PlayStation 2のゲームをPCで遊ぶ方法として、これまではエミュレータが主流でした。
しかし2026年1月、PS2ゲームを直接PC用のネイティブコードに変換できる新しいツール「PS2Recomp」が登場し、ゲーム保存コミュニティで大きな注目を集めています。
この記事では、PS2Recompとは何か、どのような仕組みで動作するのか、そして今後の展望について解説します。
PS2Recompとは

PS2Recompは、PlayStation 2のELFバイナリ(実行ファイル)を静的にリコンパイルして、C++コードに変換するツールです。
開発者はran-jという人物で、GitHubで公開されています。
このツールを使うことで、従来のエミュレーションを経由せずに、PS2ゲームを現代のプラットフォーム(Windows、Linux、Mac)でネイティブに実行できるようになる可能性があります。
プロジェクトの現状:
2026年1月27日頃にTwitterで話題になり、急速に注目を集めましたが、プロジェクト自体はまだ実験段階です。
GitHubのREADMEにも「Not ready」(まだ準備できていない)と明記されており、完全に機能する状態ではありません。
静的リコンパイルとは
静的リコンパイルは、元のプログラムのバイナリコードを解析して、別のプラットフォームで動作するコードに自動的に変換する技術です。
従来のエミュレーションとの違い:
- エミュレーション: PS2のハードウェア全体の動作を模倣する
- 静的リコンパイル: ゲームのコードだけを新しいプラットフォーム用に変換する
エミュレーションは元のハードウェアの挙動を再現する必要があるため、オーバーヘッドが大きくなります。
一方、静的リコンパイルで生成されたネイティブコードは、ハードウェアエミュレーションの層を経由しないため、理論上は大幅に高速に動作します。
PS2Recompの仕組み
PS2Recompは以下の手順でPS2ゲームを変換します。
- PS2のELFファイルを解析して、関数、シンボル、再配置情報を抽出
- 各関数内のMIPS R5900命令(PS2のCPUが使う命令)を解読
- それらの命令を等価なC++コードに変換
- リコンパイルされたコードを実行できるランタイムを生成
変換されたコードは非常に直訳的で、各MIPS命令がC++の操作に1対1で対応します。
例えば、MIPS命令のaddiu $r4, $r4, 0x20は、C++コードのctx->r4 = ADD32(ctx->r4, 0X20);に変換されます。
主な機能
PS2Recompプロジェクトで実装されている(または予定されている)機能は以下の通りです。
対応している機能:
- MIPS R5900命令のC++への変換
- PS2固有の128ビットMMI命令のサポート
- マクロモードでのVU0(ベクトルユニット0)の処理
- 再配置とオーバーレイのサポート
- TOMLファイルによる設定
- 単一ファイルまたは複数ファイル出力
- 関数のスタブ化とスキップ機能
制限事項:
- VU1マイクロコードのサポートは限定的
- Graphics Synthesizer(グラフィックス処理装置)などのハードウェアコンポーネントは外部実装が必要
- 一部のPS2固有機能は完全にサポートされていない可能性がある
N64 Recompiledとの関係
PS2Recompは、Nintendo 64向けの同様のツール「N64 Recompiled」に触発されて開発されました。
N64 RecompiledはMr-Wiseguyという開発者によって作られたツールで、2024年5月に大きな注目を集めました。
このツールを使った「Zelda 64: Recompiled」プロジェクトでは、『ゼルダの伝説 ムジュラの仮面』がワイドスクリーン対応、高フレームレート、ジャイロエイム対応などの機能を追加したネイティブPCポートとして動作します。
N64 Recompiledの成功を受けて、同じアプローチをPlayStation 2にも適用しようとする動きが生まれ、PS2Recompが誕生しました。
静的リコンパイルのメリット
静的リコンパイルによるネイティブポートには、いくつかの利点があります。
パフォーマンスの向上:
