世自在王仏とは?阿弥陀如来の師として知られる仏をわかりやすく解説

神話・歴史・文化

阿弥陀如来といえば、浄土教で最も重要な仏として知られています。
では、その阿弥陀如来に教えを説いた「師匠」がいたことをご存知でしょうか?

その師匠こそが、今回紹介する「世自在王仏(せじざいおうぶつ)」です。
阿弥陀如来がまだ「法蔵菩薩」と呼ばれていた修行時代、世自在王仏のもとで学び、やがて四十八願を立てて阿弥陀如来となりました。

この記事では、世自在王仏の名前の意味や『無量寿経』での役割、法蔵菩薩との関係について詳しく解説します。


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世自在王仏の基本情報

世自在王仏は、大乗仏教における如来の一尊です。
浄土教の根本経典『無量寿経』に登場し、法蔵菩薩(阿弥陀如来の前身)の師として描かれています。

梵名(サンスクリット語)では「ローケーシュヴァラ・ラージャ(Lokeśvararāja)」といいます。

項目内容
読み方せじざいおうぶつ
梵名ローケーシュヴァラ・ラージャ(Lokeśvararāja)
別名楼夷亘羅(ろういこんら)、世饒王仏(せにょうおうぶつ)
主な出典『無量寿経』『正信偈』
役割法蔵菩薩(阿弥陀如来)の師仏

名前の意味

「世自在王仏」という名前には深い意味が込められています。

「世」は世間、「自在」は思いのままに行動できること、「王」は最も優れた存在を表します。
つまり「世間において自在である王」「世間の中の自在者の王」という意味になるんですね。

梵名の「ローケーシュヴァラ(Lokeśvara)」という語は、実はシヴァ神や観世音菩薩に対しても使われることがあります。
ただし、世自在王仏と観世音菩薩は別の存在ですので、混同しないよう注意が必要です。

別名の「世饒王仏(せにょうおうぶつ)」も同じ意味を持つ漢訳名です。
「楼夷亘羅(ろういこんら)」は梵名をそのまま音写したものになります。


『無量寿経』における位置づけ

世自在王仏は、遥か過去に現れた仏の一人として『無量寿経』に登場します。

康僧鎧による漢訳『仏説無量寿経』によると、最初に現れた「錠光如来(じょうこうにょらい)」から数えて54番目の仏が世自在王仏とされています。
世自在王仏より前に出現した53の仏たちは「五十三仏」と呼ばれます。

興味深いのは、サンスクリット語の原典と漢訳で順番が異なる点です。
サンスクリット本では、ディーパンカラ(燃灯仏)から過去にさかのぼって81番目に世自在王仏が現れたと説かれています。

いずれにせよ、気の遠くなるような過去に現れた仏であることは間違いありません。


法蔵菩薩との出会い

『無量寿経』で最も印象的なのは、世自在王仏と法蔵菩薩の物語です。

遠い昔、ある国に一人の王がいました。
この王は世自在王仏の説法を聞いて深く感動し、自分も仏となってすべての人々を救いたいと願うようになりました。

王は国も王位もすべて捨て、世自在王仏のもとで出家して修行者となります。
このとき名乗った名前が「法蔵(ほうぞう)」でした。

法蔵菩薩は世自在王仏に対して、こんな願いを述べました。

「お師匠様、どうか諸仏の浄土がどのようにしてできたのか教えてください。私もその教えに従って修行し、最高の浄土を作りたいのです」


二百十億の浄土を見せる

法蔵菩薩の熱心な願いを受けて、世自在王仏はある驚くべきことをします。

なんと、二百十億もの仏の浄土の姿を、法蔵菩薩の目の前に現してみせたのです。
それぞれの浄土の荘厳(美しい装飾)や、そこに住む人々の善悪の様子まで、すべてを詳しく示しました。

法蔵菩薩はそれらの浄土をつぶさに観察し、五劫(途方もなく長い時間)をかけて思いをめぐらせました。
そして、どの浄土よりも優れた、最高の浄土を作るための願いを立てたのです。

これが有名な「四十八願」です。
四十八願の中心となる第十八願では、「念仏を称える者は必ず浄土に往生させる」と誓われています。


讃仏偈と重誓偈

法蔵菩薩と世自在王仏のやり取りの中で、二つの重要な偈(げ)が生まれました。

讃仏偈(さんぶつげ)

法蔵菩薩が世自在王仏の徳をほめたたえた偈です。
「嘆仏偈(たんぶつげ)」とも呼ばれ、浄土宗や浄土真宗の勤行(おつとめ)でよく読まれます。

重誓偈(じゅうせいげ)

四十八願を述べた後、その要点を重ねて誓った偈です。
「三誓偈」とも呼ばれ、こちらも勤行で広く用いられています。

どちらも世自在王仏に対して述べられたものであり、浄土教において非常に重要な位置を占めています。


浄土教における意義

世自在王仏は、単なる過去の仏というだけではありません。
阿弥陀如来の本願が生まれる「きっかけ」を作った存在として、浄土教では重要な意味を持っています。

親鸞聖人の『正信偈』では、冒頭近くにこう記されています。

法蔵菩薩因位時 在世自在王仏所
(法蔵菩薩の因位の時、世自在王仏の所にましまして)

これは「阿弥陀如来がまだ法蔵菩薩であった修行時代、世自在王仏のもとにおられた」という意味です。
『正信偈』は浄土真宗で最も重要な偈文の一つであり、その中で世自在王仏の名が明記されていることからも、この仏の重要性がわかります。

法然上人も『選択本願念仏集』の中で、法蔵菩薩と世自在王仏の関係について詳しく述べています。
二百十億の浄土から最も優れたものを選び取ったという故事が、「選択(せんじゃく)」という浄土宗の重要概念の由来となっているのです。


「汝自ら当に知るべし」の教え

『無量寿経』には、世自在王仏の印象的な言葉が残されています。

法蔵菩薩が「教えに従って修行したい」と願い出たとき、世自在王仏はこう答えました。

「汝自ら当に知るべし(あなた自身で知っていきなさい)」

一見すると突き放しているようにも聞こえます。
しかしこれは、法蔵菩薩の心に芽生えた願いを本当に大切に思ったからこその言葉だったとされています。

自分の願いを成就する道は、その願いを自分自身の内に徹底して自覚するところにしかない——。
世自在王仏は、そのことを法蔵菩薩に伝えようとしたのでしょう。


まとめ

世自在王仏についてのポイントをまとめます。

  • 世自在王仏は法蔵菩薩(阿弥陀如来)の師仏
  • 名前は「世間において自在である王」という意味
  • 梵名は「ローケーシュヴァラ・ラージャ」
  • 『無量寿経』では錠光如来から54番目の仏として登場
  • 法蔵菩薩に二百十億の浄土を見せ、四十八願成立のきっかけを作った
  • 讃仏偈・重誓偈は世自在王仏に対して述べられた

阿弥陀如来の救いの物語は、世自在王仏との出会いから始まりました。
浄土教の教えを深く理解するためにも、この仏の存在を知っておくことは大切ですね。


参考情報

  • 『仏説無量寿経』(康僧鎧訳)
  • 『正信偈』(親鸞聖人)
  • 『選択本願念仏集』(法然上人)
  • 『浄土三部経』(岩波文庫)

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