmented Generation)と呼ばれる技術で、エンベディングが中核を担っています。
5. 異常検知・重複検出
画像や文書のエンベディングを用いて、類似度スコアに基づいた異常検知や重複検出が可能です。
例えば、顔認識システムでは、人の顔の写真をエンベディング化し、2枚の写真の類似度スコアが十分に高ければ同一人物であると判断します。
6. 機械翻訳
エンベディングを用いることで、ある言語の文章を別の言語で類似したベクトル表現を持つ文章に変換できます。
多言語間でのエンベディング空間の対応付けにより、翻訳精度が大幅に向上しました。
エンベディングが必要な理由
1. 機械学習モデルは数値しか扱えない
AIやニューラルネットワークは、その実態は「数値を入力すると数値が出力されるもの」です。
テキストデータ(文字列)や画像など本質的に数値とは性質が違うものを処理させたい場合にも、数値にしなければそもそも入力ができません。
2. 意味的関係性の捉え方
従来のベクトル化手法(Bag-of-Words、TF-IDFなど)では、単語の出現頻度に基づいて疎なベクトルを生成するだけで、単語間の意味的関係性を捉えられませんでした。
エンベディングは、「似た意味のテキストデータが似た数値に変換される」性質を持っているため、内容の一致度を判定する手段として、あるいは意味が類似したデータを探す手段として利用できます。
3. 次元削減と計算効率
エンベディングを用いることで次元削減が可能となり、データ処理の効率化も期待できます。
高次元データは処理が複雑で計算コストが高くなる傾向にありますが、エンベディングによって低次元に圧縮されることで、少ない計算資源でデータを分析できます。
エンベディングのベクトル次元数
エンベディングモデルによって、ベクトルの次元数は異なります。
従来の手法
- Word2Vec:通常50〜300次元
- GloVe:50、100、200、300次元など
大規模言語モデル
- BERT-Base:768次元
- BERT-Large:1024次元
- OpenAIのtext-embedding-3-small:1536次元
- OpenAIのtext-embedding-3-large:3072次元
一般的に、次元数が多いほど単語の意味やニュアンスをより詳細に捉えられますが、計算コストも増加します。
エンベディングの注意点と課題
1. 訓練データのバイアス
エンベディングモデルは元のデータの偏りや不正確さを反映する可能性があります。
訓練データに含まれる偏見やステレオタイプがモデルに継承される問題があり、不公平な結果を生み出す恐れがあります。
2. 多義語の問題(静的エンベディングの場合)
Word2VecやGloVeなどの静的エンベディングでは、複数の意味を持つ単語(「銀行」=金融機関/川辺)が単一のベクトルで表現されます。
この問題は、BERTなどの文脈を考慮したエンベディングによって解決されつつあります。
3. 計算リソース
高品質なエンベディングを生成・利用するには、大量のテキストデータと相応の計算リソースが必要です。
また、数千〜数万次元のベクトルを扱うため、GPU(Graphics Processing Unit)などの高性能な計算機が必要となることが多いです。
4. 解釈可能性
エンベディングベクトルの各次元が具体的に何を表しているかは、人間には理解しにくいです。
例えばWord2Vecで単語の意味を100次元のベクトルに変換すると、「100個の数値」が出力されますが、それら数字がどういう意味を持つのか解釈できません。
まとめ
エンベディング(埋め込み表現)は、テキスト、画像、音声などの非数値データを、意味的関係性を保ったまま数値ベクトルに変換する技術です。
単純なベクトル化とは異なり、データの意味や文脈を捉えることができるため、現代のAI・機械学習において不可欠な技術となっています。
Word2Vec(2013年)、GloVe(2014年)、BERT(2018年)といった技術の発展により、検索エンジン、推薦システム、チャットボット、機械翻訳など、幅広い分野でエンベディングが活用されています。
今後も技術の進化とともに、より高精度で効率的なエンベディング手法が開発されていくでしょう。
参考情報
本記事は以下の情報源を参考にして作成しました。
- セゾンテクノロジー「ベクトル化 / エンベディング(Embedding)」
https://www.hulft.com/column/glossary-57 - Wikipedia「Word embedding」
https://en.wikipedia.org/wiki/Word_embedding - Wikipedia「Word2vec」
https://en.wikipedia.org/wiki/Word2vec - Wikipedia「BERT (language model)」
https://en.wikipedia.org/wiki/BERT_(language_model) - IBM「What is Vector Embedding?」
https://www.ibm.com/think/topics/vector-embedding - Google Cloud「AI のマルチツールのご紹介: ベクトル エンベディング」
https://cloud.google.com/blog/ja/topics/developers-practitioners/meet-ais-multitool-vector-embeddings?hl=ja - Online Etymology Dictionary「Etymology of embed」
https://www.etymonline.com/word/embed - Medium「The Etymology and History of “Embeddings”: From Geology to AI」(Mukul Sherekar)
- Mikolov, T., Chen, K., Corrado, G., & Dean, J. (2013). Efficient Estimation of Word Representations in Vector Space. arXiv:1301.3781
- Pennington, J., Socher, R., & Manning, C. D. (2014). GloVe: Global Vectors for Word Representation. EMNLP 2014
- Devlin, J., Chang, M.-W., Lee, K., & Toutanova, K. (2019). BERT: Pre-training of Deep Bidirectional Transformers for Language Understanding. NAACL 2019
- Stanford NLP「GloVe: Global Vectors for Word Representation」
https://nlp.stanford.edu/projects/glove/ - @IT「Embedding(エンベディング:埋め込み、埋め込み表現)とは?」
https://atmarkit.itmedia.co.jp/ait/articles/2401/18/news023.html

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