従来のエミュレーションよりも大幅に高速に動作する可能性があります。
動的リコンパイル(エミュレータが実行時に行う変換)と比べて、コンパイル時にすべてのコードを最適化できるため、より効率的なコードが生成されます。
プラットフォームへの直接アクセス:
ゲームコードが実行プラットフォームと直接やり取りできます。
例えば、ジャイロエイム機能を追加する場合、エミュレータのカスタム機能を経由せず、マウスやコントローラーの入力を直接読み取ることができます。
機能拡張の容易さ:
ネイティブコードとして動作するため、ワイドスクリーン対応や高フレームレート化などの機能拡張が比較的容易です。
モッド対応:
ゲームのコードを直接編集できるため、モッド制作がしやすくなります。
プロジェクトの現状と課題
2026年1月時点で、PS2Recompはまだ実験段階です。
開発状況:
GitHubリポジトリには「このプロジェクトは実験であり、本来あるべき動作をしていない」と明記されています。
プルリクエストを歓迎しており、コミュニティの協力を求めている状態です。
技術的課題:
PS2はNintendo 64よりも複雑なハードウェア構成を持っています。
特にGraphics Synthesizer(独自のグラフィックス処理システム)、VU1(ベクトルユニット1)のマイクロコード、音声処理など、多くのハードウェアコンポーネントの実装が必要です。
注目度の高まり:
Android Authorityの記事によると、2026年1月27日頃にTwitterで話題になり、多くの開発者が興味を示しています。
Discordサーバーの設立も予定されており、コミュニティが形成されつつあります。
将来の可能性
PS2Recompが完成すれば、PlayStation 2のゲーム保存に大きく貢献する可能性があります。
ゲーム保存への貢献:
PlayStation 2は史上最も売れたゲーム機の一つで、膨大なゲームライブラリがあります。
これらのゲームをネイティブPCポートとして保存できれば、将来にわたってプレイ可能な状態を維持できます。
開発の加速:
従来、ゲームのネイティブポートを作るには、完全なデコンパイル(コードの手動での書き直し)が必要でした。
静的リコンパイルを使えば、このプロセスを大幅に短縮できる可能性があります。
ただし時間はかかる:
Android Authorityの記事では、「これらのツールはゲーム保存にとって重要だが、開発には数か月から数年かかる」と指摘されています。
すぐに成果が出るわけではなく、長期的な取り組みが必要です。
法的・倫理的な側面
静的リコンパイルプロジェクトを利用する際には、法的・倫理的な配慮が必要です。
合法的な利用:
これらのツールを使用するには、元のPS2ゲームを合法的に所有している必要があります。
ROMファイルやELFファイルは、自分が所有するゲームから合法的に抽出したものでなければなりません。
配布に関する注意:
リコンパイルされたコードやゲームアセットは、著作権で保護されています。
リコンパイルされたゲームを他人に配布することは違法です。
ツール自体の配布:
リコンパイラツール自体は技術的なツールであり、配布は問題ありませんが、ゲームデータやアセットを含めて配布することはできません。
まとめ
PS2Recompは、PlayStation 2ゲームをネイティブPCポートに変換する実験的なツールです。
N64 Recompiledの成功に触発されて開発が始まり、2026年1月に大きな注目を集めました。
まだ実験段階で実用可能な状態ではありませんが、完成すればPS2ゲームの保存と現代プラットフォームでのプレイに大きく貢献する可能性があります。
現時点での状況:
- 開発は初期段階
- コミュニティの協力を求めている
- 完成までには数か月から数年かかる見込み
期待される成果:
- 従来のエミュレーションより高速な動作
- ワイドスクリーンや高フレームレートなどの機能追加
- モッド制作の容易化
- ゲーム保存への貢献
このプロジェクトの発展には、開発者コミュニティの継続的な協力と、長期的な視点が必要です。
今後の進展に注目していきましょう。

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